372 特別編・姫の目覚めと突きつけられた現実
三百七十二話 特別編・姫の目覚めと突きつけられた現実
どれくらい眠っていたのだろうか。
優香がゆっくりと重たい目を開けるとそこには知らない大人たちの姿。
「やった……!! 姫、お帰りなさい!!!」
「目覚めたぞーー!!! やはりあの処置が効いたのだろうか……これは色々と過程の見直しだああああ!!!」
「姫ーー!!! よかったあああああ!!!!!」
あまりの騒々しさに不思議がりながらも体を起こして周囲を見渡すと、そこはどうやら病室のよう。
優香は記憶があまり定かではないことから僅かに首を傾げた。
「えっと……すみません、どうして私は……」
「覚えてないのですか?」
「え」
「実は姫は……」
そこで聞かされたのは自分がこうなるまでに至った経緯。
どうやら車に轢かれそうになった姉弟を助けようとして、逆に自分が轢かれてしまったらしい。
「それで姫の容態があまり良いとは言えなかったためこうして我々……各医療分野の第一人者が全国から集結したというわけです!」
「第一人者……」
優香が大人たちをゆっくりと見渡すと、皆誇らしげで達成感に満ち溢れた表情でこちらに視線を向けている。
「そっか……私轢かれたんだ。 それであなた方は……優香国の国民たちであってます?」
「「はい!!!!」」
大人たちが嬉しそうに声を揃えて答える。
確かに数人は聞いたことのある声のような気もするが……
「そうですか。 ありがとうございます。 あ、それと……先に轢かれそうになってた子たちって大丈夫だったんですか?」
「はい、それなら問題ありません。 その子たちの母親が警察に捕まったくらいですね」
「ええええ!? 逮捕!? 何があったんですか!?」
あまりにも唐突な展開に思わずツッコミを入れようとした優香だったのだが、おそらくは長い間眠っていたのだろう……あまり身体に力が入らず軽くバランスを崩してベッドに備え付けてあった手すりにヘナヘナともたれかかる。
「だ、大丈夫ですか姫ーー!!!!」
「すみません大丈夫です。 それよりも……わざわざ助けに来ていただいてありがとうございました」
優香がそうお礼を述べると皆その言葉に歓喜。
胸に手を当てて静かに幸せを噛みしめている者もいれば、あまりの嬉しさから涙する者まで。
優香はそんな優香国の民たちとしばらく会話をした後、どうしても気になっていたことがあったので尋ねてみることにした。
「あの、皆さんちょっといいですか?」
「「はいなんでしょう!!」」
「私ってどれくらいの間眠ってたんですか?」
「大体1週間くらいですかね」
1週間……そう言われてみればかなりお腹が空いているような気もするが……。
「そうですか。 それじゃあダイキ……私の弟は大丈夫でしたか? 私がこんなになっちゃって変に病みすぎてないといいんですけど……」
そう尋ねると……どうしたのだろう。
大人たちは互いに何も言わずにただただ顔を見合わせ、「ではここの院長たちにも報告してまいりますのでここで失礼します」と足早に去っていってしまったのだった。
◆◇◆◇
「ゆーちゃん!!!!」
大人たちがこの病室を去ってしばらく。
物凄い大きな声とともに扉が開かれ、自身の中学時代からの親友・星美咲が目を大きく見開いて飛び込んでくる。
「あ、美咲」
「ゆーちゃん!! さっきゆーちゃんが目を覚ましたって聞いて……もう大丈夫なん!?」
美咲は優香の横になっているベッドまで駆け寄ると激しく体を震わせながら優香の手を両手で包んでくる。
「うん、ごめんね美咲、心配かけて」
こんなにも自分のことを心配してくれる人がいるなんて。
優香は改めて美咲に感謝を述べようと口を開いたのだが、美咲までどうしたのだろう。
美咲はゆっくりと手を離すと、膝を床について四つん這いに。 そしてそのまま土下座……頭を下げた。
「ゆーちゃん、ごめん」
「え?」
突然の美咲の土下座に優香は困惑。
顔を上げてと声をかけても美咲はそれに応えず。 自身の額を強く床に擦りつけている。
「ちょ、ちょっと美咲!! 一体どうしたの……なんで美咲がそんな謝って……」
「昨日ダイキが階段から落ちた」
ーー……え。
静かな病室内に美咲の声だけが響き渡る。
「えっと……美咲? 急になんで……え、ダイキが階段から? ちょっといきなりすぎて頭が回らないんだけど……それでダイキは大丈夫なの?」
そんな優香の質問に美咲は無言。
とてつもない不安が優香の心の中を一気に埋め尽くしていく。
「ねぇ美咲!!」
「命は……なんとか繋ぎ止めた」
「そ、そうなんだ」
「ただ少し前まで危なかった。 あとは目が覚めるのを待つだけだって」
「よかった……。 でもなんで階段から……もしかして私のせい?」
その時優香の頭を過ぎったのは弟・ダイキの約1年前の飛び降り事件。 優香はもしかして自分がこうなってしまったせいなのではと感じたのでそのことを美咲に尋ねてみたのだが……
「ゆーちゃんのせいじゃない。 ダイキは昨日の夜中に病院内で足を滑らせて……」
「病院で……?」
「ごめん!! アタシがずっと一緒にいてあげてればこんなことには!!!!」
美咲が顔を真っ赤にして大量の涙を流しながら顔を上げる。
あまりちゃんと眠れてはいないのだろう……いつもメイクバッチリの美咲の目元には大きなクマが出来ていた。
ーー……とりあえずダイキの側にいてあげないと。
優香は少しでも早くダイキの姿を見るために焦りながらベッドから降りる。
しかしずっと寝ていた影響もあるのだろうか……足に力が入らずそのままヘタリと崩れ落ちた。
「ゆ、ゆーちゃん!!」
「ダイキのところ……ダイキに会いたい……」
「いや、でも今ダイキの部屋には立ち入り禁止で……それにゆーちゃんも……」
「いいからお願い美咲……ダイキに会わせて!!!」
こうして優香のお願いを聞いた美咲は優香に肩を貸しながらゆっくりと病室の外へ。
するとなんというタイミングだろうか。
お花と菓子折りのようなものを持った女の子2人と優香の病室前でバッタリと鉢会った。
「あ、優香さん……」
「ーー……佳奈ちゃん?」
「優香さん!!」
鉢会った1人はダイキの友達でよく遊びに来てくれていた三好佳奈。
そしてもう1人に視線を移すと去年のアニメのオーディションに一緒に出ていた黒髪二つ結びの女の子のようだ。
「えっと……あなたは確か……」
「お、小畑美波です!! ラブカツオーディションの時は応援ありがとうございました!!!」
美波と名乗るその女の子は両手に持っていた菓子折りを勢いよく優香に向けて差し出してくる。
「ええええ、美波ちゃん!?」
「これ、お見舞いです!!!」
「えっと……ありがとう。 でもごめんね、今私ちょっと力入らないからさ、この部屋の中に置いといてもらえるかな」
優香の言葉に美波は大きく「はい!」と返事。
扉を開けて駆け足でベッドに向かっていると佳奈が不思議そうな顔でこちらを見ていることに気づく。
「ん? どうしたの佳奈ちゃん」
「あ、いえ。 福田……くんの姿が見えないなーって思って。 トイレですか?」
その純粋な質問に優香と美咲は沈黙。
しかしその気まずさを悟った佳奈が「優香さん?」と首を傾げながらも病室の中を覗き込む。
「でもあれ……? 荷物持ったままトイレもおかしいよね。 どこか買い物行ってる感じですか?」
「ーー……佳奈ちゃん」
「はい」
「私もさっき聞いてびっくりしてるんだけど……一緒に行こっか」
「え、どこに……」
「ダイキのところ」
それからしばらく。
とある病室前の静かな廊下。 花束がパサリと落ち、その音が静かに響き渡った。
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