371 選択
三百七十一話 選択
優香が輪廻転生への道へと連れて行かれている間、オレはただただその姿をじっと見つめる。
もちろん駆け寄って止めようと試みたぞ? でも……
「あ、あのー……上位神さん、なんでオレの動きまで止めてるんです?」
そう、神様の動きを止めるまでは分からなくもないのだが、何故かオレの身体も謎の金縛りのようなものによって動きが封じられてしまっていたのだ。
『あー、それは仕方ないのやぁ』
「仕方……ない?」
『そうなや。 監視役とはいえ術を使用しているのは神なのや。 そりゃあちょっとは周囲にも影響出ちゃうのや』
少女神がニコリとオレに微笑みかける。
「い、いや……じゃあなんで上位神さんには効いてないんですか?」
『だってワッチ、上位神……アヤチュよりも上に位置しておるからなのや』
「な、なるほど……」
少女神は優香が道へと入り姿を消したことを見届けると満足そうに神様を見据える。
『じょ、上位神殿……』
『ったく神の仕事も多いのやぁ。 そんな人間1人に気を使ってたら身が持たないのや。 だからこれを機にちゃんとお仕事するのやよ?』
少女神の言葉に神様は返す言葉も出ないのか無言。
それが余計に少女神に満足感を与えたのか、少女神はフフンと鼻息。 『とりあえずこれでコヤチュもしばらくは変な行動はしないはずなのや。 じゃあまたワッチについてきて他の神の監視に向かうのや』と監視役の神々を引き連れ上機嫌で去って行ったのだった。
『ていうかオニュシらテンション低いのや。 そんなに監視が辛かったのや?』
『ーー……いえ』
『ーー……そう言うわけでは』
◆◇◆◇
少女神と監視役の神々が消えてからしばらく。
神様が『ククク……』と笑い出したのでようやくオレも神様のもとへと駆け寄って行く。
『アッハハハハ!!! なーにが上位神じゃ!! ワシの策にまんまとかかりよったわい!!』
神様はこの上なく上機嫌に笑いながらオレを見る。
「あーよかった。 だろうな、じゃないとあんなに冷静なわけないもんな」
『ほう、気づいておったか!』
「だって神様が……優香が連れ去られて行くのを黙って見ているわけねーもん」
『クク……ガハハハハ!! その通り、お主の言う通りじゃ!!! いやよくお主も途中で気づいたとはいえ演技を続けてくれた! 礼を言うぞ!!』
神様は満足いくまで笑い飛ばすとフゥ……と一息。
その後に少し奥の……雲のような地面が盛り上がっているところに視線を向けながら『もう出てきて良いぞ』と声をかけた。
そしてそこから出てきた人物こそ……
「えええええ!!! なんでそこに優香……、輪廻転生の道に進んでたはずじゃなかったの!?」
そう、そこには紛れもない正真正銘の優香の姿。
オレはてっきり輪廻転生の道から連れ戻す方法があるのかと思っていたのだが……まさか優香が神様とは別のところに隠れていたなんて。
『実はのう、さっきワシと一緒にいた優香ちゃんはフェイクなんじゃ。 簡単に説明するとな……』
神様の話では、どうやらあの先ほど監視役の神一体と輪廻転生への道を歩んでいた優香は優香の形を模した別の存在……身代わりだったとのこと。
そしてその『身代わり』という単語を聞いたオレの身体がビクンと反応する。
「え、その身代わりってもしかして……」
『その通り!! これもお主の功績じゃな!! ちょいと不動明王には無茶をしてもらって一時的に優香の姿に化けてもらったのじゃ!!』
「えええええええ!?!?!? そうなのかああああああ!?!?!?」
『あぁ!! あやつも事情を説明したらすんなり身代わりを受け入れてくれてのう』
流石は身代わり効果のあるお守り。
確かに優香、連れて行かれてるとき何も話さないなとは思ってたけど……そういうことも出来るのかよ器用だなぁおい!!
「え、でもそれで……不動明王様は大丈夫なのか!?」
『もちろんじゃ。 今頃は道の途中で離脱……効力を使い果たして現世のお守りが割れておる頃だろうよ』
おお……おおおおおおおおお!!!!!
自分の行動が引き起こしてくれた良い知らせにオレの身体が嬉しさからプルプルと震えだす。
「ん、でも待てよ、じゃああの監視役の目はどうやって欺けたんだ? どこに隠れてるのか分からなかったんだろ?」
オレの問いに神様は『んなわけないわ。 どこにいるかなんてぶっちゃけバレバレだったわい』と呆れたように笑う。
「そうなのか?」
『あぁ。 ただ最初はヤツらをどうやってこちら側に引き入れるを考えていたんじゃがのう……』
「それも……不動明王様が?』
『いや、それは結城ちゃんのおかげじゃ』
「結城の?』
オレの聞き返しに神様はウムと首を縦に振る。
『そうじゃ。 ほれ、結城ちゃんも大量のお守りを買ってきてくれておったじゃろ?』
「え、あぁ……うん」
確か10個ほど……結城のおかげでオレもあの身代わりお守りのこと思いついたんだけどな。
オレは少し前のことを思い出しながら神様の説明に耳を傾ける。
『その神々が力を貸してくれたのじゃ』
「どう言う意味だ?」
『数の圧力で監視役の言葉や行動を先に封じておったのじゃ。 ほれ、約10体の神と監視役の神2体……どちらが優勢かは一目瞭然じゃろ?』
どうやらオレがここに来るまでの間に監視役の神はすでに制圧していたとのこと。
しかしいつ見回り役の少女神が来るか分からない……オレや優香にバラしている最中に来られたら全てが終わっていたためあえてどうしようもないと言った演技をしていたとのことだった。
そして不動明王様とも優香には内緒で事前に打ち合わせをしていたようで、神様は『じゃから優香ちゃんが自ら道を進むと言った時には心底焦ったわい』と優香に視線を移しながら力なく笑う。
ーー……ん、ちょっと待てよ?
「なぁ神様、てことはオレがここに来なくても……パンツを持ってこなくても優香を戻してくれる予定だったってことなのか?」
『そうじゃよ。 ただ近々上位神殿が来ることは分かっておったからの。 それまでの間優香ちゃんの足を止めていただけだったのじゃ』
ーー……は? ハアアアアアア!?!?!?
あまりにも軽く答える神様にオレの感情が一気に高ぶっていく。
「じゃ、じゃああの茜の体を借りての電話はなんだったんだよ!! 時間がないから早くしてって言うのは……!」
『あの時は残り1手が足りなかったのじゃ……上位神を欺く何かを。 それでお主に電話したんじゃが、お主は機転を利かせたのかなんなのか、不動明王の身代わりお守りを優香ちゃんのもとへと届けてくれた。 これが今回上手くいった起因の一つじゃ。 感謝しておるぞ』
神様が改めてオレに『ありがとう』と手を差し伸べてくる。
なるほどな、神様でも思いつかなかったことをオレはやってのけたと……。
これは案を思いつかせてくれた結城に感謝だぜ。
こうして神様は結城の購入したお守りの神々に周囲を見張らせ禁忌を使用。
何も知らない優香の周囲が薄明るく光り、無事優香の魂は元の優香の身体の中へと戻っていったのだった。
『ほれ、これをお主も見てみよ』
神様の手鏡を見せてもらうと、そこにはちょうど目を覚ました優香とその目覚めに狂喜乱舞するスペシャリストたちの姿が映し出されている。
「おおお、やったなありがとう!!!」
『なんのなんの。 これくらいワシにかかればチョチョイのチョイじゃ』
「流石だな神様!!」
『うむうむ!! じゃあ今度はお主の番で良いかの』
そう言うと神様はオレの周囲に光を灯し出す。
「え、オレも生き返れるの!?」
『あぁ。 よかったのう病院で。 落下してすぐに一流達の手によって治療を受けられたのじゃから。 優香ちゃんと同じで生死をさまよってる状態なだけじゃよ』
「ええええええええええええ!?!?!?!」
オレが大声で驚いていると神様が急に『それで、どうする?』と尋ねてくる。
「ん、それはどう言う意味だ? また新しい報酬を望む……とか言わないでくれよ?」
『それはない。 ただこのまま放置してても助かるのじゃが、お主があの体内に戻らなかった場合はダイキの元の魂が目覚めることになっておる。 もしお主がもうあの生活に満足して新たな輪廻転生を望むのならばやめておくが……』
「え」
突然の神様からの言葉に脳が固まる。
元のダイキの魂が目覚める……?
「えっと神様、ダイキの魂って生きてたの?」
『もちろんじゃ。 まぁでも当の本人はそれを望んではいないようなのじゃがの』
「そうなのか?」
『あぁ。 だって元のダイキなら……』
「え」
神様が突然視線を別方向に向けたのでオレもそこへと視線を追っていくと、物陰で小さく丸まっている少年を発見する。
そこにはもはや自分といっても違和感のないくらいに見慣れた姿の……
「え、あ……ダイキだ」
『そうじゃ。 普通なら自死を選べば永遠に現世を彷徨うこととなる。 しかしお主の魂を入れたと同時に特別にここに引き上げてやったんじゃ』
「な……なにいいいいいいいいいい!?!?!?」
驚きながら元祖ダイキを見ていると、それに気づいた元祖ダイキは怯えた様子で背を向ける。
「てかあいつ……よく無事だったな。 さっきのような見回り神たちに目をつけられなかったのか?」
『あぁ。 何故かあやつの存在だけは上位神殿達も気づかなかったようでの』
「な、なるほど……」
ーー……おそるべしインキャのステルス能力。
「ちなみにあのダイキの魂で現世のダイキが目覚めた場合ってオレはどうなるんだ?」
『そうなれば当たり前じゃが、もうお主があのダイキの身体へ入れることは叶わなくなる。 新たな人生……輪廻転生を目指すことになるな』
「あーーー……」
オレは視線を再びダイキへ。
「なぁダイキくん、どうする? 君は元の自分の体に戻りたい?」
そう尋ねると元祖ダイキは一瞬だけこちらに視線を向けて力強く首を左右に振る。
ーー……まぁ結構大変だったみたいだから当然か。
ぶっちゃけオレは戻りたいかと問われれば戻りたいと答えるところなのだが、もし今のダイキを取り巻く環境なら元祖ダイキも前よりはのびのびと過ごせるようになっているはずだ。
オレはすぐに答えを出せないでいたのだった。
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