368 それは再び目の前に!!
三百六十八話 それは再び目の前に!!
『ーー……なんでそうなるんじゃ』
後ろからの聞き覚えのある声に反応して振り返ると、なんということだろう……その姿での再会は約1年ぶりといったところか?
そこには白い髭を生やしたおじいさん……神様が立っていた。
ということは……
「チョエエエエエエエエ!?!? オレ死んだのーーーー!?!?!?」
あまりのショックで立ち上がると神様が『そのようじゃの』とため息交じりに答える。
「ちょっと待ってくれ……てことはオレの今度の死因って……!?」
『転落じゃな』
「やっちまったあああああ!!! あんのクヒヒ野郎おおおおおお!!!!!」
ギリギリまでリュックのクッション作戦で助かろうと思っていたのにまさか失敗したなんて。
オレが「マジかよ」と絶望感に打ちひしがれていると隣から今度は女の子の声。
「あの……大丈夫……ですか?」
「ーー……!!!」
その声がオレの耳に入った途端に脳や身体が瞬時に反応。
光の速さでその方向に振り向くと、そこにはやはりそうだ。 事故当時の姿……制服姿の優香が心配そうにオレを見つめていた。
「お……お姉ちゃん!!!」
オレはおもむろに立ち上がると優香の手をギュッと握りしめる。
しかし……あれ、なんかおかしいな。 最愛の弟が来たというのに優香の表情があまり良くないというか……。
オレは頭上にはてなマークを浮かばせていると、優香がゆっくりと口を開いた。
「えっと……あの、どちら様ですか? 確かに私には弟はいましたけど……」
「エ?」
何を言ってるんだ優香は。
オレが目をパチクリとさせていると神様が気を利かせてなのか手鏡をオレに向けてくる。
『ほれ、これ見い』
「これ……? ってアアアアアアアア!!!! そういうことかああああ!!!!」
そこに映し出されていたのは確かにオレなのだが、それは福田ダイキの姿ではなくオレの本来の魂の見た目・森本真也の姿。
アラサーの男が驚いている表情が手鏡ごしにオレの視界に入ってくる。
「そ、そそそそうだよな、ここであの肉体だったら2人になっちまうもんな!」
『そういうことじゃ』
オレと神様が頷きあっていると優香が不思議そうにオレたちを見ていることに気づく。
「えっと……とりあえずお兄さん、もう大丈夫そう……なんですか?」
「え、あ、いや。 ていうかお姉……あなたは取り乱していないんですね。 ここ何処か分かってます?」
「あ、はい。 天界らしいですね。 そこにいる神様から聞きました」
優香は少し寂しそうな表情をしながら周囲を見渡す。
「知ってるならなんで……」
「どうしようもないって聞いたんです。 まぁ正確には私はまだ命を繋ぎ止めている状態……死んではいないらしいんですが、それも時間の問題らしくて。 でも何かしら奇跡が起きるかもって説得されてあそこにある道にはまだ進まないほうがいいって言われてるんです」
優香はそう言いながら遠くに見える一本の細道を指差す。
おそらくはあれが輪廻転生へと続く道……あそこに足を踏み入れてしまったら「死」確定というわけなんだな。
オレは「少し神様と2人で話をさせてくれ」と優香にお願い。
少し距離を空けて優香に聞かれないくらいの声量で神様に尋ねることにする。
「なぁ神様、優香の身体は前のオレみたいにまだ死んでないんだろ? だったら生き返らせてあげてくれよ」
『バカ言うな。 ワシは1度お主を別の魂に転生させただけではなく美香という存在を創り出し……更には茜ちゃんの魂を神の創造した身体に宿したんじゃぞ? 現在上層の神々から疑惑の目を付けられててやばいのじゃ』
「ーー……そんなになのか?」
『そうじゃ。 言ってしまうと禁忌のオンパレードじゃったからな』
神様は『まぁ確信的にバレた訳ではないからグレーなんじゃけど』と自らの隠密プレーにフフンと胸を張る。
「だったらまたバレないようにうまくやってくれよ」
『それが出来たらもうやっとるわ。 でも先も言ったじゃろ? 目を付けられておると。 バレたら今度はワシの魂が消滅されかねん……リスクがバチバチに大きいのじゃ』
「なるほど……」
オレはガクリと肩を落とす。
『いやいやショックを受けとるのはワシの方じゃ! お主なら優香ちゃんをどうにか救ってくれると信じておったのに……なんでここに来とるんじゃ!』
「知らねえよあのクヒヒ野郎に聞いてくれよ!」
『飛び込んだのはお主じゃろがい!』
「た、確かにそうだけど……」
ーー……ぐぬぬ。 これは完全に詰んだというやつなのだろうか。
オレはしばらくの間神様を見つめながら何かいい方法がないのかを考える。
「なぁ神様」
『なんじゃ』
「どうしても無理か?」
『無理じゃな』
「今優香が履いてるパンツと引き換えとかどうなんだ?」
『ぐ……そ、それは確かに心踊るのじゃが……まだリスクの方が大きい。 無理じゃな』
「そうか……」
今回ばかりはオレにもどうしようもないらしい。
オレが深いため息をついていると少し離れたところから見ていた優香が「あの……また悲しそうな顔してますけど、大丈夫ですか?」と近づいてくる。
「あー、はい。 すみません神様を独り占めして」
「いえいえ、私も最初の方は一緒にいてもらいましたから」
「そうなんですか?」
「はい。 あの手鏡で下の世界の状況を見せてもらってました」
「えええ、そんなこと出来るんですか! オレてっきり自分が死んだ時の状況を見せるためだけのものとばかり……」
「……詳しいですね」
「まぁその……漫画的にそうなのかなーって。 それでもそこで下の世界のこと見させられたら戻りたくなりません?」
そう尋ねると優香は「まぁそうなんですけどね……」と僅かに俯く。
「優香さん?」
「まずはその戻れないっていうのもあるんですけど、私には弟がいるんです。 でもその弟がいろんな人に支えられてるのを見てちょっと安心したってのもあるんです」
「安心……ですか」
「はい。 本来なら弟が自立するまでは私がずっと一緒にいてあげようって思ってたんですけどね。 お姉ちゃんがいなくても大丈夫そうだなって」
優香も帰れるものなら帰りたいのだろう。
目に涙をためながら「ダイキ……」と手を胸のあたりで強く握りしめる。
「じゃあ神様にこれでもかってくらいにお願いしましょうよ! もしかしたら神様も情に流されて……!」
『無茶言うなダイ……お主。 神界にも厳しいルールがあるんじゃ』
「マジか……」
オレの呟きに神様が頷くと、神様は視線を優香へと移す。
『優香ちゃん』
「あ、はい」
『もうしばらくすると見回りの神が来る。 その時が優香ちゃんの新たな輪廻転生への旅立ちとなるじゃろう』
「わかりました。 ではダイキのこと……見守ってあげてくださいね」
『あぁ。 でも輪廻転生への道から現世へはカーテンを開ける感覚で自由に行き来出来る。 実際に触れ合うことはできずとも優香ちゃんが弟さん……ダイキくんを守ってあげることも出来るぞ』
「そうなんですか?」
『うむ。 実際にそうやって妹を助けた……肝の据わった姉をワシは知っとるからの』
ーー……陽奈の姉・愛莉のことだな。
それを聞いた優香はホッと一安心。
その後神様に「じゃあもう私、行っちゃってもいいってことですか?」と尋ねる。
『ギリギリまで奇跡を待たんのか?』
「はい。 それよりも早く近くでダイキたちを見たくて……」
『そうか。 ならワシに止める権利はないな』
「ありがとうございました神様」
『あぁ、達者でな』
優香が「お兄さんもさようなら」とオレにも手を振り輪廻転生へと続く道の方向へとゆっくりと歩みを進めていく。
オレはそんな優香の背中を見つめながら何かかける言葉を探していると、とあることに気づき「あ……ヤベェ」と声を漏らした。
『なんじゃ』
「なぁ神様、優香……早くダイキに会いたいって言ってたよな」
『言っておったな』
「そのダイキ……階段から落ちてるから会おうにも会えないんじゃね?」
『!!!!!!!!』
オレの言葉を聞いた途端神様はまるで漫画のようにアゴを外し驚愕。
すぐさま優香のもとへと瞬間移動して道の入り口付近ギリギリのところ……優香の腕を掴んで必死に引き止めた。
「ええ? どうしました神様」
『な、なぁ優香ちゃん、美味しいお茶があるんじゃ、後1杯だけ付き合ってもらえないかの?』
「お茶……ですか?」
『あぁ、神界では有名なかなり美味しいと評判なんのお茶なんじゃ。 どうしても優香ちゃんと飲みたくての』
「それならあのお兄さんと……」
優香が困った様子でオレを指差す。
『イヤじゃイヤじゃー! ワシは優香ちゃんと飲みたいんじゃ! 男と飲んでも美味くないわい!!』
「な、なら一杯だけ……」
『よーし決まりじゃ! では優香ちゃん、あちらにある椅子に座って待っといてくれ! 淹れたらすぐに持っていくぞ!』
「わかりました、ありがとうございます」
優香は焦った神様の様子に少し不審がりながらも神様に言われた通りに指定された席へ。
優香が座ったのを確認すると、神様は再びオレの目の前にテレポーテーション……グイッと顔を近づけてきて「なぁこれワシ、どうするべきなんじゃ!?」と額から滝のような汗を流しながらオレに尋ねてきた。
「いやだから生き返らせてあげれば済む話だろ」
『そしたらワシ消されるもん!!』
「じゃあもうオレも知らねえよ! オレは神の力なんて持ち合わせちゃいないんだから!!」
『そんなこと言わんでくれー!』
「勘弁してくれよ。 オレだって優香をどうにかして戻してあげたいのに……それが出来ない不甲斐なさでここからすぐにでも消え去りたいレベルなんだから」
そうだよな、これ以上オレに何も出来ないのならここに留まっている必要もない。
オレは体を道の方へと向けて「で、神様。 ちなみにオレの進む道はどれだ?」と複数の道を指差しながら尋ねる。
『そ、それは真ん中なのじゃが……なぁ、話は変わるがちょっといいかダイキ』
「ん?」
『お主その大きな図体でそのリュックってちょっと無理がないかの?』
「え?」
神様の指先に視線を追ってみると、これはまた気付かなかったな。
オレは確かにオレの身長には似つかわしくないリュックを自然に背負っていたことに気づく。
『なんでそんなの背負っとるんじゃ』
「あーこれはあれだ、オレ階段から落ちるときにちょうど背負っててさ」
『そうなのか』
「あぁ。 それでこれをクッションにして助かろうって考えてたんだけど、まぁ無理だったからここにいるんだけどな」
オレが「あははダセェだろ」と自虐的に笑うと神様が「確かにダサいのう」とクスッと笑う。
「おいおいなんだよ、流石にそこはフォローしろよ傷つくだろ」
『だってクッションになるわけないじゃろが。 見ただけでも分かるぞ、中……スカスカじゃないか。 クッションになるようなものは入れておったのか?』
「ーー……え」
そう言われたオレはリュックの中に入れていたものを思い出していく。
財布とポケットティッシュとハンカチくらいだろうか……確かに神様の言う通りクッションになりそうなものはなさそうだが……でも確かにそれで助かろうなんてバカげた話だよな。
「えええ、オレ他に何か入れてないのか!?」
なんだかんだで神様にバカにされるのはそれはそれで腹が立つ。
美香の姿で言われたらまぁまだ可愛いから受け入れられるのだが、こんな見た目が爺さんに言われてもただムカつくだけだ。
オレはおもむろにリュックを下ろすと「ぜ、絶対に何かしらクッション的なもの入れてるはずだ」と軽くムキになりながら中を漁っていく。
「財布にティッシュ、ハンカチ……あ、ほらキーケースに……後は……」
中を全開に広げて必死に漁るも他には何も見つからない。
結局はそういうことだったのか。 オレは自分のダサさに改めてショックを受けながらも「以上です」とリュックを逆さにしてワサワサと上下に振る。
『そんなのでクッションになるわけなかろう』
「ですよねー。 オレがミスってましたわー」
『もうちょっともしもの時のことを想定して入れておけばよかったのう』
「ーー……神様、結構人の心の傷エグりますやん」
『だって事実じゃし。 後あれじゃ、お主はもう人ではなく霊体じゃぞ』
「おいおいもうちょっと他のところでフォローして……慰めてくれよ!!」
神様の度重なる心をエグる言葉にイラっときたオレはその感情をリュックへと乗せ勢いよくブンブンと振るう。
するとこれは……なんだ?
リュックの中にある小さな収納ポケットから何やら丸まった白いものがポロリと地面に転げ落ちた。
ーー……ん? まだ何か入ってたのか?
一体なんだろうと思ったオレはそれをゆっくりと拾いあげ……
バチバチバチ!!!! ドキューーーーン!!!!
それはその落下物に触れた瞬間だった。
オレの全身に雷のような衝撃が駆け巡り、オレの全身がワナワナと震えだす。
そうだ……これだ……!! これがあったああああああああ!!!!!!
『ん? ダイキ、どうした?』
「なぁ神様……これ、なんだと思う?」
オレはそれをゆっくりと持ち上げ神様に向ける。
『なんじゃと思う……じゃと? 一体それはなん……』
「広げまぁす!!!!」
『ーー………!! そ、それはああああああああああああ!!!!!!』
オレがそれを広げると神様のテンションが一気に高揚。
それもそのはず。 オレが広げていたのは以前美香が履き茜も最初だけとはいえ直接履いていた……あの運命のいちご柄のパンツだったのだから!!!!
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