366 特別編・偶然の鉢合わせ
三百六十六話 特別編・偶然の鉢合わせ
それは福田ダイキと結城桜子が不動明王の身代わりお守りを優香に届けるべく病院へと向かった日の大体15時過ぎ頃。
その日、偶然にも小畑美波は母親に付き添われながら同じ病院へと脚を運んでいた。
「あー、最悪なんだけど」
待合席エリア。
美波は「はぁー……」と大きなため息をつきながらがくりと項垂れる。
すると隣に座っていた美波の母親が心配そうに顔を覗かせてきた。
「みぃちゃん、ちゃんと自分の言葉でお医者さんに言える?」
「言えるよ」
「どこがどう痛いのか……とかちゃんと言うのよ?」
「分かってるって。 みぃももうすぐ小6だよ? それに捻挫しただけなんだから『捻挫しました』って言えばいいだけじゃん」
「だったら良いんだけど……」
そう……先の美波の言葉の通り、美波は捻挫をしてしまい診察に来ていたのだ。
それは数時間前の体育の時間。 その日はドッジボールをしていたのだが美波は足元に投げられたボールをジャンプして回避……しかし着地するタイミングが少し早かったためボールの上に着地してしまい、その結果グキィと右足首を強く捻ってしまったのだった。
「くっそー、あの時近くに福田がいれば絶対何とかなってたじゃん」
美波が小さく呟くと、美波の母親が「福田?」と首を傾げながら聞き返す。
「ん? みぃ何か言った?」
「うん、福田がいれば……とか。 福田さんってどんな子なの?」
「え?」
美波は突然食いついてきた母親の質問に目を大きく瞬きさせる。
「えっと……ママ、なんで?」
「だってみぃちゃん、その福田さんって子を信頼してるんだなって思って。 みぃちゃんが今までママに教えてくれたお友達の名前って佳奈ちゃんと麻由香ちゃんだけじゃない?」
「ーー……そうだっけ」
「そうだよ」
母は福田のことを女の子の友達だと思っているのだろう。
「やっぱり佳奈ちゃんたちみたいに可愛い子なの?」と興味津々で聞いてくる。
「えええ、何で言わないといけないのさ!」
「いいじゃない。 もしかしてその福田さんも、みぃちゃんのアイドルオーディションのお手伝いしてくれてるの?」
「まぁ……うん」
「へぇー!! それはもう佳奈ちゃんたちみたいに大事な親友ね! 大切にしなきゃダメよー?」
母親は嬉しそうに微笑みながら美波の頭を撫でる。
「ちょっとママ、ここ病院。 周りに人もいるんだからそんな恥ずかしいことしないでよ」
「いいじゃない。 みぃちゃんはまだ子供なんだから」
「まぁ……それはそうだけど」
頭を撫でられたことにより美波の人には見せられない甘えモードが発動。
上半身を母親の方に傾かせてもたれかかりながら看護師さんに自分の名前が呼ばれるまでの間、静かに目を閉じた。
「ーー……あら、あの子たち兄弟かしら」
「?」
ふと母親のつぶやきが聞こえたので目を開け見上げると、母親が視線を階段の方へと向けている。
美波は一体何事だろうと思い、母親の視線を追っていったのだが……
「え……えええええ!!?? 」
そこにいた人物を見た美波の口から思わず声が漏れる。
それもそのはず……だってそこには先ほど話題に上がっていた福田ダイキと、その友達の結城桜子の姿があったのだから。
こんな自分を見られたら色々と終わる……それを直感的に感じた美波は上半身を母親の膝の上に。 体勢を低く取り2人に見つからないよう上手に隠れた。
「ん? どうしたのみぃちゃん」
「ちょっとママ、しぃいいいいい!!!!」
美波は人差し指を自身の唇に当てながら顔を左右に細かく振る。
一体どうしてここに福田と結城が?
そう言えば昨日今日と福田は学校を休んでいた……ということは先生は『風邪で休み』と言っていたが、実は何かしら難しい病気にかかって入院でもしているのだろうか。
それで結城も家が近いってことでお見舞いに?
「ーー……これ、緊急事態じゃん」
美波はすぐさまスマートフォンを取り出し佳奈と麻由香・エマに福田の件をメールで一括送信。 その後美波は看護師さんに呼ばれて自身の診察へと向かったのだった。
◆◇◆◇
診察結果、中度の捻挫だったことが判明。
ギプスで固定……とまではいかなかったのだが、美波は足をテーピングで固定されて母親とともに診察室を出る。
「みぃちゃん、大丈夫?」
隣で美波を支えている母親が心配そうに尋ねてくる。
「うん。 結構キツ目に固定してくれたから大丈夫。 カカトで歩いてもさっきよりは痛くないかな」
「そう……ならいいけど」
母親は美波を待合席に座らせると「ここでじっとしててね」と声をかけ、会計や処方された痛み止め効果のある湿布・テープを受け取りに。
美波はその言葉に「うん」と返事をしたのだが……
「ーー……今しかないよね」
美波はそう小さく呟くと母親に『ちょっとトイレ行ってくる』とメール。
その後片足はカカトをつけて歩きながら、先ほど見た福田と結城が向かっていた方へと行ってみることにした。
「あ、いた」
どこにいるのだろうと探していると、ちょうど飲み物を買いに自動販売機にいた結城を見つける。
その後ろをバレないようにつけていくととある部屋。
ゆっくりと中を覗き込むと先ほど入っていった結城を含め、そこには何人かの大人と金髪ギャルの高校生……そして福田の姿も確認できる。
何やら話をしているようだが……
「んーー……聞こえん」
大人たちの会話が邪魔で福田たちの話が聞き取りづらい。
そんな状況に美波がイライラしていると、後ろの方から大きな声で「あー見つけたーー!!!」と佳奈の声が聞こえてきた。
「あっ」
振り返ると予想通り。 ここまで全速力で走ってきたのだろう……全身汗まみれの佳奈が不安全開のような表情でこちらに向かって駆け寄ってくる。
「ねぇ美波!! メール見たけど福田が入院してるかもって……!」
「シイイイイイイ!!! 聞こえるから静かにして!!」
美波は咄嗟に佳奈の口元を押さえてそれを阻止。
しかしバランスを崩して佳奈にヨロリと寄りかかる。
「ええ、どうしたの美波その足! てかやっぱ捻挫だったの!?」
「うん、治るまでちょっとかかるって」
「うわあああ、じゃあもう私にもたれかかってなよ」
「ーー……ありがと」
佳奈は美波を近くの休憩スペースまで誘導するとそこに座らせ、福田に何があったのかを聞いてきた。
「あー、ごめん佳奈。 入院してたの福田じゃなかったわ」
「ええええそうなのーー!?!?」
そうは突っ込んできながらも佳奈の顔から不安の色が消える。
「うん。 入院してたの福田のお姉さんだった」
「あーそっか、入院してたのは福田のお姉さ……って、ええええええ!?!?!? 優香さん!?!?!? なんで!?」
「知らないよ。 みぃ……じゃなかった、私も親の目を盗んでさっき来たところだったんだから」
とりあえず室内へは入れる空気じゃなかったことを伝えると、三好が「だったら福田にメール送ってみよっか」と提案。
美波もそれに同意し佳奈が打ち込んでいく内容を横から覗き込んでいたのだが……
「それでは何がなんでも……少しでも可能性を見つけてきますので!」
物音とバカでかい声が聞こえたので美波がそこに視線を向けてみると、数人の大人たちが福田の姉・優香を乗せた台をどこかへと運んでいき、その後すぐに福田・桜子・ギャル高校生が病室から出てくる。
荷物も持っているしどうやらもう帰る感じっぽい。
「ちょ、ちょっと佳奈! 福田たち帰ってるよ!」
「えええ待って、まだメール送れてないし!」
「もういいや、部屋から出たんだし本人に直接聞こうよ」
「だね!」
こうして美波は佳奈に肩を貸してもらいながら3人の後ろを必死に追う。
しかし佳奈は忘れていたのだ……母親が待っていることを。
待合席エリアまで行ったところで美波の母親が「あー! みぃちゃん! どこのトイレ行ってたの!?」と心配した様子で駆け寄ってくる。
「あー、ママ」
「え、なんで佳奈ちゃんがいるの?」
「佳奈はみぃ……私を心配してくれて来てくれたの。 んでちょうどトイレ行こうとしてた時だったから肩貸してもらってたんだよね」
「そうだったんだ……ありがとうね佳奈ちゃん」
美波の母が佳奈に優しく微笑む。
「あー、いや。 アハハハ、親友ですし」
「でももう大丈夫だから。 じゃあ佳奈ちゃんもウチの車に乗って一緒に帰ろっか」
「え、あー……そう……ですね」
この間にも福田たちは正面玄関を出て病院の外へ。
もうこれは間に合わない……諦めた美波と佳奈は「後で車でメール送って聞こう」という話になり少し遅れて正面玄関へと向かう。
「ごめんね佳奈、なんか無駄足させて」
「いーのいーの。 そもそも美波がここ来てなかったら私も知らないままだったし」
「でもあのお医者さんや他の大人の人数ってことは……福田のお姉ちゃん、結構やばいのかな」
「どうだろ……私、優香さん好きだからそこもめっちゃ気になるんだよね」
そんな会話をしながら美波の母親の後ろを歩いていると、正面玄関から出るギリギリのところで突然美波の母が立ち止まり「あ、そうだ」と声を上げた。
「ど、どうしたのママ」
「2人ともお腹空いてない?」
「え?」
「ちょうどここに来る途中目に入ったんだけど、あそこに見えるファミレスあるでしょ? なんか今日までスイーツ食べ放題キャンペーンしてるみたいなの。 3時はちょっと過ぎちゃってるけど……少し遅れたおやつにどう?」
美波の母がここから見える先にあるファミレスを指差しながら尋ねる。
「え、いいの?」
「うん。 ママもお腹ちょっと空いてたし。 もちろん佳奈ちゃんも一緒にね」
「えええええ! ありがとうございますーー!!!」
こうして2人は美波の母に連れられてスイーツを食べにファミレスへ。
そしてこれはなんという偶然なのだろうか……席に案内されるとなんと後ろの席には先ほど追っていた福田たちの姿。
どうやら本人たちは気づいていないようなので、美波と佳奈は互いに顔を見合わせ食べ物の美味しさを味わいつつ後ろの席の声に集中したのであった。
「頼むからダイキと桜子ちゃんは、ゆーちゃんみたいに車に轢かれたりすんなよー」
「うん」
「う、うん」
「「!?!?!?」」
福田の姉・優香の入院の原因が車に轢かれた……そのことを知った2人は衝撃のあまり食べ物を喉に詰まらせケホケホと咳き込む。
「ちょっと2人ともー、時間はまだあるんだからゆっくり食べなさいよー」
「あ、うん」
「は、はーい。 アハハハ」
2人は誤魔化しながらも真剣な表情でアイコンタクト。
「佳奈……聞いた?」
「聞いた聞いた。 これ……私らに何か出来ることってないのかな」
「とりあえず今は驚き過ぎて頭回らないから……夜、電話できる?」
「おっけ了解。 私のお兄、優香さんと同じ学年だから……何か知ってることあるか聞いてみるね」
結果いい案は思い浮かばず。
とりあえずは翌日かまた別の日にでもお見舞いに行こうという結論に至ったのだった。
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