364 リミット
三百六十四話 リミット
一体どういうことだ?
美香……神様は身体を茜に譲り渡したはずなのにどうして今オレは茜からの着信で美香と通話している?
寝起きということもあるのか脳が充分に動いていない状態でオレは必死に考える。
「え、えっと……美香?」
『うん』
「てことは神様ってことで合ってるんだよな?」
『そう』
美香の素っ気ない声がスピーカーから聞こえてくる。
うん、この感じからして茜のイタズラ電話とかではないのだろう。 でもなんで美香が……
「な、なぁ美香、茜はどうした」
もしかして茜の身にまた何か起こってしまったのか?
そう心配したオレがそのことについて尋ねようとすると、先に美香から『そんなことよりも……』と話を切り出してきた。
『とりあえず今は眠って意識のない状態の茜の身体を借りて一時的に電話をかけている。 目覚めたら即終了。 時間がないから手早く話す』
「お、おう」
美香のやつ、ちゃんとオレの心配事を理解してたんだな。
茜の無事をサラッと伝えた後、美香はとあることをオレに尋ねてきた。
『ダイキ、前に輪廻転生の旅の話をしたの覚えてる?』
ん? 輪廻転生?
確かそれって……
「あー、あれだろ? 生まれ変わりへの道を歩くんだよな」
『そう』
いきなりなんでそんなことを聞いてくるんだ?
オレは首を傾げながら「それがどうした?」と尋ねると、美香はとんでもないことを言い出した。
『今、優香ちゃんを必死にその道の入り口前で足止めをさせている。 でも他の神にバレたらその道を進まされることになる。 そうなるともう手遅れ。 数日以内にどうにかして』
「え」
突然の知らせ・突然のリミットを伝えられたオレの脳内は完全に停止。
しかし美香には本当に時間がないのだろう……オレの脳が動き出すまで待つこともなく話を続ける。
『こうなるのは時間の問題だった……けど、今までの結城ちゃんみたいにもしかしたら全部上手い具合に回避してなんとかなると思ってた。 すべては結城ちゃんと姉妹の契りを結んだことにより引き起こされるようになった運命』
「結城と……? 何を言ってるんだ?」
『この言葉、美香が言ったの覚えてる?』
この言葉……?
一体どのことだろうと考えていると、美香は聞き取りやすいようにその言葉をゆっくりと口にする。
『言霊の力は凄い。 互いに了承容認したのなら、それは尚更。 だから今後は何においても2人で1つ』
あー、なんかそんなこと前に言ってたような気もするけど……。
「その互いに了承容認ってのが姉妹の契りなのか?」
『そう。 姉妹になったことにより、結城ちゃんが1人で背負っていた不幸……デスゾーンが優香ちゃんにも半分にはなるけど乗っかってしまったということ』
「ええええええええええ!?!?!?」
そう言われてみれば優香が小さな怪我などをしだしたのって、確かに結城と姉妹関係になってからのような気もするが……
「え、でもさ、なら高槻さ……!」
しかしそれ以上聞こうにも、タイミング悪く美香から『茜が目覚める。 とりあえず伝えることは伝えた。 それじゃあ』と一方的に通話が切られてしまいそこからは聞けずじまい。
気づけば窓からは朝日……オレはあれから一睡も出来ないまま夜を過ごしていたのだった。
まさか結城の不幸を優香も背負わされてしまっていたなんて。
……これは何があっても結城に聞かせるわけにはいかないな。
オレはそう決心をすると近くに置いてあったリュックの中から昨日神社で買った……かつ茜に選んでもらった不動明王様の身代わりお守りを取り出し握りしめる。
「大丈夫、不動明王様の力の宿った身代わりお守りだってあるんだ。 これさえ届ければ優香だって……」
◆◇◆◇
その日すぐにオレは行動を開始。
結城を起こしてすぐに帰ることを伝えると、早速準備を促す。
「ど、どうしたの福田……くん。 なんか顔、怖いよ?」
パジャマ姿の結城が心配そうにオレを見上げ首をかしげる。
「あーうん大丈夫。 とりあえず早くあのお守り渡したいからさ、1秒でも早く新幹線に乗りたいんだ」
「う、うん。 そうだね、ごめんね急ぐから」
ここまで心に余裕がなくなったのはおそらくは今回が初めてだろう。 普段なら癒されていた結城の行動を見ても何も思わないくらいになっているんだからな。
あ、でももちろんこれがきっかけで結城を恨んだり……とか、そんなことはないぞ? だって結城はこれっぽっちも悪くない……悪いのは結城に乗っかっている大量のデスゾーンなのだから。
オレは結城の準備を待っている間にギャルJK星にメールを送る。
【送信・星美咲】おはよう星さん。 あのさ、お姉ちゃんを助けるためのプロフェッショナルチームいるでしょ? 何か発見とかってあった?
【受信・星美咲】はよー。 んーにゃ、色々試してはいるらしいんだけど、脳ばかりはどうしようもないらしいんだわ。 ゆーちゃん次第なんだって。 でも脳以外は精鋭の力でパーフェクトなんだってさ。
【送信・星美咲】ありがとう。 もうすぐ出るから夕方までには着くよ。
【受信・星美咲】おう! でも急ぎすぎて怪我すんなよなー。
ーー……うん。 やはり最新の知識や技術を持ってしてもそこばかりはどうにもならないらしい。
最後は優香次第……となれば後は神に頼るより他にないよな。
「数日以内にどうにかしろって、オレにどうしろってんだよ……」
オレが小さく呟いていると、準備を終えた結城が扉をノックしてゆっくりと顔を覗かせてくる。
「あ、あの福田……くん、用意出来たよ」
「うん。 ごめんね結城さん。 急かしちゃって」
「ううん、私だって早く良くなってほしいもん」
それからすぐに結城と同時に目覚めた陽奈も「お待たせー!」と、私服にお着替え完了。
オレたちは朝ゆっくりする時間も作らずに福田祖父母に挨拶をして家を出たのだった。
◆◇◆◇
「ーー……ん、なんだ?」
玄関を出ると、その先に一台の乗用車が止まっているのを見つける。
家の前に堂々と止めるとはなんという非常識……もしかしてこの家に何か用でもあるのかなと疑問に思いながら視線を向けていると、後ろにいた陽奈がオレの背中をポンポンと叩いてくる。
「ん? どうした陽奈」
「あれ、ママの車やけん」
そう言うと陽奈はオレと結城の背中をグイグイと押しながら乗用車の方へ。
車に近づくと運転席に座っていた陽奈の母親が助手席の窓を空けて声をかけてきた。
「おはようダイキくん。 さっき陽奈ちゃんから電話で聞いたんだけど……急いで駅に行きたいんでしょ? おばさんが送ってあげるから乗りなさい」
「「え」」
オレと結城が驚いた顔で視線を陽奈へと向ける。
「えっと陽奈、これはどういう……てかいつ連絡してくれたんだ?」
そう尋ねると陽奈が少し恥ずかしそうにえへへと笑いながら小さく口を開いた。
「えっとね、桜子が歯を磨いてる間におじちゃんとおばちゃんに電話借りてお願いしといたんだ。 なんかダイきちと桜子、めっちゃ急いでる感じやったけん……陽奈にできることってこれくらいかなって」
「ひ、陽奈……」
「陽奈ちゃん……」
陽奈はこの状況が照れるのか「もー! いいから早く乗って!!」とオレと結城を車の中へと押し込むと、陽奈は乗らずに笑顔で手を振ってくる。
「え、陽奈は乗らないのか?」
「うん! 陽奈、これ以上ダイきちたちと一緒にいたら余計に寂しくなるけん! やけん、ここでお別れ!」
陽奈の母親が「陽奈ちゃん、本当にいいの?」と尋ねるも陽奈の意思は変わらないのだろう、「うん!」と迷わず首を縦に頷きそのまま自身の家の方に向かって元気よく走り去っていってしまったのだった。
「ダイキくんに桜子ちゃん……だっけ? 昨日はありがとうね」
運転席のミラー越しに陽奈の母親がオレと結城を交互に見ながら小さく頭を下げる。
「え?」
「あの子、最近退院してからずっとダイきちくんたちに早く会いたいって言ってたから。 急にその夢が叶って嬉しかったはずよ」
「そうなんですか」
「うん。 だからありがと」
陽奈の母親は改めてオレたちにお礼を言うと車を発進。
その車内で結城から「陽奈ちゃん、なんかさっき泣きそうな顔してたね」と聞いたオレは、駅に着いた別れ際……陽奈の母親にお礼を言った後こう伝えたのだった。
「あの……これオレの電話番号なんですけど、もし今後陽奈にスマホを買ってあげる機会があったら教えてあげてくれませんか? そうすればいつでも話せますし」
陽奈の母親は嬉しそうに頷くと、「それじゃあ気をつけてね」とオレたちを改札まで見送ってくれたのだった。
さぁ……今行くからな!! 優香!!!
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今までの出会いが力となる……! 絆って素敵ですね!!
ちなみに美香の言った言葉は248話『気合い!!』にて!




