357 特別編・美咲⑦ 友情の花、開花【挿絵有】
三百五十七話 特別編・美咲⑦ 友情の花、開花
「ーー……ったく、襲われたんなら女子らしく叫べっての」
美咲は息を激しく乱しながら頬を伝う汗を拭う。
目の前には急所を押さえながらうずくまり悲鳴の声を上げているサッカー部員が数人。 「くそ……サポーター入れててこれかよ」と歯をガタガタ震わせながら恐怖に満ちた表情を浮かべながら美咲を見上げていた。
「うるせぇな黙ってろよ!!!」
美咲は動けない男子たちに再び強烈な蹴りをお見舞い。
男子たちが気を失ったのを確認してようやく優香に視線を向けた。
「ありがとう星美咲。 助かった」
「これは福田の計画……じゃないよね」
そう尋ねると優香は相変わらずのクールな表情で「違う」と小さく首を横に振る。
「じゃあもしかしてこれも麻帆……あいつのせい?」
「多分それも違う。 おそらくは独断かな。 ちっちゃな声で『なんで俺らまで巻き込まれないといけないんだよ』とか『俺らの代までの大会は完全に終わった』とか言ってたし」
「あー、そういうことか」
「うん。 とりあえずこいつらも後日しょけーする」
優香はゆっくりと立ち上がるとスマートフォンのカメラアプリを起動。
意識を失っている男子たちの顔を1枚1枚撮影し保存していったのだった。
◆◇◆◇
あれから優香がいつの間に呼んだのかは分からないが校長と数人の教師が血相を変えて美咲たちのもとへと登場。
失神していたサッカー部員たちのその後は任せてほしいとのことだったため、今度こそ美咲は優香と下校。 しばらくは無言のまま並んで歩いていたのだが……
「そういやさ、さっき男子たちの写真撮ってたじゃん? あれ使って何すんの?」
優香が撮影をしていたときからずっと気になっていた美咲は我慢できずに優香に話しかける。
「だからさっき言ったじゃない。 私は、あの男たちを、しょけーします。 オーケー?」
「それは分かってるっての! どうやってしょけーするのかなって気になったから聞いたの!」
「そんなの簡単。 無理やり襲われたって言えば解決じゃない? 中学生男子ならそういうの盛んっぽいし」
ゾゾゾゾゾォーー……!!!
優香の一切迷いのない言葉に美咲は背中に悪寒を感じる。
「どうしたの星美咲」
「え、いや。 福田って容赦ないなって思ってさ」
「それは星美咲もでしょ。 あそこまで大事なところを躊躇なく蹴るなんて人じゃない」
「いやあんたが言うなよ!!!」
美咲が顔を近づけながらツッコミを入れると、優香は静かに美咲を見つめ返してくる。
「ーー……で、星美咲。 君はどうするの?」
「な、何が?」
「あの……名前また忘れたけどさっきのぶりっ子。 あれでも友達続けるの?」
「んなわけないっしょ。 あんなのこっちから願い下げだって」
不思議なもので数時間前までは麻帆たちとは何としてでも仲直りをしたい……関係を戻したいと思っていた美咲だったのだが、今はそんな気持ちは微塵もあらず。
逆に彼女たちが視界に入ると殴りかかりそうなくらいにまで嫌悪感が増していた。
そんな否定的な返答を聞いた優香は「そっか」と呟きながら視線を戻す。
「え、何? 心配してくれてた系?」
「違う。 あれで懲りてなかったら本物のバカだなーって思っただけ」
「とか言っちゃってー。 実は心配してくれてたんでしょ?」
美咲が優香の前に回り込んで顔を覗き込むと優香は少し頬を赤らめながら視線逸らす。
「べ、別にそんなんじゃないし」
おそらくは図星だ。
美咲は純粋な優香の優しさに触れたことで、優香への愛情が一気に満ち溢れてくるのを感じた。
「あのさ、アタシと友達にならない?」
「え?」
美咲のその言葉に優香が反応。
大きく目を見開きながら美咲を見つめる。
「なんでいきなりそんな……友達?」
「うん友達」
「いや、いい」
「ズコーーーー!!!! いや、なんでよ!!!!」
美咲は大げさにリアクションをしながら「そこは『うん』て言うところでしょどう見ても!」とツッコミを入れる。
すると優香も美咲のテンションに少しは感化されたのか、どうして美咲の誘いを断ったのか……その理由を話し出したのだった。
「小学校の時もそうだったんだけど、多分星美咲も離れてくと思う。 だったら1人のままでいい」
「なんでそんなこと言うのー」
そう尋ねると優香は僅かに躊躇いながらもゆっくりと口を開く。
「それに私1人ぼっちだし。 私に構うと変な目で見られるよ」
「偶然だね、アタシも最近1人ぼっちになっちったよ」
「それに私は結構キレっぽい。 キレたら静かにキレるから大変だと思う」
「奇遇だねー。 アタシもキレっぽい性格なんだよなー。 あーでも福田と違って激しくキレるタイプだけど」
ーー……え、ていうかアタシと福田、結構似てね?
会話の中でそう感じた美咲が優香の顔を改めて見ると、優香も同じように感じていたのか似たようなタイミングで美咲を見つめている。
「ーー……もう1度聞こっかな。 福田、友達にならない?」
「私、本当にちゃんとした友達出来たことないから多分重いよ」
「いいじゃんいいじゃん! 重い友情上等! てかもうそれ友情通り越して愛じゃね? 愛最高!!」
これは了承してくれたということなのだろうか。
確認のために美咲が優香に手を差し伸べると優香はその手の指先をちょこんと握る。
「お? てことは友情成立ってことでおけ?」
「裏切ったら容赦しないよ」
「しないよしない! てか今日1日で福田の株爆上がり中だし」
「まぁ私もさっき助けてくれたのはポイント大きい」
まさに陰と陽……静と動の共鳴。
2人は互いに見つめ合いにこりと微笑みあうと、近くにあった小さな公園のベンチに座り、改めてお互いに自己紹介……ここに固い絆が結ばれたのであった。
「アタシは星美咲。 フルネームじゃなくて美咲って呼んでほしいな」
「私、福田優香。 じゃあ私も苗字じゃなくて下の名前の優香……いや、私はニックネームとかで呼ばれてみたい」
「んならゆーちゃんかな」
「ゆーちゃん……なんかくすぐったい」
そこからはなんとも甘酸っぱい青春の時間。
2人が友情を交わしたその足下にはたくさんの美しい花が咲き乱れており、その周辺は甘く優しい香りで満ち溢れていたのであった。
「あーでもアタシ、ゆーちゃんと完全に違うとこあったわ」
「なに? 恋愛経験?」
優香の問いかけに美咲は「んなもん皆無よ皆無」と大きく手を振って否定する。
「じゃあ何?」
「学力だよ学力。 ゆーちゃんってアタシをバカバカ言ってたってことは頭いいんでしょ? ちなみ中間テスト平均何点だった?」
そう尋ねると優香が気まずそうに視線を逸らす。
「ん? ゆーちゃん?」
「ーー……35点」
「アタシより下……バカじゃねえかああああああああ!!!!!!!」
ちなみにこれは余談だが、この美咲のツッコミを機に優香は少しずつ真面目に勉強。
それ以降点数で美咲に負けることはなかったのだった。
ーー特別編・美咲 完ーー
「てな感じのやり取りがあったわけよ! どう!? 結構運命的な出会いじゃね?」
優香との出会いを語り終えたギャルJK星が少し照れながらオレに尋ねてくる。
「うん。 途中ツッコミどころ多いところもあったけどなんというか……お姉ちゃんと星さん、尊いです」
「確かあれからゆーちゃんの人見知りを治すために、それ用のSNSアカウントを開設して……少しずつ優香国の民が増えてったんだよねー」
「な、なるほど……」
確かにこれはさっきギャルJK星が言っていたように運命的な出会いだ。
これは早く優香には目覚めてもらって優香視点からの話も聞かせてもらいたい。
オレは改めて少しでも早い優香の目覚めを心から願う。
「あ、ちなみに星さん、お姉ちゃんを襲おうとしてた男子を蹴った時、どれくらいの力で蹴ったの?」
「ん? もうガチよ? もう潰す気でやってたし」
ギャルJK星が「こんな勢いよ!」と笑いながら当時の蹴りを再現する。
「お……おおおお」
「どうしたダイキ。 ヒュンってした?」
「うん、した」
ダーク優香ならぬバーニング美咲……2人が同時にキレた日には肉体的にも将来的にも人生終わるんだろうな。
オレは股間をキュッと締めながら絶対に2人を怒らせないことを誓ったのだった。
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急に挿絵描きたくなったので少しラフ気味ですがなんとか間に合いましたー!!!




