355 特別編・美咲⑤ 狩る者
三百五十五話 特別編・美咲⑤ 狩る者
病院から家に帰ってしばらく。
優香から『家に着いた』と連絡があったので、美咲はまず昨日の授業中に見たあの優香の笑みについて尋ねることに。
【送信・福田】ねね、犯人探しの話の前にちょっといい?
【受信・福田】無理
こ、こいつ……。
美咲は腕をプルプルと震わせながらも大きく深呼吸。
今度担任にパソコン内のメールを見せてもらうには優香の手助けが必要となる……ここで優香のやる気を削ぐわけにはいかない。 こういう場合は優香が無理やりペットボトルを押し付けてきたように……説得するよりも正面突破だ。
【送信・福田】あのさ、昨日の授業中アタシと目があったじゃん?
【受信・福田】うん。
【送信・福田】あの時福田さ、アタシと目があったって分かってニヤってしてなかった? アタシあれ見て福田がアタシのフリして貶めようってしてたのかなって思ったんだけど。
【受信・福田】あー、面白かったからつい。
ーー……は? 面白かったから?
【送信・福田】どういうこと? え、あれ福田がやったんじゃないんだよね?
【受信・福田】私は、やって、いない。 オーケー?
【送信・福田】そういうのいいって。 なんで笑ってたのか聞きたいの。
【受信・福田】だから面白かったからじゃん。
【送信・福田】なにが?
【受信・福田】いつもバカみたいに騒いでたのに急に真剣な顔で周りを見てたから。
ーー……。
あまりにもバカらしい内容にさっきまで燃えていた怒りの炎が次第に鎮火していく。
「しょーもな」
美咲はそう呟くとさっきまでの話題を切り替え一気に本題へ。
翌日どういう風に担任にパソコンを見せてもらうのかを尋ねる。
【受信・福田】それは簡単。 校長に頼んどくから明日の放課後一緒に校長室に行こ。
ーー……は?
◆◇◆◇
翌日の放課後。
「ねぇ……本当に大丈夫なわけ?」
紗江・麻帆に冷たい視線を送られながらの苦痛の時間を乗り切った美咲は校長室へと向かっている途中、隣を歩く優香に話しかける。
「くどいよ。 大丈夫だから行ってるわけだし」
「そうなんだよね? 怒られないよね?」
「うるさい」
「アタシあまり怒られすぎるとプッチンしちゃうところあるからさ、もしそうなったらフォローしてね」
「はぁ……うざー」
そんなやりとりを交わしながらも気づけば校長室前。
優香は迷わず扉を数回ノック。 「福田です」と小さく挨拶をしながら扉を開けた。
「おー!! 福田さん!! 待ってたよ!!!」
ーー……ハ?
校長室に入るやいなや奥に座っていた校長が立ち上がり優香のもとへ。
満面の笑みを浮かべながら校長専用の机に置いてあるパソコンの前へと案内して座らせる。
「ありがとうございます。 昨日連絡した件だけど」
「もちろん! それも表示させてるから存分に見てくれ!」
これはどういう状況なのだろうか。
絶対的な権限を持っているはずの校長が一般生徒……見た目は暗めのギャルにペコペコ頭を下げながらごますりをしているんですが。
そんな2人の光景を美咲が扉前で見つめていると、パソコンの前に座っていた優香が「星美咲、こっち」と手招きをしてくる。
てか昨日から思ってたんだけどなんでフルネームなんだよ。
「え、あ……ごめん、これはどういうこと?」
「そんなのは後でいいでしょ。 早く」
「あ、はい」
優香の後ろについてパソコンの画面を覗き込むとそこには一昨日の朝、麻帆が言っていた例のチクリメール。
美咲は送り主よりも先に送られてきた文章に目を通していく。
『本日の昼休みか放課後、1年の福田さんがイジメられるらしいので遠くから監視して助けてあげてください』
「ーー……言ってた通りだ」
「そうなの?」
「うん。 直美が先生にそう言われたんだって。 福田がイジメられるから助けてあげてってメールが来てたって。 だから直美、すぐに先生たちに見つかったらしいよ」
そう教えると優香が校長に「そうなの校長先生?」と視線を移して尋ねる。
「そうだよ!! このメールが来た時は心臓が飛び出そうだったんだから! もしかしたらデマかもしれないって思ったんだけど空いてる教師を数人連れて見張ってて正解だったよ!」
「それで校長先生が真っ先に助けに来てくれたんだ」
「そういうこと! ワシが一番福田さんには恩を感じてるからね!」
「ありがと」
「いーやいや!! こんなことではまだ返しきれないくらいだよ!」
校長は優香に感謝され有頂天状態に。
「それじゃあ用が済んだら連絡してくれ」と豪快に笑いながら部屋を出て行ったのだった。
「ーー……ねぇ福田、校長に何したの?」
「なんで?」
「まさか援助……」
「それ以上言ったらしょけーするけど」
優香が見えない圧を身体から発しながら美咲をギロリと睨む。
「え、あ、ごめん。 違う?」
「違う。 ただ校長の相談に乗ったら上手く事が進んだだけ」
「校長の相談? それって一体……」
「なんか小学校の校長になって女子の制服をワンピース型にしたいんだってさ」
ーー……は?
「え、小学校の校長? それにワンピース型の制ふ……待って意味わからん」
「まぁそれで『私には詳しいことは分からないけどこう動いてみたらいいんじゃないのー』って適当に話してたら、来年かその次の年に小学校の校長になれる事が決まったんだって」
どうやらそれがかなり嬉しくて校長は舞い上がり、優香を神のごとく崇め始めたのだという。
「ちなみにどんなアドバイスを……」
かなり気になったので優香に尋ねようとしたのだが、優香はそれをスルー。 「ていうかほら、このアドレス。 見覚えないの?」とアドレス欄を指差しながら美咲を見上げる。
「あ、え、どれどれ」
美咲は気持ちを切り替えて視線を優香の指差す方へ。
そのアドレス名を口に出しながら読み上げていった。
「らぶすたー、まほ、アットマーク……」
ーー……え。
そこに表示されていたのは【lovestarmaho@--】。
そう、かなり見覚えのあるアドレス……麻帆本人のものだったのだ。
思ってもみなかった送り主に美咲は一瞬訳が分からずその場でしゃがみこむ。
「え、待って、意味が分からないんだけど。 なんで麻帆から?」
「ハメられたんじゃない?」
「え」
見上げてみると優香が冷静な瞳でこちらを見下ろしている。
「ハメ……られた?」
「まぁ私は昨日の夜に君……星美咲とメールしてて薄々そうなんじゃないかなって思ってたけどね」
「ど、どうして?」
「だって考えてもみて。 星美咲を除いた3人が私をいじめようと計画立ててたんでしょ?」
「う、うん」
「なのに当日私に関わってきたのは直美って子と紗江って子の2人。 麻帆って子は見てもないし近くにはいなかったもん」
「そ、そんな……」
美咲は一昨日の朝、麻帆との会話を思い出す。
『紗江っちが福田を呼び出して直美と一緒に追求したのは知ってんだけどさ、それが校長たちにバレたんだって』
『そんなのワタシにも分かんないよ。 でも直美が昨日メールで言ってたことがあって、それに似たようなことを紗枝っちも教えてくれたんだけどさ……美咲、先生にチクった?』
優香の言う通りだ。
あの言葉からして麻帆はその時その現場や直美たちの近くにいなかった事が分かる。
美咲の口から「確かに……」と心の声が漏れる。
「え、でもなんで麻帆ちんがアタシにそんな責任をなすりつけて……」
もう脳が限界だ。
思考が追いつかずグルグルと混乱していると、優香が「おーい」とローテンションで声をかけてきていることに気づく。
「な、なに?」
「犯人分かって良かったね」
優香は静かにそう言うとゆっくりと椅子から立ち上がり美咲を見つめる。
「え……帰るの?」
「まだ何かある? 私は約束果たしたよ? こうしてちゃんと校長に頼んでメールを見れるようにしたし」
「そ、それはそうだけど……」
優香は「じゃあそういうことで」と美咲に背を向け扉の方へ。
しかしこれ以上優香を引き止めることも出来ない。 そんなことよりも友達から裏切られた事がかなりショックだった美咲はその場で悔し涙を目に溜めていたのだが……
「あ、そうそう」
扉の前で立ち止まった優香が背を向けたまま独り言のように呟く。
「?」
「麻帆って子、まだ学校いるかな」
「あ、うん多分。 サッカー部のマネージャーしてるからグラウンドにいるんじゃないかな」
そう答えると優香は「そっか、ありがとう」と言いながらドアノブに手を掛ける。
最後になんでそんなことを聞いてきたのだろうと思った美咲は素直に優香に聞いてみることにした。
「麻帆ちんに……用でもあるの?」
「まぁうん。 他の2人は制裁加えたけど1人残ってたなんて知らなかったから」
「ーー……何かするの?」
何か悪寒のようなものを感じながらも優香を見つめていると、優香はゆっくりと振り返り視線を美咲の方へ。
そのままニヤリと不気味な笑みを浮かべ、こう言い放ったのだった。
「うん。 しょけー」
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次回、挿絵描く……かもです!!




