354 特別編・美咲④ 繋がり
三百五十四話 特別編・美咲④ 繋がり
初めは美咲から優香を呼び出そうとしていたはずなのに、何故か優香に連れ出されてしまった美咲。
美咲は知恵熱で普段よりも体温高めの状態……まぁまぁなフラフラ具合だったのだが、まさかの名前を覚えられていなかったという優香の失礼な発言から怒りのパワーで一気に身体に力が戻る。
「ちょっと……流石に失礼すぎない!? クラスメイトの名前を覚えてないとか!!!」
美咲は眉間に怒りマークをいくつもつけながら優香に詰め寄る。
自分で言うのもアレなのだが美咲は自分のキレた表情や迫力・強さには自信があった。
だって今まで自分に攻撃して来た人たちはこうしてやり返して来たのだから……なので優香もこれで少しは動揺するものだと思っていたのだが……
「あのー、星美咲?」
かなり顔を近づけてキレているのにも関わらず優香は全く動じず。
ジトッと美咲を見上げながら面倒臭そうに口を開く。
「な、なんだよ!」
「まぁいいんだけどさ、後悔すんの星美咲だよ?」
「なんで!」
「だって私風邪だから。 うつっても私のせいじゃないからね」
「!!!!」
◆◇◆◇
「ーー……で、なんでアタシをここに連れて来たわけ?」
こいつ……優香にはブチギレも何も通用しない。
ただ勢いで迫っていっても返って自分が疲れるだけ。
それを学んだ美咲は心を落ち着かせながら優香に尋ねる。
「あーうん、まぁ大したことないんだけど……とりあえずそれ飲みなよ。 せっかく奢ってあげたんだから」
優香が美咲の持つスポーツドリンクに視線を向ける。
「え、あ、そうだね。 じゃあ遠慮なく。 ありがと」
せっかくくれたのだ。 このまま飲まないのも申し訳ない。
美咲は別にそこまで喉が渇いているわけではなかったのだが握力の下がった手でキャップを外し、中の飲料をゴクゴクと口の中に流し込んだ……のだが。
シュワワー!!!
「!!!!!」
スポーツ飲料なのに……炭酸!?!?
美咲の口が予想していた口当たりとは違ったことに拒否反応を起こし一気に吹き出す。
「おー、口から虹が出た」
「ケホッ……ケホッ……。 な、なんなのこれ!!」
美咲がもらったペットボトルを指差しながら尋ねると、優香は「あー、やっぱりそんな感じなのかー」と何故か納得したように頷いている。
「ちょ、ちょちょちょ、これなに!?」
「ラベルに書いてる文字、見てみ」
「ラベルに書いてる……文字?」
いやいや普通に誰でも知ってるスポーツ飲料じゃんと思いながらも目を通していくと、何やらその商品名の横に小さく(微炭酸)と書かれている。
「び、微炭酸!? なにこれこんなの売ってんの!?」
「売ってるっぽいね」
「ふ、福田って……こんなの好んで飲んでたの!? アタシ普通のノーマル系の方が好きなんだけど!」
「うん。 実は私も買ってから気づいたの」
「ーー……え?」
「私もノーマル系が好き。 でも買っちゃったし捨てるの勿体無いじゃない? だから星美咲が出てくるのを待ってたの」
ーー……。
あまりにも淡々と喋る優香の言葉を聞いた美咲はツッコミどころが多すぎて言葉を詰まらせる。
「え、えっと……それってつまり?」
「うん。 気にはなるけど試す勇気なかったから実験台。 でもこれで飲まない方がいいって分かったよありがとう」
「あーーーーーん!?!?」
流石にムカついた美咲は優香に「ちょっと待ってろ!」とその場を離脱。
近くにあった自動販売機で同じものを見つけると迷わずそれを購入し、無理やりそれを優香に押し付けた。
初めは優香も同じ微炭酸系だとは思っていなかったようで「え、お返しなんかいいのに」と言っていたのだが……
「ーー……てこれ同じやつじゃん。 いらないんだけど」
優香がかなり嫌そうな顔をしながら美咲に押し返す。
「はい、無理でーす! 福田風邪引いてるから菌が付いちゃったので受け取れませーん! 残念でしたー!」
「いや、もともとそれも私が買ったやつだし。 だったらそのペットボトルにも菌付いてるけど」
「そ、それでも無理でーす! アタシこれ以上飲めませーん!!」
流石に優香も病人の自分に無理をさせるのも良くないと思ったのだろう。
「最悪なんだけど」と呟きながらキャップを開けて口の中に少量含む。
「ーー……っぺ! 予想してたけど無理。 これが好きな人の感覚を少しでも分けて欲しい」
優香が口に含んだ分を外へと吐き出すと、あまりにも不快だったのだろう……ハンカチを取り出して口を熱心に拭いだす。
「あー! それ分かる! どうしても理解できないものって結構あるよね!」
「ある」
「へー福田もあるんだ! 例えば?」
「単細胞バカ」
「は?」
「単細胞なバカのやつの頭は本当に理解出来ない」
優香が「はぁ……」とため息をつきながら小さく首を左右に振る。
「え、えっと……アタシはそういうの聞いてるわけじゃないんだけど」
美咲のこの返しにも優香はあえて返さず。
そしてちょうどこの話題が自分を呼び出したことに偶然にも一致したのだろう……優香は「あー、そうそう、単細胞なバカと言えば」と言葉を続けた。
「あの子……星美咲の友達なのかな、一昨日私に詰め寄ってきたやつ」
「!!!」
詰め寄ってきたやつ……って、もしかして。
「ーー……それって直美のこと?」
「多分そうなのかな」
優香は「名前までは覚えてないけど……」と付け加えながらコクリと頷く。
まさか自分の聞きたかったことを向こうから話してくれるなんて。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
美咲は「多分それ、直美で間違いないと思う!」と言いながら前のめりになり、再び優香に顔を近づけたのだった。
「それでさ、直美……先生たちに見つかって退学になったらしいんだけど、福田何か知ってる!?」
「いや、だから私の風邪うつるって」
「アアーーーー……」
◆◇◆◇
それから優香が話してくれた内容は大体こんな感じだった。
帰りのホームルームが終わり優香が帰宅するために教室を出たところで紗江に止められる。
そこで『なに?』と尋ねるも『ついてこい』とだけ。
そのまま校舎裏へと連行されると直美が待ち構えており、殴られそうになったというのだ。
「えええ、直美や紗江っちから理由聞いてないの!?」
「聞いてない……ていうか教えてくれなかった。 単細胞だから同時に2つのことが考えられなかったんじゃない?」
優香は「今思い出すだけでも腹たつわ」とペットボトルを強く握りしめる。
しかし全然潰れていないことからあまり握力がある方ではなさそうだ。
「そ、そうなんだ。 ちなみにアタシ理由知ってるけど……聞く?」
「いい。 バカの考えなんて聞くだけ時間の無駄だし」
なんて割り切った考えの持ち主なんだろう。
普通ならなんでそんなことされたのか気になるはずなのに……本当にこいつ中学生か?
美咲はそんな優香の考えに関心しながらもそれでは話が進まないことを感じ、優香は気にしていないようなのだが勝手に話してみることにした。
「なんか前に目があった時に無視されたのが気に食わなかったんだってさ」
そう教えると優香は目をパチクリさせながらこちらを見てくる。
「ーー……ん? 福田?」
「え、それだけ?」
「う、うん」
「アホくさ。 ほら、やっぱり聞くだけ時間の無駄だった。 やっぱり単細胞バカだったね」
「ま、まぁそうかもね」
確かに無視されただけでってのは自分もそう思ったけど……
「それで?」
「え?」
急に「それで?」と言われて驚かない人間がいるだろうか。
美咲は少し驚きながら優香を見ると、優香が静かにこちらを見据えている。
「そ、それで……って、なにが?」
「いや、わざわざその話をしてくるってことは、何か聞きたいことがあるんじゃないのかなって」
「ーー……!」
美咲はいきなり核心を突かれたことにかなり動揺。
ビクンと体を反応させ、飲みたくもない微炭酸のスポーツ飲料をゴクリと飲んだ。
「ア、アタシが福田に聞きたいこと?」
「ないの?」
「え」
「ならいいけど」
優香はゆっくりと立ち上がると「じゃあバイバイ」と小さく手を振ってくる。
「え、帰んの!?」
「うん」
「なんで!?」
「だって君……星美咲を呼んだのもそのペットボトルを渡して味を検証したかっただけだし。 これ以上話しててもお互いの身体のためにならないでしょ」
「た、確かにね。 アタシら今病人だもんね」
「そういうこと」
優香はそう言って小さく頷くと身体の向きを変えてゆっくりと歩き出す。
本当に頭が痛いのだろう、右手でこめかみ辺りを押さえてーー……
っていやいやいや!!! 今考えるのはそれじゃないっての!!!
「あああああ、ちょっと待って!」
当初の目的を思い出した美咲は急いで優香のあとを追い手首を掴む。
「なに?」
「その……あるの、聞きたいこと」
「そうなの?」
「うん。 だからその、もうちょっと時間いいかな」
そうお願いすると優香は一瞬視線を逸らす。
「ーー……え、ダメなの!?」
「んーー」
まぁ優香も体調良くはないんだもんな、断られても仕方ない。
少し諦めかけた美咲だったのだが、優香は美咲に視線を戻してこう口にした。
「条件がある」
「じょ、条件?」
「まずそれを受け入れるか受け入れないか……ハイかイイエで答えて」
優香はジトッと美咲を見つめたままペットボトルを美咲の頬に押し付ける。
「い、いやいやまずはその条件教えてよ」
「無理。 ハイかイイエ。 無理なら帰る」
あああああ!!! なんでこの女……優香は言葉だけでここまでも自分の行動を制限させてくるんだあああああ!!!!
アクティブ派な美咲からしたらかなり相性の悪い相手。
美咲が迷っていると優香が「で、どっち?」と囃し立ててくる。
「ど、どっちって聞かれても条件を聞かないことには……」
「私が帰るまで残り5、4、3、2……」
クッソおおおおおおお!!! 福田優香あああああ!!!!
「もおおおおおお!!! 分かった!! 受け入れる! 受け入れるから話を聞いて!!!」
この美咲の答えになぜか優香は満足げな表情。
口角を少し上げながら先ほど話していたベンチの方へと先行してゆっくりと戻っていく。
「え、あ、いいの?」
「うん。 条件受け入れてくれたから」
「ーー……ちなみにその条件って、何?」
「このペットボトルの中身に飲むこと」
「へ?」
優香が「はい、じゃあお願い」とペットボトルを美咲に押し付けてくる。
「え、でも福田、風邪なんだよね」
「うん」
「それ飲んだらアタシ、うつらない?」
「んー、よくよく考えたら大丈夫だと思う」
「なんで?」
「だってバカは風邪ひかな……」
「よっしゃああああ全部飲んでやるよ!! その代わりもしアタシが福田と同じ風邪引いたら後悔しろよな!!!!」
こうして美咲はまったく好みではない飲み物を一気飲み。
ペットボトルを逆さにしてもう入っていないことを優香に見せ付けながらこう尋ねた。
「あのさ、直美のことを先生たちにチクったのって……福田?」
「なんで?」
「なんかほら、昨日の朝のあれ見てたか分からないけどさ、アタシ皆からそのことチクったんじゃないかって疑われてんだよね」
「そうなんだ」
「ーー……で、どうなの?」
美咲はジッと優香を見つめながら尋ねたのだがその答えはーー……
「いや、私は何もしてないけど」
優香はまっすぐ美咲を見据えたまま首を左右に振る。
「本当に?」
「そこで嘘ついてどうするの」
「んーー、だよねええええ」
大体はそうなのではないかと思っていただけに美咲はガクリと肩を落とす。
「なんで? 私がチクったってことにしてほしかった?」
「そういうわけでもないけど」
あまりそこまで進んではいなかったがまた振り出しだ。
今度は誰に聞けばいいんだろうと考えていると、優香が「ていうかさぁ……」と言いながら腕を軽く引っ張ってくる。
「え、何?」
「そもそも送られてきたのってメールなの?」
「あ、うん」
「じゃあそのメール見せて貰えばいいじゃん。 アドレス表示されてるはずじゃないの?」
「ーー……あ、本当だ」
なんでそんなイージールートに気がつかなかったのだろう。
美咲は自分の無能さをまざまざと感じさせられ深いため息をつく。
「ん? でもちょっと待って福田」
「なに?」
「確かにメール見たらアドレス分かるけどさ、どうやって見せてもらうの? 普通に見せてって言っても見せてくれるわけないじゃん」
「そこは私が頼めば大丈夫だから問題ないと思う」
「え」
美咲は目を大きく見開いて優香の手を握る。
「出来るの? ……ていうか、手伝ってくれんの?」
「別にいいよ。 なんか聞いてたら可哀想だし」
「あ、ありがとう!! なんだよ福田、思ってたよりいい奴じゃんか!」
その後詳しい話は各自家に帰ってからメールでやりとりをするということに。
しかしそこで美咲は昨日のことを思い出す。
「ああー!! 思い出した!! なんで福田あんた昨日のアタシの呼び出し無視したわけ!? アタシ公園で待ってたんだからね!!」
「呼び出し?」
「置き手紙してたでしょ!!」
「あー、あれ星美咲だったの?」
優香が「なるほどねー」と言いながらスマートフォンの連絡先を見せてくる。
美咲も「そうだよアタシだよ!」と言い返しながら優香の連絡先を入力していたのだが……
「だってあれ、名前書いてなかったからそもそも誰か分からなかったし」
「ーー……え、名前アタシ書き忘れた?」
「うん」
ガーーーーン!!!!
アタシとしたことが……めちゃくちゃバカ丸出しじゃんかーーー!!!
「で、でも普通気にならない!?」
「別に」
「告白の呼び出しかもしれないじゃん!」
「女子の筆跡で誰が告白を予想すると?」
「ーー……」
その後美咲と優香はそこで解散。
当初美咲は帰りにお守りを買う予定だったのだがそんなことも忘れ、気づけば家の前に到着。
ベッドの上で寝転がると、優香のアドレスを見つめながら先ほどまでの会話の内容を思い返していたのだった。
「ーー……てかあれだよね。 もしあの置き手紙に名前書いてたとしても、名前覚えれられてなかったんだからそもそも来なかったんじゃね?」
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