353 特別編・美咲③ 神の悪戯
三百五十三話 特別編・美咲③ 神の悪戯
「んああああああ!!! クソうぜえええええーーーー!!!!」
夜。 美咲は布団に包まりながら本日呼び出しに応じなかった優香への怒りを最大限にまで吐き出す。
いつもならこの時間、友達であった紗江・直美・麻帆とのグループ内メールで盛り上がっている時間だったのだが知らない間にグループから追放……それもあり美咲は荒れに荒れ出していたのだった。
「来ないってことはやっぱりあいつ……福田が犯人ってことだよね」
これは明日何が何でも問い詰めなければ……!
それでもし本当に犯人だったとしたら絶対に一発殴る!!
美咲は日付が変わる時間まで再びあまり使わない脳をフル活用。
復讐心をメラメラと燃やしながらどうやって優香を呼び出し追い込んでいくかを作戦立てていったのだった。
そして決戦の朝。
スマートフォンで設定していた目覚ましの音で目覚めた美咲はゆっくりと体を起こし……
「ーー……あ、あれれ」
体全体がかなり重く、それでいてかなり熱っぽい。
美咲はフラフラと左右に揺れながらそのまま再びベッドの上へ。
「もしかして……またぁ!?!?」
そう、知恵熱。
一昨日に引き続きその日も美咲は熱の影響で学校を休むこととなり、途中様子を見に来た母親にこう言われたのだった。
「美咲、あんた本当に勉強始めたの?」
「ーー……え? なんで?」
「だって咳とか吐き気とかまったくないし……これどう見ても知恵熱じゃない」
美咲の母親が「あんたってホントちっちゃな頃から知恵熱出してたもんねー」と思い出しながら頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
「ちょ、なに? やめてって」
「まぁ……あれよ。 そんなに脳が苦痛ならもう別に勉強しなくてもいいから」
ーー……なんかそう言われたら言われたでムカつくな。
美咲は母親の言動に少しイラっとはしながらも言い返すことも疲れるので「もう……うるさい」と言いながら布団の中に潜り込む。
「それにしても美咲、昨日帰ってから様子おかしかったけど学校でなんかあったの?」
「な、なんもない」
「そう。 とりあえずあと少ししたら病院行くよ」
「なんで」
「流石に1日空いてまた熱出るなんてちょっとは怖いじゃない。 お母さん用意してくるから……美咲もゆっくりでいいから着替えといてね」
母親が「何も見つからなかったら呪いね」と冗談を言いながら部屋から出て行く。
確かにこれはもはや呪いだ……。
「あ、待って」
美咲は部屋から出て行こうとしていた母親をいったん引き止める。
「どうしたの美咲」
「いや、アタシ1人で病院行くから大丈夫」
「そうなの?」
「うん。 別に歩けない程でもないし」
病院ついでに神社に寄って厄除けのお守りでも買って帰ろう。
美咲は心配する母親をよそに、若干体をフラつかせながらも近くにある病院へと向かったのだった。
◆◇◆◇
「くそー、アタシの脳は本当にバカなのかー?」
そんなことを呟きながら歩いていると病院へ到着。
受付を済ませて名前が呼ばれるまで座っていると、隣から「あっ」と声が聞こえてきた。
「ん?」
美咲も一体なんだろうと視線を声の聞こえた方へ。
するとまさに神の悪戯……美咲の瞳に映っていたのは紛れもない、福田優香の姿ではないか。
優香もまさか美咲がいるとは思わなかったのだろう、表情はクールを保っていたのだが口が僅かに空いている。
「えっと……誰だっけ」
優香が片手でこめかみを押さえながら美咲に尋ねる。
「誰って……はぁ!? アタシの名前、覚えてないわけ!?」
「あー待ってうるさい。 私今めちゃめちゃ頭痛だから大きな声出さないで」
優香は「はぁ……だるい」とボヤきながら手をこめかみから耳へと平行移動して美咲の声をシャットアウトしようと試みだす。
「ちょ、ちょっと待ってって! なんで福田がここに!?」
そう尋ねると優香はかなり面倒くさそうな表情を向けながらゆっくりと口を開いた。
「私、頭痛で、頭が、痛い。 オーケー?」
「英文の和訳みたいに言わなくていいから! ていうか頭痛で頭が痛いとか……まんまじゃん!」
「だって頭痛って先に教えたのに理由聞いて来たから。 頭痛の意味が分かんないのかなって」
「な……!! なななななな!!!」
なんてイラッとさせる天才なんだこいつは。
それに言い返したくてもかなり的を得ていたため何も言い返せない。
それでも何か……と美咲が口をパクパクさせていると、優香はそっと美咲の口元を指先で押さえてくる。
「んん!?」
「ここ病院。 さっきからうるさい」
「ーー……あ、そうだった」
実際には美咲も身体が弱っていたためそこまでの大声は出ていなかったのだが、それでも周囲には余裕で聞こえるほどの声量。
美咲は「ご、ごめん」と優香に謝ると、会話をすることにすら疲労を覚えたので静かに視線を優香から逸らす。
「ふーん、君は理解早いんだ」
隣で優香が小声で話しかけてくる。
「どういう意味?」
「一昨日の君の友達は日本語理解出来てなかったみたいだったからさ。 類は友を呼ぶって言うか……バカの友達だから君もバカなのかなって思ってた」
「!!!!!」
勢いよく優香の方へ視線を戻すと優香は自身の唇に指を当てて小さく首を振る。
「ここ、病院、静かにするところ。 オーケー?」
こ……このやろぉおおおおおおお!!!!!
美咲は拳を強く握りしめながらも怒りの放出をなんとか我慢。
その後受付を先に済ませていた優香の名前が呼ばれ、優香は診察室へ。 美咲は力が入らないながらも自身の太ももを何度もつねり、溢れ出そうなイライラを痛みで紛らわせていたのだった。
◆◇◆◇
その後美咲の診察も無事に終了。
医師からは『ただの風邪か本当に知恵熱でしょう』と言われ、まぁそう思ってたけどねと心の中でツッコミを入れながらも美咲は病院を出る。
さて、じゃあ帰るついでに神社でお守りをーー……
そう美咲が次の行動を決めたその時……背後からいきなり手が伸びてきて冷たい何かが美咲の頬に触れる。
「ひにゃあああ!!??」
あまりの冷たさに美咲の身体が敏感に反応。
くるりと体の向きを反転させて誰の悪戯なのかを確認すると、そこに立っていたのは先に診察が終わって帰ったはずの優香の姿。
その手にはスポーツ飲料系のペットボトル。 おそらくこれを頬に当てて来たのだろう。
「ふ、福田!? なにいきなり!」
一歩下がって優香から距離を取り尋ねたのだが、優香はそんな美咲の言葉を無視してスポーツドリンクを美咲の手に押し付けてくる。
「え? なに?」
「ん」
「えっと……くれる……の?」
「うん」
一体何がどうなっているのか。
美咲はとりあえず優香に「じゃあ……ありがとう」と言いながらそれを受け取ると、優香が「あのさ」と声をかけてくる。
「な、なに?」
「身体、結構ダルいの?」
「ん? あーいや、ちょっと重いくらいだから寄り道して帰ろっかなって」
「だったらちょっと話さない? こっち」
そう言った優香は美咲の返事など聞かず無理やり手首を掴んで歩き出す。
「ええ……ええええ!? 福田!?」
連れてこられたのはそこからかなり近い場所にあった病院内の小さな広場。
美咲はそこに設置されていたベンチに座らされ、その後優香も隣にゆっくりと腰掛ける。
「え、えっと……福田?」
美咲が戸惑いながらも優香に視線を向けると、優香は神妙な面持ちで口を開いた。
もしかして直美や紗江・麻帆に関することなのだろうかーー……。
「あのさ、先に聞いておきたいんだけど」
「う、うん。 なに福田」
「君の名前なんだっけ」
「美咲だよ!!! 星美咲!!!!」
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