348 光からの闇
三百四十八話 光からの闇
月曜日。 朝学校に到着するやいなや目に飛び込んできたのはジャージ姿で校庭に立つ三好と小畑の姿。
「よ、よし佳奈! もっかいいくよ!!!」
「じょ、上等だし!!!」
「だらっしゃあああああああああ!!!!!」
「んがぁあああああああああああ!!!!!」
何か勝負でもしているのだろうか……2人は横にピッタリとくっつきながら気合いの声を上げ、全力でダッシュを繰り返していた。
◆◇◆◇
教室内。
オレがいつも通り席でボーッとスマートフォンを弄っていると、熱血タイムを終えて女子トイレで着替えたのだろう……制服に着替えた三好と小畑が朝から大量の汗を流しながら教室へと戻ってくる。
あいつら何やってたんだ?
そんなことを思いながら2人に視線を送っていると、小畑が「ちょっと福田ー!」とオレの名を呼びながら大きく手招きをしてきた。
「え、オレ?」
突然のことで意味が分からなかったオレだったのだが、女王様のお呼びがかかったのだ……オレは考えるよりも先に体を動かしドSの女王・小畑美波の席へ。
「えっと……何かな」
「ちょっとこれで扇いで。 あっつい」
そう言うと小畑はオレに下敷きを手渡し「あ、全力でね」と付け加えた。
「あー! 美波だけずるーい!! 福田、私にもやってー!!」
「分かったよ。 じゃあ小畑さんの横来て」
「やったぁーー!!!」
ーー……これは話を聞くチャンスだな。
オレは女王様の仰せの通り、2人に下敷きで風を送りながらどうしてそんな汗をかいているのかを尋ねる。
すると小畑は一瞬三好と顔をあわせた後、かなり悔しそうな表情をオレに向けながら小さく口を開いた。
「一昨日の土曜に特訓してたんだけどさ、そこに偶然ユウリちゃんとそのマネージャーが来て……どう言うわけかいきなり特別レッスンを受けることになったんだよね」
「ーー……え、それってメイプルドリーマーのマネージャーさん?」
オレの問いかけに2人が力なく頷く。
「えええ……えええええええええ!?!?!?」
その後2人の話曰く、どうやらそのマネージャーの特別レッスンがかなり過酷なものだったらしく小畑や三好はもちろんのこと突然参加することとなったユウリもヘロヘロにバテてしまったらしい。
「ち、ちなみにどんなレッスンだったの?」
内容が気になったオレが尋ねると、三好が「もう出来れば思い出したくもないけど……」と前置きをした上でその中身を話し出した。
「まずは……アレだったね、体幹を鍛えるとかなんかで片足立ちでいろんなポーズから始まって、そこから激しいステップ練習。 それだけでももうバテバテだったのに、そこから目線の位置とかどの角度で体を向けたほうが綺麗だ……とか。 もうエマの特訓の何億倍もキツかったんだから」
三好の言葉に小畑も「そう。 おかげで私翌日は筋肉痛で動けなかったし……」と小さく呟く。
……そ、そんなに大変だったんだな。
なんだっけ、『鬼マネ』って言われてたんだっけか?
「それで少しでも慣れるために体力作りとして走ってたってわけ?」
「まぁ……そうなんだけど……」
「?」
「何が一番悔しかったって、エマが出来すぎてたことなんだよね」
小畑が足の上に置いていた手のひらを強く握りしめる。
「え、そうなの?」
「そうそう!! 最初めちゃめちゃそのレッスン嫌がってたくせに、いざ始まったらユウリちゃんよりもどこか楽しそうにやってたの!」
小畑は「なんであんな出来るわけ!? 別に運動部にも入ってないしダンスも習ってたわけでもないのにさ!」と悔しそうにその拳で自身の太ももへと連続パンチ。
「佳奈もそう思ったよね!?」と視線を三好へと向ける。
「本当それね! 後半とかあのマネージャー、私らやユウリちゃんを差し置いてほとんどエマとマンツーマンみたいにやってたもん!!」
「あのマネージャーもどこか楽しそうだったし私らのことなんかもう眼中になかった。 だから少しでもエマに追いつくために自主練してたってこと! まず私らに必要なのは体力作りだって前にエマが言ってたから!」
小畑がそう強く言いながら拳を胸の前あたりで握りしめると、三好が「だね! 絶対見返してやろうね!」と自身の拳を小畑の拳にコツンと当てる。
「もちろん! オーディション本番では私の方が素質があるんだって見せつけてやるんだから!」
「私だって別にアイドルの夢はないけど一次で落とされる気なんてまったくないし! ギリギリまで粘って実力を見せつけてやるんだから!」
おお……おおおおおおお!!!!!
青春だああああああああ!!!! リアルラブ☆カツだあああああああ!!!!
オレの目の前で2人が1次オーディションという大きな壁に挑もうとお互いを高め合っている。
そんな熱い展開を見せつけられた日にゃあ下敷きを仰ぐ強さも上がっていくってもんだぜぇ!!!!
バサバサバサバサ!!!
「うん頑張ろうね佳奈! 佳奈がいてくれて私も心強いし!」
「何言ってんのさ美波! 私ら友達じゃん!!」
バサバサバサバサバサ!!!
「ありがと! 頼りにしてんぞ親友!」
「任せてよ! 私は中から、麻由香は外から、全力で美波を応援するから!」
「うん!!!」
バッサバッサバッサバッサ!!!
オレがそんな尊い会話をしている2人に集中していると、小畑の視線がオレへと向けられ少し照れたようにニコリと笑い……
「その、福田も結構……頼りにしてるかんね」
「!!!!!!!!!」
エエエエエエエエエエエエエエ!?!?!?
まさかのドSの女王・小畑がオレにそんな言葉を……『頼りにしてる』だってええええええええ!?!?!?!?
突然の女王様からの極上の飴を頂いたオレのやる気は一気に急上昇。
「はい!!!!」と元気よく答えながら渾身の扇ぎで最強の風を2人へと送った。
バッサアアアァーーーーー!!!!!
するとどうだろう……風の動きなんぞオレには分からないのだが、偶然にもオレの生み出した強風は三好と小畑のスカートの中へ。
その影響かスカート全体が持ち上がり、そしてーー……
ふわり。
「「!?!?!?」」
未開の地……ネバーランドへの道がそこにはあったのだ。
しかしそれを目視出来たのはほんの一瞬。 次の瞬間には顔を真っ赤にした小畑と三好の強烈な蹴りがオレの腹部辺りへと同時に炸裂し、オレの意識は宇宙空間へと飛び立っていったのだった。
そしてこれはその後の授業中にオレが勝手にしていた空想の世界での話なんだけど、もし小畑と三好が2人とも合格してアイドルになったとしたら……中々にベストなコンビ。 容姿も余裕でトップクラスだし結構売れると思うんだよな。
そういう未来があったなら……そんな心踊るSTORYも見てみたいものだぜ。
◆◇◆◇
気づけば放課後。
今日はジャージで特訓するとのことでエマから見学の許可が下り、オレも小畑や三好の練習風景を眺めていたのだが……
「よし、じゃあ今日はこれで終わりにしましょうか」
時刻は大体夕方の5時過ぎ。
その場で解散してエマと並んで帰っていると、ポケットに入れていたスマートフォンが振動していることに気づく。
「ん、どうしたのダイキ」
「いや、さっきからずっとスマホが震えてるなって思って……電話かな」
取り出してみると予想通りの着信通知。
電話してきてるのは……結城?
「あら、桜子からじゃない。 どうしたのかしら」
「んー、なんだろ。 今日はこの時間、お姉ちゃんと一緒に夕飯の買い物に行くって言ってた気がするんだけど」
「そんなの出れば済むことじゃない。 エマのことは気にしなくていいから早く出てあげなさいよ」
「あ、あぁすまん」
オレは一体なんだろうと考えながらも通話ボタンをタップし耳に当てる。
おそらくは今夜の夕飯で何が食べたいかのリクエストだろう……そんな予想をしていたオレだったのだが、聞こえてきたのは声を震わせた結城の声。
『ふ……福田……くん』
「ん、どうしたの結城さん」
なんだ? 何やら結城の周りが騒がしいようだけど……
それに結城のやつ、息が荒いぞ? 大丈夫か?
「あのー結城さん? どうしたの?」
『ど、どう……し、しよう……』
「え、なにが?」
『あの……おね……が……く、……』
この取り乱し方……尋常じゃないな。
もしかして途中優香とはぐれて迷子にでもなったのだろうか……そんな心配をし始めたオレだったのだが、次の結城の言葉に思わず耳を疑った。
「ーー……結城さん?」
『お姉ちゃんが……車に……轢かれ……』
ーー……え。
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