346 ドキドキの遊園地!②
三百四十六話 ドキドキの遊園地!②
さぁやってまいりましたオレにトラウマを植え付けたあの忌まわしきお化け屋敷!
オレは西園寺の手をギュッと握りしめながら薄暗い道を歩いていく。
まだアイツが出てくるエリアではない。
まぁでもアイツもオバケ……オレは愛莉のこともあり幽霊が同じ場所にずっといないことは知っている。
オレは出るな……出てくるなよと脳内で何度も呟きながら周囲を隈なく見渡していた。
「ねぇ福田くん?」
「ふぉわあああああああ!?!? な、なんだ西園寺!!! なんか見つけたのか!?!?」
突然の西園寺の声に驚いたオレは若干声を裏返しながら不可抗力で西園寺にしがみつく。
「え、ええええどうしたの福田くん!!!」
「いや……いやいやいやそれはオレのセリフだっての!! 急に話しかけてくるからビビったんだよ!!」
「そ、そうなんだ」
「なんだ? なんか声色が嬉しそうだぞ?」
「そんなことないよ!!」
「それで……どうしたんだ?」
オレが「実は何か視えたとか言うなよ?」と念を押すと、薄暗い視界の中西園寺が「そんなんじゃないよ」と細かく首を左右に振る。
「さっきから福田くん、私の手を強く握ってきてたから怖いのかなって」
「あぁ、なるほどな」
ここは正直に言おう。
別にオレはまだ小学生なんだ、お化け屋敷で怖いと言ってもなんら問題はない。
「福田くん?」
「正直に言う。 バチバチに怖い」
「そ、そうなんだ」
「西園寺は怖くないのか?」
「怖いけど……まだオバケ出てきてないよ? それに大体どこから出てきそうか……とか予想できない?」
「た、確かに……」
オレは西園寺の言葉にかなり納得。
そうだよな、入ってまだ少ししか経ってないけど考え方を変えてみたらあれだよな。 アイツもこの場所からもう去っていってる可能性だってあるんだし、別にオレがここまで神経をすり減らさなくてもーー……
「そうだな、ありがとう西園寺」
オレは西園寺からゆっくりと離れてお礼を言うと、「じゃあ先に怖がった方の負けな」と言いながら西園寺の手を引っ張った。
「え、でも福田くん、さっきまで怖がってたよ?」
「いいの! この勝負は今からな!」
「うん、まぁいいけど……」
こうして強気になったオレは西園寺の手を逆に引っ張りながら前進。
出てくる前に通り過ぎてやろうという精神で先ほどとは比較にならないスピードで通路内を突き進んでいった。
ーー……のだが。
【待合室エリア】
「(患者衣を着たミイラ男)ぐおおおおおおおお!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ひゃあ!! ちょ、ちょっと福田くん、どこ触って……!!」
【診察室エリア】
「(特殊メイクナース)うらめしーーーー!!!」
「ギョアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ふ、福田くん!! そこに顔埋めないで……擦らないでーー!!」
【手術室エリア】
「(特殊メイクドクター)オペをはじめまーーす!!」
「ブビャアアアアアアアアアアア!!!!」
「きゃああああ!!! ふ、福田くーーん!! お尻に当たって……押し付けないでよおおおーー!!!」
◆◇◆◇
「はぁ……はぁ……」
お化け屋敷内【入院室エリア】。
オレは膝に手をつきながらその場で息を整える。
「だ、大丈夫福田くん」
「あ、あぁ。 すまん叫びすぎて腹筋がやべえ」
オレが調子を整えていると、西園寺が優しく声をかけながら背中をさすってくる。
「おお、ありがとう西園寺」
「ううん、でもこれで福田くんの負けだね。 めちゃめちゃ叫んでたし」
「いや西園寺だって叫んでただろ。 引きわけじゃね?」
「ち、違うよ、私が叫んだのは福田くんが……!」
「ん? オレがどうした?」
「う……ううん、なんでもない」
ーー……なんだ? 変なやつだな。
オレが先ほどの西園寺の言葉の意味を考えていると、途中で西園寺が「そうだ福田くん」と、背中をさするのを中断して話しかけてくる。
「なんだ?」
「そういやさ、ここのお化け屋敷に入るときに言われたこと覚えてる?」
「あー、なんかスタッフの人がなんか言ってたし看板立ってたな」
確かーー……
『夏を先取りひんやりキャンペーン実施中! お化け屋敷内に隠された指輪を探そう! 見事見つけられた方には豪華賞品をプレゼント中!』
「指輪を探せ的なやつだったっけ」
「そうそれ。 でも途中駆け足だったから探す暇なかったね」
西園寺が少し残念そうなトーンで「はぁ……」とため息をつく。
「え、なに西園寺、狙ってたの?」
「うん。 だって気にならない? 豪華賞品ってなんだろうって」
「いやいや、どうせオバケストラップとかそんなのだって」
「それでも記念になるかなって思ってたのになー」
あー、なるほど。
西園寺は記念とか思い出を大事にする子だったな。
確か小二のときの家族旅行で買ってもらった思い出のキーホルダーを、小三で綾小路に壊されてバトルに発展……狂暴化西園寺が爆誕したんだっけか。
そう考えてみたら西園寺が今回のようなイベントの賞品を欲しくなるのも納得がいく。
でも……それでもこのお化け屋敷内を隈なく探すのはちょっと……
「よし分かった西園寺、じゃあこうしよう」
オレは西園寺にとある提案を試みることに。
「うん? なに?」
「なにも記念になるのはその賞品だけじゃないだろ? お土産コーナーとかあるんだし、オレに買える範囲のものなら何か1つ買ってプレゼントしてやるからさ、それでいいだろ?」
「えっ!! いいの!?!?」
この暗闇内でも分かるくらいに西園寺がオレに顔を近づけて尋ねてくる。
すごいな……真っ暗なのに目がキラキラと輝いてやがるぜ。
「あぁ勿論だ。 どうだ、記念になるだろ?」
「うん!! なるなる!! 私そっちの方がいい!! ありがとう福田くん!!」
こうして西園寺との交渉は成立。
その後オレたちは順調に歩き進めていたのだが、それはもうすぐ出口……終盤のところだった。
「あれ、福田くん、あそこ何か光ってない?」
そこは出口に近い【裏口エリア】。
何かを見つけた西園寺がそこに視線を向けながらゆっくりと指先を向ける。
「ん、なんかあるのか?」
西園寺の指先を追っていくと、そこにあったのは台の上に設置されていたボロボロに特殊加工された公衆電話。
その台の下辺りで確かに何かが薄く光っている。
「なんだあれは……指輪?」
目を凝らして見てみると、それは紛れもない……指輪だ。
まさかこんな終盤に発見するなんてな。
「え、やったね福田くん!」
「あ、あぁそうだな。 じゃあちょっと取ってくるから西園寺、そこで待ってろ」
「うん!」
オレは西園寺の手を離してゆっくりとその指輪が光る方へ。
しかしその途中でオレの記憶が一気に蘇り始める。
ーー……待てよ。
確か去年オレがアイツを見つけたのもこの辺だったはず……てことはその奥に隙間とかってあったり……
オレは視線を指輪の奥へと移動。
するとほらビンゴ! ちゃーんと前回と同様小さな穴がそこに空いている。
「あ、危ねぇ。 またコンニチハするところだったぜ」
オレがそこで足を止め安堵の息を漏らしていると、後ろから西園寺が「どうしたの福田くん」と声をかけてくる。
「あーいや、西園寺、やっぱこれはやめておこう」
「なんで?」
くそ……知らないってこんなに幸せなことなんだな。
「なんか嫌な予感がするんだよね」
「嫌な予感?」
「うん。 それが何かは分からないけど、これを取ったらとてつもなくホラーなことが起きる気がする」
オレはそう西園寺に伝えるも、目の前にあるのは記念品贈呈アイテム……それを見逃すほど西園寺は無欲ではない。
西園寺は「怖いなら私が取ってあげるよ」と言いながらオレを横切り先行し、その指輪へと手を伸ばした。
「あ、ばか西園寺、やめろっ……!」
「大丈夫だって。 怖いことあったら私が守ってあげるから」
西園寺の指先が指輪に触れる。
『ーー……クヒヒ』
「ん? クヒ? 福田くん、何か言った?」
西園寺がキョトンとした声を出しながらオレの方を振り返る。
しかしオレが見ていたのは西園寺ではなくその手の先……小さな穴であって……
そこから見たことのある白い何かがゆっくりと西園寺の手に向かって伸びていく。
「さ、西園寺」
「なに福田くん」
「西園寺ーーーーー!!!」
オレは白い手が西園寺に触れるより先に西園寺を引っ張り上げ顔を強制的にこちらに向けさせる。
「えええ!? ど、どうしたの福田くん!!」
「いいから他を見るな!! オレだけを見ろ!!!」
「福田くん……だけを……? え……ええええええええええ!?!?!?!?」
「大丈夫だ落ち着け!! とりあえずオレが良いと言うまでオレに抱きついたまま離れるなよ!!」
もしかしたら西園寺も一瞬ではあるがアレを見てしまったのだろうか。
それから西園寺は一気に大人しくなり、オレはなんとか西園寺を危険な目に合わせずに脱出に成功したのであった。
お化け屋敷脱出を成し遂げたオレは少し離れた場所でようやく力が抜けてしゃがみこむ。
「ふ、福田くん?」
「あーすまん、めちゃめちゃ怖かったな。 ちょっと休憩しようぜ」
「うん。 じゃ、じゃあ私その間にお手洗い行ってきていいかな」
西園寺が下半身あたりを少しモゾモゾさせながらオレに尋ねてくる。
「お、なんだー? 漏らしたかー?」
「ううん、多分この濡れ具合は別の……って、あ! ううん、そうそう怖くてちょっとだけ出ちゃったの! じゃ、じゃあ行ってくるね!」
なんだよ西園寺のやつ、やっぱり怖かったんじゃねーか。
でもまぁ怖かったのによくあそこまでアクティブに動けたもんだな。
オレは西園寺が戻ってくるまでの間、そんな西園寺の行動力に感心していたのであった。
「ていうかあんな思いをまたしたからなのかな。 なーんか足が重い気が……気のせいか」
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