344 特別編・JSのアイドル奮闘記③
三百四十四話 特別編・JSのアイドル奮闘記③
突然のアイドル……メイプルドリーマーのリーダー・ユウリの登場に驚いた美波は腰が抜けてその場で座り込む。
隣にいるスーツ姿の女性は彼女の事務所の社員さんなのだろうか……まさか参加しようとしているオーディションの主催者側が目の前に現れるなんて。
若干手を震わせながらもユウリの姿をジッと目に焼き付けていると、ユウリがかなりフランクなノリで「みんなでなにしてたのー?」と話しかけてきた。
「え、あ……えっと……!」
急な展開で驚きすぎて声をうまく出せていない美波に気づいたエマが「エマが言おっか?」と優しく声をかけてくる。
「う、うん」
「分かったわ」
エマは微笑みながら頷くと、すぐに視線をユウリたちの方へ。
本当に自分たちと同じ小学五年生なのだろうか……堂々とした立ち振る舞いでこう答えたのだった。
「練習よ」
「練習?」
エマの言葉にユウリが頭上に星マークを浮かべながら首をかしげる。
「えぇ、練習」
そうエマが答えると隣にいる女性社員さんも疑問に思ったのだろう、「この時期に運動会か何かやるの?」と美波や佳奈、エマを見渡しながら尋ねてきた。
「いえ、わた……エマたち、メイプルドリーマーの妹グループオーディションに参加するんです」
「ええ!? そうなの!?」
エマの言葉を受けた女性社員さんの表情が一気に変わる。
さっきまでの親近感を持った視線とはまったく別の……そう、これは過去に他のオーディションを受けたことがある美波だからこそ分かったのだが、完全に審査をしている時の審査員の表情になっていたのだった。
ゴクリと生唾を飲み込んでいる美波の隣で小声で佳奈が耳打ちしてくる。
「ねぇ美波、エマあんなこと言ってるけど大丈夫なのかな」
「え、なんで?」
「だってさ、もし私らの練習見られたとして、あまりにも酷かったらオーディションで見られることもない……みたいなことないよね?」
「う……うん。 流石にそんなことはないと思うけど……」
そんな会話を美波と佳奈がヒソヒソとしている間にもエマと女性社員さんの会話は続く。
「へぇー、それは楽しみね。 でもユウリの知り合いだからといってヒイキはしないわよ?」
「はい、それはもちろんです。 マネージャーさんがそんなことしたら問題ですものね」
「そうね。 エマさん……だったわよね、よく分かってるじゃない」
女性社員さんが感心した表情でエマに微笑みかける。
「それはありがとうございます」
「お世辞じゃないわよ? 少なくともウチのユウリよりもエマさんの方が理解が早いわ」
「それは……誇ってもいいんですか?」
「もちろんよ。 こんなのだけど仮にもグループのリーダーなんだから」
「あーー!! 2人ともひどーーい!!! ユリ、そこまでバカじゃないもんーー!!!」
ていうか社員さんだと思ってたあの人、マネージャーだったんだ。
さすがエマ……このこともちゃんとリサーチしてたんだろうな。
美波は改めてそんなエマが仲間だというラッキーを実感し、そのラッキーを引き込んでくれた福田ダイキに心から感謝したのであった。
◆◇◆◇
それから少し。
マネージャーさんがユウリに「そろそろお仕事するわよ」と声をかけたところでユウリが時間稼ぎなのかキョロキョロと辺りを見渡して美波と佳奈の足下に置いてあった水筒を指差す。
「あー! ユリ、喉乾いたなー。 ねぇ美波ちゃん、そこに置いてる水筒って誰のー?」
「え、あ、これはエマのだけど」
「そっか。 ねぇカ……エマ、この中身ユリも飲んでいい?」
知り合いということで人の水筒でも抵抗感がないのだろう。
自然な声のトーンでユウリが「自分にも頂戴」と水筒を手に持ちエマにお願いする。
「いいわよ」
「やった! 何入ってんの? ジュース?」
「ううん、ハチミツレモン水だけど」
「へぇー、ユウリ、あんま飲んだことな……」
「ハチミツレモン水!?!?」
一体どうしたのだろう。 突然マネージャーさんがユウリの声を遮りながら強引にその水筒をユウリの手から奪い取る。
「えええ、マネージャー!?」
「あー、ごめんなさいね。 つい懐かしいドリンクの名前を聞いちゃって」
エマの水筒を持ったマネージャーさんが「あはは」と笑う。
「そうなの? マネージャー好きだったの?」
「うんそうね、少し前まではよくスクールで頑張ってる子たちの差し入れ用に作ってたのよ」
「スクールって……モデルの?」
「そうよ。 特に暑い日なんかは絶賛されてたのよ? キンキンに冷やしたそれを飲むとね、疲れた身体にガツンと一撃なんだから」
このマネージャーさんの話からして結構長くマネージャー業をしているのだろうか。
だとしたらオーディションの時も細かいところまで見てくるに違いない……絶対に手は抜けないなと美波は心の中で緊張の糸を再びきつく縛り上げる。
そしてこの後もエマや佳奈との練習を本気で頑張ろうと決意した美波だったのだが、ここで予想外のことが起こったのだった。
何を思ったのか急にマネージャーさんが「こんなこと話したら昔の自分を思い出して……ちょっとやる気出ちゃったじゃない」と一言。 ユウリ、エマ、佳奈、美波をゆっくりと見渡す。
「「「「え?」」」」
「久々にレッスンしてあげたい熱が出てきちゃった!! 少しの時間だけど私が皆にスペシャルレッスンしてあげるわ! ユウリ、あなたも先輩として混ざりなさい!」
この言葉に真っ先に反応したのはユウリとエマ。
ユウリの顔が一気に引きつり、エマはサーっと青ざめている。
「い、いやマネージャー。 ユリはちょっと今日はそんな気分じゃ……」
「わ、わた……エマもそこまで望んでないかなーって言うか、エマは今はミナミとカナに教える側であって……まだ基礎しかしてないわけで……」
そんな2人のテンションの下がり具合を見た佳奈が「ねぇ美波」と肩をたたいてくる。
「ん?」
「これってチャンスじゃない?」
佳奈がニヤリと微笑む。
「なんで?」
「だってさ、ユウリちゃんはレッスンの厳しさを知ってるからこそあんな感じになってるのは分かるとして……エマがあそこまで嫌がるってことは、教えるのは得意でも教えられるのは苦手ってことじゃない?」
「ーー……そうなのかな」
「絶対そうだって!」
佳奈は大きく頷くと、より顔を近づけてきて美波に耳打ち。
「ここで私らがエマよりも出来てたらさ、やっとエマをイジれるネタができるじゃん」
「ーー……なるほど」
確かに佳奈の言う通りだ。
今のところエマは非の打ち所のない完璧少女……自分たちに「体力がない」等、イジってくることはあるけど今自分たちがエマをイジれる要素は何もない。
ここでエマに勝てば……その点に対してのみではあるが言い返せる!
「ーー……よし、いいね佳奈。 やろう」
「うししし、何が何でもエマに勝とうね美波!」
2人が密かにエマに勝つことを決意していると「そこの2人!!!」とマネージャーさんが指差してくる。
「は、はい!」
「はいー!!」
「あなたたちはやるの!? やらないの!?」
「やります!!!」
「勝ちます!!!」
「よーしいい返事ね! じゃあ私流の特別レッスン始めるわよーー!!!!」
こうして本当に急遽ではあるが、アイドルグループのマネージャー直々による特別レッスンが開始されたのだった。
「ね、ねぇマネージャー、ユリまだ水筒の中身飲んでないんだけど……」
「ユリ!! そんな甘いこと言わないの!!!」
「ひぃいいいい!!!」
その日の夜。
美波と佳奈はベッドの上に寝転ぶなりすぐに……秒で意識を失ったのは言うまでもない。
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さぁ次回とうとうお待たせしました西園寺回!!
意地でも挿絵を入れる予定ですのでよろしくお願いします!!!




