343 特別編・JSのアイドル奮闘記②
三百四十三話 特別編・JSのアイドル奮闘記②
その日は土曜日。
アイドルオーディション参加を決めてからの初めての休日ということもあり小畑美波のやる気がマックス値に。
朝から同じチームの三好佳奈とエマ・ベルナールを呼び出して猛練習に挑もうとしていたのだが……
「だああああああっ!! なんで朝から走るのさああああああ!!!!」
公園の外周。 並走していた佳奈が大きく叫ぶ。
「確かに……! 流石に私も朝からランニングはないって思ってたんだけど……!」
まだ風は少し冷たいというのに2人の額からは大量の汗。
なぜ初っ端から走らなければならないのかをエマに尋ねたのだが、「いやいや前にも説明したでしょ? とりあえず軽い運動がてら外周10周ってところかしら」と鬼のように冷静なトーンで走らされることになったのだった。
「か、軽い運動がてらで10周って……軽くなかったら何周になるんだろうね美波」
「さ、さぁ……やっぱ20とかはいくんじゃないの?」
「うわああああこれまた明日筋肉痛確定じゃんかあああ!!!」
佳奈はギャーギャー喚いてはいるがなんだかんだで逃げ出さずに自分の夢のために協力してくれている。
美波はそんな佳奈に心から感謝しつつも、実際に口にするのは恥ずかしいのもあり「ほら、そんなこと言ってたら置いてくよー!」と照れ隠しのように笑いながらペースを上げていった。
「ああーーーーん!! 待ってよ美波ーーーー!!!」
◆◇◆◇
何かに必死に頑張る者には神様から何かしらのご褒美が与えられる……そんなの成功した人が都合のいいように作ったただの自己満足な言葉だろう。
そんな風に思っていた美波だったのだがそれは突然にーー……。
「よっし、10周終わり!!」
「うわああああ!!! やっと終わったああーー!!!」
エマから言い渡されたファーストミッション・外周10周をなんとか終えた美波と佳奈。
2人は公園に入るや否や互いに両手を合わせながら「おつかれー!!」「美波こそおつかれー!!」と互いの努力を労い合う。
「じゃあ佳奈、エマあっちいるから行こっか!」
「あーー、ちょっと待って美波、終わったって思ったら急に足の力が抜けて……ちょっと休憩していい?」
「いいけど佳奈、大丈夫?」
「ちょっと大丈夫じゃない。 3分……3分したら多分大丈夫だから」
佳奈が大きく息を乱しながらその場でしゃがみ込む。
「ーー……ごめんね佳奈」
ふと美波の心の声が口から漏れる。
「え、ごめん聞こえなかった、なんて?」
「ううん、その……あり……が……と」
「え!? なんて!?」
「な、なんでもない!」
自身の顔が熱くなっていくのを感じた美波はそれを佳奈に隠すよう、両手で顔を覆いながら隣でしゃがみ込む。
「どうしたの美波。 美波も足の力抜けた?」
「まぁそんなところ! てか佳奈、そんな息上がって苦しいんだったら無理して話さなくていいから」
「そ、そうだね。 ありがとう美波」
そうして3分とは言わずにそれより多くの時間をその場で過ごしていると、少し離れたベンチに座っていたエマが駆け足でこちらへと向かってきていることに気づく。
「うわわヤバ、エマ来たよ、美波」
佳奈がエマの方に視線を向けながら少し怯えた声で美波に伝える。
「あ、ほんとだ」
「これってサボってるから外周追加ーとか言われないよね」
「それは流石に……いや、どうだろ。 エマのスポ根精神だとそれもあり得るのかな」
「ぐわはーーー、ごめんね美波、私のせいでー」
「いーって。 その時は私だけ走るようエマに頼んであげるから」
もしもの時はなんとしてでも佳奈を守ってあげよう。
そう思った美波はとりあえず話の方向をずらすため、先手を打つことにした。
「あ、エマー! 終わったよーー!!」
いかにも頑張ってやり切りました感を出しながらエマに向かって大きく手を振る。
これでもし怒って来たとしても少しは怒りが抑えられるはず……そう考えた美波だったのだが、エマの口から出た言葉はまったくの逆のものだったのだ。
「ちょっと2人とも大丈夫!? 足くじいたとか……そんなんじゃないわよね!?」
「「へ?」」
エマの言葉に驚いた美波と佳奈は大きく瞬き。
その後ゆっくりと目の前に立つエマを見上げる。
「えっと……エマ? なんで?」
「ちょっとそのジャージめくって足首見せなさい、捻挫ってなったら早く切り上げて処置しないと」
「あ、いや……別に挫いてないけど」
「そうなの!?」
エマの言葉に佳奈が「うん」と反応。
先ほどよりも息が整ってきたのかゆっくりと立ち上がると「ごめん、ただ疲れて足が動かなかったから休んでただけなの」と正直に伝える。
「なんだ、そうだったの。 でもまぁ10周って目安が厳しかったのかもしれないわね。 ごめんなさい」
エマが美波と佳奈に小さく頭を下げる。
「え」
「なんで?」
「だってこれくらいならいけるかなって思ってたんだけど……これなら5周くらいに抑えるべきだったわ」
「ねぇ美波……」
「うん、流石にちょっとピッキンくるね」
2人はエマに聞こえないレベルの小声で鬼リーダーの言葉に反抗。
なのでエマの「とりあえずその状態じゃ次のメニューは難しそうね。 一旦30分くらい休憩しましょうか」の提案に対してもこんな返しをしてしまったのだった。
「いーや、こんなの全然余裕だし! ね、美波!」
「もちろん! ほーんのちょっと疲れて座ってただけだから。 もう完全回復したもん。 JS舐めんなってね!」
そんな2人の熱意を受けたエマは「へぇ……なかなかガッツあるじゃない」と感心。
その後嬉しそうな表情を浮かべながら背負っていたリュックの中に手を入れてモゾモゾと漁り出し、そこから大きめの水筒を取り出して2人に差し出した。
「ん、エマ?」
「なにこれ」
「エマ特製のキンキンに冷えたハチミツレモン水よ! 疲れた身体にガツンと一撃なんだから!」
「「エマァーーーーー!!!!!!」」
こうして2人はエマ特製ドリンクを交互に摂取。
2人のさっきのエマへの怒りは何処へやら……特製ドリンクを飲み終えた頃には完全にエマ大好きな感情が芽生え、この人について行こうという気持ちが溢れ出していたのだった。
「じゃあエマ、私と佳奈は次なにすればいいの!?」
「外周以外だとぶっちゃけ嬉しいんだけど!」
回復したことにより勢いを取り戻した美波と佳奈が前のめりになりながらエマに尋ねる。
「そうねー、じゃあ次は……」
そうエマが口にしたと同じタイミング。
ちょうど後ろの方から自分たちに向けられてるのであろう声が聞こえてくる。
「おーい、エマちゃん美波ちゃーん!! あとお友達もーー!!」
一体誰だろう……美波が先に反応していたエマに視線を向けると「え?」と信じられないような表情で自分たちの後ろにいる何者かを見ている。
そしてさっきまで組んでいた手は自然と腰の位置へ……なぜか姿勢がめちゃめちゃ良くなっている。
それを疑問に思っていると、隣にいて先に振り返っていた佳奈が「うわあああああああああ!!!!」と大きな声をあげた。
「み、みみみみみ美波!!!!!」
佳奈が視線を後ろに向けたまま美波の肩をバシバシと叩く。
「ん、どうしたの佳奈」
「やば……やばやばやばやばやばい!!!」
「だからどうしたの。 4組のラブカツ邪魔してきたブスでもいた?」
そんな美波からの問いかけに佳奈は全力で首を左右に振って大否定。
口を震わせながら美波の方に視線を戻し、こう呟いた。
「ユ、ユウリちゃん……いるよ?」
「え……えええええええええ!?!?!!?」
急いで振り返って確認すると確かに佳奈の言った通りだ。
そこには黒い帽子をかぶってはいるもののアイドルオーラは隠しきれていない……赤い髪で毛先は水色のポニーテール少女。
メイプルドリーマーのリーダー・ユウリの姿がそこにあったのだった。
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ダイキ&西園寺のイベントが進んでる一方でこちらは熱い夢への努力……どちらも微笑ましいですね!!




