339 特別編・JSのアイドル奮闘記①
三百三十九話 特別編・JSのアイドル奮闘記①
放課後・少し広めの公園内。
今勢いのある新生アイドルグループ【メイプルドリーマー】の妹グループオーディション参加のため、将来アイドル志望の小畑美波を始め、エマ・ベルナール、三好佳奈は二日目の練習に明け暮れていた。
1日目は簡単なステップ練習。
なので2日目はその復習……またはそれに関しての応用編をやるものだと思っていた美波と佳奈だったのだが……
「「ええええええ!?!? ランニングーーー!?!?!?」」
公園内に美波と佳奈の声が響き渡り、それに対してエマが「えぇ、そうよ」と爽やかに頷く。
「ちょ、ちょっと待ってよエマ! 昨日ステップやってたのになんで走るの!?」
佳奈が「走るのキラーイ」とボヤいている隣で美波がエマに猛烈に抗議する。
「なんで走るのって言われても……そんなの理由なんて1つしかないじゃない」
エマが美波と佳奈を交互に見渡す。
「り、理由?」
「そうよ。 マユカは分かるかしら」
エマが一歩離れたところで見学していた今回は応援係に回っている多田麻由香に話を振る。
「え、ウチ? ううん、全然わからないかな」
「エマね、昨日の2人を見てて思ったんだけど、そもそも2人とも体力ないのよ」
「「ギク」」
エマの言葉に佳奈と美波の表情が若干ひきつる。
「昨日の練習を思い出してみて? あの簡単なステップ練習をしただけで2人は軽く息を切らしてた……本番はあれに歌やダンスが加わるのよ?」
「で、でもラブカツん時はちゃんと出来たし!!」
「だよね!」
「はい、そう言うと思ってたわ」
エマは待ってましたと言わんばかりの表情で微笑みながらポケットからスマートフォンを取り出して、慣れた手つきで操作。 とある動画を2人に見せつける。
「これは?」
「あ、ラブカツん時の動画じゃん」
そこに映し出されていたのは昨年の夏、多田麻由香の誘いで佳奈・美波とともに3人で参加したラブカツオーディションの映像。
「え、どうしてエマが持ってるの?」と美波が不思議そうにエマに尋ねる。
「一応どんな感じだったのか知りたくてね。 昨日の夜ダイキに動画送ってもらったのよ」
「そうなんだ」
「それで見てみたんだけど……2人はこれ見てて何も思わない?」
「「え?」」
エマの言葉を受けて佳奈と美波はオーディション時の動画に集中。
しかしどこも違和感を感じなかったことから「え、佳奈どこか変なとこあった?」「ううん、まったくない」と顔を合わせて頷きあう。
「うん、まぁ素人だとそんなところよね」
「え、どう言うこと?」
「私らのこれ……どこがおかしいの?」
2人の頭上には大量のはてなマーク。
エマはそんな2人にイラつく様子もなく、解説を加えながら動画を再び再生した。
「まずはここなんだけど……」
エマの指摘してきた箇所……それを聞いた佳奈や美波、そして後ろから覗き込んでいた麻由香が思わず「あ」「ほんとだ」と声を漏らす。
パフォーマンス中の各自の目線、フォーメーションが変わる際のアイコンタクト、そして体幹やパフォーマンス終盤の息切れ具合……これらを小学生の2人にも分かるようにエマは丁寧に説明していく。
「それで、そもそもなんだけど……ラブカツって子供向けのアニメじゃない?」
「うん」
「そうだね」
「だから基本的にそういうアニメのダンスっていうのは子供達が真似しやすいように……限界まで分かりやすいように設定されているのよ」
エマは最後に「まぁハムロックは例外だったけど……」と付け足しながら2人に視線を移す。
「た、確かに」
「覚える時に簡単だった理由ってこれだったんだ」
「そう。 でも今回は去年のそれとはワケが違う。 エマたちの相手は小学生までの子供だけじゃない……20歳までの本気でアイドルを目指す子達なの」
「「!!」」
このエマの発言で2人の顔に緊張が走る。
「そ……そうだった、忘れてた。 そういや昨日もエマ、学校でそんなこと言ってたね」
「そうよ美波。 覚えてくれてて嬉しいわ」
「でもだからってなんで先に体力作るの? だったら先にフリを完璧にしてからでも……」
「いや、ぶっちゃけるとエマの今回の作戦では、そこまで難しい振り付けをする気は無いの」
「えぇ!?」
「そうなの!?」
エマはスマートフォンをポケットに戻しながら「そうよ」と頷いた。
「じゃあそこまで体力いらないんじゃ……」
そう口にした佳奈に対して、エマは「それは違うわ」と首を左右に振る。
「え?」
「先に作戦を教えておくとね、今回の1次審査は……子供ならではの明るさを前面にアピールしながら挑もうって思ってるのよ」
「そうなの?」
「そう。 だって今から死ぬ気で練習したところでそういうスクールやサークルで頑張ってる人たちには到底及ばない。だったらそういうものは最小限に抑えつつ、自分たちの武器をぶつけていこうってワケ」
エマがそう説明するも2人はまったく理解していない模様。
美波は首を傾げながら「でも元気ってみんな元気に踊ったり歌うでしょ」とエマに尋ねる。
「じゃあ考えてみてミナミ」
「うん?」
「今回の妹グループオーディション……名前にも『妹』ってついてるわよね」
「うん」
「メイプルドリーマーは最年少のユウリで18才……調べてみたら最年長が22才。 てなると、18才以下の方が『妹』っぽくない?」
「そう言われてみればそうだけど……」
「それにさ、今回のオーディションではそこまで高いスキルは求められてないと思うの。 メイプルドリーマーってその事務所初のアイドルグループだし、アイドルを目指して入ったって子はいないのよ」
エマの言葉を受けて美波はスマートフォンでメイプルドリーマーのメンバーを始め、事務所所属の人たちを検索。
そこに記されていたのはエマの言葉通り、ほぼ全てが読モ……読者モデルや地方のグラビア出身となっていた。
美波は事務所公式サイトから、所属モデルたちの採用された作品等を色々と調べていく。
「うわー、みんな東北出身……あ、東北にある事務所だったんだ」
「そうね。 小さな事務所よ」
「本当にみんな読モ多いなぁ……メイプルドリーマーのメンバーもユウリちゃん以外、みんなモデル出身じゃん」
美波の声に興味を持ったのか、佳奈や麻由香も「見せてー」と美波のスマートフォンに顔を近づける。
「あ、この子可愛い!」
「ウチはこの子かなー」
「うわー、読モ以外にも、観光パンフレットにも採用されてたんだ。 小山楓ちゃんだって。 美人だねー」
「!!!!」
エマが密かに動揺していることなど知らない美波は「ねぇエマ、見てこの子」と小山楓が採用された夏の観光パンフレット画像を「ほら」と見せる。
「そ、そうねー、キレイねー。 アリガトー」
「なんでエマが感謝すんの?」
「た、たた確かにそうねー。 それよりももう検索はいいでしょ」
「あーごめん、そうだね」
美波はスマートフォンの電源を切りながら「それにしてもエマってよく知ってるね」と感心の視線をエマに向ける。
「え? えぇ……ま、まぁね。 そういうのは情報も大事なのよ。 あはは、あはははは」
エマはワザとらしく笑った後にコホンと咳払い。
頬を軽く叩いて気を取り直し、再び2人に視線を向けながら話し始めた。
「だからね、エマたちは『妹感』を全面に押し出していくの」
「「妹感??」」
「そう。 ミナミやカナ、マユカにとって、妹ってどんなイメージ?」
そんなエマからの問いかけに佳奈は「元気さ?」、美波は「可愛さ!」、麻由香は「うーん、純粋さ?」とそれぞれ違う答えを口にしていく。
「うん、全部正解」
「「「?」」」
「1次審査はあくまで1次。 好印象ならぶっちゃけ次には行けるのよ。 だからエマたちはラブカツほど簡単な振り付けにはしないとしても、小学生の妹らしい……元気さ・可愛さ・純粋さを柱に勝負するの」
エマの作戦を聞いた美波が「なるほど……」と呟く。
「確かにユウリちゃんって18才にしては中学生みたいな見た目だもんね。 てことはそれより若い私らの方が妹感あるかも」
「でしょ? だから振り付けは可愛くパワフル大胆にしようと思ってるの。 そうなったら何が必要?」
「体力……だね」
「そういうこと」
「「ーー……はぁ」」
こうして美波と佳奈は体力づくりの必要さを納得。
「じゃあ……走ろっか佳奈」「うん美波」とお互いに力なく笑い、公園内を走り出したのだった。
2人が走り出してしばらく。
応援係の麻由香が「ねぇエマ……」と2人の姿をみていたエマに声をかける。
「なに?」
「エマは走らないの?」
「えぇそうね。 今はまだ」
「今は?」
「うん。 2人がどのくらいでバテだすか……とかみてないといけないからね」
「あー、なるほど」
エマは凄いな……自分と同じ小学5年生なのにここまで色々考えてるなんて。
そんなことをひしひしと感じながら麻由香はエマの姿を眺めていたのだが、フと走っている佳奈と美波に視線を向けた途端……とあることに気づいてしまう。
「ーー……え、あれれ!?」
「どうしたの麻由香」
「いや……私の見間違いなのかな」
麻由香は目を凝らしながらもう1度2人を観察。
その後「やっぱり……」と言いながら2人を指差しエマに視線を向けた。
「なんで2人ともパンツ履いてないの!?」
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