338 最強のコマンド!
三百三十八話 最強のコマンド!
夜。 自室の扉がガチャリと開かれ、優香が顔を覗かせてくる。
「ダイキ、どう?」
「あ、はい。 これなら後1時間もしないくらいには乾くと思われます」
そう、オレの手には制服のズボンとドライヤー。
色々あってズボンを洗うはめとなり、今こうして急ぎドライヤーの風を当てて乾かしている最中なのだ。
どうしてこうなったかと言うとだな、それは数時間前……西園寺がオレとともに家に帰宅した時にまで遡る。
◆◇◆◇
「はいこれ。 熱いから気をつけろよ」
ココアを入れたオレはソファーで待つ西園寺のもとへ。
零さないよう細心の注意を払いながら西園寺の手へと渡す。
「ありがと。 あぁ……あったかい」
西園寺はコップに手を当てながら優しく微笑む。
その後は特にやることもなかったので西園寺から綾小路の奇行の数々を聞いていたのだが……
「えええ、結婚しようって言われたのか!?」
つい先日綾小路にプロポーズを受けたことを聞いたオレはかなりの衝撃を受けながら西園寺の話に耳を傾ける。
小学生なのに度胸あるぜ……。
「うん。 帰ってる途中にもちょっと話したけどさ、チョコをあげたことが綾小路の中では告白だったらしいの」
西園寺は「そんな気さらさら無いのにね……」と面倒臭そうにため息をつく。
「そうだよな。 チョコを渡すことが告白だったら西園寺はオレにも告白したってことになるもんな」
「ふぇえ!?」
オレの言葉に西園寺は謎の絶叫。
すでに中身は入ってなかったからセーフだったものの、その手に持っていたマグカップを大きく揺らして驚いた。
「おいおいどうした西園寺。 てかそれ、中身入ってたらココア溢れて制服汚れてたぞ」
「え、あ、そうだね! ごめんね心配させちゃって」
西園寺は少しぎこちなく立ち上がると「じゃ、じゃあ私このコップ洗ってくるよ」とキッチンへ。
しかし今、西園寺はお客さんだ。
そんなことさせるわけにはいかないのでオレも西園寺とともにキッチンへと向かうと、「いやこれはオレが洗うからお前はゆっくり座っとけよ」と西園寺からコップを受け取った。
そしてここから謎の西園寺の暴走が始まる。
「えっと……福田くん、ありがと」
西園寺は「えへへ」と少し照れたようにコップをオレに渡すと手を後ろに回して謎にモゾモゾ。 何か言いたげな表情でオレを見上げてくる。
「ん、どうした?」
「あ、ううん、なんかこれってさ……あれみたいじゃない?」
「あれ?」
「うん、その……新婚さん」
「新婚さ……ええええええええエエエエエエエ!?!?!?」
突然何を言い出すんだ西園寺のやつ!!
西園寺も今の言葉は自分でも恥ずかしかったようで、顔を両手で覆ってしゃがみこみながら「きゃーーーっ!!」と叫んでいる。
「お、おおおおおおい!! 恥ずかしいのはオレの方だぞ!! てかなんでさっきの言葉からそうなるんだよ!!!」
「だ、だって!! 今の会話どう見ても、妊娠した奥さんを気遣う旦那さんの言葉だったじゃない!!」
「だ……だだだだ旦那さん!?!?!?」
一体日頃どんな生活を送っていたらそんな思考回路に至るのだろうか。
やはりこれは女の子特有の将来の夢はお嫁さん現象……結婚生活を夢見てるが故の妄想なのか!?
オレがそんなことを考察していると西園寺は何かが吹っ切れたのか軽く息を荒げながら「福田くんっ!!」とオレの腕をガシッと掴んでくる。
「福田くんはさ、もし子供ができたとしたら……男の子がいい!? 女の子がいい!?」
「え?」
「私は男の子でもいいし女の子でもいいなぁー! 男の子だったら元気に走り回ってる姿を眺めたいし、女の子だったらお揃いのお洋服着てお出かけするのが夢なんだー!!」
西園寺が目をキラキラさせながら自身の妄想の世界を早口で語りだす。
「さ、西園寺?」
「あーごめんね! それだと私、子供は1人がいいって言ってるみたいだよね! 福田くんは何人欲しい!?」
「西園寺?」
「私は何人でも嬉しいなぁー! あ、でも子供もすぐにってわけでもないよ!? 結婚してしばらくは2人だけの空間を感じたいし、それに……!」
「西園寺いいい!!!!」
オレが必死に名前を呼んでも西園寺の妄想語りは止まらない。
これは……あれだな、疲れてるんだ。
疲れてるからもう脳がおかしくなってしまっているに違いない。
「それでね、私は……!!」
「よーし西園寺、こっちに来い」
オレは西園寺の弾丸トークを無視して手首を引っ張ると、リビングに戻りソファーに座らせる。
「福田くん?」
「よし、西園寺。 一旦寝ろ」
「え!?」
西園寺が目を大きくさせながらオレを見上げる。
「え、寝るの?」
「うん。 寝ろ」
一瞬の沈黙が流れた後、西園寺がハッと何かに気づいたようにオレの顔を見上げた。
「なんだ?」
「もしかして福田くん……! さっきに子供の話をして欲しくなっちゃったの!?」
「ちげえよおおおおおおおおお!!!!!!」
オレは西園寺に久しぶりの本気ツッコミをした後に西園寺が疲れてるように見えると説明。
すると西園寺は手を口元に当てながら「うーーん、そうなのかなぁ」と考え出す。
「えっと……福田くん? やっぱり私、今はそこまで眠く……」
「あのな、30分仮眠とるだけでも脳ってスッキリするらしいぞ。 さっきも言ったがオレにはお前が少し疲れてるように見える。 タイマーかけて起こしてやるからとりあえず寝ろ」
「でも……」
あー、これはもしかして寝てる間にオレがイタズラすると思って警戒してるやつだな。
さっきの謎の誤解もあるし。
「よし分かった。 ならお前が寝て起きるまでオレは近くにいることを約束する。 そうだな……だから西園寺、特別にお前が眠りに落ちるまで背中をぽんぽんしてやろう」
このオレの提案が西園寺の警戒心を解いたんだろう。
西園寺は「え、ほんと?」とオレに尋ねると、あまり長く考える様子もなくこう答えた。
「寝る」
こうして西園寺はソファーの上で仮眠をとることに。
オレはソファーの下から西園寺が寝るまでの間、背中を軽めに叩いていたのだが……
「おい、いつ寝るんだ西園寺」
背中ぽんぽん開始から10分。
西園寺が一向に眠る気配がないことに気づいたオレは西園寺に突っ込みを入れる。
「だってこれは無理だよ」
「なんで」
「背中に神経集中させちゃうもん」
「えええ、じゃあポンポンやめるわ」
「なんで!?」
「だって寝れないんだろ?」
「じゃあ代わりに何かしてよ」
「代わりに? んー、やるっつってもあと思いつくのは……お尻ポンポンか太ももスリスリかパンツサワサワか……」
そうオレが冗談っぽく伝えていると、西園寺が「あ、そうだ! 太もも!」と叫ぶ。
「え! 太もも触っていいのか!?」
「ううん、まぁ触ってもいいんだけど、私福田くんの太ももの上で寝たい!」
西園寺が興奮気味にオレに顔を近づけてくる。
「それ……寝れるのか?」
「寝れる!!」
「それ……膝枕って言うんじゃないの?」
「知ってる!! それがいい!!!」
結果オレはなぜか西園寺に膝枕をすることに。
ぶっちゃけオレが西園寺に膝枕されたいよと思いながらも太ももの上に西園寺の頭を乗せると、これはどういうことだろう……ものの数分で西園寺はスヤスヤと安らかな寝息を立て始めた。
「え、西園寺、マジで寝たの?」
「すぅ……すぅ……」
なるほど、西園寺は枕がないと眠れない子だったのか。 そりゃあ眠れないわけだな。
それにしてもまぁ可愛い寝顔してやがるぜ。
オレは上から顔を覗き込むように西園寺の寝顔を観察……目の保養をしていたのだが、それは突然起こった。
「んんーーっ」
西園寺的には枕の下に手を入れようとしたのだろう。
頭をグイッと押し付けると片手をオレのズボンの隙間に侵入させてくる。
ウォッハアアアアアアア!!!!
顔を押し付けられてめっちゃどことは言えないけど当たってるぅううう!!! それに手が入ってきて……ウオァアアアアアアアア!!!!
西園寺の可愛らしい手がオレのズボンの中に潜ませてた……普段人に姿を見せない魔物の胴体をガシッと捕まえる。
とうとう見つけてしまったか、オレの飼っている最強の魔物を。
魔物は突然の侵入者に敏感に反応。 その手を敵と認識したのだろう……臨戦態勢に入り、その姿をまるで威嚇しているハリセンボンのようにどんどんと大きくさせていった。
この勝負、どっちが勝つのか……。
レディ……ファイッ!!!
【魔物のターン】 強化魔法を使用。
・魔物の防御力が最大にまで上がった。
【西園寺のターン】 攻撃スキル『全身マッサージ』を使用。
・全体攻撃のコマンドを入力。
上・下・握・握・上・下・上・下……
『グオアアアアアアア!!!』
魔物に瀕死級のダメージ!!
透明な謎の液体が魔物の口から溢れ出す。
【魔物のターン】 強化魔法を使用。
・しかし魔物の防御力はこれ以上上がらない。
【西園寺のターン】 スキル弱点特攻を使用。
・魔物のステルス弱点『伝説の宝玉』を発見し、再行動。
【西園寺のターン】 弱点に攻撃。
・コマンドを入力。
握・握・握・握……
『ヒギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
魔物に4545ポイントのダメージを与えた。
なんというフルコンボ!!!
西園寺の巧みな采配により闇に潜んでいた魔物は一瞬で撃沈。
口元からは白いポーションが流れ出し、その恩恵を受けた西園寺はポーション効果でスッキリ回復したのだった。
30分後、目を覚ました西園寺は爽快な表情で帰っていったよ。
◆◇◆◇
あれから大変だったぜ。
詳しくは言えないが西園寺の倒した魔物の後始末が厄介でな。
オレのズボンの中で戦闘を繰り広げてたもんだからズボンの内側は荒れ地状態……洗濯せざるを得ない状況になってしまったんだよ。
「あああ……早く乾いてくれぇ……」
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