331 特別編・希の決意
三百三十一話 特別編・希の決意
習い事である柔道を終えた西園寺希。
希は稽古から帰っている途中、スマートフォンを電波を一切発しない状態……機内モードにしていたことに気づいてそれを解除。 するとすぐに何件かのメールの受信通知が届いた。
「うわわ、こんなに?」
希はそれを届いた順に目を通していく。
【受信・綾小路恵子】西園寺ー、あそぼー。
【受信・綾小路恵子】西園寺ー、返事してよー。
【受信・綾小路恵子】西園寺西園寺西園寺ー。
ゾゾゾゾ……。
希の背筋に悪寒が走る。
「もしかして他も全部綾小路……?」
こんなの全部読んでたら気が滅入ってしまう。
そう感じた希は綾小路の定期的なメールに若干恐怖を覚えながらも全てのメールの送り主を先に確認することにした。
【受信・綾小路恵子】
【受信・綾小路恵子】
【受信・綾小路恵子】
【受信・綾小路恵子】
【受信・福田くん】
【受信・綾小路恵子】
「ーー……あっ」
ほぼ全てが綾小路からの受信通知で埋まる中、その中で1つ希の目を引く名前を発見する。
「ふ、福田くん?」
希はその他の綾小路のメールをフルで無視して福田からの受信通知をタップ。
メールの内容を表示させた。
【受信・福田くん】今時間ある?
「んっ……何の用だろう」
西園寺はすぐにメールを返信することに。
【送信・福田くん】ごめんね遅くなって。 今日は柔道の習い事の日だったから遅くなっちゃった。
【受信・福田くん】お疲れ様。 なぁ西園寺、オレのクラスの小畑が今度開催されるアイドルオーディションに一緒に出場するメンバーを探してるんだけど、西園寺ってアイドルとか興味ない?
「アイドルオーディション……福田くん、手伝ってあげてるんだ。 凄いなぁ」
自分には関係なさそうなのに手伝っている福田の行動に関心していると、すぐにスマートフォンが振動。
福田からの電話だと思った希は宛先も確認せず、すぐに通話ボタンをタップした。
「も、もしもし? 福……」
『ああああーーー!! 電話でやっと出た西園寺いいーー!!! 返事ないから心配したじゃんかーー!!!』
福田からの電話だと思い耳をいつもより強めにスマートフォンに当てていた希だったのだが、そこから聞こえてきたのは希の望む声ではなく今は御呼びでない声。
「ーー……綾小路?」
『そうだよーー!!! もう何で無視すんのーーー!?!? アタシ、ずっと西園寺のこと……』
ピッ
あまりにもうるさかったため自然と指が通話終了ボタンへ。
その後も綾小路からの電話がかかり続けていたため、希は仕方なくスマートフォンの電波をオフ……再び機内モードに戻して帰路に着いたのであった。
◆◇◆◇
家に着きご飯を食べ終えた希は部屋に戻り、父親がお風呂から上がるまでの間勉強をするために問題集を机の上に広げる。
普段ならそこまでガチではやらないのだが今回のテストは福田との勝負……罰ゲームがかかっているのだ。
その内容は今度遊園地に遊びに行く際、『敗者は勝者の言うことを聞かなければならない』というもの。
こればかりは手加減せずに何が何でも勝ちにいく。
希にはどうしても叶えたい野望があったのだ。
「私が勝ったら福田くんに私の魅力を思う存分教えてもらうんだ……」
それが多ければ多いほど彼が自分のことを見てくれている証明にもなるし、罰ゲームという名目があるからこそ、その後の空気が悪くなることは絶対にない。
だから何としても勝たなくては……
そんなことを思いながら最近分かった自分の苦手な範囲……図形の面積を解いていると、とあることを思い出す。
「あ、スマホ……機内モードのままだった。 それに福田くんからのメールに返信するの忘れてたよ……」
これもすべて綾小路のせい……。
希は綾小路のしつこさに若干イラつきながらも福田からのオーディションメンバーへのお誘いメールに再び目を通した。
「アイドルかー。 まぁアイドルはキラキラしてて楽しそうだけど……」
少し前の自分だったらすぐに飛びついていたんだろうな……。
希は一旦様子見な返信をしてみることに。
【送信・福田くん】うーーん、興味ないかって言われたら興味はあるけど……
【受信・福田くん】マジ!? だったら西園寺、出てみないか?
「うわ、福田くん……そこまで私を推してくれるの?」
希はすぐに返信ボタンをタップ。
『そこまで言ってくれるなら挑戦してみようかな』と打ち込み送信ボタンに指を添えたところで一瞬動きが止まる。
ーー……いや、ちょっと待って。
希はメール送信を中断してあることを検索。
それは芸能活動をしている子供はどのような生活を送っているのか……といったもの。
そして出てきた検索結果に希は目を通していく。
・修学旅行に行きたくてもライブを優先(学校行事を優先してもいい事務所もあるが、それだけ自分の露出が減って人気に差が出ると考えてしまい、結果ライブを取ってしまう)
・放課後、友達と遊びたくてもレッスン
・受験シーズンは苦行(春に向けての新曲発表などと重なるため、覚えることがかなり多くなる)
・人気が出るほどにプライベートが無くなる(密着されるため若い間は特に恋愛系はご法度)
・ただ認知度は確実に上がるので、そういうの好きな人にはオススメ
「うわぁ……今の私にはどれも辛いな」
あまりの過酷さに思わず本音が漏れる。
先ほども思ったことなのだが少し前の自分ならそれでも……と確実に参加していただろう。
でも今はーー……
「修学旅行も行きたいし勉強もしなきゃだけど、プライベートがない……恋愛ご法度なのは厳しいかな」
そういうこともあり希はメールで断る気持ちを込めた内容で送信。
しかしそのやりとりをしているうちに、とある考えが希の脳内で湧き上がる。
「いや、これってもしかして……逆にアリ?」
もし自分が仮に受かってアイドルを始めたとしよう。
そしたらおそらく福田くんは私を応援してくれる。
それに曲を出したとしたら……自分の声をイヤホン越しに直接聞いてくれるのではないか?
ーー……あれ、これ受けた方が良さそう?
感情がグチャグチャになった希は福田にとある質問をしてみることに。
【送信・福田くん】逆に福田くんは、私……アイドルに向いてると思う?
もしこれで向いてるって返ってきたら挑戦しよう。
逆に少しでも微妙そうな反応で返ってきたら断ろう。
そう心に決めた希だったのだが、その決心はその後すぐに揺らぐこととなる。
メールを送信してすぐにきたのは着信通知。
また綾小路だと思っていたのだが、そこにはまさかの福田の名前が表示されている。
希は慌ててスマートフォンを握りしめ、耳に当てながら通話を開始した。
「もしもし?」
そしてそこからが希にとっての至福の時間。
なんと福田は自分の魅力的なところを勝負もしてないのに勢いよく口にしていくのだ。
1つ言われる度に心臓が大きく早く脈打っていくのがわかる。
その言葉1つ1つに間がないことから、おそらくは心から思ってくれていること……それが希の心を余計に熱くしていった。
「福田くん……それ、お世辞とかじゃ……ない?」
希は声と手を震わせながら電話の先にいる福田に問いかける。
「は? 当たり前だろ。 オレは『可愛い』や『綺麗』とか、そう言うものに関してはお世辞は言わないって決めてんだよ。 じゃないとその言葉を聞いた第三者にオレの『可愛い』と思うレベルがその程度だって思われるだろ?』
ドクン
「そっか……。 その、なんて言うか……ありがとう」
あぁ……テストの勝負してないのに夢、叶っちゃった。
そして彼はこんなにも自分のことを見てくれていた。
あまりの嬉しさから希の目は大量の涙で溢れ、感情の高ぶりから会話らしい会話にならない。
なのでまだ父親はお風呂から上がってはいないが「今からお風呂」という体で通話を終了したのであった。
◆◇◆◇
通話を終了してしばらく。
湯船に浸かっていた希は以前……バレンタイン前日にエマの言っていたことを思い出す。
『えっとね、自分の気持ちをフルで書けたとしても、相手はさっきも言ったけど小5男子なの。 ガキに恋愛感語っても多分ほとんど響かないはずよ。 それよりは「今度どこか遊びに行こう」とか、相手が楽しめそうな内容の文章を書いた方が向こうも盛り上がるんじゃないかしら』
『ふふふ、甘いわねノゾミ。 一緒にいるうちに意識していくもんなのよ男って生き物は』
『そうなの。 だからこう考えれば良いの。 遊びの誘いは、その先に相手が意識してくれるって未来に投資するって感じよ!』
「遊びの誘いはその先に相手が意識してくれるっていう未来投資……。 よし、決めた!」
希は勢いよく湯船で立ち上がると大きく頷く。
「テストが終わるまでなんて待ってらんないよね! 遊園地……明日誘おうっと!!」
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