330 メンバー!?【挿絵有】
三百三十話 メンバー!?
「ーー……え、ミナミがアイドルオーディションに?」
翌日の朝。
通学中にオレがオーディションに出場する小畑のチームメイトを探していることをエマに伝えると、エマは「へぇー、それは大変ね」と他人事のように答える。
まぁ実際に他人事なのだが……
「おいおいその返しは冷たくねーか? 少しは『協力しようか?』とか嘘でもいいから言ってくれよ」
「いやいや何言ってんのよ。 ダイキのことなんだから、もしエマがそんなこと一言でも口にしちゃったら勢いで話進めちゃうじゃないの」
「ま、まぁそうなんだけどさぁ。 誰か良い奴知らないか? このままだとメンバーが1人足りないんだよ」
「そんなの知ったことじゃないわよ。 じゃあ桜子とかどうなのよ」
エマが目の前でエルシィちゃんと楽しそうに会話中の結城へと視線を向ける。
「なんで?」
「だって桜子って、おとなしそうだし守ってあげたくなるような空気持ってるでしょ? エマ的には結構合ってると思うんだけど」
「あのなぁ……そんなおとなしい子が自己PRとか出来るわけねーだろ。 ただでさえ人見知りなのに」
「あー、そっか。 でも……オーディションねぇ」
エマが遠いところを見るような目でゆっくりと空を見上げる。
「ん、どうした? 過去の血が騒いだか?」
「血が騒ぐって言うよりかは懐かしいなってところかしら。 それにこれはタイミングってのもあるんだけど、ちょうど少し前にマネージャーがウチに来たのよ」
「へぇー、マネージャーがねー」
「うん」
ーー……え?
「マネージャーが来たあああああああああ!?!?!?」
あまりにも衝撃的な発言にオレは驚愕。
「え、それ……なんで!?」とエマに顔を近づけながら問い詰める。
「ちょっと離れなさいよ暑苦しい」
「いやいや暑苦しいとかどうでも良いわ!! もしかしてエマお前……ユウリに正体をバラされ……!!」
「ばか! そんなんじゃないわよ! それと声でかい!」
エマがオレの口元を必死で手で覆う。
「じゃあなんで……!」
「それはここでは……ちょっと来なさい!」
エマはオレの腕を掴むと、前を歩く結城とエルシィちゃんに向かって「ちょっと忘れ物気付いたからダイキと取りに戻ってくるわ。 だから2人は先に行ってて」と声をかける。
「えーー、エマおねーたん、わしゅれものー?」
「そうなの。 でもこの時間なら走れば間に合うから」
「そーなんー? わかたー! エッチー、ユッキーちゃんといっしょに、がっこ、いくぅー」
こうしてエマは結城に「エルシィをよろしく」と伝えるとオレの手首を引っ張ったまま来た道を逆走。
途中にある小さな公園へと入り、「ここなら大丈夫そうね」とベンチに腰掛けた。
◆◇◆◇
「ーー……ていうか、これはエマの気になってることなんだけど、エマの話をする前にちょっといいかしら」
本題に入ると思っていたオレだったのだが、エマがゆっくりとオレを見上げながらそんな質問をしてくる。
「なに?」
「どうしてミナミのメンバー探し手伝ってあげてるの? 面倒なら断ればいいだけじゃない。 別にダイキの将来に影響するわけでもないんだし」
「んー、そうなんだけどなぁ……」
オレは頭を掻きながらどう説明しようか少し考える。
まぁ実際断っても小畑にドヤされたりするくらいで終わるから別に何の問題もないんだが……そうだな、これは少し前の茜や陽奈の姉・愛莉と関わったことも影響しているのかもしれない。
陽奈の姉・愛莉の【病気が治ったらやりたいことノート】を見て、やりたいことには出来るだけ手を出すべきだよなと考えさせられ、その後茜と出会ったオレは生きてるのにやりたいことが出来ない苦しみを実感した。
だからこそ今オレに出来ることなら可能な限り手伝ってあげたいってのが本音なんだが……
「まぁなんていうか、手伝ってやりたいんだよなー」
「別にダイキに何も見返りもないのに?」
「んーー、だな。 なんというか人生に後悔を残して欲しくないっていうか」
オレが「まぁそんな感じだ」と答えると、エマがオレを見ながら「ふふっ」と笑う。
「何だよ」
「いーや、なんかこう……たまにダイキってそんな大人びたこと言うわよね」
「そ、そうか?」
「うん。 エマは一回死んでるからその人生に後悔して欲しくないって気持ち、ちょっと分かるわ。 まぁエマは親友の命を救えたからそこまで後悔はしてないけど、やっぱりあのまま突き進んでたらどんな未来があったんだろうってたまに考えることあるもの」
エマは少し儚げな表情をしながら視線をオレから外す。
「エ、エマ?」
「ーー……そっか、ダイキはそう言う理由でちょっと理不尽なお願いとかも引き受けてたのね」
「勢いで言われて断れなかったこともあるけどな。 でもまぁそうだな、人生は謳歌するべきだ」
「ふふ、そうね。 だからダイキは変態行為には全力を出してるってこと?」
「お、よく気づいたな。 大人になったら許されないことも多いだろ? だからオレはこの子供の間に全力で……欲望のままに変態するんだ」
「ダイキらしいわね」
エマはそう呟くと「よいしょ」と言いながらゆっくりとベンチから立ち上がる。
「それじゃ、行きましょうか」
「え、まだエマの話聞いてないぞ?」
「だってそろそろ行かないと遅刻するじゃない」
「ええええ!? それはマズいけどオレ……話し損じゃねえか!! オレはエマの話聞きたかったのに!」
オレが「そんなのってないぜー」とボヤいているとエマが再びオレの手首をガシッと掴む。
「ほら、ごちゃごちゃ言ってないで行くわよ」
「マジー?」
「いいじゃない。 その代わりって言っちゃあれだけど、ミナミのメンバーにエマが入ってあげるから」
「まぁそれはありがたいんだけどさー、それよりもエマの話を……」
ーー……ん?
オレがエマに視線を固定させながら立ち止まると、エマが「どうしたのよ、ほら早く行くわよ」とオレの手を引っ張りながら振り返る。
「えっと、エマ……今メンバー入ってくれるって言った?」
オレは若干声を震わせながらエマに尋ねる。
「えぇ言ったわね。 なんかさっきのダイキの話聞いてたらエマもミナミの夢のために力を貸してあげたいなって思って」
「おおお……おおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
こうしてエマは運よく小畑のチームに加入することが決定。
エマの家にマネージャーが訪ねてきた件に関しては放課後話してくれることを約束し、少し駆け足気味で学校へと向かったのだった。
「そういやダイキ自身の今やりたいことって何なの? 変態行為以外で」
向かっている途中、エマが何気なく聞いてくる。
「そりゃあたくさんあるぞ? 例えばそうだな……恋愛とかしたいよな! もちろん両想いの!」
そう答えるとエマは「へぇー、案外普通なのね。 意外だわ」と笑う。
「なんだ失敬な。 オレだってな、学生の間に青春したいんだよ」
「でもダイキ、恋愛経験あるわけ?」
「あるわけないだろ。 『これは行けるかも!?』って思ったこともあったけど、その全てがオレの勘違いってオチだよこのやろう!」
◆◇◆◇
「それじゃあダイキ、エマお手洗い寄ってくから先に行ってて」
「おう、じゃあな」
学校に到着。 靴箱でエマと別れ教室へと向かっていると、階段を上ったあたりで西園寺がひょこっと現れる。
「おはよ、福田くん」
「おお。 おはよう西園寺。 なんか昨日は突然悪かったな」
「ううん大丈夫。 それで、ちょっと話あるんだけど……いいかな」
西園寺が周囲の目がこちらに向いてないことを確認しながらオレとの距離を縮めてくる。
「ん? なんだ?」
「福田くんさ、前に私に遊園地誘ってくれたじゃない?」
「あぁ誘ったな。 でもテストがあるからって西園寺に……」
「うん、もうあの勝負、もういいかなって思ってさ」
「え?」
突然のことで理解できず「一体どうした」と尋ねると、西園寺は少し頬を赤らませながらニコリと微笑む。
「ん? 西園寺?」
「遊園地行こ」
ーー……え?
「いや、オレはいいんだけど……いいのか? ほら、西園寺も点数勝負とか乗り気だったけど」
「うん、いいの。 だって私が罰ゲームで福田くんにお願いしたかったこともう叶っちゃったし」
「は? なぁそれはどういう意味……」
「詳しいことはいいの。 ね、行こ?」
オレが尋ねようとしてみるも、西園寺はオレの目の前で可愛くピョンピョンと跳ねながらお願い。
それがあまりに可愛くてついオレは理由を聞くことも忘れ……こう言ってしまったんだ。
「お、おう」
「やった。 じゃあ日曜日でいいかな」
「わかった」
こうしてオレは急遽ではあるが、週末西園寺と遊園地へ行くことが決定。
しかし詳しい話をしようとしたところで1組の綾小路が突撃してきたこともあり、夜にメールか電話で決めていくことになったのだった。
ーー……そうか、点数勝負での罰ゲームは無しか、
実際のところ、オレは罰ゲームで西園寺にノーパン遊園地をしてもらう予定だったんだけどな。
前回のお出かけでは西園寺が本来の趣旨を忘れてパンツを履いてきてしまってたし体調不良でできなかったから、ノーパンリベンジさせてあげたいと思っていたのだが……
まぁいいか。
西園寺と普通のお出かけをするのはこれで2回目だ。
前に西園寺と行った映画も純粋に楽しかったし、今回も全力で楽しむとしよう。
お読みいただきましてありがとうございます!
下の方に☆マークがありますので、評価していってもらえると嬉しいです!
感想やブクマ・レビュー等お待ちしております!!!




