325 そこは変わらず!?【挿絵有】
三百二十五話 そこは変わらず!?
リビングの方から漂ってくる結城の料理の香りを嗅覚で楽しみながら静かに眠っている優香をただひたすらに見つめていると、ギャルJK星からのメールが突然届く。
「ん、なんだ?」
【受信・星美咲】ごめんね、ちょっとアタシの勝手で遅くなる!
【送信・星美咲】大丈夫だよ。 何か急用?
【受信・星美咲】んーにゃ、ちょっとダイキのプレゼントしてくれた時計に合わせようかなって思って!
ーー……ん?
【送信・星美咲】合わせる? 何を?
【受信・星美咲】それはアタシが着いてからのお楽しみ! とりあえずご飯だけど、もし早く出来た時は先に食べてて良いからね! アタシは遅れるお詫びとしてコンビニスイーツでも買ってくよ!
一体ギャルJK星は何をしているのだろう……。
そんなことを考えていると、この胃袋を刺激するような香りに気づいた優香が目を覚ます。
「ーー……ん、あれ、おはようダイキ」
「……って言ってももう夜だけどね。 おはようお姉ちゃん。 体調どんな感じ?」
「うん、だいぶ楽になったかも。 ありがと」
優香はゆっくりと起き上がり背筋を伸ばすと「あれ、美咲は?」と部屋の外へと視線を向ける。
「星さんなら一旦家に帰ってるよ。 服とか色々持ってまた来てくれるんだって」
「えぇ!? そうなの!?」
「うん。 お姉ちゃんが心配だから土日は泊まってくれるって言ってたよ」
「そんな……そこまでしてもらわなくても大丈夫なのに」
優香はそう呟きながら「はぁ……」とため息をついているが、やっぱりそこまでしてくれることが嬉しいんだろうな。
その表情は先ほどの言葉とはまったくの真逆で嬉しそうに微笑んでいた。
「まぁいいじゃん、せっかく来てくれるんだし」
「そうだね。 またお礼にお弁当作ってあげよ」
うわー、それギャルJK星がめちゃくちゃ喜ぶやつじゃん。
オレがそんな優香の手作り弁当を幸せそうに食べているギャルJK星の姿を想像していると、優香が「えっと、じゃあダイキ……」とオレの腕を軽く引っ張ってくる。
「ん、なに?」
「美咲が一旦帰ったのは分かったんだけどさ、じゃあこのキッチンの方からさっきからしてる煮物の香り……誰が作ってくれてるの?」
あ、そうだ。 それ伝えるの忘れてたわ。
「それはねお姉ちゃん、実は……」
◆◇◆◇
リビング内。
ギャルJK星は間に合わなかったのでメール通りに先に晩御飯を始めたオレたちだったのだが、結城お手製の煮物……筑前煮を口にした優香が突然泣き始める。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん? どうしたの? 美味しくなかった?」
結城が不安そうに優香の顔を覗き込む。
「ううん、美味しい。 美味しいけど……、うう……うぇえええん、桜子ぉーー!」
「よしよしお姉ちゃん……どうしたの?」
「またこうしてウチに来て……私のためにわざわざこんなに手の込んだ料理まで作ってくれて……うわああああん、嬉しいよおおぉ……」
優香は結城に抱きつきながら「ありがとう」と何度も囁く。
そして結城はそんな優香の頭を優しく包み込み、「喜んでくれてよかった……」と微笑みながら撫でていたのだった。
「でもごめんね桜子……。 今日はお菓子作る予定じゃなかったの?」
優香が涙を拭いながら結城を見上げる。
「ううん、いいの。 お菓子は帰ってからそのまま作るか、明日早起きしてから作っても間に合うから。 でも今はお姉ちゃんに早く元気になってもらいたくて」
「桜子……」
「それに私、前までいっぱいお姉ちゃんに迷惑かけたし色々してもらったんだもん。 これくらい当然だよ」
「桜子ぉ……」
「私に出来ることがあったらその……いつでも呼んでほしいな。 それにほら、私、お姉ちゃんの妹なんだから」
「桜子ぉおおお……!!!」
うおおおおおおおおお!!! 尊いんじゃあああああああ!!!!
そんな姉妹のやりとりを見ていたオレの目からも大量の涙が。
こうしてオレたちは久しぶりの3人での時間を心行くまで満喫したのであった。
◆◇◆◇
「じゃあお姉ちゃん、また元気になったら一緒にお菓子とか作ろうね」
高槻さんからの『もうすぐ帰るよ』メールを受け取った結城が「じゃあそろそろ帰るね」とオレたちに小さく手を振る。
「うん。 時間があったらケーキとか作っちゃおっか」
「いいの?」
「もちろん!」
優香は大きく手を広げながら「こーんなにおっきなの作ってさ、みんなでケーキパーティーしようよ」と結城に優しく微笑みかける。
「分かった! 楽しみにしてるねお姉ちゃん!」
「うんっ」
「あ、あと魔獣ハンターもまた一緒にやりたいな」
「うん、それもやろ!」
……そういやあったな魔獣ハンター。
こうして結城は優香と約束を交わしてウチを後に。
オレには何もかける言葉とかないのかよと軽くショックを受けながら優香とリビングでくつろいでいるとスマートフォンが振動……ギャルJK星かなと思って確認してみたのだが、どうやら今度は結城からのメールのようだ。
もしかしたら忘れ物でもしてしまったのかもしれない。
だったらすぐに持って行ってあげようと考えたオレは急いでメールを開いた。
【受信・結城さん】さっきはお姉ちゃんがいてちょっと恥ずかしくて言えなかったんだけど……お姉ちゃんが元気になったら、今度2人で遊びに行こうね。
ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!! バキバキバキィ!!!!!!
まさに不意打ち。
ノーガード状態のオレの心に超ド級の雷が落下する。
ーー……え? えっと、どういうことだ!?
オレは半ば混乱しながらもとりあえず返信することに。
【送信・結城さん】えっとそれは……2人でってことでいいのかな。
ドキドキドキドキ……!!!!
【受信・結城さん】そうだよ。 プリクラとか撮りたいな。
「!!!!!!!」
ヤバい……感情が……漏れる!!!!!
オレは叫びそうになる口を全力チャックしながらトイレへダッシュ。
そこで服を口元に当てながら「可愛すぎるんじゃあああああああああ!!! これってデートのお誘いじゃねえのかああああああああ!?!?!?」と優香にはギリギリ聞こえないレベルで叫んだのであった。
◆◇◆◇
あれからどれくらいだろうか。
ようやく冷静さを取り戻したオレがトイレから出ると、リビングからは誰かの話し声が聞こえてくる。
この声……1つは優香でもう1つは……あ、ギャルJK星だ!
オレが発狂してる間に帰ってきたらしく、リビングに近づいていくにつれて2人の会話が少しずつクリアに聞こえてくる。
「えぇ!? わざわざそれが理由でやってきたの!?」
「そうそう! でもぶっちゃけこれもしっくりくるべ?」
「それはまぁそうだけど……やることが急すぎるよ」
「ふはははは! それがアタシ美咲ちゃんなのだ!」
うん、何の話してるのかまったくわからねぇ!!
ただマイナスな空気は全然感じなかったので、オレは早くその内容を知りたいということもあり少し早歩きでリビングの中へと入って行ったのだった。
「おかえり星さ……って、エエエエエエエエエエ!?!?!?」
リビングに入るやいなやオレは自分の視界に入ってきた情報を信じきれずに声を漏らす。
だって信じられるか?
優香は椅子に腰掛けながらお茶を飲んでいるんだが、優香の視線の先……ソファーに座ってるのは声的にギャルJK星で間違いないのだが……
「お、ただいまーダイキ」
ギャルJK星がいつものポジティブスマイルを浮かべながらこちらを振り返ってくる。
「いーやいやいやいや!! その髪どうしたのーーーー!?!?」
そう……オレの中ではもうギャルJK星は黒髪清楚という印象が定着しつつあったのだが、今のオレの瞳に映るのはどう見ても黒ではなく金。
オレはあまりにもその光景が突然すぎてダッシュでソファーの前に回り込んだ。
「ねぇダイキどう? 久しぶりのスーパー美咲ちゃん」
「き、ききき金髪じゃん!!!!」
「そーだよ。 似合うっしょ」
いつぞやの完全なギャルJK星の再臨。
ギャルJK星が「アタシ完全復活!」と笑いながらそのサラサラ金髪を可憐になびかせる。
「う、うん。 似合ってるけどどうしていきなり……!」
「ん? ほらメールで言った通りだべ。 ダイキのくれた腕時計の色に合わせたのさ!」
「え!?」
そう言うとギャルJK星は右手首にはめた赤い腕時計をオレに見せつけながら「ほら!」と再びポジティブスマイル。
確かに金髪と赤い腕時計はマッチしているけども……
「で、でも星さん美人だし別に黒髪のままでも似合ってたよ?」
「サンキューなダイキ。 でもほら赤色って情熱じゃん? だったらそれを着ける美咲ちゃんも情熱モードに戻そうかなって思ったのだ!」
「な……なるほど」
「それにそろそろ清楚も飽きてきてたしな! ちょうどよかったよかった!」
どうやらギャルJK星曰く、黒髪清楚の時は鏡を見るたびに以前片思いした痴漢男を思い出していたらしく心の中で黒い何かが若干渦巻いていたらしい。
ただ周囲からの反響はいいのでそのままにしていたのだが、オレのプレゼントをきっかけにようやく一歩踏み出せたらしいのだ。
「だから感謝してるぜーダイキ」
「う、うん。 そう言って貰えるとオレも嬉しいかな」
その後ギャルJK星は結城の作ってくれた料理を食べながら優香とおしゃべり。
その途中「あ、そうだダイキダイキー」と満面の笑みでオレに手招きをしてくる。
「どうしたの?」
「アタシ、コンビニでスイーツ買ってきたんだけど桜子ちゃんに渡せなかったからさ、ごめんだけどダイキ、持ってってくれないかな」
「え」
「ほら、桜子ちゃんって今別のママと住んでんでしょ? アタシが行ったらビックリするかもじゃん」
あー、なるほどね。
ただオレもさっきのメールの件があるし、出来れば1日空けたかったのだが……まぁ仕方ない!!!
オレはギャルJK星からスイーツ入りの袋を受け取り早速渡しに行こうとしたのだが……
じーーー。
とあることに気づいたオレはギャルJK星をじっと見つめる。
「ん、なんだダイキ。 アタシの服に何かついてる?」
「あー、ううん、なんでもない」
あれだ。 ギャルJK星って見た目は美人でギャルなのに私服は全然ギャルじゃないって言うか……落ち着いた色が多いよな。
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うおおおおおおお!!挿絵ぇええええ!!!!




