317 似てるところ!
三百十七話 似てるところ!
「も、もしもしお母さん? わ、私……希……だけど」
オレにスカートの先を摘まれた西園寺がオレの手元に視線を向けながら通話先の西園寺母に話しかける。
「うん、うん……そうだよ。 誰からも声かけられてない」
ーー……ふむ。
スピーカー音にしてないから西園寺母の声はオレには聞こえないが、大体は何言ってるか予想できるな。
おそらくはオレの家に向かってる途中、誰にも怪しまれなかったか……的なことを聞かれているのだろう。
オレはそんなことを推測しながらも、いつ西園寺が口調を荒立てるかわからないのでスカートを握りながら西園寺の顔・声色を伺う。
それにしても女子のスカートってなんで触ってるだけでこんなにも幸せな気持ちになるのだろう。
「うん……、疲れてるかなって思って。 だからスーパーにしか寄ってないし、堂々としてたから変な目で見られてもないよ。 うん、うん……」
まったく……とことん慎重な母親だな。
慎重に越したことはないけど……まぁそれも娘や家の将来のため……愛なのだろう。
ていうかこの会話の感じ……めちゃめちゃ平和な空気流れてないか?
これならガチで言い争いにはならなさそうな雰囲気……西園寺もオレの手元に緊張してる以外は問題なそうだ。
これはもうスカートから手を離しても良さげ?
そう考えたオレが西園寺のスカートを握る手を少し緩めた……その時だった。
「え……ええええええええ!?!? なんでそんな……いや、そんなんじゃな……うーーん、そうだけど、そういうわけじゃないの!!!」
突然西園寺が先ほど以上に顔を真っ赤に染め上げながら通話相手の母親に向かって声を荒げる。
オレが「お、おい西園寺。 荒ぶってんぞ」と小声で声をかけるもまったく耳に入っていないっぽい。
「……西園寺、落ち着け。 捲るぞ」
「だ、だからそうだけどそんなつもりでやったんじゃないっていうか……! あーーもう!! お母さんは首を突っ込まないでよ!!!」
「……いいのか? オレ、本気ですけど」
「それ以上言わないでよもおおおおおおおおお!!!!!」
「ーー……」
これは聞く耳持たんな仕方ない。
オレは指先に力を込めて西園寺を見上げ、そして……
いきまぁす!!!!!!!
これによりオレの視界には薄い紫色で中心に青い小さなリボンの付いた癒しの景色。
西園寺は一瞬「ひゃっ」と声をあげたのだが母親に聞かれている手前それ以上リアクションすることが難しかったのだろう……これ以上スカートをオレに捲られないよう、口調を元に戻して「じゃあ切るね……」と通話を終了したのだった。
「てか西園寺、お前パンツ履いてたのな」
「な、なんで?」
「だってちょっと前に西園寺言ってたじゃん。 『でも私、今……』って。 てっきり履いてないって思ってたぞ」
「あ、それはその……違う意味で言ったわけで……」
「違う意味?」
「う、うん」
「どんな意味だ?」
「あんまり可愛いパンツじゃないからその……見られたくないなぁって」
じゃあ可愛いの履いてる時に頼んだら喜んで見せてくれてたんかーーーーい!!!
そう心の中で突っ込んだオレだったのだが、当たり前のことに気づく。
ーー……そうだ、こいつドMでそういうの嬉しいやつだったじゃん。
最近急に女の子っぽくなってたからすっかり忘れていたぜ。
「あ、そうだ福田くん。 ちょっといいかな」
「なんだ?」
「さっきお母さんに電話で言われたことなんだけど……」
「ん?」
「その、これはお姉さんにも話したいからリビング行こ?」
「んん?」
◆◇◆◇
「ええええええ!?!? 学校が終わる時間までウチにいてほしいだってええええええ!?!?」
どうやら西園寺の母曰く、今帰ってくるとその道中に西園寺のことを知ってる人……例えば主婦仲間などとすれ違う可能性がある。
だから私服で普通に歩いてても違和感のない放課後の時間まで預かってほしいというものだったのだ。
もちろん優香はそんな申し出を断るわけもなく「別に構わないよ」と快諾してくれたのだが……
「それにしてもお姉ちゃんびっくりしちゃった」
優香が嬉しそうに笑いながらオレに視線を移す。
「何が?」
「だってダイキにここまでしてくれるお友達がまだいたなんて、お姉ちゃん嬉しいな」
「そ、そうかな」
「うん。 ダイキ、将来のお嫁さんかもしれないんだから大事にするんだよー」
優香が隣に座っているオレの肩をツンツン突く。
ーー……。
「え?」
オレは一瞬何を言っているのだろうと考えた後に優香の目を見る。
「えっと……お姉ちゃん? 今なんて?」
「え? もしかしたら希ちゃんが将来のお嫁さんかもしれないんだから……って」
「「えええええええええええええええええ!?!?!?!?」」
この優香の言葉にオレと西園寺の声がシンクロ。
西園寺に視線を移すと……西園寺、お前顔めっちゃ真っ赤だぞ!!!!
そんなリアクションされたらこっちまで余計に恥ずかしくなっちまうじゃねえか!!!
「お、おおおお姉ちゃん!?!?!?」
さっきの優香の言葉はおそらく本心なのだろう。
優香はオレや西園寺の困惑など微塵も気づかずに「それにしてもダイキの周りって結構女子力高い子多いよねー」と楽しそうに続ける。
「え、そうなんですかお姉さん」
おいそこ気になるのかよ西園寺。
「うん。 勝手にこんなこと言ったらその子たちには申し訳ないんだけど、ダイキのお嫁さんになってくれたらなーって子が何人かいるもん」
「え!? そうなんですかお姉さん!!」
おいそこなんで気になるんだよ西園寺。
西園寺は体を前のめりにして食い気味に優香に尋ねている。
「そうだよー」
「た、例えば誰ですか!?」
そんな西園寺の問いかけに優香は「んー、そうだなー」と指折り数えながら名前をあげ始めた。
「まずは料理も出来て家庭的な桜子でしょ? あとはダイキを引っ張ってくれそうなエマちゃんに、いつも明るく振舞ってくれそうな佳奈ちゃん……それと、ダイキのことを気にかけてくれる希ちゃんかなー」
優香はそう伝えた後に「あ、あとは陽奈ちゃんっていう田舎の近所に住んでる女の子もいるんだけど……あの子はどうなんだろ」と呟いていたのだが、あえて聞かなかったことにしておこう。
……ていうかあれだ、そこについ先日までオレが深く関わっていた茜の名前は挙げられてないんだな。
そりゃそうか。 だって優香はあまり茜のこと知らないし、それ以前に美香……神様のおまじない発動の効果なのか、それ以降優香の口から『茜』って名前自体聞いてないもんな。
もしかしたらオレと茜の親族以外の記憶からは少しずつ消えていっているのかもしれない。
「さ、桜子にエマに三好さん……」
オレが茜のことを懐かしんでいると、その手前で西園寺が口元に手を当てて何かをブツブツと呟いている。
「ん、どうしたの希ちゃん」
「え、あ、いえ。 確かに3人とも魅力的だなって思いまして」
「だよね。 でも希ちゃんも3人に負けないくらい魅力的だよ」
「そ、そうですか!?」
「うん。 でもごめんね、勝手にダイキのお嫁さん候補ランキングに入れちゃって」
優香が「もし希ちゃんに別に好きな子がいて不快な気持ちにさせちゃってたらごめんね」と小さく頭を下げる。
「いや、いやいやいやそんな! お姉さんにそう言っていただけて嬉しいです!」
「そう?」
「はい! だってこんな美人でお淑やかで……福田くんに一番近しい人に言われたんですもん!」
「えー、そうかなー。 でも私、希ちゃんとはどこか似てるとことかあるって感じるんだよねー」
「あ! それ私も感じました! それがどこかはまだ分からないですけど!」
優香と西園寺が「あはは」「えへへ」と笑い出す。
2人の似てるところ……
それってお互いにダーク化や凶暴化っていう魔物を潜めてるところではないでしょうか。
「ん、ダイキどうしたの何か言いたそうだけど」
「ん、福田くんどうしたの何か言いたそうだね」
ビクウウウウウウウウ!!!!!
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