310 おまじない!
三百十話 おまじない!
看護師さんに連れられてきた茜の親戚と名乗っていた人たち……その人物とは。
「え」
部屋に入ってきた人の顔ぶれを見たオレは、思わず声が口から漏れる。
だってそうだろ……オレの瞳に映っているのは……
「あ……茜さんの……」
そう、そこに立っていたのは堀江茜の両親。
2人とも目を大きく見開いたまま茜……美香の姿をした茜をジッと見つめている。
そしてそれは茜も同様で、『どうして』といった表情で両親を見つめ返していた。
「あ、あなた」
「あ……あぁ。 にわかには信じられないが……」
夫婦はそう小声で話しながら頷きあった後に看護師さんに視線を移し、「案内ありがとうございます」と頭を下げる。
「あの、堀江さん方のご親戚のお子さんで間違いないですか?」
「は、はい。 間違い無いです、ありがとうございます」
看護師さんの質問に夫婦は揃って首を縦に。
すると看護師さんは安心したようにホッと胸を撫で下ろしながら「では私は扉の外にいますので、何かあったらお声がけください」と扉の外へと出て行った。
オレも気まずいので「あ、じゃあオレも一緒に」と言いながら看護師さんの後ろを付いて行こうとしたのだが……
「いや、ダイキくんは一緒にいてくれて構わない」
「え」
茜の父親にそう言われたオレは足を止めてゆっくりと振り返る。
「えっと……いいんですか?」
「えぇ。 だってあなた……ダイキくんは知ってるって書いてあったから」
オレは……知っている? 書いてあった?
一体何のことだろうとは思いながらもオレはとりあえず部屋の中にいることに。
看護師さんが「それではごゆっくり」と扉を閉めたタイミングで茜の父親が小さく口を開いた。
「あ、茜……なんだよな」
「え」
茜……そう呼ばれた茜の口が小さく開かれる。
そしてそんな茜たちのやりとりを見ながらオレは心の中で『どうなってんだああああああああ!?!?!?』と絶叫。
ともあれ、この空気をぶち壊すわけにもいかない。 オレは心の声を口から出さないよう……必死にお口チャックに集中させた。
「あなた……」
「まさかイタズラかと思ってはいたが、手紙通りのことがまさか現実に起こっているなんて」
茜の父親はゆっくりと茜の前に。
そして小さくなった茜の手を優しく手に取り、再び優しい瞳で茜を見つめた。
「えっと……私のこと……分かるの?」
「あぁ。 正直まだ心の整理が付いていないけどね」
「ど、どういうこと?」
この茜の質問を受けてようやく茜の父親は何故このようなことになったのかを簡単に説明し出した。
「実は今朝、時間指定での郵便が届いてね。 中を見たらこんなことが書かれていたんだ」
そう言うと茜の父親は奥さんにアイコンタクト。
奥さんがバッグから一枚の封筒を取り出しオレと茜に見せてくる。
そこには短くこう書かれていた。
====
堀江茜の両親へ
これは重要なことで真実。
本日は茜の火葬の日だとは思うが、それより先に病院へ行くことを推奨する。
同封した写真を持ってこの子がいないかと尋ねて欲しい。
親戚という設定で。
そうすれば茜ともう1度会うことが出来る。
ちなみにもしその場に少年がいたならば、その少年は理解者。
最後に。
火葬の際はその少女も同席させてあげて欲しい。
それがその少女と貴方方にとっての新しい一歩となり、その儀を以って正式な親子と成る。
この内容は堀江家・その少年を除いて他言厳禁。
====
ーー……美香だ。
その後同封されていたと言われる写真も見せてもらったのだが、それはオレも見覚えのあるものだった。
「これが入ってたんですか?」
「うん。 この写真を見たときは驚いたよ。 だって髪の色こそ違うものの、他全てが娘とそっくりだったんだから」
その写真は……みんなは覚えているだろうか。
そう、美香がスマホを欲しいと言って……オレが前世で大学時の親友だった工藤にお願いして工藤名義で契約してもらっていた時のことを。
あの時美香は契約してくれたお礼として工藤に自身を撮影することを許可していたのだが、その時の写真だ。
そういや美香のやつ、工藤とも連絡先交換していたし……おそらくはあの写真の画像も送ってもらっていたのだろう。
ていうか現代のやり方に順応しすぎだよ神様ァ!!!
「それにしても幼い頃の茜ちゃんにそっくりね」
「そうだな、世の中には自分と似てる人間が3人はいるって聞くけどここまでなんて」
「お父さん……お母さん……」
こうして茜と茜の両親は奇跡の再会。
そしてこれが美香がオレたちへと向けた手紙に書かれていた『美香のおまじない』なのだろう。
「最後は神がかった力とかじゃなかったのかよ」とオレが小さく呟いた……その時だった。
「茜ちゃーん、おはようございますー。 入りますねー」
「「!?!?!?」」
突然扉がノックされたかと思うと、看護師さんが朝食を乗せた台車を押しながら中へと入ってくる。
「あら茜ちゃん、パパとママ来てくれたのね。 こんな朝から来てもらえるなんて幸せ者だね」
「え?」
突然のことに茜は大きく瞬き。
その隣では茜の両親も一体なにが起こったのか分からずに互いに目を合わせ、茜の父親が看護師さんに視線を移して一言、「えっと……すみません看護師さん」と声をかけた。
「はいなんでしょう」
「あの、どうしてこの子が茜だと?」
確かにそうだ。
それはオレを含め茜や茜の母親も思っていたようで視線が一気に看護師さんへと集まる。
しかし次に発せられた看護師さんの発言によって、オレと茜だけは全てを理解することとなった。
「何言ってるんですかお父様。 そりゃあ少しの間とはいえお世話してたんですから名前くらい覚えますよ。 あ、もしかして今日が退院日だから……ドッキリを仕掛けようとかしてましたか?」
これだ。
これが神様の……美香の発動させたおまじないだ。
オレは部屋を出て扉横を確認してみると、来た時には確実になかったのだが【堀江茜】と書かれたネームプレートがつけられている。
一体いつ付けられたのだろう……そんなことを考え出していると、その近くで数人の看護師さんの世間話のような会話が耳に入ってきた。
「最近亡くなられた茜ちゃんいたじゃない?」
「はい」
「どんな顔してたか……とかあなた覚えてる?」
「当たり前ですよ。 確か……あれ?」
「ね、私も関わってたはずなのに思い出せないのよ。 ここに最近入院された子も堀江茜ちゃんでしょ? 同姓同名なんだなーって思ってさ」
「ーー……待ってください、私、ご両親の顔も思い出せません」
「それ私もなのよ!」
「私たち……疲れてるんですかね」
「かもね。 近いうちに連休とって気分転換に旅行いきましょ」
「良いですねー」
ーー……なるほどな。
こうして茜は先ほど看護師さんが言っていたように朝食を食べた後に退院準備。
それからは美香の手紙通り……両親とともに過去の自分の身体との決別をしに向かったのだった。
◆◇◆◇
3人を見送った後、スマートフォンが振動。
優香からのメール受信通知だ。
【受信・優香】陽奈ちゃん……目、覚めたよ! 早くおいで!
おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
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