308 特別編・茜の独り言
三百八話 特別編・茜の独り言
時間になってダイキが帰った後の夜の病室。
美香の姿をした茜はベッドの上で横になりながら、数日前の出来事を思い出していた。
そう……与田美香の姿をした神と数年ぶりの再会を果たした……あの日のことを。
◆◇◆◇
「茜、ダイキの気配はもう近くにはない」
ダイキが席を外してしばらく。
扉の方に視線を向けていた美香が静かに呟く。
「そうですか」
「それで聞きたいことってなに?」
まさか直接神様に聞ける日が来るなんて。
茜は今一番不安に思っている悩みを神様……美香に尋ねることにした。
「私ってその……いつまで生きられますか?」
茜のその質問を聞いた美香の目が大きく開かれる。
「なんで?」
「やっぱり気になるので。 私、いつまでこんな生活を続けないといけないのかなって」
正直茜の精神はすでに崩壊していた。
長年に続く闘病生活。
一向に良くならない症状。
同い年の女の子たちは恋や勉強といった青春に明け暮れているというのに。
もはや我慢の限界……一層の事、この苦痛がまだ続くようなら少しでも早く楽になりたい……そう思っていたのだった。
「それで……どうですか?」
しばらく待っても一向に返事をしない美香にしびれを切らした茜が再び尋ねる。
「それは……禁則事項に値する」
美香が視線を少し落としながら小さく呟く。
「禁則事項……てことは良くはならないってことですか?」
「禁則事項。 そこも言えない」
ーー……そう言う事か。
ぶっちゃけ茜は自身がそこまで長くないことは知っていた。
そう、茜にはオーラが視えるから。
人にはそれぞれ生命力に溢れた……個性的な色のオーラが身体から発せられているのだが、自分から出ているオーラはほぼ無色。
これが死の近い者に現れる前兆……
今までそういう人は病院内で幾度となく見てきたし、そのほぼ全ての人が旅立っていった。
そしてとうとう自分の番。
それ自体は茜にとって苦痛から解き放たれるということを意味していたので喜ばしいことだったのだが、なんだかんだで元気になって生きたいといった希望がゼロになったわけではない。
なので少しの望みに託して神様に聞いてみたのだが、やはり自分の予想で当たっているようだ。
「はぁ……」と小さく息を吐くと美香が「茜、どうした」と顔を近づけてくる。
「いや、何でもないです。 やっぱりそうなんだなって思いまして」
「?」
その後茜は美香に死後の世界を聞いてみたのだが、そこは前にダイキに教えてもらった通り。
長い道のりを歩き、輪廻転生を目指す果てしない旅が続くらしい。
「それってやっぱり苦しいですか?」
「人による。 悪行ばかりしてきた人はまさに茨の道……棘だらけの地面や炎の道みたいなものが多くあって進むのも困難。 しかし善行をしてきた人はお花畑を散歩するような感覚」
「そうですか。 じゃあ美香さん……私はどんな道を歩くと思います?」
そう尋ねると美香は茜の考えに何かを察したのだろう。
突然手首を掴んできて顔を目の前まで近づけてくる。
「み、美香さん?」
「茜、ダメ。 自死はそれだけで大罪。 それは人や動物を殺めてなくても最上位に位置するほどの許されない行為」
ーー……え?
そんなつもりで聞いたつもりではなかったんだけど。
どう説明しようかと茜が悩んでいると、美香の瞳には茜がかなり追い詰められていているように映っていたのか「本来なら禁則事項だけど、特別に」と言いながら耳元で小さく囁いた。
「このままだと悲しい結果。 でも前向きに生きていると未来は変わる」
ーー……!!
なんということだろう……まさかまだ希望の光が差し込んでいたなんて。
「それ……本当ですか?」
美香からの衝撃的な言葉を聞いた茜は声を若干震わせながら尋ねる。
「今のは美香の独り言。 質問されるようなことは言ってはいない」
「で、でもダイきちくんと出会ってから私……実は少しだけ前向きになってたと思うんですけど、このままいけばもしかして……」
「ならそのプラスな気持ちを維持するべき」
「ちなみにそれってどのくらいの期間……」
「それは禁則事項」
その後何を尋ねても美香は「禁則事項」を貫き通し、茜もなんとかその禁則事項を抜け出そうと必死に言葉を変えて質問を繰り返していたのだった。
「お願い美香さん! 元気になったらまたあの神社に毎月通うから!」
「ダメ。 お賽銭は大事だけどそれは美香の欲しいものじゃない」
「じゃあお供え物!! たくさんお酒とか買ってお供えするから!」
「美香、お酒は好きだけど違う」
「それじゃあ美香さんの欲しいものって?」
「茜のパンt……こほん、なんでもない」
◆◇◆◇
「てことはあの時にはもう……神様にも私の寿命があまりないことが分かってたんだよね」
茜は仰向けになり天を見上げながら何もない天井に話しかける。
もちろんその言葉に対して反応する者はこの空間には誰もいない。
「それにしても、また1つ聞きたいことが増えたんだけど……これって誰に聞いたらいいのかな神様」
茜が新しく抱いていた謎……それは。
「なんで今履いてるイチゴ柄のパンツ……偽物っぽい生地なの?」
これは退院したら前に参詣した神社に行って……お礼ついでに問いかけてみなくては。
そう決心した茜は履き心地の悪いイチゴパンツを脱ぎ……健やかに目を閉じたのだった。
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