306 証拠!
三百六話 証拠!
一体どうしたというのだろうか。
オレの名を呼んだ後、美香の目が大きく開かれてそこから涙がじわじわと溢れ出てきている。
もしかしてあれか?
はじめ美香は『茜は元気な身体で退院する』と断言していた。
だけど結果はまさかの真逆……責任を感じているのだろうか。
「え、おい美香どうした急に泣きそうになって。 そりゃあ茜のことは残念だったけどさ、まぁ神様にも失敗はあるよ」
「ダイ……きち……くん」
「だから泣くなって。 泣き顔なんて美香らしくもない」
オレはポケットからハンカチを取り出すとそれを美香に差し出す。
ーー……本当ならオレがそのハンカチをビチョビチョにする予定だったんだけどなぁ。
そう心でボヤいていた……その時だった。
「ダイきちくん!!」
なんということだろう、美香がオレの差し出したハンカチをスルーして、泣きながら突然オレに抱きついてきて胸に顔を埋めてきたではないか。
「え……ええええええええ!?!?!?」
突然のことにオレの心は一気に動揺。
相手があのおじいさんの姿をした神様ってことは分かってはいるが、今の見た目はクールビューティーな女の子・美香。
そんなに密着されて冷静を保てるわけがない。
「ちょ、ちょっとどうしたんだよ」
「ダイきちくん……ダイきちくんだよね!!」
美香が声を少し荒げながらオレを見上げる。
「当たり前だろ今更かよ。 なんでそんなこと聞くんだよ」
「ここ……別に死んだ世界とかそういうわけじゃないんだよね!?」
「いやいや冗談きついぜ美香。 そしたらどこでオレは人生を謳歌出来るって言うんだよ」
「私……茜、茜だよ!?」
「あーはいはい茜ね、茜。 分かった、分かったからとりあえずこの状況を詳しくーー……」
ーー……ん?
今なんて言った?
普通に美香の言葉を流してただけだったのだが、なんか聞き捨てならないような言葉を言っていたような。
オレはゆっくりとその視線を美香へと向ける。
「今さ、美香……茜って言った?」
オレの問いかけに美香は「うん」と小さく答える。
「あー、いやあのさ、オレを元気付けようとしてくれるのは嬉しいけど、流石にちょっとやりすぎだぞ」
「本当なの! 私……美香さんの身体になってるんだけど、本当に茜なの!」
「うんうん、ありがとな。 その気持ちだけで嬉しいから早くいつものクールな美香に……」
ーー……ぴと。
オレがまだ話している途中……だというのに美香が人差し指をオレの唇にそっと当てる。
「み、美香……?」
「やっぱり……信じられないよね」
「え?」
「ごめん、今の忘れて」
美香はそう呟きながらオレから離れると、「おやすみなさい」と小さく頭を下げてオレに背を向ける。
オレは一体これは何の茶番なんだと考えていたのだが、次に放った美香の言葉に衝撃を受けることとなった。
「夜、いっぱいメールや電話してくれてありがと。 アイス食べられなかったけど、気持ちは嬉しかったよ。 それだけは信じてほしいな」
「!!!!!」
ア……アイスの話……だと!?
オレはその時のことを……茜とアイスを食べてイチャつこう作戦をしていた時のことを思い出す。
も……もももももしかして本当なのか!?!?
確かあの時、あの部屋の中にはオレと茜だけだったはず……!
それにまだ美香には伝えていなかったから美香がこのことを知っていることはおかしい!!!
てことは本当に……?
「ま、待って!」
オレの声に美香の体がピクリと反応。
儚げな表情を浮かべながらこちらを振り返る。
「本当に……茜……なのか?」
「うん。 信じてくれないかもだけど」
なら、この質問はどうだ?
本当に茜ならすぐに答えられるはず……
「じゃあオレのオーラは何だった?」
オレが真剣な表情で尋ねると美香はクスリと笑う。
「ーー……分かるか?」
「うん。 今はもう見えなくなってるけど、ピンク色の変態オーラだったよね」
「!!!!!」
おお……おおおおおおおおおおお!!!!!
今の答えが最終的な決め手。
オレはあまりにも衝撃的な展開から腰を抜かし、尻もちをついたまま美香の姿をした……茜を見上げる。
「その、信じてくれた……かな」
うわあああああああああ!!!
本物だあああああああああああああ!!!!!
オレの答えはもちろん「イェス!」。
それを聞いた茜は喜びの涙を浮かべながら再びオレに抱きついてきた。
「よ……よかった!! 信じてくれてありがとうダイきちくん!!」
「や、やべぇ! 実感なくて手が震えてるううううううう!!!!」
それからしばらく。
オレと茜はこの特殊な再会を喜びあっていたのだが……
ーー……でもちょっと待てよ?
と言うことは?
「あのさ茜……」
「なに?」
「じゃあその……美香はどこに行ったんだ?」
オレがそう尋ねると、茜は「そのことなんだけど……」と言いながら周囲を気にしだす。
「えっと……茜?」
「誰もいないところで話したいからさ、私の病室……行こ?」
ーー……なるほど、何も知らないってわけではなさそうだ。
こうしてオレは美香の姿をした茜に連れられながら、現在入院している病室へ。
そこでオレは知ることになる。 オレがいない間に話していた茜と美香の内容や、病院にいない間、美香が一体何をしていたのかをーー……。
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