305 思い出の場所で【挿絵有】
三百五話 思い出の場所で
茜のお通夜は事前に福田祖父からマナー等を色々と教わっていたおかげもあり、これといった問題もなく終了。
白い棺の中で静かに眠っていた茜と最後のお別れをしたオレは優香とともに葬儀場を出て再び陽奈の戦場・病院へと戻った。
もう時刻は夜の8時……時間が経つのは早いなぁ。
◆◇◆◇
病院内のトイレでお通夜用の服から普段着へと着替えたオレと優香。
「どうするダイキ、さっきおばさんに連絡したら陽奈ちゃんの手術まだ時間かかってるらしいんだけど……このまま病室行っておばさんと合流する?」
トイレ前。 優香がスマートフォンを片手にオレに話しかけてくる。
「え、他にやることある?」
「うーん、ほら、お姉ちゃんもダイキも朝ごはん食べてからほとんど何も食べてなかったでしょ? だから何か食べてから行くのはどうかなって思ってさ」
「あー、確かに」
そう言われてみれば朝ごはんを食べてからすでに約12時間が経過。
陽奈のことや茜のことで頭がいっぱいになっていたからなのかすっかり忘れていたぜ。
そして人間の身体とは不思議なもので、食べてないことに気がつくと急に空腹感が襲ってくる。
ぐぅううううううう!!!!!
「ーー……お腹空いた」
オレがお腹をさすりながら優香を見上げると、ちゃんとお腹の悲鳴が聞こえていたのか優香が「ふふ」と笑いなからオレの頭を撫でる。
「うん、じゃあおばさんには悪いけど、先に何か食べてから向かおっか」
こうしてオレと優香は空腹状態の胃を満足させた後に病室へ。
するとつい先ほど陽奈の手術が終了したらしく、部屋の扉を開けると麻酔で完全に眠りについている陽奈がベッドの上で横になっていた。
待ちきれないオレは陽奈の母親に尋ねる。
「あの、おばさん……陽奈は……?」
「うん、成功したって」
陽奈の母親が満面の笑みで頷く。
「よ、よかったぁーーーー」
全ての緊張の糸がほぐれたオレはその場でヘナヘナとしゃがみ込む。
優香も安心したようで胸に手を当てて「ふぅ……」と安堵の息を漏らしている。
陽奈の母親曰く、陽奈はこれから数日に渡って心臓がちゃんと機能しているかの検査やリハビリ等が待っているとのこと。
とりあえずは命を繋ぎとめることが出来たみたいでよかったぜ。
あーー、なんか陽奈が大丈夫って分かったら脳内が茜のことだけになっちまったぞ。
オレの脳内でここ数日の茜とのやり取りが一気に高速再生されていく。
やばいぞ……今になって悲しさが……
目にじわじわと涙が溜まっていくのが自分でも分かる。
もう……ガチ泣きしてもいいよな。
しかし流石にここで泣くのは陽奈の母親にも悪いし優香にも気を使わせてしまう。
ーー……どこか泣ける場所探すか。
「じゃ、じゃあオレ……ちょっとトイレ」
オレは病室を小走りで飛び出すと見回りの看護師さんたちに見つかって注意されないよう、周囲に気を使いながらどこか最適な場所がないかを探す。
休憩スペースは……ダメだ、入院患者さんであろうおっちゃんが座ってジュースを飲んでいる。
トイレは……もっとダメだ。 人の目は少ないだろうが夜のトイレほど怖いものはない。
「どこかないか? なんでこんな時にいい場所見つからねえんだよ」
すでに目は涙の海で溺れており、脳内では茜のことばかり考えてしまっているからなのか泣ける場所探しに全く集中出来ていない。
それでもどこかで集中的に泣きたいオレは諦めずに夜の院内を彷徨い続けた。
そしてーー……
「ーー……あ、ここは」
当てもなく歩いていると懐かしい場所にたどり着く。
ここは……そう、茜に初めて話しかけられた廊下だ。
「確か……この廊下をちょっと歩いた先の窓付近……だったよな。 まさかあの出会いからここまでの感情が生まれるなんて」
オレは当時のことを思い出しながらゆっくり歩みを進めていく。
まだそこまで深夜ってわけでもないので人通りもあるかもだけど、泣くにはもってこいの場所なのかもしれないよな。
そうして向かった茜との思い出の場所。
涙で目が重くなっていたオレは途中から廊下の床に視線を落とし、大体この辺りかなと感じたところでゆっくりと顔を上へとあげたのだが……
なんてバッドタイミングなんだ。
オレの涙のベストプレイスにはどうやら先客がいたようで窓の外の景色をじっと眺めている。
「ーー……マジかよ」
オレはそう小さく呟いて引き返そうとするも、すぐにその選択を破棄して足を止める。
どう考えても今のオレが一番泣ける場所はここしかない……そこにいる先客には悪いけど、ここは泣きながらでも場所を譲ってもらうべきだよな。
覚悟を決めたオレは腕で涙を拭うと、声をかけるために息を大きく吸いながらまっすぐとその先客に視線を向けた。
その先客は……どうやら後ろを向いていて顔は確認出来ないけど、身長的には大体オレと同じか少し小さいくらいの女の子。 同い年だろうか。
髪は茶髪で三つ編みなのかな……窓の外から照らされている月明かりによっていい感じに照らされていて、目はあまりよくないのだろう、右手には赤いメガネが握られていて……
ーー……ん?
茶髪の三つ編みで赤いメガネ??
それにあの身長とこの静かな雰囲気は……
オレの目が徐々に大きく開かれていく。
間違いない……美香だ。
あいつ帰るって言っておきながらこんなところにいたのかよ!!
「おい美香!」
「!」
オレの言葉を聞いた美香の身体がビクンと反応。
しかし美香はこちらに振り返ることなく……そのまま小さな声でオレにこう尋ねた。
「み……か? 私?」
ーー……は?
「おいおい何言ってんだよ美香。 そんなこと言わなくてもここに美香はお前しかいないだろ」
「ーー……」
あれ、でもなんだろう……確かに美香なのだが様子が少しおかしい。
なんというか……そう、口調にいつものクールさがないというか、神々しさが無くなってるというか……。
オレが普段の美香ではないことに戸惑っていると、美香が「ていうか、この声って……」と小さく呟きながらゆっくりと視線をこちらに。
その後オレと目がバッチリと合う。
「おいおいやっぱり美香じゃねーか。 一瞬そっくりさんかもと思って焦ったぞ」
オレは人違いじゃなかったことに安心しながら美香に話しかけるも、一方で美香はそんなオレの反応とは真逆。 視線がかなり泳いでいる。
「ーー……ん、美香?」
「ーー……」
「ちょっと何黙ってんだよ。 もしかして何かやましいことやってたんじゃないだろうなぁ」
そうオレが尋ねてすぐ……
何か言い訳の言葉でも言うのかなと思っていたオレだったのだが、次に発せられた言葉にオレの脳は再び混乱することになったのだった。
「ーー……ダイきち……くん?」
ーー……え。
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