302 想定外の結末!
三百二話 想定外の結末!
あれから陽奈の移植手術の話はスムーズに進み……早くて翌日か、その次の日に手術を受けることが決定したらしい。
その話を聞いた後、オレは家に帰るため院内の階段を降りているとちょうどそこで茜の両親夫婦を見つけた。
「あ、ダイキくん」
茜の父親がオレに手を振ってくる。
「お昼ぶりですね。 今から帰るんですか?」
「うん、ちょっと色々とやることがあったからね」
やること……外泊届けとか自宅療養の説明みたいなものなのだろうか。
一体なんだろうとは思いながらもオレはそこは深くは聞かず。
別に茜の両親とは話すこともあまりないので、「それでは茜さんによろしく伝えておいてください」と声をかけてその場を離れようとした……その時だった。
「今から帰るのかい?」
茜の父親が出口へと体を向けていたオレに話しかけてくる。
「あ、はい。 そうですけど……どうしてですか?」
そう尋ねると、茜の父親は奥さんと一瞬視線を合わせて頷いた後、再び視線をオレに。
「もしダイキくんが良かったら……なんだけど」と言いながら自身の顔をオレの顔に高さを合わせてきた。
「えっと……なんでしょう」
「良かったらウチに寄って茜に会って行かないか?」
「え」
「その方が茜も喜ぶだろうし」
「ええええええええええ!?!?!?」
茜の母親に視線を向けてみると、旦那さんの提案に同意しているのか「うんうん」と頷いている。
ーー……なんて展開だ。
普通なら好意を寄せている女の子の家に行くのってかなり緊張するイベントだと思うのだが、まさか両親の許可有りの状態で会いに行くことができるなんて。
もちろんそんな神ががったイベントをオレが見逃すはずもなく……
「じゃあよろしくお願いします!!」
こうしてオレは茜の両親とともに、駐車場に停めている車へと移動したのだった。
◆◇◆◇
病院を出て駐車場に向かっていると救急車のサイレンの音が後ろから聞こえてくる。
振り返ってみてみると一台の救急車が正面玄関前で止まってストレッチャー……移動式の台に乗せられた患者が看護師たちによって中へと運ばれていくのが見えた。
結構危ない状況なのか結構な大声でやり取りをしており、少し離れているオレたちにまでその内容が聞こえてくる。
「身元不明の女の子です!! 倒れているのを発見・息はありますが意識が戻らないので頭を打っているのかもしれません!」
「わかりました! 検査室へ運んで!」
「はい!」
ーー……大変だな。
オレはテキパキと動いている看護師さんたちのことを尊敬しながらも茜の両親の後をついていき車に同乗。
茜に突然会いにきましたドッキリをするため、茜の家へと向かったのであった。
今から行くぜ!! 茜!!!!!
◆◇◆◇
「ダイキくん、もうすぐ着くからね」
「あ、はい」
もうすぐなのか……。
茜の父親の声を聞いたオレは小さく深呼吸。 緊張しているのか先ほどから震えている手を力強く握りしめる。
「あら、どうしたのダイキくん、肩が上がってるわよ」
「まぁその……緊張しますね」
「なんで?」
「だってその……なんて声をかけようかなって」
両親のいる手前、今までのようなおちゃらけた会話はしない方がいいだろう。
とはいっても真面目モードに振りすぎると逆に茜に突っ込まれかねない。
ーー……一体どうすれば。
そんなことを脳内でグルグルと考えていると、茜の母親が「ふふふ」と笑う。
「え、なんかオレ変でした?」
「ううん、茜にもこんな可愛いボーイフレンドがいたんだなって思って」
ーー……!?!?
ボ……ボボボボーイフレンド!?!?
夢のような言葉にオレの顔が一気に赤く染まっていく。
「な、なな何を言ってるんですか!」
「ふふ、ごめんね。 あの子も辛い毎日を送ってるだけじゃなかったんだなって思うと嬉しくて」
茜の母親の言葉に旦那さんも「確かにな」と小さく頷いている。
「えええ、ちょっと待ってくださいよ、茜さんに会う前にお二人のその言葉に緊張しちゃうじゃないですか!!」
「あははは」
「ふふふ」
オレの焦った姿がツボに入ったのか、茜の母親はハンカチで涙を拭いながらオレを見つめる。
「あー、ごめんねダイキくん。 でも今のダイキくん見てたら茜が何でダイキくんのことを楽しそうに話していたのか分かる気がするわ」
「そ、そうなんですか?」
「うん。 『ダイきちくんがこんな話してくれたー』とか、『今日も会いにきてくれたー』とか、色々ね」
は……恥ずかしい!!!!
オレがあまりの羞恥から顔を真っ赤に赤らめていると、茜の母親が「だから……」と小さく口を開く。
「?」
「だから、茜に会ったら私たちのことは気にせず……今までみたいに話しかけてくれたら嬉しいな」
茜の父親も「そうだね、ダイキくん。 もしダイキくんが望むなら、僕たちは席を外してるから」とミラー越しにオレに微笑みかけてはいるが……
「いや、その言い方お見合いですやん」
「あっはははは」
「ふふふふふ」
こうして車内は笑いに包まれながら目的地・茜の家に到着。
オレは未だどんなことを話そうか考えつかないまま茜宅へとお邪魔する。
「あの……茜さんはどこに?」
茜に聞こえたらドッキリの意味がないからな。
オレは小声で茜の両親に尋ねる。
「茜はリビングで祖父と一緒にいるよ」
茜の父が明かりのついているリビングの扉を指差す。
「おじいちゃんとですか。 分かりました」
オレは静かにリビングの前へ。
扉の前で一旦立ち止まると深呼吸をし、「よし」と小さく気合を入れて茜の祖父が驚かないような勢いで扉を開けた。
「茜、ドッキリで会いに来まし……」
ーー……え。
何がどうなっているのだろう。
中を見渡しても茜の姿は見つからず、いるのは茜の祖父らしきおじいさんのみ。
あれ、茜は……トイレ?
タイミングを間違えてしまったと思い後ろを振り返るも、茜の両親はまったく動じずにまっすぐリビングの中へと視線を向けている。
「おおお、この子が」
リビングの中にいたおじいさんがオレのもとへと歩み寄り茜の両親に視線を向ける。
「えぇお父さん。 この子が茜がよく口にしていたダイきちくんよ」
「そうか……よう来た、よう来た」
茜の祖父は「さぁさぁ中へ入りなさい」と頭上にはてなマークを浮かべたオレの肩に手を回してリビング内へと誘導。
その後ろを茜の両親も続く。
「ええええ、ちょっと待ってください。 あの、茜さんは?」
「ほーら、茜ちゃん、ダイきちくんが来てくれたぞー」
「え?」
茜の祖父がそう声をかけた方向に視線を向けるとリビングの奥……6畳ほどの和室と繋がっており、その中心に敷布団が敷かれている。
誰か寝ているな……茜か?
まぁ確かに茜も久しぶりの実家なんだ。 安心して眠くなるのも分からなくもない。
ただこれではドッキリ出来ないし、起こすわけにもいかないなと思ったオレは茜との会話を断念。
クルリと茜に背を向けて茜の両親に今日は帰ることを伝えようとした……のだが。
「ほら、ダイきちくんも声をかけてやってくれ」
「え?」
茜の祖父はそんなオレの背中を強引に押していき和室の方へ。
「えええ、いいんですか?」
「あぁ、そのほうが茜も喜ぶじゃろて」
「あー……じゃあ分かりました」
家族が許可を出したんだ。
もしかしたら茜の寝起きドッキリを近くで見たいのかもしれないな。
そう考えたオレは「よし」と小さく気合を入れて茜の眠っているらしい敷布団の前に歩みを進めていく。
しかしオレはそこで信じられないものを目にすることとなったのだった。
「ーー……え」
敷布団……その上で眠っているのは確かに茜なのだが、真っ白な衣装を身に纏っており……何故かその周囲にはドライアイス。
そこからモクモクと白い煙が静かに沸き立っている。
ウソ……だろ。
「……あの、これって」
予想してなかった光景に頭が真っ白になったオレは声を震わせながら後ろにいた両親に尋ねる。
まさかオレに対する逆ドッキリというわけでもあるまい。
すると茜の両親は小さく頷き、その重そうな口を開いた。
「えぇ……茜は頑張った……頑張ったんだけどね」
え。
「そう、茜は頑張ったんだ。 だからほら見てみてよ……茜、やりきったって顔、してるだろ?」
なん……だと。
オレの心の中で何かがパリンと割れ、それと同時に涙が一気に放出。 視界が涙で沈む。
それからオレは茜に何かを話しかけていたらしいのだが、心ここにあらずといった感じだったので内容はまったく覚えておらず。
気づけば再び茜の父親に車に乗せられており、また気づけば家の前で降りていたのだった。
ちょっと待ってくれ、これは一体どういうことだ。
教えてくれてた結末と違うぞ美香。
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◆安心していただくために◆
「おいおいこれ初のバッドエンドか?」と考える方が多いと思われますが……先に言っておきますと極上エンドを用意しておりますのでご安心下さい☆
(ちなみに愛莉のような幽霊エンドではないですよ!)




