301 幸せの連鎖!!
三百一話 幸せの連鎖!!
「くそ……昨日の雨のせいでバスが遅れてなかったら間に合ってたかもしれないのに」
休憩スペースで運の悪さに絶望したオレは、ジーッとスマートフォン……今までの茜とのメールのやりとりを眺めていた。
出来ることなら茜に「一時帰宅おめでとう」と送りたい……でもせっかくの久しぶりの家なんだ、メールとはいえあまり邪魔したくないよなぁ。
「ーー……そういやおばあちゃんも明日か明後日に退院って言ってたし、顔だしてから帰るか」
このままここにいても意味がないと感じたオレは重い腰をあげて福田祖母の入院している病室へ。
するとその途中、少し遠くで「本当ですか!?」と歓喜にも満ちた叫び声が聞こえてきた。
気になり視線を向けてみると……なんと陽奈の母親だ。
医師と話をしながら目に涙を溜めて微笑んでいる。
ーー……何事だ?
少し離れたところからその様子を眺めていると、オレの視線に気づいたのか陽奈の母親と目が合う。
「あ、ダイキくん!」
陽奈の母親は医師に深くお辞儀をした後にテンション高めな状態でオレのもとへ。
「ねぇ聞いてくれる!?」と目を輝かせながらオレの腕を掴んだ。
「ど、どうしたんですか?」
「あのね、陽奈ちゃんが……陽奈ちゃんが治るかもしれないの!」
そう口にした陽奈の母親の目から溜まりに溜まった感情が一気に頬を伝い落ちる。
「陽奈が……治る?」
「そう! ちょうどドナーが見つかってね、運よく陽奈ちゃんに回ってきたらしいの!」
「ええええええ!?!? そうなんですか!?」
「そうなのよ!! それでまだ陽奈ちゃん、体力もそこまで落ちてないからってさっき先生が!」
おぉ……おおおおおおおお!!!!
茜に続いて今度は陽奈とは!! これはめでたい!!!
「やったじゃないですか!」
「ありがとうダイキくん! それで今から陽奈ちゃんにこのこと話に行こうと思うんだけど、ダイキくんも一緒に来てくれない?」
陽奈の母親が「お願い」とオレの前で手を合わせる。
「えっと……いいんですか? その場にオレがいても」
「勿論よ。 陽奈ちゃん、親族以外面会不可になってからずっと『ダイきち来ないかなー』ってボヤいてたんだから。 ダイキくんが来てくれた方があの子も元気になると思うの」
おーー、陽奈!! そこまでオレを欲してくれていたとはな!!
本来なら茜を元気付けるつもりで来たんだけど、茜は家に帰ってていないから仕方ない!
ここは茜を元気付けられなかった分、陽奈を最高に喜ばせてやるぜ!!!
こうしてオレは行き先を変更。
陽奈の母親と共に陽奈の入院している病室へ。
そこで移植手術の説明をしに来てくれる医師が来るまでの間、陽奈との時間を過ごすことになったのだった。
◆◇◆◇
オレが扉を開けると、久しぶりの陽奈がこちらに視線を向けてくる。
「あーー、ダイきちだぁーー」
陽奈が力なく微笑みながらオレに柔らかく手を振る。
ーー……ていうかあのうるささはどこ行った?
オレがそんな陽奈の不自然さに戸惑っていると後ろから陽奈の母親が小さく耳打ちをしてくる。
「あのね、陽奈ちゃんあれから結構大変で……元気そうなんだけどフラフラなの。 あまりそこは聞かないであげて」
オレは小声で「わかりました」と答えると、いつもの雰囲気を漂わせながら陽奈のもとへ。
「元気そうだな」と声をかける。
「うんー、陽奈、ずっと元気だよー」
「そうか」
「そう。 陽奈、看護師さんやお医者さんにも褒められてるんやけんー」
陽奈がニコニコと笑いながらオレにピースサインを向ける。
「そうなのか?」
「うん。 陽奈の病気ね……ここがギューってなって、大人でも我慢できないくらい痛いらしいんだけど、陽奈、我慢できて偉いねーって」
ーー……愛莉、やりきったんだな。
「そうか。 すごいな陽奈は」
「えへへー、でしょー? でも陽奈、なんでかその時の記憶ないんだよねー」
「なんでだろうねー」と陽奈が笑っていると、陽奈の母親が優しく陽奈の頭を撫でる。
「ママー?」
「きっと愛莉ちゃんが陽奈ちゃんを守ってくれたんだよ」
「お姉ちゃんがー?」
「うん」
「そっかー、そうだったらいいなぁー」
陽奈はゆっくりと手を伸ばして近くの棚に置いてあったノートを手に取る。
あれは前に見たことがある……そう、生前愛莉が書き記していた【病気が治ってからの、やりたいことノート】だ。
まさか持ってきていたとはな。
そしてそのノートの隣には美香からもらった身代わりのお守り。
果たしてちゃんと効果があったのかは定かではないが、神様である美香がくれたんだ……きっと何かしらの恩恵は受けられているのだろう。
そんなことを考えていると、陽奈がオレを見つめてきていることに気づく。
「ん、どうした?」
「そういやさ、ダイきち、なんで入って来れたんー?」
「え?」
「だって今、陽奈のこの部屋……病院の人とママやパパしか入ってこれんはずやけんー」
「あー、それはだな……えっと」
オレが答えていいものか迷っていると、それを察した陽奈の母親が「ねぇ陽奈ちゃん」とオレの言葉を遮って陽奈に話しかける。
「なにママー。 陽奈、今ダイきちとお話してるんやけんー」
「そう言わないで。 ママがダイキくんをここに誘ったんだよ?」
「そうなんー? だからか来れたのかー。 ママ、ありがとー」
あぁ……陽奈のあのうるさいレベルの元気な姿、また早く見たいぜ。
オレが目の前の陽奈を見ながらそんなことを願った……その時だった。
『ええええええええ!?!? ドナー見つかったのおおおおおおおおお!?!?』
ビクゥ!!
突然の叫び声に驚きながらも周囲を見渡すと、陽奈の母親の隣に愛莉の姿。
口をパクパクさせながら手足を細かく震わせている。
あれだ……母親の考えを読んだのだろう。
誰もいないところに視線を向けていると怪しまれかねないのでオレはとりあえず愛莉を無視……するとまぁ、こうなるよな。
愛莉が『ちょっとダイきちくん、どういうこと!?』と言いながらオレの目の前にすっ飛んでくる。
ーー……いや、ここで話せるかよ。
『大丈夫!! そうやって頭の中で話してくれたら会話できるから!!』
愛莉がオレに顔を近づける。
ーー……勝手に読むな。 また下ネタ言うぞ。
『うん、それは後で好きなだけ聞いてあげるから……なにがどうなってるの!?』
ーー……愛莉さんのお母さんの考えてた通りだよ。
オレも詳しくは分からないけど見つかって陽奈に話が来たらしいぞ。
そう脳内で答えると愛莉が『やったぁーー!!!』と喜びの声を上げながら空中をくるくると舞う。
『陽奈ちゃん、助かるかもしれないんだー!』
そうだな。 よく耐えたな。
『ありがと! これもダイきちくんと美香さんのおかげだよ!』
愛莉が『ほんとありがとー!』と言いながらオレに満面の笑みを向ける。
ーー……てか、え? なんでオレたちのおかげ?
『だってほら……お守りくれたでしょ不動明王様の! 明王様の御力のおかげで、痛みがほんのちょっとだけ和らいだんだよね!』
そうなの!?
『うん! だから私も鎮痛剤少なめで耐えてこれたんやけん!』
おお……おおおおおおおおお!!!!
さすがは美香がイチオシと言ってただけのことはある!! ちゃんと効力発揮してんじゃねえかああああ!!!!
オレは改めて美香の存在に感謝。
その後に帰ったら絶対に何かしらの献上品とお礼を言おうと心に決めたのだった。
そうこうしている間に今回の手術を説明しにきた医師が到着。
オレは話が終わるまでの間、邪魔にならないように部屋を出て再び時間を潰すことにしたのだった。
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