300 早く会いたい!!
三百話 早く会いたい!!
茜が手術室へと運ばれたその日。
それからずっと手術室の近くで終わるのを待っていたのだが、結構時間がかかる大手術らしく気づけばもう夜。
関係者ではないオレは看護師さんたちに促され……途中、汗を掻きながら向かいから走ってきた茜の両親らしき夫婦とすれ違いになるようにして帰宅したのだった。
ーー……まぁでも美香が『茜は元気な身体で退院する』って言ってたし、大丈夫なんだよな?
ちなみに帰りのバスを待っている際、美香に電話をかけようと試みたのだが……一体何をしているんだろうか。
いくらかけても繋がらなかったのだった。
◆◇◆◇
「ーー……イキ」
ーー……。
「ねぇダイキ、大丈夫?」
「!」
晩御飯時。 優香の声で我に返ったオレはビクンと体を反応させながら「どうしたの?」と尋ねる。
「それはこっちのセリフだよ。 ずっとお箸持ったままボーッとしちゃって……何かあったの?」
優香に余計な心配をかけさせるわけにはいかない。
オレは不安と心配でまったく食欲がなかったのだが、それを無理矢理ねじ込むように胃に入れながら「なんでもないよ」と答える。
「えっと……入院してる女の子のこと?」
「え」
突然の図星。
持っていた箸が手から滑り落ち、テーブル上でカランと音を立てる。
「お姉ちゃん……それどうして」
「前に陽奈ちゃんの様子を知りたくておばさんに電話した時に聞いたの。 ダイキがよくその子と一緒にいたのを見たって」
陽奈の母親との会話の中からここまで予想できるなんて。
流石は姉……いや、女の勘というやつなのだろうか。
となればもう隠す意味もない。
オレは正直に「その件だよ」と答える。
「偶然話したのがきっかけで仲良くなってさ。 元気付けるために色々やってたんだけど、ちょうど今日……帰る時に急に容態が悪くなって緊急手術することになったんだ」
「えぇ!? そうなの!?」
「うん。 まぁ大丈夫だとは思うんだけど……なんだかんだで心配で」
言葉にすると余計に不安が増幅するんだな。
オレは食事の席だというのに「はぁ……」と深いため息をついた。
「そっか。 じゃあ明日は家の掃除とかは全部お姉ちゃんがやっとくから、明日ダイキは朝早くから病院行っていいよ」
「え」
その言葉に驚きながら優香を見上げると、優香がオレにニコリと微笑んでいる。
「いつもは朝のお手伝いとかしてくれてから行ってたもんね。 でも明日はいいから早く会いに行ってあげて。 多分その子も明るいダイキと話せるの待ってると思うし」
「そうなの?」
「うん。 実際にダイキにはお姉ちゃんも何度も救われたからね。 その子の気持ち、ちょっとは分かるな」
「そ、そうなんだ」
なんか改まってそう言われると嬉しいな。
しかしそうか、明日は面会時間開始時刻から行けるってことなのか……なら早起きしなければ。
「分かったお姉ちゃん。 明日はゴメンだけどすぐに病院行くね」
「うん。 家のことは任せて」
この行動でギャルJK星の下着ゲットチャンスを逃すかもしれないけど仕方ない。
今回オレは欲望よりもそう……
愛をとるぜ!!!!
そんなこんなであっという間に翌日。
オレが駆け足で病院行きのバス停へと向かっていると、珍しく人だかりが出来ていることに気づく。
みんな時刻表を気にしているみたいだが……
「何かあったのか?」
とは言ってもそこにいる人数は10人未満。
オレは気にはなったのだが茜の心配が勝っていたので後ろの方で待つことに。
するとオレに気づいた1人のサラリーマン風のおっちゃんがオレに話しかけてきた。
「えっと……なんですか?」
「いやさ、参ったな」
「何がです?」
「ほら、昨日の夜中に結構な雨降ったやろ?」
「雨……あー、確かに降ってましたね」
そういやあまりの豪雨で途中、目が覚めたような。
「それで道が一部冠水しちゃったらしくてさ、バス……回り道したりして運行してるからかなり遅れてるらしいよ」
「ええええええええええ!?!?」
聞いてみると、1時間以上ここで待っている人もいるとのこと。
そんな突っ立ったままで居られるかああああああああああ!!!!!
オレはおっちゃんにお礼を言うと「ふぅ……」と深く息を吐く。
「あ、君帰るの?」
「いえ、走ります」
「え」
「それじゃあ」
オレはスマートフォンで地図を表示させるとそのままダッシュ。
息切れしたって関係ない。 1秒でも早く茜の無事な姿を見たい……その一心で病院までの道を駆け抜けたのであった。
ちくしょう、ちょっと前にぶつけた右足の小指がまだ若干痛むがそんなの知らん!!!
チェリーパワーを……舐めんじゃねえぞおおおおおおおお!!!!!
◆◇◆◇
時刻はお昼前。
長い道のりを走り切りなんとか到着したオレは息を切らしながらも茜の入院部屋へ。
「茜さんっ……!」と名前を呼びながら扉を開けたのだが……
「ーー……あれ?」
そこに居たのは昨日すれ違った2人の夫婦。
「君は?」
夫らしき男性がオレに声をかける。
「福田ダイキ……です」
そう答えると女性が大きく目を開く。
「あぁ、あなた、あの子の言ってたダイきちくんじゃない!?」
「……!! そうか、君がダイきちくんか!」
この反応からして、やはり茜の両親で間違いなさそうだ。
茜の父親がオレの方に歩み寄ってくると固い握手を交わしてくる。
「茜は君のおかげで本当に明るくなったよ。 ありがとう」
「え、あ、はい。 それでその……茜さんはどこですか? 検査とか行ってます?」
オレが部屋の外に視線を向けながら尋ねると茜の母親が静かに首を左右に振る。
「ごめんねダイキくん、わざわざ来てもらったのに」
「え?」
「夜遅くに手術が終わってね、茜……今は久しぶりに家に帰ってるの」
「ええええええええええええ!?!?!?」
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気づけば300話ですガタガタガタ!!
当初はここまで続かせる予定ではなかったのですが、皆様のおかげでここまで来れてます!
これからも小五転生をよろしくお願いします!!




