30 偶然起きた事故
三十話 偶然起きた事故
「なぁ三好」
「なに福田」
「ちょっと本気で蹴って」
朝、人気の少ない校舎裏でオレは壁にもたれて座りながら三好を見上げる。
「え、なんで? まだ放課後でもないのに」
「いいの。なんか今無性に蹴って欲しいんだよな」
「ほんと福田って実は変態なんじゃ……まぁいいや、じゃあ思い切り行くよ!」
三好は頭上にはてなマークを浮かばせながらも右足を曲げ、視線を目の前の2つあるボールへと狙いを定めた。
うおおおおおお!!! このゾクゾク感……堪らないぜえええええ!!!
オレは口角が上がりそうになるのを必死に隠しながら「中心だぞ!」と懇願。 三好も「え、てことはもちろんソコだよね?」とオレに確認を入れてくる。
「もちろんだ! 遠慮はいらない! こい!!!」
「泣いても知らないから!!」
三好の脚が風を切り目の前の目標物であるボールへ。
そして三好の足先が対象のボールを蹴り上げた瞬間、何故かオレの体内で鈍く重い金属音が鳴り響いた。
◆◇◆◇
あぁ……やっと目が覚めたぜ。
見事なシュート。
オレは何故か下半身で長く続いている痛みを感じながら机に突っ伏す。
「しっかしこれで授業中寝ないで済みそうだぜ」
これには訳がある。
昨夜、目をつぶると姉・優香の太ももや結城が脳裏に浮かび、このままでは眠れないと感じたオレは気持ちをリセットするために昔のオレの大学からの友達・工藤に電話をワンギリ。 そこから工藤が掛け直してくれて、延々とアニメや漫画・小説について語ってしまっていたのだ。
「気づけば午前四時だもんな。 仕方ねーから起きてたけど、少しでも寝てたらよかったぜ……」
三好の蹴りで興奮したおかげでだいぶ眠気は去ったけど流石に体は重い。
そんな自分の体調に絶望を感じていると、突然隣からモブ男子が「福田ー! 朝からキモいぞー!!!」と肩にグーパンチを当ててきた。
「いった……」
今度はこいつを締め上げるか?
そう思ったオレはその男子を軽く睨む。 名前は……佐久間か。
「お? なんだ福田その目は、やんのか?」
佐久間はオレが復讐を考えているなんて気づいていないんだろうな。
ただ反抗的な目を向けられたことにイライラしたのか、完全に上から視線でオレに煽り言葉を入れてくる。
いやいやオメーなんかオレの相手にもなんねーよ。
とりあえずもう1発殴らせて……それを三好か多田に動画撮らせるか?
そんなことを考えていた時だった。
「なんか言えよ!!」
佐久間がオレの返事を待ちきれずに殴りかかってくる。
オレもそれには流石に短気すぎるだろと心の中でツッコミ。 しかしこれで怪我をすればそこから揺すってやるぜと佐久間の迫ってくる拳に視線を向けていたのだが……
「きゃっ!!!」
ーー……ん?
なんというタイミングだろうか。 佐久間のグーパンは偶然通りかかった学年のマドンナ・水島花江に命中。 水島がその場で尻餅をつく。
「あっ、ごめ……」
佐久間があまりにも突然のことで動揺しながら水島に謝るも、水島の瞳には涙が溜まっていく。
「ーー……ぐすっ」
あーあ、泣ーかした。
水島は殴られた右腕を押さえながらシクシクと泣き始め、それを見ていた遠巻きの女子たちが慌てて水島のもとへ。 水島を庇いながら「ちょっと佐久間ー! 花江ちゃん泣いてんじゃん、なんでそんなことするの!?」と佐久間に詰め寄り出した。
ーー……いや、オレがやられそうになってる時も止めに来いやモブ女ども。
「ち、ちげーよ! 福田を殴ろうと思ったらちょうど水島さんが……」
「ひどーい! 花江ちゃん、保健室いく?」
「ーー……うん」
こうして水島は女子に付き添われながら保健室へ。 その後佐久間は職員室に呼び出され、こっぴどく叱られたようだったのだが……
放課後。
「福田……ちょっといいか」
オレがそろそろ帰るかとゆっくりと席を立とうとしたところ、佐久間がオレの肩を弱めに叩いてくる。
「なに?」
「ちょっと……話があるんだ」
聞くと今朝、佐久間が水島を殴ったところを目撃したクラスの誰かが出席停止中の杉浦に密告したらしく杉浦から話があるから公園に来いと連絡が来たとのこと。
それでオレに一緒に同行してもらい、あれが事故だったということを説明してほしいという。
「いや、なんで」
「頼むよ……! このままじゃ俺……杉浦にボコボコにされちまう!!」
佐久間が両手を合わせて、必死の形相でオレに頭を下げてくる。
ちょ……、なにそれ超面白い展開じゃん!!!
しかしオレもこんなモブのために自ら死地に行く義理などない。 杉浦はオレをかなり恨んでるかもしれないし、そこでこいつが裏切る可能性も大いにあるからな。
なのでオレは佐久間にこう助言することにする。
「別に行かなくていいんじゃない? 杉浦くんどうせ学校来れないんだし」
「ーー……そ、それはそうだけどよ」
「それにもし戻ってきたとしても問題起こして出席停止してたんだから大人しくしてると思うよ? だから行かなくてもなにもされないと思うけど」
オレは心の中で悪魔の笑みを浮かべながら佐久間に囁く。
これで誰も行かなかったら杉浦は誰もいない公園で一人ポツンと待つことに……クックック!!!!
そして佐久間も自分の安全が大事だったのだろう。 「た、確かにそう……だよな」と開き直ったように高らかに笑いだした。
「そうそう」
「だよな! 別に俺が行かなくたって問題ないしな!」
「ないない」
「福田、たまには役に立つじゃん! キモいけど!!!」
佐久間はそうオレに軽く毒を吐いた後、爽快に走り去っていったのだった。
まぁぶっちゃけオレには佐久間や杉浦がどうなろうと知ったこっちゃない。
さてさて、じゃあオレは公園で待ち呆けてるであろうかわいそうな杉浦の様子でも見てくるかなニヤニヤ。
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