298 神様のいう通り
二百九十八話 神様の言う通り
オレが男としてのプライドを失った日から4日。
もちろんその間もオレは病院へと赴き、面会出来ない陽奈には会えずとも茜とは頻繁に会って話をしていたのだが……
茜の入院部屋のある階の休憩スペース。
茜の検査の時間にオレは美香とそこで時間を潰していると、いきなり美香が白い封筒を取り出してオレに差し出してきた。
「ダイキ、これ」
「ん? なんだこれ」
「内緒」
美香が口元に指を当てながら小さく首を振る。
「内緒って……。 今開けて読んでもいいか?」
「だめ」
「は?」
今読んだらいけない内容って一体……?
意味が分からないオレは美香の言葉を無視して封筒の中を覗き込む。
すると美香が「言うことを聞かない人にはバチが当たる」とポツリと呟いた。
「え」
「もし見たらダイキ、一生片想い」
「!!!!!」
いきなりの恐怖の言葉にオレはピタリと動きを止める。
「み、美香……。 何を言って……」
「それを勝手に見たら今後一生、ダイキの人生は片想いで終わる」
美香が静かにオレを見つめながら封筒を指差す。
「な、なんだよ冗談厳しいぞ。 てかそんな事流石に神様でも……」
「信じられないなら読めばいい。 でもその後は知らない」
ビクゥ!!!!
くそ……こういう時は相手の表情を見たら嘘かどうかわかるって前にテレビで言ってたけど……美香のやつ、全然表情変わってないから分からねぇじゃねえか!!!
99パーセント冗談だとは思うけど、もし仮に残りの1パーセントだった場合のオレのリスクが計り知れない。
オレは静かに頷くと封筒をテーブルの上に。
「じゃあいつ読めばいいんだ」と尋ねると、衝撃の返事が返ってきたのだった。
「数日後……茜が退院する。 その後に読んでほしい」
ーー……え?
オレは一瞬耳がおかしくなったのかと思い、再び美香に尋ねることにする。
「えっと……美香、今なんて……。 茜って退院するの?」
「する」
美香がコクリと頷く。
ま……マジか。
「それは……決まっていることなのか?」
「間違いない。 数日後、茜は元気な身体でこの病院を出て行くことになる」
「おぉ……! おおおおおおおおおおお!!!!!!」
ちなみにこのことは茜には言ったらダメとのこと。
「てことはさ、この封筒の中の手紙は茜に関することが書かれてるのか?」
「ーー……」
「じゃあなんでわざわざ茜が退院するまで待たなきゃダメなんだ?」
「禁則事項」
なるほどな、これは絶対に口を割らないやつだ。
美香も「ダイキ、ちょっとしつこい」と無表情のまま頬を膨らましている。
「分かったよ、もうこれ以上は言わない。 じゃあ最終確認だけど、茜が退院したら読んでいいんだな?」
「いい」
美香がコクリと頷く。
まぁこれで勝手に読むようなことはしないさ、片想いオンリーの人生を歩むのも嫌だしな。
オレが美香から受け取った手紙をカバンに入れると、それを見届けた美香は「それじゃあ美香は行く」と言いゆっくり席を立つ。
「ん? まだ茜の検査終わってないぞ?」
「違う。 美香、帰る」
「は?」
「帰る」
「えっと……どこに」
「もうここには来ない」
「えええええええええええ!?!?!?」
あまりにも急な展開にオレは理解が追いつかずに美香の手首を咄嗟に掴む。
「離して」
「いや美香待てって! まだ茜、退院してないぞ!?」
「知ってる」
「じゃあなんでだよ! 茜が心配でわざわざここまで来たんだろ? だったら最後まで一緒にいてあげようぜ?」
そう語りかけると美香は一瞬視線をずらし、その後にゆっくりとオレを見上げた。
「み、美香?」
「美香には他にもやることたくさんある。 忙しい」
「いやでも……」
「ここに来てよかった。 ダイキ、後はよろしく」
「ええええ……」
美香の意思は固いようで、オレの手を優しく振り解くとそのままオレに背を向けて歩き出す。
なんというかこの行動が読めないところが神様っぽいというか……
そんな事を考えていると、途中で立ち止まった美香がこちらを振り向く。
「ーー……美香?」
「ダイキ、美香の言葉……覚えてる?」
美香の言葉……
「それって手紙を読むのは茜が退院してからってことだよな?」
「それもある。 後は……」
美香は無表情ながらも儚げな視線を送りながらゆっくりと口を開き、こうオレに告げた。
「家に帰るまで……気を抜いちゃダメ」
「あー、あれか。 前にメールくれたやつだよな。 それって結局どういう意味で……」
「じゃあダイキ、バイバイ」
「おーーーーーい!!!」
こうして美香はその場を後に。
急いで追いかけようとしたのだが、曲がり角を曲がったところで美香の姿は消失……いつものように何処かへと消えてしまっていたのだった。
そしてその日の夜。
そろそろ寝ようとしていたところでスマートフォンが振動。 確認してみると茜からの電話のようだ。
一体こんな時間にどうしたんだと思いつつも電話に出ると、少し震えた声で『もしもしダイきちくん?』と茜の声が聞こえてきた。
『ごめんねこんな遅くに。 もう寝てた?』
「ううん、まだ大丈夫だけど……どうしたの?」
『あのね、これ……また今度言おうと思ってたんだけど、我慢できないから言っちゃうね』
「うん」
『私、最近調子良くてリハビリ結構してたじゃない?』
「うん」
『それでさ、その様子見てた先生が、『今が一番調子良さそうだから、近いうちに手術しないか』って』
「え!?」
『私……この病気、治るかもしれないの!』
そう口にした茜の声は、とても幸せそうな色をしていた。
それにしてもすげぇな……本当に神様の言う通りになっちまったぜ。
お読みいただきましてありがとうございます!
下の方に星マークがありますので、評価していってもらえると嬉しいです!
感想やブクマ・レビュー等お待ちしております!!
挿絵描く時間が切実に欲しい作者です 笑




