294 いい方向へ?
二百九十四話 いい方向へ?
福田祖父母の実家に来てから約1週間。
美香が来たタイミングで調子がよくなり始めた茜はリハビリの時間が少しずつ増えていったことにより、あまり話す時間がなくなってきていたのでオレは基本的に午前中は福田祖母の入院部屋……その後茜の部屋を覗いて帰る日々を送っていた。
ーー……うん、分かるぞ。
陽奈はどうした?って聞きたいんだろ。
それは今から2日程前のことなんだが……
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茜がこれから夕方の検査があるということで、オレは茜に別れを告げて陽奈の部屋へ。
呑気にドアをスライドさせて開け、元気に出迎えてくれるであろう陽奈を予想しながら顔を覗かせた。
「陽奈ー、どうだ元気かーー……って、、」
ーー……え。
オレは目の前に映っている光景に愕然とする。
そこにはオレの先ほどまで予想していた……元気に手を振りながら「ダイきちー!」と出迎えてくれるはずの陽奈の姿はなく、まさに真逆……ベッドの上で上体を起こし、胸を押さえながら苦痛の表情を浮かべている陽奈の姿だった。
額からは大量の冷や汗が滲み出ている。
「ちょっ……! 陽奈、大丈夫か!?」
部屋には誰もおらず、いるのは陽奈だけ。
オレは急いで陽奈のもとへと駆け寄るとコールボタンを迷わず押した。
「あ……ありがとう、ダイきち……くん」
陽奈が僅かに顔を上げて無理やり笑顔を作る。
「……!! その話し方……愛莉さん!?」
オレの問いかけに陽奈がコクリと頷く。
そうか……そういや苦しくなるタイミングで陽奈に憑依するとか言ってたもんな。
「えっと……愛莉さん、今看護師さん呼んだから!」
それから間も無く看護師さん数名と医師が到着。
オレが邪魔にならないように部屋から出ている間に点滴やら何やらのいろんな処置をしてくれたらしく、部屋に戻った時には陽奈はスヤスヤと寝息を立てていたのだった。
「まさかここまでとはな……」
オレがポツリと呟くと後ろから『本当だよ……』と愛莉の声。
振り返るとかなり疲弊した様子の愛莉が力なく宙に浮いている。
「あの……愛莉さん?」
『なんかアレだね。 痛みってこんな感じだったなって改めて実感したよ』
愛莉が胸の辺りに手を添えながら小さく息を吐く。
「今は陽奈は……?」
『鎮痛剤みたいなもの入れてもらって寝てるから大丈夫だよ。 とりあえず陽奈ちゃん起きてからまた憑依するかどうかは決めないとだけど』
「なるほど……」
オレがどんな言葉を言えばいいか迷っていると、愛莉が『それにしてもさ……』と話を切り出してくる。
「なに?」
『いやね、よく私あんな痛みに長い間耐えてたなーって思って』
愛莉が『あはは……』と笑いながら陽奈に視線を向ける。
「やっぱりめっちゃ痛いんですよね? 見てるだけでもヤバかったですし」
『そうだね。 例えるなら……そう、前にダイきちくんに憑依したとき、神様にソコをおもいっきり蹴られたことあったでしょ?』
「うん」
『何がとは言わないけど……あの時の潰れそうなくらいの痛み以上の激痛が心臓にきてるって感じかな』
「あれ以上の激痛が……心臓から!?」
ーー……ヤベェ。
想像しただけでも絶望しかねぇ。
『だからあの時さ、私……手で胸を押さえたまま離せなかったんだ。 ほら、男の子も蹴られたときってギュッて押さえるでしょ?』
「うん」
『声を出すのもやっとなくらいだったし……本当ダイきちくんが来てくれて助かったよ』
その後看護師さんたちが連絡を入れてくれたのか、陽奈の母親がまだ寒いというのに汗をダラダラと流しながら息を切らして登場。
オレに「陽奈と一緒にいてくれてありがとう」と声をかけると眠っている陽奈のもとへ。
優しく陽奈の頬を撫でながらオレに視線を向けた。
「?」
「看護師さんから聞いたわ。 知らせてくれて本当にありがとうね」
「あー、いや。 はい」
「後はおばさんがいるから大丈夫だから」
「ーー……分かりました。 じゃあオレはこれで」
その日の夜。 福田祖父母の実家の電話が鳴り、優香が出るとどうやら陽奈の母親からのよう。
「え、そうなんですか? はい……、はい。 分かりました伝えておきます。 はい、それでは」
一体どんな話だったのか。
気になりながらも電話中の優香を見つめていると、受話器をおいた優香とちょうど目が合う。
「えっと……ねぇダイキ」
「なに?」
「陽奈ちゃん、ちょっと危険な状態らしいから安定するまでは近親者以外は面会出来なくなっちゃったんだって」
ーー……え。
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そう、そういうことがあってからオレは陽奈に会えていないんだ。
おそらくオレが病院内にいるときでも愛莉が近くに現れないってことは……そういうことなんだろう。
「どうしたもんかなぁ……」
茜の入院部屋の階にある小さな休憩スペースで深く息を吐く。
「どうしたのダイキ」
オレの対面には美香。
美香が相変わらずの無表情のままオレに尋ねてくる。
「いやさ、ほら憑依の練習した愛莉いるだろ? あの子の妹の陽奈が結構今ヤバいらしいんだよ。 それでオレに出来ることってないのかなーって思ってさ」
「あるとしたら言霊。 後は……美香がこういうのもアレだけど、由緒正しい神社でお守りを買って渡すのも1つの手」
美香が人差し指を立てながらオレをまっすぐ見つめる。
「お守り?」
「そう。 神社で売られているお守りはただのジンクスではない。 ちゃんとお守り全体にその効果に沿った祝詞が奏上されている」
「ノリトを……ソウジョウ?」
オレの頭上にはてなマークが複数個出現。
「えーと……どういうこと?」と尋ねながら首を傾げた。
「簡単にいうとそのお守りの効果に合わせた……その効果専門の神の力を借りた祝福の呪文」
「その効果専門の神?」
「例えば縁結びのお守りには縁結びの神の力。 合格のお守りには学問の神の力」
「あー、そういうことか」
オレが少なからず納得すると、美香が「そう」と頷く。
「もちろんそれは絶対ではない。 ただ背中を押す程度の力と考えてもいい。 でも無いよりは遥かにマシ」
「なるほどな。 じゃあオレはどんな効果のお守りを買えば……」
「これをあげる」
「え?」
そう言って美香が渡してきたのは小さな紙に包まれた手のひらサイズの何か。
中を開けてみると、そこには先ほど話したばかりのお守りが入っている。
「これは……」
「身代わりのお守り」
「身代わり?」
「そう。 不動明王の力が込められている。 これは美香のイチオシ」
美香のメガネがキラリと光る。
「えっと……ありがとう。 でも美香、なんでこれ持ってるんだ?」
「美香、ここに来てから病院にいない時、何をしてたかダイキ、知ってる?」
「いやすまん、知らない」
「美香、周辺にあるお寺や神社を回って、そこの神仏に挨拶しながら効果の高いお守りを選んで集めていた」
そう言うと美香は肩掛けの小さなカバンの中からいくつかの神社やお寺の名前の書かれたお守り袋をテーブルの上に置いていく。
「おぉ……マジか美香」
「マジ。 美香、茜には元気になってほしい」
なるほどな。 美香の持つ神の力で治すことは不可能でも、それ専門の神の力を借りて良い方向に軌道修正させていくってことなのか。
「ーー……え、てか気になったんだけどさ、美香は何の神様なんだ?」
「美香はその人の……」
そこまで言ったところで美香はハッと大きく目を開きながら口元を手で押さえる。
「ん? 美香?」
「ダイキ、それは言わない。 内緒」
「いいじゃないか減るもんでもないし」
「ダメ。 このお守りの神たちに比べて劣ってると思われたらイヤ」
「なんだよそれ。 転生させてくれるだけでも充分凄いと思うけどな」
オレが軽くツッコミを入れると美香が「そんなことより早くそれ渡しに行く」と陽奈の病室の方を指差す。
「いや、でも陽奈は今面会出来ないんだよ」
「だったら看護師さんに渡せばいい。 不安なら早く渡して枕元……出来るだけ目の届く場所に、立てかけるように置いてもらうといい」
「なるほどな。 わかった、ありがとうな美香」
こうしてオレは急いで陽奈の病室付近へ。
近くを通りかかった看護師さんに陽奈の病室に届けてもらうようお願いしたのであった。
……これで少しでもいい方向に進んでくれよな。
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