292 特別編・三好佳奈の1日
二百九十二話 特別編・三好佳奈の1日
それはダイキが祖母の入院のため、姉の優香と共に田舎へと帰省していたある日の三好佳奈の1日。
ブーーッ、ブーーッ
授業中、佳奈が珍しく真面目に授業を受けていると、カーディガンのポケットに入れておいたスマートフォンが微弱に振動する。
一体誰だろう……美波か麻由香かな。
佳奈は近くの席に座っていた親友の小畑美波・多田麻由香に視線を向ける。
「ん、どしたの佳奈」
佳奈の視線に気づいた小畑が小声で話しかけてくる。
この感じだと美波ではない。 そして麻由香は黒板に書かれた内容をノートに書き写しているのに必死な様子……従って麻由香でもない。
ーー……てことは誰からだ?
気になり出したら授業どころではない。
佳奈は教師に気づかれないようにポケットからスマートフォンを取り出すと、これまた静かに指をスライドさせて電源ボタンを押した。
【メール受信通知・福田】
「!!!!!!」
ふ……福田!?
思いもしていなかった相手からのメール受信通知を見た佳奈の身体がビクンと反応。
これは気づかれたかと思い担任に視線を向けると、ちょうど教科書を読んでいる途中……
せ、セーフ。
佳奈は「はぁ……」と小さく息を吐くと、気を引き締めるように背筋を少し伸ばして受信通知をタップ。
送られてきたメールの中身をチェックすることにした。
【受信・福田】ポニーテールにしてくれてたらしいな。 早く見たいぜ。
エエエエエエエエエエ!?!?!?!?
あまりの衝撃に先ほどよりも強く佳奈の身体が反応。
勢い余って椅子からズルリとお尻が滑る。
「ほぁ!?!?」
ガタ……ガタターーーン!!!
「三好さん!! 授業に集中しなさい!!」
「す……すみませーーん!!」
◆◇◆◇
お昼休み。
「はい、美波・麻由香・花江、集合」
佳奈は教室の後ろに先ほどの2人……小畑美波・多田麻由香に加え、学年のマドンナ・水島花江を招集し、腕を組みながら見渡していく。
このメンバーはそう……昨日学校終わりに遊びに行ったメンバーかつ、福田と少し濃いめに関わりにある子たち。
「どうしたの佳奈」
多田が不思議そうな顔で佳奈に尋ね、小畑と水島も佳奈に視線を向けた。
この中に……昨日自分がポニーテールで登校してきたことを福田に教えた人がいる。
ということはもしかすると、自分が福田のことを気になってるかも的なことを言われているかもしれない。
もし仮にまだ運よく言われてなかったとしても、言われるのも時間の問題だろう。
……ここは早めに対処しておかなくては。
「この中で福田の連絡先知ってる人挙手」
「え? はい」
「はーい」
「花ちゃんも、はーい」
佳奈の質問に3人が何の疑いもなくその手をあげる。
ーー……うん、麻由香と美波は知ってたけど、まさか花江までアイツの連絡先を知ってるなんて。
「じゃあもう1つ……昨日福田と連絡とった人挙手」
「福田と? ウチはしてないよ」
「私もー」
「そーなの? 花ちゃん昨日ごしゅ……こほん、福田くんとはメールしたよ」
ーー……ギラリ。
佳奈の鋭い眼光がマドンナ水島を捉える。
「はい、花江けってーーい!」
「ひぇ!?」
そう言うなり三好は水島の肩に腕を回すとそのまま教室の外へ。
「ま、待って三好さん! 花ちゃん何かしたぁー!?」
「ふふふー、それを今から聞くから正直に話そうね花江ー♪」
「目が笑ってないよ三好さん!」
「ほら、早く行こっかー」
「三好さーーん!?!?」
◆◇◆◇
少し前まで福田をいじめていた一階の図工室前の女子トイレ内。
水島を壁によらせると、三好は水島が逃げられないように水島の手首を掴む。
「な、何かな三好さん」
「花江ー、昨日福田とお話したんだよねー?」
佳奈の問いかけに水島は目を大きく開きながら何度も頷く。
「何の話したの?」
「え?」
「だから、花江は福田とどんな話をしたのかなーって」
「別に普通だよ? 福田くんが突然自分の精神年齢聞いてきたからそれに答えてただけ」
「それだけ?」
「うん、それだけ。 えっと……顔が怖いよ三好さん……」
そう水島が頷きながら答えると、佳奈はジーーッと目を細めながら水島に顔を近づけていく。
花江のこの表情……別に嘘をついてるようには見えない。
「ーー……そっか。 ごめん花江、私の勘違いだったみたい」
「え」
強引に連れて来られた割にはこの簡単な幕引きに違和感を覚えているのだろう。
水島が目をパチクリさせながら佳奈を見つめる。
「ん、どうしたの花江」
「いや……三好さん、何かあったの?」
美波たちに言ったらイジられそうだけど、花江になら別に話しても問題ない……か。
そう考えた佳奈は掴んでいた水島の腕を解放。 ポケットからスマートフォンを取り出した。
「ちょっと気になることがあってさ」
「気になること?」
水島の問いかけに佳奈は少し顔を赤らめながら「うん」と頷く。
「三好さんが気になってることかー」
何やら話づらそうな雰囲気を感じ取った水島は佳奈が話しやすい空気を作るためだろう……あえて少し前の真面目マドンナタイプにキャラチェンジをして「どうしたの?」と再び尋ねた。
「じ、実はさ、こんなメールが福田から届いてたんだよね」
佳奈が少し前にダイキから届いたメールを水島に見せつける。
「ん、なになに……ポニーテールにしてくれてたらしいな。 早く見たいぜ?」
「ーー……うん」
「ーー……」
「ーー……」
「え」
そう口を先に開いたのは水島花江。
「えええええええ!?!?!? 何でごしゅ……福田くん、三好さんにそんなメール送ってるのおおおお!?!?!?」
水島が口をパクパクさせながらダイキからのメールを指差す。
「何でって……何で?」
「何でそんな内容、福田くんがわざわざ三好さんに送ってきてるの!?」
「え?」
あまりの水島の驚き様に佳奈は一瞬戸惑いながらも「……なんでそんな驚いてるの?」と尋ねる。
「だって知らなかったもん! 福田くんと三好さんがそんな仲だったなんて!」
「そんな仲……はぁあああああああ!?!? なんでそうなんのさ!」
「だってこの文章……福田くん、三好さんのポニーテールが好きってことでしょ!? それで三好さんも、福田くんが三好さんのポニーテールが好きなことを知ってる……もうこれってカレカノ……恋人同士の会話じゃない!!」
「コ……コイビトドウシ!?!?」
水島の言葉を受けた佳奈の顔が徐々に赤く染まっていく。
そしてそれを目の当たりにした水島はそんな佳奈を指差しながら「やっぱりそうじゃないー!!」と叫んだ。
「な、何がやっぱりなの!?」
「だってほらー! 三好さん、恋人同士って言われて照れてるじゃん!!」
「はぁ!? べ、別に照れてないし! それに全然アイツとはそんなんじゃないから!!」
佳奈が必死に動揺を隠しながら水島に反論すると、話を聞く気を無くしたのだろう……水島の様子が現在のゆるふわ系キャラへと徐々に戻っていっている。
「は、花江?」
「はぁー……、花ちゃんなんかショックだなぁー」
水島が頬を小さく膨らませながら小さく呟く。
「な、なんでさ」
「だってね、福田くん大変そうだから……気を紛らわせてあげようと思って昨日三好さんたちと遊んだ時の面白い動画送ってあげたのに、三好さんとメールであんなにイチャイチャしてたなんて……もうとっくに癒されてるじゃんー」
その後もゆるふわマドンナの水島は何やらブーブー小言を言っているが……
「ーー……え、ちょっと待って花江」
佳奈が水島の手をぎゅっと握りしめる。
「なにー? 三好さん。 花ちゃんちょっと今は話をする気力ないかもー」
「『昨日福田に動画送った』ってなに?」
「エ?」
水島が目をパチクリさせながら佳奈を見上げる。
「えっと……三好さん? 花ちゃんなんかマズいことした?」
「ちょっとその動画見せてもらって良い?」
「え? いいけど……」
そういうや昨日、数回に渡って花江に動画を撮られていたような……。
一体どの動画を福田に……
水島は意味が分からないままにスマートフォンを取り出し、佳奈の要望していた動画を見せる。
画面を覗き込んで見てみると、それはアイスクリームを食べながら歩いているところらしい。
そしてその動画の冒頭……
『ねー。 なんで佳奈、朝はポニーテールしてたのに、すぐに髪ゴムとったのー?』
『そんなん麻由香や美波が「どうして急に元の髪型に戻したの?」って聞いてくるからじゃん!』
「!!!!!!」
ええええええ!!! よりにもよってこれ送ったのおおおおお!?!?!?
佳奈はさらに顔が熱くなっていくのを感じて両手で顔を覆い隠す。
こんなの……こんなの「私が福田のことを気になってるからポニーテールにしました」って本人に言っちゃってるようなものじゃない!!!
恥ずかしい!!!!
「み、三好さん?」
そんな佳奈の変な行動を心配に思ったのか水島が顔を覗き込んでくるが……
「も、もういいよありがとう!!」
これ以上こんな赤面した恥ずかしい表情を見られるわけにはいかない。
佳奈はくるりと水島に背を向けると女子トイレから出ようと一歩踏み出す。
「えっと……お話はもういいの?」
「うん大丈夫、ごめんね花江、私の勝手な思い込みだったみたい!」
こうして佳奈はそそくさと女子トイレを出ると人気の少ない図書室の方へ。
次の授業が始まるギリギリの時間まで、何度も深呼吸をして息を整えていたのだった。
◆◇◆◇
そしてその日の帰り道。
そういえばメールに返信していないことを思い出した三好は今朝送られてきた福田からのメールを表示させる。
【受信・福田】ポニーテールにしてくれてたらしいな。 早く見たいぜ。
さて……どう返そうかな。
そう考えていると、ふと脳裏に昼休みに言われた水島のある言葉が再生される。
『もうこれってカレカノ……恋人同士の会話じゃない!!』
「こ、恋人同士ってこんな会話するんだ……」
そんなこと言われたら急に心が寂しくなってくる。
【送信・福田】じゃあ早く帰ってくればいいじゃん。
寒空の下、佳奈はプレゼントされた髪ゴムを取り出して後ろ髪を括りポニーテールにすると、先ほど返事を送信したスマートフォンを強く握りしめて胸に当てながら駆け足で家へと帰って行ったのだった。
お読みいただきましてありがとうございます!
下の方に☆マークがありますので、評価して行ってもらえると嬉しいです!!
感想やブクマ・レビュー等、お待ちしております!!!




