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29 結城の悩み


 二十九話  結城の悩み



「あの……これ」



 日曜日の夕方。 家に帰ろうとした結城が優香に5千円札を差し出す。



「ん? どうしたの?」


「これ、泊めてくれたりしたお礼。 お金……です」



 結城が優香に5千円札を握らせる。

 ーー……律儀だなぁ。 それくらい持っとけよ、好きなもん買えるぞ?


 

 もちろん優香はそれを拒否。 「いやいや、そんな! 受け取れないよ!」と5千円札を結城の手に握らせ返した。



「え、でも……」


「これは桜子ちゃんが持っておいて。 別にそんなつもりで私たち桜子ちゃんを家に招いたわけじゃないんだから。 ねぇダイキ」



 優香がオレに視線を向ける。

 


「そうそう。 だったら結城さん自分のお小遣いにしちゃいなよ。 そしたら好きなもん買えるじゃん」



 今のJS高学年が欲しいものってなんなんだろ。

 あれかな、アイドル育成アニメのラブカツかな? あれは工藤と一緒になって熱中したもんだ。


 オレは優香のナイスパスを活かして結城にお金を持っておくことを推奨。 しかし何故だろう……普通なら小学生だったら喜んで懐にしまいそうな流れだと思っていたのだが、結城は大きく首を横に振った。



「え、なんで?」


「ーー……だって私のお金にはならない」



 結城はそう小さく呟くと再び暗い表情になり俯く。

 その後続けられた結城の言葉にオレと優香は言葉を失った。



「お母さんに、いつも残ったお金返してるから……。 もし何も使ってないこと知られたら、今度からお金渡してくれなくなるかもしれない」



 結城は五千円札をクシャリと握りしめながら優香を見上げる。



 ーー……なるほどな。 だったら確かに自分で持ってても仕方ないか。

 


「前までは1万円持たせてくれてたんだけど、あんまり使ってないからってなって5千円になったの。 このままだと私、次の土日とかもっと少ないお金になっちゃう。 だから……」



 聞くと結城の使うお金は基本食事代。 どうしても暑かったり我慢できない場合のみ、母親に連絡。 近くのビジネスホテルに予約を入れてもらって、そこで寝泊りをする……という話になっているらしい。


 ーー……だとしてもビジネスホテルって基本一泊6千円からになってたよな。

 てことは泊まれても1万円を持ってた場合でも1日だけ。他の金曜か土曜、どちらかの夜は野宿ってことになるのか。 なんとも酷い。



 結果、優香は結城の頭を優しく撫でながらお金を受け取ることに。

「じゃあ分かった。 また桜子ちゃん金曜になったら泊まりにおいで。 このお金はその時に楽しく過ごすためのお金にしよっか」と言いつつ受け取ったお金を封筒に入れると、そこに【桜子ちゃんと楽しむ用】とペンを走らせる。


 そしてこの優香の言葉にも結城は驚いたんだろうな。

 目をまん丸に見開きながら優香に細々と尋ねた。



「また来て……いいの?」


「うん。 私も桜子ちゃんみたいな可愛い女の子とおしゃべりできるの楽しいし。 だからさ、これからも休みの日とか関係なくウチに泊まりに来たり……遊びに来て欲しいな」


「ありがとう……ございます」



 優香は優しく微笑みながら結城を抱擁。

 結城も優香の言葉が身にしみたんだろうな……小さく体を震わせながら優香の背中にも手を回していたよ。



 ◆◇◆◇



 優香は高校の宿題が残っているらしく、オレが結城を家の近くまで送ることに。

 しかしもうすぐ結城の家に到着というところで結城がピタリと立ち止まり、近くにあったポストに身を隠す。



「ん、どうしたの結城さん」


「あ、あれ。 ママの彼氏」


「あれ……?」



 結城が奥の家から出てきた男を指差したので目を凝らして見てみると、なんともチャラチャラした見た目……金髪でまさに怖いお兄ちゃんって感じだ。

 結城はよほどその彼氏が怖いのかすぐにポストの後ろへと身を引っ込める。



「あれが……彼氏か」


「うん」


「私、あの人嫌い」


「そう……だよな。 見た目とかめっちゃ怖いしな」


「うん。 それに見た目だけじゃない。 私がいたらあの人すごく怖い目で睨んでくる。 ママもあの人の味方だから、あの人が家にいる時は私の居場所ない」


 

 あーなんだろう、この守ってあげたくなる感じ。

 結城を見ているとこう……ギューってしてあげたくなるんだよな。 これが父性というやつなのか?



 その後オレは結城母の彼氏が車に乗り姿が見えなくなったことを確認。

 結城にそのことを伝えると、ようやく結城はポストからゆっくりと身を乗り出しホッとため息をついた。



「ありがとう、福田……くん」


「おう。 これで安心して帰れるな」


「うん、また明日……学校で」


「だね、学校で」



 こうして結城は家へと帰ることに。

 結城が家に入る少し手前……オレの方を振り返りぎこちない笑顔で微笑みながら手を振ってくれたのだが、流石にそれにはズキュンときたよ。



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