289 神の力と人の力!?
二百八十九話 神の力と人の力!?
それは一瞬だった。
「愛莉。 ダイキのここ目掛けて飛び込む」
オレの承諾なんか待ったなしで美香が自身の胸のあたりを指先で突きながら愛莉に指示。
愛莉も心の準備がまったく終えていなかったのか、『わ、分かりました!』と美香の言葉に流されるがままオレの胸部に狙いを定めて飛び込みの構えをとった。
「ま、待てって美香、愛莉さん!! オレまだ心の準備が……!!」
「ダイキ。 ダイキは何も身構えなくて大丈夫」
『ダイきちくん!! ごめんね、ちょっと練習台お願いします!!』
「ええええええ!?!?!?」
美香の「愛莉、ゴー」の合図とともに愛莉がオレの胸部目掛けてダイブ。
それと同時にオレの記憶はそこで途切れた。
◆◇◆◇
ーー……ハッ!!!
それは通勤・通学のバスや電車の車内で立ったまま寝落ちしそうになりかけた時と似たような感覚。
フと力が抜けてバランスが崩れたことに気づいたオレは意識を覚醒させながら転ばないようにバランスを取った。
うわ、あぶね。 オレ寝てたのか……って……、、、
「痛ってええええええええええ!!!!!!」
目を覚ましたと同時に襲ってきたのは股間あたりからくる強烈な痛み。
オレは痛みが発生している部分を両手で押さえつけながらその場でしゃがみ込む。
「ダイキ、おはよう?」
見上げると目の前には美香と愛莉が隣り合わせに並んでオレを見下ろしている。
美香は相変わらずクールな面持ちだけど愛莉は若干涙目のような……
「おい美香! オレのココ……体に何かしたのか!?」
「した」
「何を!?」
「愛莉の特訓」
「特訓!?」
聞き返すと美香はコクリと頷く。
「そう、特訓」
「憑依の練習じゃなかったのか!? もしかしてその反動で痛みが生じる……とかないよな!?」
「ない」
「じゃあなんでこんなに痛いんだよ!!」
この痛みを表現するならば……そう、機嫌の悪い状態のドSの女王・小畑による急所キックを食らった時のような……!
「だからさっきも言った。 特訓」
美香が愛莉に視線を移しながら答える。
「なんのだよ!」
「憑依状態になるということはその体の五感すべてを受け止めるということ。 だから愛莉の妹・陽奈が受けるはずの痛みをこの愛莉が受けることになる。 だから痛みに耐えれるかの特訓」
「……てことは、蹴ったのか!?」
「蹴った」
「だからかよおおおおお!!!!!」
蹴られたと分かった途端に余計に痛みが増してくる。
「蹴ったのはもちろん美香だよな!?」
「そう。 どこをどう蹴られたら痛いかはよく知っている」
「だろうな! だってまだ痛いんだから!!」
オレが涙目で訴えていると愛莉がオレに顔を近づけてくる。
「な、なんだよ愛莉さん」
『ごめんねダイきちくん、痛い思いさせちゃって。 私、ソコがそんなに痛いなんて知らなかったよ』
愛莉の視線がどことは言わないが少し下へ。
「ーー……でしょうね。 これは男で生まれたが故の定めですから」
『私、美香さんに蹴られたとき意識飛びそうなくらい痛かったもん』
「言わずとも分かりますよ。 その痛みを今オレが味わってるんですから」
どうせなら痛みが引くまで憑依しててくれよとは思いながらも初心者にこの痛みは流石に辛いだろうと思ったオレは愛莉に伝えることを断念。
その代わりにこう尋ねることにする。
「それで愛莉さん……大丈夫そうですか?」
『何が?』
「痛みですよ。 場所こそ違うとしても、痛みから陽奈を守ってやれそうですか?」
オレがそう尋ねると愛莉は表情を変えて真剣に。 そのまま『うん』と頷く。
『そりゃあね。 大事な妹のためだもん……生前はあまりお姉ちゃんらしいこともしてあげられなかったし、どんな痛みでも受け止めてみせるよ』
「そうですか」
『うん。 それにその痛みは私、初めてじゃないしね』
その後、愛莉は『じゃあ早速陽奈ちゃんのところ戻って見守ってあげないと』と言ながら男子トイレを出て陽奈の病室へ。
オレはそんな愛莉に心から「頑張れ」と小さく呟いたのだが……
「ーー……ていうか美香」
オレは少し冷めた視線を美香に送る。
「なに」
「なに……じゃねえよ!! 冷静に考えたら美香って神様なんだろ!? だったら神の力みたいなもので病気とか一瞬で治してくれよ!! なんでオレが身を削らにゃあならんかったんだ!!」
オレが未だ続いている痛みに苦しみながら涙目で訴えると美香が「はぁ……」とため息をつく。
「な、なんだよ」
「あのねダイキ、神様は万能ではない」
「どういうことだ?」
「元来、人にはある程度天命……つまり寿命が決められていた。 でも人はそれに逆らって医学を生み出した」
美香の話を簡単にまとめるとこういうことらしい。
人にはそれぞれ天命というものがあり、余程のことがない限りはそこで人生を終える。
しかし先ほども美香が言っていたが、人が『医学』というものを生み出したことにより、流行病や怪我で亡くなるはずだった人たちが天命を突破。 これは神をも超えた技らしい。
「神をも超えた技……?」
「そう。 本来、神が授けることが出来るのは少しの可能性。 事故でいうとタイミングを少しだけズラすといった程度。 血を止めることなんて出来ないし、破損した内臓を修復するなんて不可能」
「なるほどな……それを人が可能にしたと」
「そういうこと」
色々と納得したぜ。
オレは初めて神様と出会った時、天界で言われた時の言葉を思い出す。
『なぁ神様頼むよ! オレにはまだやりたいことあるしさ、このまま死ぬわけにはいかないんだよ!』
『そう言われてものう。 それが運命じゃからして……』
『そこをなんとかさぁ!!』
『無理じゃな。 お主は死んでから結構時間が経っておる。 あの体はもう使い物にならんよ』
『ソンナァ!!!』
そうだったな。
もし神様がなんでも出来るならオレの体を使えるようにしてくれてもおかしくなかったわけだもんな。
ーー……まぁ今となっては戻りたくもないが。
オレが1人で納得していると美香が「ダイキ?」と声をかけてくる。
「あー、すまん美香。 ちょっと天界で初めて会ってた時のこと思い出してた」
「そう」
まぁオレからしたら魂を別の身体に移させることも凄いと思うけど……
「ーー……ん、待てよ?」
先ほどの美香の説明に違和感を覚えたオレは、頭上にはてなマークを浮かび上がらせて腕を組み考え込む。
「どうしたのダイキ」
「いやさ、美香……神様は病気治せないんだよな?」
「それがどうかした?」
「じゃあなんで来た」
このオレの言葉を受けた美香がしゃがみこんでオレの顔をじっと見つめる。
「そんなの決まってる」
「……決まってるのか?」
「そう」
「それはじゃあ……どうして?」
「茜ちゃんに会いたかったから」
美香の返事とともにメガネのレンズがキランと光る。
「ーー……は? 会いたかったから……それだけ?」
「そう。 それだけ」
「なんじゃそりゃああああああああああああ!!!!!」
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