287 陽奈の状況!!
二百八十七話 陽奈の状況!!
翌日もオレは朝からバスに乗って病院へ。
その途中、昨日水島から送られてきた動画を思い出したオレは三好にメールを送信した。
【送信・三好】ポニーテールにしてくれてたらしいな。 早く見たいぜ。
時間的には授業中。
どんな返信が来るか楽しみだ。
◆◇◆◇
病院に着いたオレがまず向かった場所は陽奈の病室。
しかし部屋の前に貼られているはずのネームプレートの所に陽奈の名前がない。
……もしかして昨日の検査で異常が見当たらなくてすでに退院済みなのか?
そんなことを考えていると近くを看護師さんが通ったので聞いてみることにする。
顔を見上げると……あぁ、昨日オレを軽くあしらった人だ。 まぁ向こうは忙しそうな職業だし覚えてないだろうけどさ。
「あのすみません」
「どうしたの?」
「昨日までここで入院してた陽奈って子知ってます?」
「あー、陽奈ちゃん?」
「はい。 この病室で入院してたと思うんですけど……」
そう尋ねると看護師さんがしゃがみこんでオレに目線を合わせてくる。
「えっと……ボクは聞いてないの?」
「え?」
聞き返すと看護師さんはなんとも言えない複雑な表情をしながら視線をそらす。
そして言うか言わないか迷ったのだろう……ほんの少しの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「陽奈ちゃんは別の病室に引っ越したの」
「そうなんですか? あ、もしかして夜とか他のこと盛り上がってうるさかったから?」
「ううん」
看護師さんが伏し目がちに首を左右に降る。
「じゃあ陽奈自身が個室を望んで?」
「ううん」
「え、てことは……」
オレの嫌な予感は的中。
看護師さんはオレを見ながら小さく頷くと、「詳しくは個人情報だから言えないんだけど……」と前置きした上で、今陽奈が入院している病室を教えてくれたのだった。
◆◇◆◇
「ーー……あ、あった、ここか」
看護師さんに部屋番号を教えてもらったオレは無事陽奈のネームプレートを発見。
扉を軽くノックすると陽奈の母親らしき人の声が聞こえたのでゆっくりと扉を開けた。
「あら、優香ちゃんの弟さんの……」
「ダイきちーー!!! 来てくれたん!?!?」
ベッドから飛び出そうとしてくる陽奈を察した母親がすぐにそれを制止する。
「あー! 離してよママぁー!! せっかくダイきちが来てくれたんやけんー!!」
「もう!! 安静にしないとダメってお医者さんが言ってたでしょ!! ベッドの上で寝ててもお話出来るんだからジッとしてなさい!」
「ぶぅーーー!!! 陽奈元気なのにーー!!!」
相変わらずのテンションだなと感心していると、陽奈の母親が「ごめんねダイキくん、朝からこんなに騒がしくて」とオレに謝ってくる。
「いえいえ、それよりも大丈夫ですか?」
「あー、まぁこの子……陽奈は大丈夫って聞かないんだけどね」
陽奈の母親が陽奈に視線を向ける。
「だから陽奈、大丈夫って言ってるやんー! 心臓が弱くなってただけなんでしょ!? すぐに元気になるけん!」
「はぁ……それが難しいから入院してるんでしょう」
ーー……やっぱり心臓。
姉の愛莉と同じ病気なのだろうか。
『そうらしいよ』
びくぅ!!!
突然した背後からの声にオレの体が反応する。
ーー……愛莉だな。
「ん? ダイキくん、どうしたの?」
「あーいや、すみません!! ちょっと声が聞こえたように感じたんですけど……気のせいでした!」
オレは驚かされた仕返しとして一昨日の夜に考えておいた至極の下ネタを脳内に羅列させながら陽奈の母親に言い訳をする。
「そう……もしかしたら愛莉が心配して来てくれてるのかもね」
「もう何言ってんのママー! お姉ちゃんはきっと大丈夫って言ってるけん、心配なんてしてないって!」
そう陽奈は母親に突っ込んではいるが……
さて、では順に突っ込ませていただきましょうか。
まずは母親から……
はい、その通りですーーー!!! 今まさにあなたの娘・愛莉が心配して病室に来てますーー!!!!
そして陽奈……
大丈夫っぽいテンションではありませんーー!!! むしろめちゃめちゃ重い空気漂った声してましたああああああ!!!!!
オレは電話がきた演技をしながらそそくさと病室を出るととりあえず男子トイレへ。
誰もいないことを確認した後に「おい愛莉さん」と声をかけた。
『ごめんねダイきちくん……』
声をかけるとすぐに目の前に愛莉が姿を現す。
「流石に急に話しかけてくるのは卑怯ですよ。 それにまた勝手にオレの思考読んじゃって」
『ごめんね、もう私もどうしようってなっててさ。 だからさっきダイきちくんが考えてた下ネタにも反応しづらかったよ』
「あー……それはこっちもごめん。 空気読めてなかったかも」
『本当それだよ』
「いやいや愛莉さんが言っちゃダメでしょ」
あまりここで無駄な話をしてもいつ人が入ってくるか分からないので、オレは早速愛莉に陽奈のことを聞いてみることにした。
「それで愛莉さん、陽奈の心臓の状態って……」
『うん、私のと同じ病気だって。 この感じだと少しずつ弱っていって、歩くのも難しくなっていくと思う』
愛莉が自身の心臓……胸部に手を当てながら小さく呟く。
「マ、マジですか」
『私が同じ病気を発症したのも小学5年生の時。 陽奈ちゃんは何も起こらずに6年生に上がれるって思ってたのに……』
「いや、でも治らないって決まったわけじゃないんですよね?」
『そうだね、まだ陽奈ちゃんの場合は見つかったのが早かったから私よりは助かる可能性は高いはずだよ』
「そうなんですか?」
愛莉の話ではこうだ。
今回のような病気はいかに体力・気力が残っているかが鍵となる。 手術の際にかなりの体力を消費してしまうらしく、成人なら手術ギリギリ可能な体力でも子供だとアウトらしいのだ。
そして今の陽奈は叫んだり動き回れるくらいには体力がある……これが手術で助かる可能性をグンとあげているらしい。
「なるほど。 じゃあ早く手術しないと」
『でもそれは適合するドナー提供者が現れたらの話。 こればかりはいつになるやら』
愛莉が力なく首を左右に振る。
「えーと……ドナー? それって確か臓器提供してくれる人でしたっけ」
『そう。 私も生きてた時はそれを待ってたんだけど……ドナー提供を待ってる人ってかなりの数だから、いくら待っても全然来ないんだよね。 それに来たとしても適合してなかったら見送られるしで、私の場合は見兼ねたママが「もう家でゆっくりと過ごさせる」って決めたんだ』
なるほど、それで自宅療養に切り替えて家族との時間を優先したと。
『そういうこと』
ーー……。
いや、もうここは突っ込むまい。
愛莉の話を聞いたオレは腕を組みながら考える。
まさか陽奈のやつ、そこまで重たい病気になってしまっていたとはな。
幽霊相手に『言霊を信じろ』なんておかしな話だし……
「とりあえずだ、まず陽奈に優先すべきはなんだと思う?」
『うーん、もちろんだけど、まずは体力を少しでも維持しておくことかな』
「それには何が必要だ?」
『そうだね、心臓に負担にならないくらいの軽めの運動と、それに負けないようにするための精神的な気力かな』
愛莉が『まぁこれは私が入院してた時にお医者さんに言われたことなんだけどね』と自虐的に笑う。
「なるほどな。 じゃあそんな経験のある愛莉さんに聞くけど、オレは一番何したらいいと思う?」
『それはもちろん陽奈ちゃんの近くにいてあげてほしいかな。 ほら、さっきダイきちくんが病室に入ってきた時の陽奈ちゃんの反応見たでしょ? めちゃくちゃ喜んでたし』
「あー、確かに。 じゃあここにいる間はよく顔を出すようにはするよ」
オレがそう答えると愛莉は優しい笑みで『ありがとう』と頭を下げる。
『ダイきちくんが来てくれたら私も安心するな』
「そうなの?」
『うん。 だって私が陽奈ちゃんの近くにいてもまったく陽奈ちゃん気づいてくれないんだもん』
「そりゃあ普通は幽霊視えないからな」
オレにはなぜか愛莉だけが視えてはいるが……。
『あーあ、私も何か陽奈ちゃんの役に立てることあったらなー』
愛莉が悲しげな表情でポツリと呟く。
そしてそれは愛莉がその言葉を放った……そのすぐ後だった。
「一般的な霊でも役に立てること、ある」
『!?』
「!?」
突然扉の向こう側から女の子の声。
オレの目の前では愛莉が『うわああああどうしよう!! 今の聞かれちゃったああああ!?』と慌てているが、この声は……
オレは焦っている愛莉を無視してゆっくりと個室の鍵を開け、扉を開けた。
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