285 決意!!
二百八十五話 決意!!
スマートフォンの画面に表示されている当時……小学生低学年の頃の茜の写真を見たオレは声を詰まらせる。
そしてそれを不思議に思ったのだろう、茜が「どうしたの?」と尋ねてきた。
「え、あ……ごめん。 これ、茜さんなんだよね」
「そうだけど、どうして?」
「いや……なんとなく。 でも面影はあるね」
「それって無表情なところ見て言ってるでしょ。 これでもこの時よりは人と話すの得意になったんだから」
「ーー……」
「何も言わないってことは図星って意味だよね」
「すみません」
そんな会話をしているとポケットの中に入れてあった自分のスマートフォンが振動していることに気づく。
「あ、メールだ」
「陽奈ちゃんから?」
「いや……陽奈はスマホ持ってないよ。 お姉ちゃんから」
【受信・お姉ちゃん】ごめんだけど帰りに買い物お願いできるかな。 おじいちゃんが夜にお鍋食べたいんだって。
なるほどお鍋とな。 良き。
【送信・お姉ちゃん】分かった。 リスト送っててくれたら買って帰るよ。
オレはそう返信してスマートフォンの電源を切る。
「ダイきちくん、もうメールはいいの?」
「うん、お姉ちゃんに買い物頼まれただけだったから」
「そっか、いいなぁ」
「え」
茜に視線を向けると、茜が羨ましそうな表情をしながらオレを見ている。
「えっと……茜さん?」
「私さ、入院生活長いからそんな日常的な会話をする相手もいないんだよね」
ーー……しまった、そうだった。
そういや昨日もオレが入院してなくて本来なら普通に学校に行ってるって言った時も『いいね』って言ってたし……
「あぁ……だよね、ごめん」
「いや、ダイきちくんが悪くないよ? 私の身体が弱いだけだから」
そう言うと茜は弱々しく自身の手を握りしめる。
やっぱりだ。 この今茜がしている表情と絶望的な雰囲気……全てがあの時の……結城に初めて出会った時の感覚に似ている。
オレの脳内で以前目の前でハンカチを落とした時の結城との出会いが流れ始めるも、オレは首を振りながらそれを強制的にストップ。
今回は結城の時とは状況が違うんだ。
結城の場合は後にイジメられていたと知って助けてあげることが出来たが、茜の場合はイジメのような外的なものでなく病……内的なものなのだ。
こればかりはオレにはどうしようにも……
何かオレにできることはないかと考えていると、美香の……神様の話を先ほどまでしていたからなのだろうか……最近も思い出してはいたのだが、美香の放ったあの言葉が脳内を過ぎる。
『言霊の力は凄い』
「言霊の力……」
オレは無意識にポツリと呟き、茜の「え、なんて?」の声でハッと我に返る。
……そうか、言霊の力か。
前までの……森本真也時代のオレならそういうオカルトめいたものはバカげているとすら思っていたのだが、オレの魂をこの体に転生させてくれた神様が……美香がそう言っていたのだ。
これを信じずにどうしろってんだ。
「ねぇ茜さん」
「なに?」
「茜さんはさっき、自分はそんなに長くは生きられない的なこと言ってたよね」
そう尋ねると茜が力なく「う、うん……」と頷く。
「じゃあさ、茜さんはオーラが見えるって言ってたけど、そのオーラがまた光輝き出したら寿命が延びたって考えていいってこと?」
「まぁそうだね。 そんな奇跡滅多にないかもだけど」
「分かった。 ならオレが全力で茜さんのオーラ復活の手伝いをしてあげるよ!」
オレはバンと胸を叩きながら茜に顔を向ける。
「え?」
「だから、オレがなんとしてでも茜さんを元気にしてオーラを取り戻す努力をするって言ってんの!!」
「ーー……」
茜が目をパチクリさせながらオレを見てくる。
「茜さん?」
「あ、ごめんね。 ちょっと予想のだいぶ斜め上を行ってた言葉だったから呆然としちゃって。 うん、そうなったら嬉しいけど……私とダイきちくん、さっき出会ったばっかりだよ?」
茜がクスッと笑いながらオレに微笑みかける。
「いいんだよそこは。 茜さんは数少ない……オレがこの体の持ち主とは別の魂だってこと知ってる人間なんだ。 なんかさっきそのこと話してスッキリしたところもあるし……恩返しさせてくれ」
「でも私、オーラを復活させる方法なんて知らないけど」
「そこは手探りで頑張るよ。 だから茜さんも諦めちゃダメだからね」
オレがそう指差すと茜は少し嬉しそうに「うん」と頷く。
「そこまでしてくれていいの? 私なにもお礼できるようなことないよ?」
「元気になってパンツ見せてくれたらそれで充分だ」
「ふふ、さすが変態のオーラもってるダイきちくんは違うね」
「うるせー」
とりあえずこの日は茜と連絡先を交換して別れ、オレは福田祖母のお見舞いへ。
オレは福田祖母と話してる間や帰りのバスの中、買い物帰りも絶えず茜とのメールをしながら茜を元気付けていったのだった。
【受信・茜】ごめんね、私そこまで返信早くなくて。
【送信・茜】いいよ、オレも別に早くないし。 それに茜さん、無理に返さなくてもいいからね。 検査とかで大変だろうし。
【受信・茜】ううん、こうしてやりとりするの久しぶりだから嬉しいの。
【送信・茜】そっか。 それはオレも嬉しいけど、消灯時間過ぎたら気をつけてね。 看護師さんに怒られちゃうかも。
【受信・茜】分かってるよ。 ダイきちくん、私より年下なのに生意気だね。
【送信・茜】この体に入る前は茜さんよりも年上だったんだからいいだろ別に。
【受信・茜】らしいね 笑。 昨日話しかけてよかった。
うん、メールでの口調は美香とは全然違うよな。
そういや茜も『昔よりは話すの得意になった』って言ってたし、低学年の頃はそれこそ美香みたいな話し方だったんだろうか。
色々と謎が謎を呼んでいるけども……
「とりあえずは茜を元気にすることが先決だよな」
周囲に建物があまりない帰り道。 オレは小さく呟く。
オレだって口任せに『オーラを取り戻す手伝いをする』なんて言った訳ではないんだぞ?
オレには実績がある。
多田が教育ママのやり方に憔悴して駅のホームから飛び降る未来を防いだし、優香の非行ルート回避、三好の一家崩壊回避、ドSの女王・小畑の失踪回避、西園寺の自殺回避、エマの過労からの手遅れルート回避……そして何よりもあれだ。
オレは結城のデスゾーンを何度も回避させてきたという誇りもある。
それが偶然とはいえそう出来てきたんだ。 そんなオレに何も出来ないはずがない!!!
それに神様……美香の『言霊の力は凄い』という助言まであるんだ。 これはまさに鬼に金棒状態といっても過言ではないだろ。
そんなことを考えながらオレは夕方まだ暗くなる前に福田祖父と優香の待つ家に帰宅。
帰宅するやいなや優香のお手伝いとして出来ることを可能な限りやった後に晩御飯の時間まで、再び茜とメールでやりとりしていたのであった。
晩御飯時。
「そういやダイキ、陽奈ちゃんの検査結果ってどうだったの?」
「あー、病院出るときにはまだ検査してたっぽくて入院部屋にいなかったから分かんないや」
「そうなんだ。 早く結果知りたいね」
「だったら明日もオレ病院行くし、その時にそれとなく聞いてみるよ」
「え、ダイキ明日も行くの!?」
「うん」
「凄いね……お姉ちゃんもついていこっか?」
「いや、いいよ。 お姉ちゃんは家でゆっくりしてて」
オレはそう話しながらお鍋の具材を口に運んでいく。
「はぁ……美味しい」
「ど、どうしたのダイキ、そんなシミジミとしちゃって」
「あーいや、幸せだなぁって思って」
「なーに? 変なダイキー」
……絶対にバッドエンドだけは回避させなければ。
その日の夜、オレは文字通り神にもすがる思いで美香に電話をかけた。
お読みいただきましてありがとうございます!!
下の方に星マークがありますので、評価していってもらえると励みになります嬉しいです!!
感想やブクマ・レビュー等お待ちしております!!