282 チートスキル!
二百八十二話 チートスキル!
オレの呼びかけに応えるように月明かりとともに現れた陽奈の姉・愛莉。
愛莉はオレと目が合ったことを確認すると、小さく口を開いた。
『久しぶりだね、ダイきちくん』
「あ、久しぶりです」
オレは愛莉に軽く会釈。
ちゃんと出てきてくれた安心感からホッと胸を撫で下ろし、早速陽奈のことを聞こうとしたのだが……
『ーー……? どうしたのダイきちくん』
愛莉を見上げたままのオレを疑問に思った愛莉が首を傾げる。
「いや、なんというか……本当に出てきてくれるんですね」
そう冗談交じりに笑いながら応えると愛莉が『えぇー?』と唇を尖らせる。
『ダイきちくんが呼んだんじゃないー!』
「いや、そうなんですけどね。 なんかゲームみたいだなって」
『失礼な! 私はれっきとしたオバケだもんね!』
「あーそうですね。 それにその……ちゃんとサメのぬいぐるみ持ってるんだって思いまして」
オレが愛莉の抱きかかえているサメのぬいぐるみを指さすと愛莉は『えへへ』と嬉しそうに笑った。
『そうでしょ、やっぱり私の目に狂いはなかったよね。 ほんと可愛い』
「まぁ買わされたのオレっすけどね」
『それはちゃんと感謝してるって。 今も本体は私の仏壇に置かれてるよ』
「そうですか。 気に入ってくれてるようでなによりです」
なんかあれだよな、愛莉ってオバケのくせにやたら人間味に溢れてるって言うか……普通に可愛いよな。 仕草とか。
そんなことを考えていると愛莉の顔がボッと赤く染まる。
『な、なななな何言ってるのよダイきちくん!!!』
「え? オレ別に何も言ってないですけど」
『いやいやいやいや!! 今私のこと可愛いって言ったじゃない!』
ーー……え。
「ええええええええ!?!?!?!? 今の聞こえてたんですか!? オレ別に口に出してないんですけど!!」
『基本幽霊同士では言葉で話さないの!! 基本は思念で会話するんだから!! こうして口を使うのは幽霊が視える人間と話す時だけ!!』
なんだよそのチートじみたスキルはよぉ!
愛莉はオレの目の前でサメをギュッと抱きしめながら身体をくねくねとよじらせている。
それもまぁ、もちろん可愛い。
『あああああ!!! また可愛いって言ったぁああ!!!!』
「言ってません!! 思っただけです!! てか勝手に心読まないでください!!!」
『それでもそう思ってるってことじゃない!! あ、もしかしてダイきちくん……今夜は私を想像して……』
愛莉が顔を真っ赤にさせたままオレから距離をとる。
距離をとるとは言っても向こうは霊体……感覚が分からないのか愛莉は壁をすり抜けて窓の向こう側から顔を覗き込むようにしてオレを見つめる。
「やめてください! それは怖いです!」
『えええ!? 可愛いって褒めてくれた次は怖い!? なんでそうなるの!?』
「いやいや普通に窓の外から誰かが覗き込んでたら怖いでしょ!! しかもここ2階ですから!!」
このオレのツッコミを受けた愛莉の頭上にビックリマークがピョコンと出現。
『あ、そうか。 ごめんごめん、ちょっと霊体生活も長くなってるからそこらへんの感覚が鈍っちゃってたよ』と手を合わせながら再び壁をすり抜けオレの目の前に戻ってきたのだった。
ーー……これがガチなオバケだったら失神ものだな。
『あああああ!!! ひどーーーーい!!!』
「めんどくせぇえええええええ!!! もう本題に入るぞ!!!」
ドタバタではあったが久しぶりの再会をしたオレたちはようやく本題へ。
愛莉はクルリと一回転した後にフワッとオレの目の前に座る。
「あの……今の一回転には何の意味が?」
『なんかこう、落ち着かないのよ。 ほら、男の子だってあるでしょ? あそこのポジションが違うとなんか嫌……みたいな
』
「あ……あそこ?」
『言わせないでよえっち』
◆◇◆◇
今回愛莉を呼んだのは他でもない。
幽霊である愛莉なら、陽奈の現状がどんな感じなのか分かるかもと思ってのことだ。
なのでまず聞くことはーー……
「陽奈、大丈夫ですよね」
『陽奈ちゃん? それは私にも分かんないよ』
ーー……。
「へ?」
あまりにも予想していなかった返事に口から気の抜けた声が漏れる。
『なにダイきちくん。 そんな全身の力が抜けるような声出して』
「い、いや。 愛莉さんなら分かると思ってたんですけど」
『何言ってるのダイきちくん。 私は幽霊だけど神様じゃないんだよ? そんなこと分かっちゃってたら、こんなことになる前にどんな手を使ってでも陽奈ちゃんを病院へ行かせてたよ』
愛莉が『オバケって肉体を持ってないだけで他は人間と一緒なんだよ?』と説教じみた言葉をオレに浴びせる。
ーー……いや、知るかよ。
「えっと……じゃあ陽奈の病気?の具合は置いといて、陽奈は今どうしてるんですか? やっぱりあまりに急な入院で不安がってます?」
愛莉の説教を遮り尋ねると、愛莉は『ううん』と首を左右に振る。
『全然。 むしろ一緒の部屋で入院してる子たちと話が盛り上がりすぎて看護師さんに怒られてたくらいだよ』
「そ、そうなんですか」
『うん。 陽奈ちゃんは多分あれ……お泊まり気分だね』
なんか陽奈っぽいな。
あー余計に安心してきたわ。
「それじゃあ愛莉さんは今夜も陽奈を見守る感じですよね」
『うーん、今夜っていうか毎日見守ってるけどね。 やっぱり陽奈はまだ危なっかしいから』
「そうですか」
『うん。 だから陽奈に変なことしたら……』
愛莉が目をギラリと光らせながらオレを見上げる。
「ーー……エ」
『どうなるか分かってるよねぇ』
「そ、それはもちろん……!」
『私、知ってるんだよ? 陽奈ちゃんがダイきちくんの家にお泊まりしに行った時、お風呂場で……』
ぎっくうううううううう!!!!!
オレの脳内で当時の出来事が再生される。
確かあの時は最初に動揺した方が負けゲームをして、オレが全身パージした状態で陽奈の前に……
「あ、あれはですね! ほら、見てたなら知ってると思いますが、あれは賭けでして……!」
『知ってるよもう! ダイきちくんが負けたら陽奈ちゃんのお出かけに着いて行くってやつでしょ!? だから私はその時は見逃してあげたの!』
「あ……ありがとうございます」
ヤッベェな、やっぱりあの時見られてたのか。
だったら尚更今後は陽奈に変なこと出来ねぇな。
『もちろんだよ!』
「あああああ!! そうだった心の声読まれてるんだった!! これもう何も言い訳出来ねえじゃねえか!!!」
オレは「うああああああ!!」と声をあげながらその場で仰向けに寝転がる。
「あー、じゃあ愛莉さん。 とりあえず聞きたいことは終わりました、ありがとうございます」
早く精神的にも落ち着きたくなったオレは早く帰ってくれオーラを醸し出しながら愛莉を見上げる。
『え、もう終わりなの?』
「それ以外に話すことあります?」
『いや、別にないけどさ、私が話せる人間ってダイきちくんしかいないからまだ話してたいなって』
「でも心読むでしょう?」
『それはもちろん』
愛莉がニコリとオレに微笑む。
これはもう……お帰りいただくにはあの方法しかないな。
「愛莉さん」
『なに?』
「いてくれてもいいですけど、オレ、今からとてつもなく恥ずかしいことしますよ?」
オレは挑戦的な目を向けながらゆっくりと上体を起こす。
『恥ずかしいこと?』
「えぇ。 じゃあ脳内で考えるんで読み取ってくださいよ。 オレが今からしようとしてることはですね……」
『!!!!!!!』
一体愛莉は何を読み取ったんだろうな。
今まで以上に顔を真っ赤にさせると視線をオレの顔から下へと下ろしていく。
『へ、へへへへ変態!!!!! えっち!!!!』
愛莉はサメで顔を隠しながらオレに向かって叫んでいるが……
「おやおやぁ? 何がどうしてえっちになるんですかぁー? オレは愛莉さんの考えを読み取れないから、口で説明してくださいよー」
『く、口で!?』
「あれ? 愛莉さんお姉さんなのに恥ずかしいんですか?」
『は、恥ずかしくなんかないもん!!! 私は実際にしたことはなかったけど……そういうことって言うのは知ってるんやけん!!』
「へぇー、では声に出して言ってください、せーーの」
『ーー……オ、オオオオ……オ、、ナ………うぅううーーー!!!!!』
愛莉がかなり屈辱的な表情をしながらオレを睨みつけてくる。
あっはっはっはっは!!!!!
そうだよな!!! なんで今まで気がつかなかったんだ!! 幽霊相手ならセクハラしても何しても罪にならない!!! だってバレないんだから!!!!
オレがそんな恥ずかしがる愛莉を見ながら楽しんでいると、愛莉が『あーー!! もう怒った!!』と叫んで宙に浮かぶ。
「あ、帰るんですか?」
『帰るよダイきちくんのお望み通りに!! でも私が負けたみたいな感じで終わるのはイヤやけん!!』
「?」
一体どういう意味だ?
考えていると愛莉はニヤリと笑みを浮かべながら視線をオレのスマートフォンへ。
そしてすぐにオレは愛莉が何をしているのかを理解することになる。
『これを、こうしてぇー……』
「!!!!」
なんということだろう……勝手にスマートフォンの電源が起動したと思えば、これまた勝手に画像アプリが開いて画面が自動でスクロールされているではないか。
そして1枚の写真が画面上に表示される。
『これが何かわかる?』
「え? こ、これは去年の夏にオレが撮った結城の寝顔写真……ですけど」
『今から10秒以内に土下座して謝らないとこの画像、消去ボタン押しちゃうよ?』
「!?!?!?!?」
オレはその言葉を聞いた途端にスマートフォンへダイブ。
画面には写真の上に【画像を消去しますか?】と表示されている……絶対に消さすまいと画面タップを試みるも、全く反応していない。
「く、くそ!! どうなってんだ!! 卑怯だぞ!!!」
そう文句を言ってる間に愛莉のカウントダウンが開始。
『10、9、8、7、……』
「ちょ、待って愛莉さん!!」
『6、5……』
「それはさすがにやったらダメなことでは……!」
『4、3……』
「ち、ちくしょおおおおおおおおお!!!!!」
『2、1……』
「すみませんでしたぁあああああああああ!!!!!」
オレはスマートフォンを抱えながらスライディング土下座。
布団におでこを擦り付けながら「オレが悪かったあああああああ!! もうしません!!!!!」と必死に愛莉にごめんなさいを連呼する。
するとどうだろう、愛莉が『あはは……あははははは』と笑い出したではないか。
「あ、愛莉……さん?」
ゆっくりと顔を上げて愛莉を見上げると、愛莉は涙を指でぬぐいながらオレを見下ろしている。
「あの……これで画像は消さないでもらっても?」
『あはははは、ダイきちくんってバカだねぇーー!!』
「ーー……へ?」
オレがキョトンと愛莉を見つめていると、愛莉は息を整えながらオレに顔を近づけてくる。
『あのねダイきちくん』
「はい」
『私、消去ボタンを押すって言っただけで完全に消すとは言ってないの』
ーー……。
「は?」
『私言ったでしょ? 「消去ボタン押す」って』
「あ、はい」
『消去ボタン押しただけだったら消去フォルダに移動するだけじゃない。 だからいつでも復元可能……何をそんなに焦ってたの?』
「ーー……あ」
気づい時にはもう遅い。
冷静に考えれば気づくはずなのに、焦ってる&幽霊の愛莉ならやりかねないと思って行動した結果がこれだ。
「く……くそおおおおおおおお!!!!」
『あははははは!! あー、久しぶりにお腹の底から笑ったよ。 ありがとダイきちくん、じゃ、結果私の勝ちってことで。 また明日ね』
愛莉がオレに手を振りながらスゥッと姿を消していく。
「覚えてろよ……明日は四六時中エロいことばっかり考えておくからなああああああ!!!!!」
愛莉が消えてからしばらく。
オレは明日、愛莉を恥かしめるべく中学生女子くらいの子達が好きそうな下ネタを検索し復習していたのだった。
そういえばあれだな、初めて愛莉と出会った時のことだけど……
どうしてあの時はオレと一緒に陽奈を探すことにしたのだろう。 あらかじめ陽奈の場所を確認してからオレと探しに行けばよかったものを……。
もしかしてあれか? あの時はオレを試していたのだろうか。
ーー……真面目に探しててよかった。
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