277 早いお返し!②
二百七十七話 早いお返し!②
三好との待ち合わせ場所・最寄り駅付近。
駆け足で向かっていると、入り口前で上着のポケットに手を入れて立っている三好を発見した。
「おーい三好!」
オレは三好の名を呼びながら駆け寄る。
するとオレの声が聞こえたのだろう、三好はオレの方に視線を向けると小さくこちらに向けて手を振った。
「すまんな三好、待たせたか?」
「ううん、さっき着いたところだから大丈夫。 で、なに?」
三好が視線を泳がせながらオレに尋ねる。
「あぁ、そうだった。 はいこれ」
オレは三好に手の平サイズで可愛い包装紙に包まれた三好用の贈り物を渡す。
「なにこれ」
「ちょっと色々あってな。 ホワイトデーにお返しできるか分からなかったから先に渡しておこうと思って」
「ーー……? どういう意味?」
三好が頭上にはてなマークを浮かばせながらオレに尋ねる。
「とりあえず見てみてくれ」
「あ、うん。 それじゃあ……」
三好は不思議がりながらも包装紙のテープを剥がして中身を取り出した。
「これは……髪ゴム?」
「あぁ。 一応飽きないようにってことで色々買っといたんだ。 ちなみにオレが一番お前に似合いそうだなって思ったのはこれな」
オレはそう言いながら5種類ある中の1つを指差す。
「これ……太陽の形のやつ?」
「そう」
「なんで?」
「いや、だって三好って言ったらバカでちょっとうるさいって感じだろ? だったらこれが丁度いいだろって思って」
「ーー……は? なにバカにしてんの?」
「違う違う、何事にも明るい三好にはそれが似合ってるなって意味だって」
三好はオレの言葉に不審がりながらも「ーー……そうなんだ」と渋々納得。
「まぁそういうことにしとく」と言いながらオレを見上げた。
「ん、なんだ?」
「でさ、なんでホワイトデーに渡せないかもなの?」
「あ、そうか。 それを先に言わないとだな」
オレは三好にしばらくの間学校を休むことを伝える。
すると三好はオレの服の裾を掴みながら目を大きく開いた。
「え、福田……どこか病気なの?」
三好の声が震えている。
「ん? なんで?」
「だって学校休むって……よっぽどなんでしょ? どこ?」
「は?」
「それ治るんだよね!?」
「ちょ、ちょっと待て三好! なんか勘違いしてないか!?」
オレは強く服の裾を引っ張りながら詰め寄ってきている三好の手首を掴む。
「え?」
「最後まで聞いてくれ。 オレが休むのはオレが病気だからとかじゃなくて、田舎のおばあちゃんが入院したからなの」
「ーー……え、そうなの?」
三好の裾を掴む握力が一気に緩む。
「あ、なんだ、私てっきり福田が病気になって入院するものかと」
「いやいや、だったら今オレ外出してたらお医者さんやお姉ちゃんに怒られるだろ」
「はは、確かに」
どうやら理解してくれたようで三好は「ごめんごめん」と言いながらシワになったオレの服を優しく撫でる。
「それでさ福田、話戻るんだけど」
「ん、なんだ?」
「なんで髪ゴムなの? これって私のために選んでくれたってこと?」
三好がオレの渡した髪ゴムたちを眺めながらオレに尋ねる。
「ん? そりゃあもちろんだろ」
「そうなんだ……でも私もう前の髪型には……」
「おい何を言ってんだ三好。 お前のポニーテール……オレがこう言うとキモいかもしれないけど、めちゃめちゃ似合ってたぞ」
「え?」
三好の顔が若干赤く染まる。
「まぁもちろん今みたいな髪型も落ち着いて見えていいけどさ、オレは三好のポニーテール好きだけどなー」
「で、でも福田、ポニーテール見たら……」
「だから何度も言わせんなって。 それはオレが覚えてないときの福田ダイキだろ? 前のダイキがそのポニーテールを見ただけで怖いって言ってたのは分かるけど、今のオレはその逆だ。 たまには三好のポニーテールが見たい」
「ーー……そうなんだ」
三好はオレから視線を外しながら呟く。
「でもさ福田、それって私へのプレゼントとか言いつつ自分が見たいだけなんじゃないの?」
「なんだ? ダメか? 三好は本来のチャームポイントを取り戻せてオレは見ていて嬉しい……お互いにウィンウィンじゃないか」
そう諭すと三好は「ふ、ふーん」と言いながら太陽の髪ゴムを袋から取り出し後ろ髪を縛り出す。
「こ、こんな感じ?」
「おぉ……やっぱり三好はこうでないとな」
「どう言う意味さ」
「いや、似合ってんぞ」
「ーー……きも」
「うるせー」
こうしてミッションを終えたオレは三好とはその場で解散。
三好はポニーテールにしたまま家へと帰っていったのだった。
久しぶりに見たからなのだろうか……三好の後ろ姿をしばらく見ていたのだが、ポニーテールは以前よりも楽しそうに弾んでるように見えたぜ。
◆◇◆◇
「あ、うん。 優香さんに聞いたわよ。 ダイキもおじいさまのところに行くのよね」
マンションに戻りエマにお返しを渡したオレが事情を話そうとすると、すでに優香から聞いていたらしい。
「そうか、なら話が早くて助かるぜ」
「うん。 でもありがとねダイキ。 わざわざお返しまで」
「構わん」
「中見てもいい?」
「もちろんだ」
エマがオレの渡した贈り物の中を覗くとそこには2つのネックレス。
……ネックレスと言っても小学生のお小遣いで買えるくらいの雑貨物なんだけどな。
「え! 2つ……てことはこれ、エルシィにも?」
「あぁ。 だってそれ、もともと2つセットだったんだ。 丁度いいだろ」
「あ、なんか書いてるわね。 ユニティリング……お揃いで身につけているとずっと一緒……」
エマが小さく書かれていた説明書きを読み上げオレを見る。
「ん、そんなの書いてたのか」
「えぇ。 偶然にしても中々センスあるじゃない。 ありがとダイキ」
「それは良かった」
「じゃあ……しばらくあっちで優香さん頑張って支えなさいよ」
「うん」
「帰ってきたらまぁ、ご褒美として少しは甘えさせてあげるわ」
「マジか! それは頑張らないといけないな!」
「うん。 じゃあね」
「おう」
エマの家を後にしたところでギャルJK星からメールが届く。
【受信・星美咲】ごめんダイキー。 アタシ今日はバイト長引きそうで無理だわ。 なんの用だったの?
マジか。 となればここで伝えていくしかないか。
【送信・星美咲】あのさ、明日からおじいちゃん家にお姉ちゃんと行くことになって。
【受信・星美咲】あ、ゆーちゃんから聞いた! てか、ちゃんとゆーちゃんに着いていく選択をして偉いな! アタシのお願い守ってくれてありがとね。
【送信・星美咲】うん。 でさ、ホワイトデーに間に合わないかもしれないから星さんにお返し渡したかったんだけど……
【受信・星美咲】えーー!! それは楽しみだけど残念だぁーー!! ごめんね、ホワイトデー以降でもいいよ! 楽しみにしてんね!
メールを終えたオレは「ふぅ……」と小さく息を吐きながらスマートフォンをポケットの中へ。
さぁ、あとは結城と優香だ!!!
オレは「よし!」と気合をいれると階段を駆け下り結城の住んでいる高槻家へ。
すると土曜日なのにお仕事だったのだろうか、疲れた表情で階段を上っていた高槻さんと鉢会う。
「あ、高槻さ……先生」
「あら福田くん。 どうしました? 先生の家に用ですか?」
「あー、はい、結城さんに」
オレがそう答えると高槻さんがニヤニヤと微笑み始める。
「なんですかー? デートのお誘いですかー?」
「なっ!! ち、違います!!」
オレは全力で首を左右に振りながら高槻さんを見上げる。
「あらら、そうなんですね」
「はい、実は明日から家の都合でお姉ちゃんと田舎の方にしばらく行くことになりまして」
そう伝えると高槻さんが「あぁー、そういや今朝、福田くんの担任の先生がそんなこと仰ってましたねー」と頷く。
「そうなんです、だから……」
「あ、でも今桜子……結城さんはいませんよ」
「え?」
オレがキョトンと首をかしげると高槻さんが「あ、でもそれは今夜だけですけどね」とニコリと微笑んだ。
「えっと……どういうことです?」
「実はですね、今夜特別に桜子ちゃん、お母様と一緒に病院で泊まれることになったんです」
「そうなんですか!?」
聞いてみると、高槻さんが午前の仕事が終わった後に結城と2人で結城母のお見舞いへ。
すると最近結城母の体調が良いことから、今夜は特別に一緒に泊まっても良い……ということになったらしい。
「それで先生はその帰り……というわけです」
「な、なるほど」
高槻さん……あなたはそこまで結城のことを。
もしオレが森本真也に戻れたらすぐにでも交際を申し込むレベルだぜ。
……まぁすぐに断られるのは目に見えてるけどな、グスン。
「えっと……じゃあどうしようかな」
オレは小さく頬を掻きながら考える。
「どうしました?」
「いやですね、実はそういうことですので、ホワイトデーのお返しを先に渡そうと思ってたんですが……」
「あらぁーーーー!!!!!」
オレの言葉に高槻さんは両頬に手を当てて満面の笑みを向ける。
「な、なんですか」
「青春ですね!! 先生、なんだか自分のことのようにキュンキュンしちゃいました」
「そ……そうですか」
あまりの高槻さんのテンションの上がり具合に少し引いていると「では、どうしますか?」と高槻さんが腰を落としてオレに顔を近づけてくる。
「え?」
「ご自身でどうしても渡したいって言うならそれも良いですけど、早く渡したいのなら先生が預かって明日桜子ちゃんに渡しておきましょうか?」
「ーー……いいんですか?」
「はい。 明日の昼すぐに病院までお迎えに行くので、その時にでも」
「それは……ありがとうございます。 じゃあお願いしても良いですか?」
オレは結城へのお返しが入った小さな小包を高槻さんに渡す。
「承りました。 福田くんの愛、ちゃんと届けてきますね」
「なっ!!!」
「どうせならあれですね、お母様のいるところで渡してあげましょうか」
「ちょおおおお!!! 高槻先生ーーーー!!!!!」
「ふふふ、冗談です。 では明日ちゃんと渡しますので安心してください」
高槻さんは結城へのお返しを大切そうに受け取ると優しくオレの頭を撫でる。
うわあああああ、やっぱり大人の女性の包容力って半端ないんじゃああああああああ!!!!!
こうしてオレは結城へのお返しを高槻さんに預け、頭を撫でられたことによる嬉しさから軽くステップを踏んだりしながら家へと戻っていったのだった。
ちなみにその後優香にもお返しを渡す。
「え、腕時計? 良いの?」
「うん、って言ってもそんな高くないんだけどね」
「ううん、嬉しいなありがと!」
優香はオレのプレゼントした青い小さな腕時計を右手にはめてうっとりと眺める。
「星さんにも渡したかったんだけどバイトで無理だったよ」
「えっ! 美咲にも買ってあげたんだ!」
「うん。 星さんのは赤色でお姉ちゃんのと色違いだよ」
「そっか、じゃあそれは美咲には内緒にしておくね」
「うん、よろしく」
そして翌日の日曜日。
オレは優香と朝から家を出て1人家で待つ福田祖父のもとへと新幹線で向かった。
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