275 良い知らせと悪い知らせ
二百七十五話 良い知らせと悪い知らせ
ある日の金曜日の夜。
オレが何気なくテレビを見ていると、ポップなメロディとともに見覚えのある顔の女の子が画面に映る。
それは最近見たので忘れるはずのない……
〈心配させちゃってすみませんでした! メイプルドリーマー、再始動します!〉
そう、エマの……小山楓の親友でアイドルをしていた『松井ゆり』こと『ユウリ』の姿。
姿は変わってしまったけどエマとして元気に生きていることを知って吹っ切れたんだろうな。 そこには最初に見かけた頃のような暗さや静けさはもうなく、キラキラスマイルの彼女の姿がそこにはあった。
オレはすかさずエマに電話をかける。
『なに? どうしたのダイキ』
「あ、エマ。 今テレビ見てるか? ユウリさん映ってるぞ」
『なんだダイキも観てたのね。 えぇ、エマもユリからこの時間に出るから見てって連絡きてたから知ってるわ。 ちょうど観てるところよ』
「そうか、元気そうでなによりだな」
『本当にね』
そんなことを話しながらテレビを見ていると、オレたちの話題にも上がっていたユリが〈じゃじゃーん!!〉と【重大発表】と書かれたプラカードを持ち上げた。
〈えっと、この度私たちメープルドリーマー、新曲を出すことが決定しました!! 歌詞はユ……私が想いを込めて書いたので、お楽しみに!〉
「新曲だってさ。 買うの?」
『そりゃあ買うだろうけど……多分ユリの方から送ってくるんじゃないかしら』
「いいなぁ……その時は貸してくれよ」
『いいわよ。 届いたらね』
テレビの向こうではインタビュアーの方が色々とユリに質問。
そして最後にその曲のタイトルを尋ねた。
〈はい!! 新曲の名前は『運命はEMMAージェンシー』です!! 別れてしまった人と急に再会して緊急事態だよーー! 的な歌詞になってるので是非聞いてください!〉
『ぶーーーーーーーっ!!!』
受話器の向こう側から口から飲み物を吹き出す音が聞こえてくる。
「あっはっはっは!! なぁ、エマ! EMMAージェンシーだってよ!!! これお前のことじゃないの!?」
『けほっ……けほっ……、ユリーーーー!!!!!』
なんて愉快なお知らせなんだ。
まさかデビュー曲『あなたがいたから』に続いてまたもやエマに対するラブレターを全国に流すなんてな!
あまりにも面白すぎて笑っていると家の電話が鳴る。
「あ、すまん電話鳴ったから切るわ」
『そう? じゃあまたね』
そうしてオレが通話を切って立ち上がると「あ、お姉ちゃん出るからいいよ」と優香がリビングに入ってくる。
なのでオレは電話を優香に任せて再びテレビに視線を戻したのだが……
「ーー……えぇ!? 本当!? 大丈夫なの!?」
優香の驚いた声がリビング内に響く。
「うん……うん、え、じゃあ私行こっか? うん、あ、いいの、そこは先生に言えば大丈夫だと思う。 いいのいいの、そこはこっちで何とかしておくから気にしないで。 うん、じゃあね」
通話を終えた優香が「はぁ……」とため息をつきながら受話器を置く。
「どうしたの?」
「あ、ダイキ。 あのね、おばあちゃんが転んで入院しちゃったんだって」
「えぇ!? 大丈夫なの!?」
「うん、とりあえず検査のために短くて1週間らしいんだけどさ……だからお姉ちゃん、ちょっと明日からしばらくおじいちゃんのところに行ってくるよ」
おいおいなんだ? この愉快なお知らせの後にくる悪い知らせは。
「えっと……短くて1週間?」
「うん。 とりあえずほら、おばあちゃんいないとおじいちゃんご飯とか色々難しいからさ、お姉ちゃんが行ってあげないと」
「学校は?」
「そこは今から先生に電話するよ。 事情も事情だし許してくれるはずだから」
「そう……なんだ」
「まぁお父さんやお母さんの残してくれたお金とは別に、おじいちゃんたちも生活に必要なお金とか振り込んでくれてたからね。 お姉ちゃんもこれくらいはやってあげないと」
え、そうだったんだ。
確かに親の遺したお金だけでよくもまぁ暮らしていけてるなとは思ってはいたが……
「じゃあオレも行く」
そう提案すると優香が小さく首を振る。
「だーめ、ダイキは学校があるでしょ?」
「お姉ちゃんだってあるじゃん」
「それはそうだけど……でもダイキはほら、勉強だって……」
ふむ、これは意地でもオレを行かせないつもりだな。
ならオレにも考えがあるぜ。
オレはソファーの上に置いていたスマートフォンを手に取ると、とある電話番号を探して通話をかける。
もちろんその通話先は……決まってるよなぁ。
『ん、福田か』
「あ、先生、ちょっといいですか?」
『どうした? 珍しいな』
「あの、実は田舎のおばあちゃんが入院することになりまして、退院するまでおじいちゃんのお手伝いをしたいので休みたいんですけど」
『そうなのか!? それは……どのくらいだ?』
「短くて1週間らしいんですけど、詳しくはまだ」
『そうか……。 まぁ家の事情なら仕方ないな。 分かった、上にはこっちから話しておくから、また詳しく決まり次第連絡くれるか?』
「わかりました、ありがとうございます」
通話を切ったオレは優香を見上げる。
「え、ダイキ? 今の誰と……」
「先生だよ。 許可はもらいました! だからオレも行きます!!」
「ええええええええ!?!?!?」
その後優香も学校に連絡して無事許可をもらい、オレたちは田舎へと向かう電車の予約を探す。
しかしさすが週末。 そう簡単に席が空いてるはずもなく……
「うーーん、予約取れて日曜日の朝か。 こればっかりは仕方ないよね、おじいちゃんには日曜に行くって連絡してくるよ」
日曜の朝に予約をした優香は祖父に連絡を入れるために再び電話へ。
オレはその間優香をどう向こうでサポートしようかと考えていたのだが……
ーー……あれ、てか下手したら1週間以上かかるんだよな。 てことはホワイトデー間に合わなくなるんじゃね?
「でも流石にそれが理由でお返ししないってのもアレだしな」
オレはスマートフォンのカレンダーアプリを起動させてしばらく見つめた後、ポツリと呟く。
「仕方ない、これは明日の朝からお返しの何かを買いに行って……夕方には渡しておかなければ」
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