274 名探偵ミサキちゃん!
二百七十四話 名探偵ミサキちゃん!
優香が男子にチョコをあげていないことを知ってどこか安心したオレ。
その後テレビをボーッと眺めているとインターホンが鳴った。
「あ、ダイキ」
「うん。 星さんだよね、行ってくるよ」
オレは駆け足で玄関へ。
ガチャリと扉を開けると「やほー」と大きなケーキの入った箱を持ったギャルJK星がオレの頭に手を伸ばしクシャクシャと撫でた。
「よっ、ダイキー。 バレンタインサンタの美咲ちゃんが来ましたよーっと」
「あ、うん。 いらっしゃい。 おっきい箱だね」
「そだぜー? ゆーちゃんから聞いてると思うけどバレンタイン限定&先着予約限定のアイスケーキだべ。 思ってたより結構大きくてアタシもビックリだ」
オレはそんなギャルJK星をリビングへと案内。
優香に「星さん来たよ」と言いながら声をかけた。
「やほー、ゆーちゃん」
「いらっしゃい美咲……ってうわぁ、おっきいね」
「だべ? 写真だとあまり分からなかったけどまさかこれほどとはね」
箱を開けてみると大体5人家族でも多いくらいのチョコアイスで出来たホールケーキ。
その上にイチゴやら細かなチョコレートやら、カラフルなトッピングされており、かなりの『限定感』が醸し出されていた。
「ねぇお姉ちゃん、星さん、これ高そうだね」
「お、分かる? そう、これ結構したのさ!」
ギャルJK星がニコッとオレに微笑む。
「そうなの?」
「だべ。 だからアタシとゆーちゃんで半分ずつ出して買ったのだ! ダイキも喜ぶかもって話してさ、これアタシとゆーちゃんからのダイキへのバレンタインって思ってくれたら嬉しいかな」
ギャルJK星の言葉に優香が「そうなの。 ダイキに喜んで欲しくて」と同調しながら頷く。
「まぁでもアタシとゆーちゃんもこれには興味あったからね! ダイキは値段なんか気にせず味わえ!」
「あ、ありがとう」
おいおいなんだよ本当によう!!
バレンタイン……今まで憎しみを抱き、その内に存在まで消し去ってしまっていて申し訳なかった!!!
最高じゃないかバレンタイン!!!!
オレは心の中で勝手にバレンタインの神を作り出してその神に土下座。
これほどまでに最高の日を提供してくれたことに心の底から感謝をしたのであった。
「じゃあこれは……どうする? 美咲もダイキも今食べたい?」
「えっと……オレはどっちでも」
「アタシはゆーちゃんのご飯食べてからがいいかなー。 じゃないとせっかくのゆーちゃんご飯を存分に味わえなくなっちゃうし」
ギャルJK星がお腹をさすりながら優香を見ると、優香は嬉しそうに頷く。
「分かった。 じゃあ急いで作っちゃうからこれは冷凍庫入れとくね」
「サンキュー、ゆーちゃん」
「じゃあ美咲はダイキとゆっくりしてて」
「おいすー」
こうして優香はギャルJK星に褒められて気合いが入ったのか、鼻歌を歌いながら料理を再開。
オレはギャルJK星とソファーに座りながらテレビを見ていたのだが……
突然ギャルJK星が「ねぇダイキってさー」と目線はテレビのまま小声で話しかけてくる。
「なに?」
「ダイキって幸せもんだよねー」
「え、どうしたのいきなり」
「ダイキ、ゆーちゃんをちゃんと大事にしろよー」
そう伝えるとノールックでオレの髪を再びわしゃわしゃと撫で始めた。
「そ、それはもちろんだけど……なんで?」
「いやさ、アタシ最近までゆーちゃんに日替わり弁当作って貰ってたのね?」
「うん」
あれだろ、ちょっと前に結城と優香がギスギスしてた時にピザを奢ってくれたお返しだったよな。
「それがどうしたの?」
「アタシさ、その弁当食べてたとき心底幸せな気持ちになれたのね? そのとき思ったのよ、こんなに優しい味を作り出せるゆーちゃんを、絶対不幸にさせちゃいけないってね。 でさ、多分だけどそんな味が出せるのって……ゆーちゃんの腕もあるかもだけどダイキの存在も大きいと思うわけ」
「オレの……存在?」
「そう。 だからゆーちゃんを悲しませんなよー?」
ギャルJK星がニコッと笑いながら顔を近づけてくる。
「それは……うん、もともと悲しませるつもりはないよ」
「そっか。 じゃあ安心だ」
「もちろん星さんもね」
「え? アタシ?」
「うん。 お姉ちゃんが幸せそうなのって星さんがいるからってのも絶対あるし、星さんもオレのお姉ちゃんでしょ? だからオレは星さんも悲しませるつもりはないよ」
「ダイキ……あんた……」
ギャルJK星がキョトンとオレを見つめる。
「なにカッコいいこと言ってんだよーー!! それでアタシをときめかそうなんて5・6年早えんだよーー!!」
ギャルJK星は大爆笑しながらオレを強く抱きしめる。
うおおおおお!!! なんかギャルJK星の言葉をブーメランみたいに返しただけなのになんだこの状況はあああああ!!!
オレはギャルJK星のフローラルな香りを楽しみながらもとりあえず「ちょっと星さん、苦しいって!」と心にもない言葉を口にしておくことにする。
「あー、何してるの美咲ー。 お姉ちゃんの前で大事な弟をいじめないでくれるー?」
「いいじゃんいいじゃん。 アタシだってダイキの姉になれてんだからさー」
「まぁそれはそうだけどー……、あんまりボディタッチとかは少なめにしてよね、ダイキだって年頃の男の子なんだから」
優香が笑いながら「ダイキ大丈夫ー?」と顔を覗き込んでくる。
「いやいやゆーちゃん、大丈夫だって。 むしろダイキ喜んでるっしょ。 だってお姉ちゃん物のエロ漫画読んでたんでしょ?」
ーー……。
「え」
オレは今のギャルJK星の言葉で動きを止める。
「あ、こら美咲、それは内緒にしてって……!」
「あー、やっべ。 言っちゃった、あははは」
ギャルJK星を見上げると、ギャルJK星は優香に視線を向けながらペロッと舌を出している。
てことは優香……あの本をオレが持ってたこと、ギャルJK星にバラしたのか!!!
「あ、あの……お姉ちゃん?」
「ごめんダイキーーー!!! お姉ちゃん前に偶然見つけちゃってね……なんだろうって思って中身読んじゃったのーー!!!」
優香が両手を合わせながらオレにすり寄ってくる。
まぁそれはオレが仕組んだことであって優香には全く非のないことなのだが……
うわああああああ!!! 恥ずかしいいいいいいい!!!!
オレはただ優香に興奮してコッソリと楽しんでもらおうと思ってやっただけなのに、まさかオレの性癖を暴露されることになるなんてえええええーーーー!!!!
なんたる不覚……想定外すぎるだろーーー!!!!
オレが1人で悶えているとギャルJK星が視線を優香からオレに。
オレと目が合うなりギャルJK星がニヤリと笑う。
なんか嫌な予感しかしないけど……
「ほ、星さん……?」
「ダイキ、アタシにもその漫画読ませてよ」
「ーー……え?」
「だって知りたいじゃない? ダイキがどんなシチュエーションが好きなのか」
いや、それはオレからしたらちょっとしたドMプレイも兼ねてるから嬉しいことでもあるのだが……えっと、でもこれは言っても良いのかな。
オレがしばらく黙り込んでいるとギャルJK星が「どうしたダイキ、どこかに隠してるなら一緒に宝探ししに行くべ?」と尋ねてくる。
「いや、多分だけどその漫画……今オレの部屋にはないと思うんだけど」
「なんで?」
「だってそれ今は……」
オレはゆっくりと視線を優香に。
すると優香の顔が次第に赤くなっていき目も大きく開いていく。
「え、ゆーちゃんがどうしたの?」
ーー……まぁいいか、ギャルJK星だし。
「多分それ今、お姉ちゃんの部屋に……」
「うわあああああああああ!!!」
オレの言葉を遮るように優香が大声を出しながらその場で立ち上がる。
「ん? どしたのゆーちゃん」
「わ、私ちょっと部屋で用事あったの思い出したよ! だ、だだだから美咲、ダイキのことちょっと、よよよ、よろしくね!」
そう言うと優香はその場を後にしようと体を自室の方向へ。
一体何をするつもりだったのかは考えないでおいてあげることにするが、ギャルJK星はそう甘くはなかった。
優香が部屋の方向へ1歩踏み出したと同時にすかさず優香の手首を掴む。
「ど、どどどうしたのかな美咲」
「あれれー? ゆーちゃん、何をそんなに急いでるのかなー」
ギャルJK星がニヤニヤしながら優香に尋ねる。
「え、それはちょっと用があって……」
「用? どんなー?」
「そ、そそそそれはあの……あ、違った! トイレ! トイレに行こうとしてたの! だから離して欲しいな美咲!」
「ーー……」
「み、美咲?」
ギャルJK星が黙ってたので何事かと思い顔を見てみると……
ニヤァ!!!
うわあああああ!!! めっちゃ勘付いて楽しんでるううぅーーー!!!!
「よし、ダイキ! 宝探しだ!! 宝はゆーちゃんの部屋の中に隠されている!! いくべ!!!」
ギャルJK星は素早くソファーから降りると優香とオレを引っ張りながら優香の部屋へ。
目をキラキラと光らせながら部屋の中を見渡す。
「ちょ、ちょっと美咲ぃーー、止めようよ、私の部屋にはないって!」
「ほんとー?」
「ほ、ほんとだよ!」
「じゃあさ、とりあえずあそこだけ見ていい?」
そう言うとギャルJK星はニヤニヤしながら優香のベッドの足元を指差す。
そして何故かその言葉に優香の体が反応。
「な、なんで……かな」
「チッチッチ、甘いぜゆーちゃん。 コンセントがまず見えてるんだわ」
「え? あ、ああああああああ!!!!」
優香が急いでそこへ駆け寄りベッドの下に必死に押し込む。
「遅いぜゆーちゃん!! そのコンセントはあの電……マッサージ機のコンセント! 故にそれ関係をそこに集めてると名探偵美咲ちゃんは推理したのさ!!」
ギャルJK星はすかさずベッドの奥へと手を突っ込むと何かを引きずりだす。
そこにはあのコンセントに繋がれて充電中のピンクのマッサージ機と、そのコンセントに引っかかって出てきたもの……
「っしゃあああーー!! お宝はっけーーん!!!」
そう、エロ漫画。
ギャルJK星が優香の隠していたオレのエロ漫画を天高く掲げる。
「うわああああああああ!!! 美咲、やめてええええええ!!!!」
そこからはギャルJK星と優香のエロ漫画を巡ったビーチフラッグ状態。
優香が取り返そうとギャルJK星の持つエロ漫画に手を伸ばすも、ギャルJK星はそれを見開き読みながら華麗にかわしていく。
「ほうほう、ゆーちゃんはこの漫画で夜な夜な……」
「きゃあああああああ!!! ダイキ、聞かないでえええええええ!!!!」
カ……カオスだ!!!!
それからしばらくそんなやりとりが続き、流石に優香が哀れだと思ったオレは静かに部屋に戻ろうとしたのだが……
「あ、ゆーちゃん、ダイキが静かに部屋戻ったよ! もしかしてこのやり取りに興奮して我慢できなくなったんじゃない?」
「えっ……」
「ちーがーう!!!!」
いやぁ、エロ漫画で白熱したからだろうか。
その後に食べたご飯は非常にお腹が空いていていつもよりも美味しく感じたし、まだ身体も心もいろんな意味で熱くなっていたのもあるのだろう……デザートとして食べたアイスケーキはひんやり甘く染み渡ったぜ。
◆◇◆◇
夜。ギャルJK星が帰り、優香がお風呂に入ったことを確認したオレはランドセルにしまっておいたチョコたちを自室の勉強机の上に並べていく。
「いや……なんだかんだでずっと気になってたんだよな、これ」
オレはその中から赤いリボンで結ばれたハート形の箱を手に取る。
そう……西園寺からもらったチョコレートだ。
底にはちゃんと抜け落ちずに手紙が挟まっており、オレはそれを抜き出して読むことにした。
「えっと……なになに?」
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福田くんへ
この前は一緒にお出かけしてくれてありがとう。
あの日、福田くんは楽しかった?
またどこか遊びに行きたいな。
映画も楽しかったけど、今度は外で……遊園地なんてどうかな。
福田くんの予定が空いてる日とか、教えてくれたら嬉しいです。
希より
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ぎゃああああああ!!!
何だこれはああああああ!!! 可愛いよおおおおおお!!!!
おそらくはこれも普通のお誘いなのかもしれないが、さすがはバレンタイン!
この日に限っては全ての行動に実はラブが付与されてるんじゃないかって錯覚してしまうぜ。
「てかあれだよな……わざわざチョコに手紙というアクセントを付けてくれているところとか、西園寺って女子力高いよな」
そう呟いたオレがふと視線を下にずらすと、そこには三好から貰ったチョコレート。
それと同時に三好から言われたあの言葉が脳内で再生される。
「ーー……ホワイトデーのお返し、どうしよ」
お読みいただきましてありがとうございます!
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