273 バレンタインの魔法③【挿絵有】
二百七十三話 バレンタインの魔法③
三好が保健室から出て行ってから少し。
オレはポケットに入れていたスマートフォンが振動したことに気づく。
「ん、なんだ?」
【受信・お姉ちゃん】ダイキ、お姉ちゃん今から買い物して帰るから、あと30分くらいで帰るね。
「ーー……やっべ」
◆◇◆◇
優香からのメールを見てオレは家までスーパーダッシュ。
なんとか優香が帰ってくるまでにマンション前まで到着すると、息を切らしながら階段を上り自宅玄関前へ。
扉を開けて中に入ると疲労からその場で仰向けに倒れこんだ。
「さ、流石オレ……なんとか間に合ったぜ」
スマートフォンを手に時間を確認するとまだ優香が帰ってくるまで10分程時間がある。
「とりあえずランドセル置いて……息を整えねば」
オレはゆっくりと起き上がりランドセルを持ちながらフラフラと自分の部屋へ。
すると向かっている途中、ピンポンと家のチャイムが鳴った。
「あー、これは危なかったぜ。 優香帰ってきたのか」
買い物袋が多くて扉を開けるのが困難なのかもしれない。
オレは廊下にランドセルを置いて小走りで玄関へ。 早く中に入れてあげようとガチャリと扉を開けた。
「おかえりお姉ちゃ……」
優香だと思っていたオレは何の疑いもなく扉の外にいた人物に話しかける。
しかしそこに立っていたのは優香ではなく……
「ーー……え、結城さん?」
そう、そこに立っていたのは結城。
制服姿のままニコリと微笑んでこちらを見ている。
「さっき福田……くん、帰ってきたでしょ? 待ってたんだよ?」
「え?」
「これ、渡したくて」
そう言うと結城は……オレの視界からは扉のせいで見えなかったのだが、片手に持っていたものを自身の胸の前まで持ってきてオレに見せる。
「えっと……もしかしてそれって……」
「うん。 今日バレンタインデーでしょ? だからこれ、福田くんに」
ーー……え。
「えっと……結城さん、オレに?」
「うん」
「おぉ……おおおおおおおおおおおお!!!!!」
オレは全身をガクガクと震わせながらもそれを受け取ると「あ、ありがとう」とこれまた声を震わせながらぺこりと頭を下げる。
「ほんとはね、学校にも持ってきてたんだけど、やっぱりみんなのいるところで渡す勇気はなくて……」
結城が少し照れた様子で「えへへ」と微笑む。
いやいやそんなこと気にしなくてもいいよ可愛いよヤバいよ。
「ううん、そんな。 オレは別に……」
「でも私、福田……くんの家と一緒のマンションでよかった。 こうして帰ってくるまで待ってることも出来るし、誰も見てないところで渡せるし。 だからこうしてちゃんと福田……くんに渡せれた」
「ーー……」
そんな結城の姿に見惚れていると、結城は「じゃあ……渡せたし、私、帰るね」と言い小さく手を振りながら扉を閉めようとする。
……あれ、オレちゃんとお礼言ったっけか?
あまりの衝撃的な展開から記憶が曖昧なオレはとりあえずお礼を言おうと必死に声を絞り出す。
「ゆ、結城さ……」
「美味しく出来たから……食べてね」
「!!!!!!!!!」
結城の去り際の超スーパーキューティクルエモーショナルな言葉にオレの心拍数は爆上がり。
これを異常事態と捉えたオレの脳が全身に警報を発令する。
『強制シャットダウン開始マデ、3……2……1』
あ……やばっ、なんか急に眠くなって……
◆◇◆◇
「ーー……イキ」
んっ
「ダイキ、起きてー」
「はっ!!!」
耳から聞こえてくる極上の癒しボイスでオレは飛び起きる。
「わわっ! ダイキ、ただいま」
そこにいるのは優香。
玄関前でしゃがみ込んでオレの頭を優しく撫でる。
「あれ、オレなんで……」
「それはお姉ちゃんのセリフだよー? 帰ってきて玄関開けたらダイキが倒れてたんだもん。 お姉ちゃん心臓止まっちゃうかと思ったよ」
優香は笑いながら靴を脱ぐと「ほら、風邪ひいちゃうからリビング行こ?」とオレの手を引っ張る。
「ごめんねお姉ちゃん。 心配させちゃって」
「ううん、でもすぐにダイキ寝てるだけだって分かって安心したよ」
「そうなの?」
「うん。 今日のダイキ、寝息とか全然立ててなくてさ。 でもその……ほら、今もだけど、そこが起きてたから」
「ん? そこ?」
オレがキョトンと首を傾げながら優香を見上げていると、優香が恥ずかしそうに視線を若干下げるのを確認。
一体なんだろうと思いながらその視線の先を追っていく。
「あ」
なんということでしょう。
詳細な場所は正確には分かりませんが、何かとてつもなく重要なものが勝手にスタンダップしているではありませんか。
オレは自然と内股になり腰を若干引かせる。
「えっと……お姉ちゃん、これはその」
「う、ううん、いいの。 ただお姉ちゃん、ダイキに謝らないといけないことがあってさ」
「なに?」
「その……ダイキが気絶してるように寝てた時、チョコ持ってたからさ、もしかしたらポケットの中にチョコの箱入れてるだけかもしれないって思って……ポケットの中に手、入れちゃった。 ごめんね」
「え? あ、うん。 それは別に。 何も入ってなかったでしょ?」
「うん。 スマホだけだった」
「だよね」
「うん」
こうしてオレと優香はリビングの中へ。
とりあえず外が寒かったということで優香と一緒にココアを飲んで温まっていたのだが……
「ーー……ん、あれ?」
さっきの優香の言動に違和感を感じたオレは声を漏らす。
「どうしたのダイキ」
「お姉ちゃん、オレのポケットの中に手を入れたって言ってたよね」
「え、うん。 それがどうしたの?」
「それで……その原因がソレだったって分かったってことは……お姉ちゃん、もしかして……」
ココアのせいもあるのだろうか。
身体の中心とも言える部分が徐々に熱くなっていく。
「触った……ってこと……?」
「きゃああああああ!!! ごめんなさいーーー!!!!!」
うわああああああ!!! 起きてればよかったあああああああああ!!!!
2月14日……バレンタイン。 西園寺や水島、エマ、三好、結城……充分すぎるくらいにチョコを貰えた上にそんなご褒美まで用意されていたなんて!!
「じゃ、じゃあお姉ちゃん、休憩も出来たし夕飯作っちゃうね!」
優香が両手で赤くなった顔をパタパタと仰ぎながらぎこちなく立ち上がる。
「え、でもまだ早くない?」
「ううん、今日は美咲も来るからさ」
「そうなの?」
「うん。 それで、もう言っちゃうけど今日ってバレンタインデーでしょ? 美咲とお金を出し合って有名なお店のチョコアイスケーキを注文してて、今美咲取りに行ってくれてるの。 一緒に食べよってなってるから早く準備だけでもしておかないと」
「あ、だから早く帰ってきてって言ってたんだ」
「そうなの。 もうちょっとしたら来るはずだから、その時は玄関開けてもらっていいかな」
「分かった」
こうして優香は気持ちを切り替えて料理を開始。
オレはギャルJK星が来るまでそんな優香の姿をジーっと見つめていたのだが……
「ね、ねぇお姉ちゃん」
「なに?」
「お姉ちゃんって今日学校で誰かにチョコあげたの?」
「なんで?」
「いや、あげてたらなんかイヤだなーって思って」
「やんダイキ、どうしたのいきなり。 女の子にしか渡してないよ」
「そっか……」
「ふふ、変なダイキー」
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