表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/733

272 バレンタインの魔法②


 二百七十二話  バレンタインの魔法②



「ん? どうしたんだ三好」



 ずっとこちらを振り返ったまま動かない三好を心配したオレは少し駆け足で近寄り尋ねる。

 相変わらずいつもの少し高めのテンションではなさそうだが……


 オレが顔を覗き込むと、三好がスッと視線を逸らす。



「おいなんだよ」


「べ、別に」


「いやいや流石にそれは通用しないぞ?」



 オレは三好の顔を持ちオレに顔を向けさせる。



「ちょっ……なにすんの福田!」


「ちょうどよかった。 お前今日朝から様子変だったろ? メールの返信も素っ気ないし……一体どうし……」



 オレは三好に尋ねている途中であることに気づく。

 それにより言葉を詰まらせたことで三好が不思議そうにオレを見つめた。



「ふ、福田?」


「あー、すまん。 オレとしたことが気づかなかったなんてな」


「え?」



 オレは目をパチクリさせている三好をよそに「大丈夫だ、これでもオレも賢くなったんだぜ」と言いながら肩を軽く叩く。



「は? 賢く? 何言ってんの福田」


「大丈夫だ分かってるぞ。 誤魔化さなくても良い」


「え?」



 オレは周囲に人がいないのを確認してから三好に顔を近づける。



「ふ、福田!?」


「三好、お前あれだろ、その……女の子の日が近くなってるからイライラしてるんだろ?」



 なんかやっぱり言い慣れてない言葉を言うのは少し抵抗があるが……おそらくそうなのだろうと三好に尋ねる。

 だってオレもあの小畑の件や、多田がそうなったって話を聞いてからこっそりと調べてはいたんだからな。

 いわゆる『女の子の日』になる前ってイライラしやすくなるっていろんなネットで書かれてたし。



「だから気にするな。 オレは今日の三好の態度には別に腹を立ててはいない、安心しろ」



 こういう時は大らかに対応しつつ気遣いが大事って書いてたんだ。

 なのでこれで少しでも気を静めて欲しい……といった一心で三好の背中に手を回し「じゃあ途中まで一緒に帰るか」と三好の靴箱簿ところまでリードする。

 三好には悪いけど、オレには経験がないからネット情報に頼ることしか出来ないからな。


 するとどうだろう……三好は「ちょ、ちょっと待ってよ福田」と言いながら立ち止まりオレの腕を掴んだ。



「ん? どうした三好」


「あのさ、勘違いしてるから先に言っとくけど……私まだその……女の子の日、来てないよ?」



 ーー……。



「エ?」



 一瞬の静寂の後、オレの口から気の抜けた声が漏れる。



「えっとあの……三好、マジか」



 オレの問いに三好はコクリと頷く。



「その……隠さなくてもいいんだぞ?」


「うん。 だから違う」


「ーー……マジ?」


「マジ」


「はあああああああああああ!?!?!?!? バカ三好お前何……めっちゃ緊張したじゃねえかよおいいいいいい!!!!!!」



 緊張が解けたオレはその場でヘナヘナとしゃがみ込む。



「で、でも私そんなこと一言も言ってないし」


「ならオレがそう予想した時にすぐに言えっての!! オレの不安を返せこらーー!!!」


「そ、そんなの知らないじゃん! 急におかしな考え始めて動き始めたのそっちなんだから!!」


「くそ……てことは今日のオレへの態度は普通に悪かったってことじゃねーか!! 傷つくぞおい!!!」


「は!? べ、別に悪くないし普通だし!!」


「いーや傷ついた!! バレンタインデーだし後でチョコくれるためのサプライズであえてそういう演技してるならまだしもよ、何もなしにそんな態度取られたら……傷つきながらも心配してたじゃねーか!!!」



 オレは三好から送られてきたメールの内容を見せつける。



「ほら見ろよこれ! こっちは心配して送ってんのに『知らない』ってなんだよ!」



 そうオレが問い詰めていると三好はオレを見つめたまま小さく口を開く。



「……え、チョコ?」


「ん? そうだよバレンタインだからな! まぁ別に貰えるとか思ってないからあえて言うけどよ、もうちょっとオレのことも気遣ってくれよ。 もう昔のいじめいじめられの関係じゃないんだからさ」


「欲しいの?」


「チョコか? そりゃあ欲しいに決まってんだろ! こちとら今までチョコを貰えない人生を送ってきてたんだ! 欲しくないなんて言えるはずがなかろうて!!」


「あるよ」


「なにが!」


「チョコ」


「ーー……」



 え。



「エエエエエエエエエエエ!?!?!?!?」


 

 オレはあまりの驚きに一歩引きながら三好を見つめる。



「み、三好、お前……マジか!」


「うん」



 そう言うと三好はランドセルの中に入れていたものをオレに差し出す。



「これ……なんだけど」


 

 三好の手の握られていたのは正真正銘のチョコレート。

 透明なナイロン袋の中にいくつかのピンク色のチョコレートが中に入っているのが見える。



「おお……おおおおおおおおおおおお!!!!!!」



 オレはテンションを上げながら三好の持っているそれに手を伸ばしたのだが、なぜだろう……急に三好は何を思ったのか「や、やっぱなし!!」と勢いよくオレからそれを遠ざけた。



「は……はああああああああ!?!?!?」


「ご、ごめん福田。 やっぱ無理」


「無理って……なんでだよ期待させておいてよ!!」


「だってこれ見てよ。 中、潰れてるし」



 三好が袋を軽く揺らしながらオレに見せつける。



「ん? そう言われればそうだけどそれがどうした」


「イヤじゃない? せっかく貰ったチョコがグチャグチャだったら」


「バカヤローーー!!! 貰えることに意味があんだよ!! しかもそれ、見た感じ手作りじゃないのか!?!?」


「そ、そうだけど……」


「じゃあ余計にくれぇええええええええ!!!!!」



 オレは地面に両手を付きながら三好を見上げる。



「ちょ、どうしたの福田」


「手作りチョコとか……最高じゃねえか!!!」


「でも潰れて……」


「じゃあそれ、オレに渡さなかった場合どうするつもりなんだ!?」


「そ、それはもちろん帰ってからでも捨て……」


「ならオレが貰う!! よこせええええええ!!!!!」



 オレは一瞬の隙をついて三好からそれを奪い取ると間髪入れずに結ばれていたリボンを解く。



「ま、待って福田……!!」


「待たん!! 待ったらお前どうせオレからまた奪い取って投げ捨てたりするんだろ!! だったらオレは今ここで食らう!!!」



 オレは素早く袋の中に入れられたチョコを取るとすぐにそれを口の中へ。

 するとどうだろう……身体中の力が抜け、腰が抜けたオレはその場で尻餅をつく。



「え、えっと……福田? どうしたの? 美味しくなかっ……」


「う、ウメェ……」



「ーー……え」



 なんだこの味は……オレは料理しないが故に何を加えているか……とかは分からないが、普通のチョコよりも食感が柔らかく噛んだと同時に口の中に甘みが広がっていく。

 もしこれが普通のチョコと一緒なのだとしたらこの追加効果はそう……



「これが……手作りの……バレンタインの魔法……」



 思わずポツリと呟くと三好がこちらを見つめていることに気づく。



「お、おい三好……美味いぞ。 ほら、自分でも食べて見ろよ」



 オレは一粒チョコをつまんでそれを三好の口元へ。

 三好はこの行動に躊躇いを見せるかと思っていたのだが、結構すんなり口を開けたのでオレはその中へと入れた。



「ーー……あ、ほんとだ」


「だろ!! なんだよ三好、お前これを捨てようとしてたのかよ勿体ねぇ!! でももうあげないぞ、残りは全てオレが頂く!!!」



 そう宣言してバクバクと口に運び出してしばらく。

 あまりにも美味しいチョコに夢中になっていると、目の前で「ぐすん」と鼻をすする音が聞こえてきた。

 


「ん? なんだ三好、風邪か花粉症か?」



 そう冗談交じりに笑いながらオレは三好の顔を見上げる。



「ーー……え、三好?」



 どうしてだろう。 チョコに夢中になりすぎて気づいてなかったのだが、三好が涙を流しながら泣いているじゃないか。



「ちょ、ちょちょちょどうした!!!」



 オレはチョコを一旦頬張るのを中断して立ち上がると三好の肩を揺する。



「な……なんでもないっ!」


「なんでもなくないだろ! なんでお前そんな……あ、もしかして三好ももっと食べたかったのか!? うわあああすまん、ついつい独占欲が働いてしまった!! ほら、三好も食べてくれ!!」



 オレがチョコを三好の口にねじ込もうとするも、三好は口を固く閉じてそれを拒否。

「ち……がう!」と言いながら大きく顔を左右に振る。



「え……えええええ、じゃああれか? こんなに美味しかったって自分でも知らなかったから……知ってたらこれあげる予定だった人にあげたらよかったとかか!?」


「ちがう!!」


「じゃあなんで……」


「うわああああああああああああああん!!!」


「えええええええええええ!?!?!?」



 突然泣き出した三好を前に動揺したオレは一瞬脳を完全にストップさせるもすぐに我に帰る。


 ーー……この状況、第三者から見たらオレがいじめてるように見えるじゃないかあああああああ!!!!


 オレは一旦人目を避けるためにも、あまり保険医のいない保健室へ。

 ベッドの上に三好を腰掛けさせると「なんか分からんけどごめんって!」と言いながら三好が落ち着くまで背中をさすっていたのだった。



 ◆◇◆◇



 大体10分くらい経っただろうか。

 ようやく泣き止んだ三好はゆっくりと立ち上がると静かにオレを見下ろす。



「み、三好。 ほら、残りのチョコは全部お前に……」


「いらない。 あげる」


「そ、そうかありがとう。 でもなんでお前急に泣いたりなんか……」



 そう尋ねると三好はオレに背を向け小さく呟いた。



「ーー……ありがと」


「ん? なんか言ったか?」


「バカって言ったの」



 三好が振り返りながらベーッと舌を出す。



「え?」


「ホワイトデー、期待してるから」


「あ、はい。 お返し用意いたします」



 その後三好は「へへっ」と笑いながら保健室を後に。

 オレは意味が分からず少しの間その場で首を傾げていたのだった。



 三好のやつ……イライラして、泣いて、バカにしてきて、でも最後には笑って……一体なんだったんだ。



 女の子ってやっぱり分からん。



お読みいただきましてありがとうございます!!

下の方に☆マークがありますので、評価していって貰えると励みになります嬉しいです!!

感想やブクマ・レビュー等、お待ちしております!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 食べてくれた。それだけで三好は救われた上にダイキの好感度も、上がった。これ他にダイキがチョコを貰ったって聴いたら焦ってくれるかな?ニヤニヤ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ