271 バレンタインの魔法①【挿絵祭】
二百七十一話 バレンタインの魔法①
朝。 優香と向かい合わせで朝食を食べていると、優香が「あ、そうだダイキ」とオレに話しかけてくる。
「なに?」
「今日ってさ、ダイキ学校終わってから用事ある?」
「用事? ううん、ないけど」
「じゃあさ、お姉ちゃんダイキに渡したいものあるから、お姉ちゃんが買い物から帰ってくるまでには家にいて欲しいかな」
優香が壁に掛けられた時計を見上げる。
「えっと……それって5時くらい?」
「そうだね。 大丈夫そう?」
「うん。 別に予定とかそもそもないし大丈夫だよ。 それでさお姉ちゃん、オレに渡したいものって?」
オレが尋ねると優香はクスッと笑いながらオレを見つめる。
「ん? なに?」
「なーいしょ」
「えー、なにそれ」
オレはそう普通に返していたのだが、実は心の中ではと言うと……
ぎゃあああああ!!! なにその『なーいしょ』ってえええええええええええ!!!
可愛すぎて朝から病欠したいレベルですわああああああああああああ!!!!!!
と、こんな風にあまりの優香の可愛さに悶えていたのだった。
しかしオレに渡したいものか……気になるな。
◆◇◆◇
その後オレは優香よりも先に家を出る。
エルシィちゃんは日直のためエマとともにもう出ていたため1人で学校へと向かっていると、校門に入ってすぐぐらいだろうか。
突然「ふ、福田くんっ!」と声を掛けられたので振り向いてみると、正面玄関から少し離れたところにある花壇の方で西園寺が手を後ろに回しながらオレを見つめている。
「なんだ西園寺」
「あ、あのさ、ちょっとこっち来てくれないかな」
「お、どうしたどうした? もしかして新しいプレイでも思いついたのか?」
そう茶化しながらニヤニヤと西園寺の方へと駆け寄ると、なんだろう……西園寺のやつ、なんかモジモジしながらオレを見上げて赤くなってるぞ。
「おい西園寺大丈夫か? なんか顔赤い気がするけど……もしかしてトイレを我慢……」
「こ、これっ!! 福田くんに!!」
オレの言葉を遮って西園寺が何かを差し出してくる。
ハート形の箱にリボンの巻かれた……
ーー……え、これってもしかして。
「ま、まさか西園寺、これ……」
オレが言葉を詰まらせながら尋ねると、西園寺は恥ずかしそうに視線を度々逸らしながら小さく頷く。
「う、うん。 その……今日、バレンタインだから。 だからもしよかったら食べて欲し……」
「やったああああああああああ!!!! ありがとう西園寺いいいいい!!!!!」
オレはスーパーハイなテンションでそれを受け取る。
「た、食べてくれる?」
「もちろんだ!! そうか、今日はバレンタインだったのか!! すっかり忘れてたぜ!!!」
オレは西園寺から受け取ったハート形の箱に頬ずりをしながら改めて「ありがとう」と伝える。
「え、てことは福田くん……、もしかして今日、チョコ貰うのって私が初めてなの?」
「あぁ!! だから超サプライズだぜ!! ああああああ、生きててよかったあああああああ!!!!」
「そんなに喜んでくれるなんて……嬉しいな」
「それはもう!! じゃあ早速食べていいか!?」
オレがリボンを外そうとしたところで西園寺が「ま、待って!」と一層顔を赤くさせながら止めに入ってくる。
「え、西園寺、なんで!?」
「だって恥ずかしいもん! あと、その箱の底……リボンとの間に手紙挟んでるから……」
言われた通り底を覗き込むと確かに二つに折られた小さめの紙が挟まれている。
「あ、ほんとだ。 えーと、どれどれ」
「わああああああ、それもお家に帰ってから……1人で読んでーー!!」
「とか言って実はオレに目の前で読まれた方がゾクゾクするんじゃねーの?」
「違うの! これは違うから……」
西園寺が左右の手を胸の前で絡ませながらオレを見つめる。
「だからね、その……えっと……」
え、可愛いくね?
オレがそんな西園寺の姿に見惚れていると、それに気づいたのだろう……そんな西園寺と目が合う。
「え、福田くん……」
「西園寺。 お前今のマジで可愛……」
「鼻血出てるよ!!」
「え」
まさかと思い手の甲で拭ってみると鮮やかな赤。
「た、大変! 早くティッシュ詰め……」
「ああああああ!!! 西園寺!!! こんなとこで何してるのーーー!!!」
声のした方を見てみると、そこにはあの綾小路。
「ーー……げ、見つかっちゃった。 せっかく見つかりにくい場所選んだのに」
西園寺が小さく呟く。
「ん、西園寺今なんか言ったか?」
「え? ううん、何も。 あははは」
「そうか。 じゃあオレはあいつ苦手だから任せるわ。 チョコありがとな」
あいつに西園寺から貰ったチョコを見られたら半狂乱で強奪される可能性もあるからな。
オレは西園寺に「じゃあな」と声をかけると、そそくさとその場を後に。
もちろん後ろからは綾小路と西園寺の会話が聞こえてくるわけで……
「なにやってたのこんなところで!!!」
「べ、別にいいでしょ」
「良くない!! あ、もしかして福田にチョ……!!」
「はいこれ、綾小路に」
「え……いいの?」
「いらない?」
「いる!! 西園寺大好き!!!」
「はぁ……」
ーー……大変そうだな。
◆◇◆◇
教室に着くとすでに半分くらいの人が中に。
やはりバレンタインデーだからなのだろうか。 男子たちはチョコを貰った貰ってないの話題で、女子たちはあげたあげてない……また、友チョコの交換で盛り上がっている。
ふふふ、君たちよ。
オレは学年のマドンナ候補・西園寺から貰ったんだぞいいだろーーー!!!!
そんなことを心の中で自慢しながらも、オレは静かに窓際にある自分の席へ。
あー、早く西園寺から貰った手紙読みたいなと思っていると、前の方いた学年の現マドンナ・水島が「ごしゅ……福田くーーん」と力の抜けた声を出しながらオレの席の前に近づいてきた。
「福田くーん、はいこれチョコだよー」
「!!!!!」
「「!!!!!!」」
水島の言葉にオレを含め教室内にいたクラスの皆に衝撃が走る。
「え、えっと……オレに?」
「そだよー」
「なんで?」
「そんなのバレンタインだからに決まってるじゃないー」
「そ、そうなの? じゃあ……ありがとう」
オレは水島からピンクと白のストライプ柄の箱を受け取ると、とりあえずお礼を言う。
もしかしてあれか? オレには昔の記憶がないから知らないだけで、水島……チョコをこうして皆にあげて人気を得ようと……
そんなことを考察していると水島ラブの杉浦が水島に声をかける。
「あ、あのさ」
「なにー?」
「その……俺にはチョコは……」
「えー? なんで花ちゃんが杉浦くんにあげないといけないのー? 意味わからないよー?」
「!!!!!!!」
なるほど、オレの考察は外れていたようだ。
水島の清々しいほどに『あなたのことなんか眼中にありません』的な言葉が巨大なハンマーとなり杉浦に振り下ろされる。
「そ……そんな」
心を粉砕され膝から崩れ落ちる杉浦。
しかし水島はそんなの御構い無しにクルリと体を回転。 杉浦に背を向けてゆるーっと自分の席へと戻っていったのだった。
てことはあれか、奴隷なりのオレへの忠誠の証……ということなのだろうか。
何はともあれチョコをもらえたことは素直に嬉しいし、つい最近までオレをいじめていた杉浦がこうして絶望している姿……いつ見ても気持ちのいいものだな!!
それからしばらくして朝のチャイム。 担任が教室に入ってきて朝のホームルームが始まったのだった。
そういや三好のやつ、担任とほぼ同時に入ってきて遅刻ギリギリだったけどどうしたんだろうか。
見た感じちょっとテンションが低かったような……。
◆◇◆◇
三好の元気のなさが気になったオレはそれとなくメールで聞いてみたのだが……
【送信・三好】今日どうした
【受信・三好】なにが?
【送信・三好】なんか元気なくない?
こう送ってさっき届いた返信が次のになるんだけどさ。
【受信・三好】知らない
ほら、なんだよこの返し!!
せっかく心配してやってるのに、めっちゃ機嫌悪そうじゃねーか!!
これ以上やりとりをしても不毛だと思ったオレはここでメールを中断。
こうなれば直接呼び出して聞き出してやろうと思い席を立とうとすると、ちょうどそのタイミングでエマが教室に入ってきた。
「あ、カナたちいた! はいこれ、友チョコよ! 作ったからあげるわ」
エマが三好・多田・小畑にそれぞれ可愛い包装紙で包んだチョコレートを渡していく。
「え、ありがとうエマ!! でもウチ、エマの用意してきてないけど……いいの?」
多田が受け取りながらエマに尋ねる。
「いいのよ気にしないで。 ていうかあれ? カナどうしたのよ。 なんか暗くない?」
エマが三好の顔を覗き込む。
「そう?」
「うん……、まぁエマの勘違いだったらゴメンだけどさ」
「ありがと、でも大丈夫。 なんでもないから……」
「ならいいんだけど」
エマはそう言うと視線をオレに。
「ダイキ、ちょっとこっち来なさい!」と手招きをしながら教室を出て行く。
ーー……ん? なんだ急に。
不思議に思いながらも後をついていくと、人の少ない空き教室の前でエマが立ち止まった。
「なぁエマ、一体何の用……」
「はい、これ」
「ん?」
そう言って差し出されたのはピンクっぽい半透明のナイロン袋。
中にはハート型の一口サイズのチョコレートがたくさん入っている。
「お……おおおおおおお!!!! エマああああああ!!!!」
「ほら、ちゃんと約束守ってやったわよ。 これで満足?」
「充分すぎるぜええええ!!!! 『義理』って文字も入ってないし……てかめっちゃお菓子作り上手いんだなエマ!!!」
オレが興奮気味に褒めるとエマは嬉しそうに鼻を鳴らす。
「当然でしょ。 元JKを甘くみないで欲しいわね」
「しかもこんな場所に呼び出して渡すなんてロマンチックで最高……え、もしかしてエマ!!」
「んなわけないでしょ調子乗らないのダイキ」
エマがオレのおでこを軽く指で弾く。
「いって!! なんでだよ」
「あのね、もし教室で渡してみなさいよ。 エマがダイキのこと大好きなんじゃないかって噂が広まっちゃうでしょうが」
「いいじゃねーかそう思われても!」
「だーめ!」
「なんで!? あ、もしかしてエマ、他に好きな人がいるってのか!?」
オレが動揺しながら尋ねると、エマは「はぁ……違うわよ」と面倒臭そうに顔を左右に振る。
「もうこの際だから教えてあげるけど、エマ、約1年前まではJKだったのよ? JKが小学生に恋をするとでも?」
「しないの?」
「しないわよ」
エマははっきりと断言。
それと同時にその言葉がオレの心に深く突き刺さる。
だってオレ、普通に女子小学生……JSに恋しちゃってますが。
「え、なんで恋しないんだ? 恋に年齢は関係ないだろ」
自分の考えを正当化したいオレがそう尋ねると、エマは周囲を見渡して誰もいないことを確認してから「ダイキだけには教えてあげるわ」と、オレの耳に顔を近づけてきた。
「エマは小山楓だった頃と同じ年齢……高校2年生になるまでは恋愛しないって決めてるの」
「そうなのか?」
「うん。 ダイキはほら、東北で会った北山くん覚えてる?」
「あぁ 、あのクズ男だろ?」
「そう。 それでもあの人がエマ……いや、小山楓だった私からしたら初恋だった。 だからもし今、小学生のエマが誰かを好きになっちゃったら小山楓の時に抱いた初恋の思い出が掻き消されちゃいそうな気がしてね」
「あー、なるほどな。 高校生で初恋だったのにそれより早く恋しちゃったら初恋じゃなくなるもんな」
「そういうことよ」
しかしそうか……オレの場合はいつが初恋だったかなんて思えてないけど、そんなに初恋って大事なんだな。
これが男と女の価値観の違いなのだろうか……そんなことを考えていると、エマが「だからね……」と囁きながら人差し指をオレの顎に当てる。
「ん、何だ?」
「前にも言ったかもしれないけど、エマに惚れんなよ?」
ピチュン!!!
何かがオレの心臓を高速で撃ち抜く。
なんだ、今の……。
「ん? どうしたのダイキ。 エマの話聞いてる?」
「あ、はい……」
無意識に胸に手を当てながら呆然としていると、「じゃ、渡すもん渡したからそれじゃあね」とエマはオレに背を向け戻っていく。
「え、あぁ……サンキュ」
オレはその場で立ち尽くしたままエマの姿が見えなくなるまで見つめ続け、そして……
「うわああああああ!!!! 前も思ったけどやっぱりあの言葉ズリィよ何だよ本当によう!!!」
オレは心と口で発狂しながら抑えていた感情を爆発させる。
やはり人間……ダメと言われたら興味を持ってしまうものなのだろうか。
『惚れるなよ』って……しかもそれが今の自分よりも年上で、金髪・青眼の美人で、距離も近くて……もう全てが反則なんじゃああああああああああああああ!!!!!
その結果、オレの脳内はその日の最後の授業までエマだらけ。
気づけば帰りのホームルームもいつの間にか終わっており、教室内にはオレ1人だけとなっていた。
「あ、やっべ。 優香が帰ってくるまでに家に着いとかないと」
オレは少し焦りながら立ち上がると駆け足で教室を後に。
階段を降りて下駄箱へと向かっていると、そこに見覚えのある後ろ姿を発見した。
ていうかあれって……
「ーー……三好?」
声をかけると、やはりそうだ。
三好はゆっくりとオレの方を振り返ると、そのままじっとオレを見つめていた。
お読みいただきましてありがとうございます!!
挿絵3枚……作者的にはかなりクレイジーな行動でしたお楽しみ頂けたなら頑張って描いた甲斐があるってもんです!!
下の方に☆マークがありますので、評価していってくれると嬉しいです!!
感想やブクマ・レビュー等随時募集しておりますのでよろしくお願いします!!!




