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267 グッバイでグッナイ☆


 二百六十七話  グッバイでグッナイ☆



「うぅ……桜子、元気でね」



 今日は結城の正式な高槻さんの家への引っ越し日。

 午前中に荷物を完全に移動させ、後は結城が移動するだけの状態となっていた。



「お、お姉ちゃん、泣きすぎだよ」



 高槻さん宅の玄関前。 結城が抱きついている優香の頭を優しく撫でる。



「でも……でもぉ……」


「私、お姉ちゃんの階の1個下なだけだよ? 私も寂しいけど……私、お姉ちゃんには笑って『頑張ってね』って言って欲しいな」


 

 結城……すっかり大人になっちまって。

 そんな結城の言葉を受けた優香は涙が溢れないよう必死に目の力を入れながら結城を見上げる。



「桜子……」


「お姉ちゃん」


「いつでも来てくれていい……から……、がんばっでねぇええ……!!」



 うぅ……まるで永遠の別れを告げてるような展開じゃないか。

 2人の姿を見ていると、隣で高槻さんが「福田くんはいいんですか? 今日くらいは泣いてもいいと思いますけど」と小声で話しかけてくる。



「あ、いや、オレはなんとか」


「そうですか。 さすが男の子、強いですね」



 ちくしょう、オレだって泣きたいぜ!

 でもこの引っ越しは結城や優香、オレの為なんだ。 オレだけでも泣かずに笑顔で見送ってやらないと……!

 そう改めて決心したところで結城と偶然目が合った。



「あ、結城さん……」



「福田……くんも、ありがとう」



「!!!!!」



 はい涙腺崩壊ザッパァアアアアアン!!!!!!!



 こうして結城は高槻さんの背中を摩られながら家の中へ。

 その日結城は高槻さんとともに結城母のお見舞いに行くらしく、オレと優香はかなり久しぶりの2人だけのお昼ご飯の時間を過ごしたのであった。



 ◆◇◆◇



「ーー……いたっ」



 食事中、優香がお皿を持っていた左手首を押さえる。



「どうしたの?」


「あ、いや大丈夫だよ」



 話を聞くと昨日の買い物帰りにマンションの階段で足を踏み外したとのこと。

 その時優香は咄嗟に左手で手すりを掴んだので落下からは逃れることができたものの、無理な体勢で変に手首に力が加わった為そこから若干痛みが続いている……とのことだった。



「昨日って雨降ってたっけ」


「ううん、晴れてたよ。 お姉ちゃんの注意不足だったのかな」


「でもいつもの上り慣れた階段でしょ?」


「そうだね。 なんでだろう……」



 うーむ、心配だなぁ。

 とりあえずオレは優香の手首に負担をかけさせないためにもと、お皿洗いを立候補。

 命に関わるような結果にならなくてよかったと安堵の息を漏らしながら、今日1日は優香の手首に負担をかけさせないように立ち回ろうと決意したのであった。


 ちなみに優香は結城がいなくなったことで結構落ち込んでるらしく、食欲もあまりなかったのだろう……優香のお皿には結構な量の料理が残っていた。 

 


 ◆◇◆◇



 ということで、オレは洗濯物の取り込みや掃除を率先して実行。

 その合間にも優香の行動を逐一チェックしていたのだが……



「あ、じゃあお姉ちゃんちょっとおトイレ行ってくるね」



 優香が「よいしょ」とソファーから立ち上がる。



「!!!!!!」



 変態脳&今までのオレの行動記録!! 開門!!!



 オレの脳内でオレが足の小指ブレイクをした時の光景が浮かび上がる。

 これは……もしかして優香の悲しい気持ちを忘れさせることの出来るイベント発生ではなかろうか!!!



「手伝いまぁああす!!!!」



 オレはすぐさま優香のもとへとクラウチングスタート。

 優香よりも早くトイレ前へと回り込み、ドアノブを回して「さぁどうぞ」と中へと入れた。



「あ、ありがとうダイキ」


「いえいえ」



「ーー……」


「ーー……」



 しばらく見つめあった後、優香がパチクリと瞬きをしながらオレを見上げる。



「え、もういいよ? なんで閉めないの?」


「お姉ちゃん。 その手首じゃ大変だろうから、オレがスカートとかパンツとか脱がしてあげるよ」



 オレが優香の履いているスカートに手を伸ばすと、すかさず優香は両手でスカートを抑える。



「ちょ、ちょっと待ってよダイキ! そこまでしなく貰わなくてもお姉ちゃん、自分でできるよぉ!?」



 ちくしょおおおお!!!!!

 スカート&パンツを脱がせてあげる作戦は失敗かああああ!!!


 オレは間髪を入れずにプランBに変更。

 素直に引き下がるとトイレットペーパーをぐるぐると手のひらに巻きつけていく。



「ーー……ダイキ?」


「じゃあトイレ後にオレがトイレットペーパーで拭いてあげるからその時に呼んでもらえれば……」


「もおおおお!! ダイキのエッチーーーー!!!!」


「うわあああああああ!!!!」



 優香は顔を赤面させながら叫ぶと、「お姉ちゃんもう恥ずかしいし1人で出来るからダイキは外で待ってて!」とオレを扉の外へと押し出したのだった。



 くそう!!! ノリと勢いでいけると思ってたのに!!!!



 オレは心の中で床をドンドンと叩く。

 しかしそうだよな、座りながらだとスカートやパンツを脱ぐという工程も、片手さえ正常に動かせればなんの支障もない。 それはトイレ後にトイレットペーパーで拭くことも然り。

 


 トイレの中に耳を集中させると、優香の「桜子……」という声が聞こえてくる。

 くそ、まだこれくらいの行為では優香の気を紛らわせることは不可能だってことか。



 ……ということはそれ以上のことをする必要があるな。



 オレは小さく深呼吸。

 トイレから聞こえてくるこの世の癒しとも取れるメロディを耳にしながら今後の作戦を練っていったのだった。

 


 ◆◇◆◇



 もう……これしかない!!!



 その日の夜。 オレは自分の部屋のベッドの上にわざとらしくエロ漫画を数冊放置させて優香のもとへ。

 


「ねぇお姉ちゃん」


「なにダイキ」


「学校の宿題でわからないところがあってさ」


「そうなの? どこ?」


「こっちきてくれる?」


「うん」



 オレは優香をオレの部屋へと誘導することに成功。

 それからしばらくはオレの部屋で優香に宿題を教えてもらってるふりをしていたのだが……



「ーー……でね、ここでこの公式使うんだよ」


「わかった。 じゃあ解けるかやってみる。 お姉ちゃんはオレのベッドの上でゆっくりしてて」


「うん、頑張ってねダイキ」



 そう言ってなんの疑いもなくベッドに腰掛ける優香。

 しかしすぐには気づいてもらえなかったのでオレも問題を解くスピードを遅らせながらその時を待つ。



 そしてその時はついに訪れた!!!


 

「えっ」



 突然後ろから優香の声が聞こえたので振り返ると、明らかに動揺した顔の優香。

 これまた正直にエロ漫画の上に手を乗せて何も気づいていませんよ風な演技を始めている。



「どうしたのお姉ちゃん」


「ん? ナンデモナイ、ナンデモナイよ。 それよりどう? 解けた?」


「あ、うん。 お姉ちゃんのおかげだよありがとう」


「そ、そっか。 それはヨカッタよ」


「うん。 じゃあオレお風呂入ってくるね」



 オレはおもむろに立ち上がると優香がビクンと反応する。



「ん? お姉ちゃん?」


「あ、いや、なんでもないヨ! じゃあお姉ちゃんはもう少しここでゆっくりしてから自分の部屋に戻ろっカナー」


「分かった。 教えてくれてありがとねお姉ちゃん」



 こうしてオレはそのままお風呂場へ。

 部屋に戻ってきた頃には優香の姿はそこになく、オレの予想通り……ベッドの上に置いてあったエロ漫画は1冊だけ減っていたのだった。

 ナンデダロウね!!



 オレは優香の部屋の前に忍び寄ると、そっと扉に耳を当てる。



 ブーーッ、ブーーッ



 おやおや、【スマートフォン】でも震えてるのカナ?

 それと【筋トレ中】なのだろうか……【スマートフォン】の振動音とともに、優香の乱れた息遣いが静寂の中微かに響いていたのだった。



 優香よ、今日はそれで疲れてぐっすり眠ってくれ。

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 優香さん!! なんということを!! 筋トレお疲れ様!!
[一言] ダイキの野郎…まぁ、中身のせいで義理の姉的な感覚なんだろうけど、ストレス発散がその方法ってマジか。 読者的にはとても嬉しいです。ありがとうございます。ご馳走様でした。
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