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266 あの時の答え


 二百六十六話  あの時の答え



 オレがエルシィちゃんの癒しの力に悶えているとユリが到着。

 玄関まで出迎えに行ったエマとともに部屋の中へと入ってきた。



「こんにちはー。 あ、美波ちゃんだよね。 改めましてユウリです。 よろしくねー」



 ユリは部屋に入ってるなり小畑を見つけると柔らかく微笑みながら胸元で小さく手を振る。



「は……ユウリちゃん!! はひぃ!!! よろしくお願いしますーー!!!」



 そんな親近感バリバリのユリの挨拶を受けた小畑も勢いよく立ち上がり挨拶。

 その後腰が抜けたのか、ヘナヘナとその場に崩れ落ちた。


 ていうか……なんか雰囲気変わったなぁ。

 オレがそんなことを思いながらユリを眺めていると、それに気づいたユリがオレに視線を向けてくる。 

 


「ん? どうしたのダイキくん」


「え、あ、いや。 なんか昨日までに比べて表情が明るくなったなーって思いまして」



 そう答えるとユリは「へぇー」と声を出しながらオレに近づいてくる。



「えっと……なんでしょう」


「ううん、よく気づいたなって思ってさ。 そう、ユリ、元気になったんだよね」


「やっぱりそうでしたか」


「うん。 昨日あれから楓……」


「あ、エマですか?」



 オレはすかさず声を重ねる。

 やはりこの天然少女……気が抜けないな。



「え、あ、うん! エマから聞いたんだけど、エマにユリのこと話してくれたのダイキくんなんだってね。 ダイキくんのおかげでユリ、エマと会えたよ。 ありがと」



 ユリはオレの手をとり包み込むように握りしめながら優しく微笑んだ。

 さ、さすがアイドル。 可愛いぜ……!!



 オレがそんなアイドルスマイルに見惚れていると、ユリは今日ここに来た目的を思い出したのだろう。



「そうだ、ユリ、今日は美波ちゃんにあの時の答えを教えに来たんだった」



 ユリが両手をパンと鳴らして小畑に視線を移す。


 

「そうだったー。 でも私、もうこうしてユウリちゃんに会えただけで満足……答えなんてもうどうでよくなったかも……」



 小畑が夢見心地な表情をユリに向けると、ユリは「それは違うよ美波ちゃん」と静かに首を横に振った。



「え?」


「ユリ、これだけは美波ちゃんに絶対知っておいてほしいかな」



 そう言うとユリはゆっくりと小畑の目の前で腰を下ろし、小畑の目をまっすぐと見つめる。



「あのね美波ちゃん、美波ちゃんの夢はアイドルらしいけど、アイドルってキラキラだけじゃないよ?」


「キラキラだけじゃない?」



 小畑の問いかけにユリが「うん」と頷く。



「そうだよ。 やりたくないことをやらされたり、自分の信念を曲げないと前に進めないことだってあるの」



 やはり経験者が語ると言葉の重みが違うよな。

 それが伝わっているのか、普段なら「へぇー」と聞き流すはずの小畑なのだが、今回に限っては背筋を伸ばして真剣な眼差しを向けている。



「信念を曲げないと進めない……そういうことがユウリちゃんにもあったの?」


「あったよ。 それでユリは心が追い詰められたの。 ほら、テレビやネットニュース見なかった? 『メイプルドリーマーのメンバーが体調不良で活動休止』ってやつ。 あれユリのことだよ」


「そうだったの!?!?」



 小畑が驚いた様子で前のめりになりながら顔をユリに近づける。



「私てっきり他の誰かかと思ってた……てかユウリちゃんもう大丈夫なの!?」


「うん。 ユリの場合は奇跡……いや、運命的に立ち直ることが出来たんだけど、美波ちゃんもアイドルを目指すなら覚悟しといたほうがいいよ」


「覚悟ですか」


「そうだよー。 逆に聞いていいかな。 美波ちゃんの『これだけは曲げられない!!』って感じの信念ってどんなのがあるの?」



 ユリが顔を覗き込みながら尋ねる。

 するとどうだろう……小畑は考える様子もなくすぐに口を開いた。



「信念? ないですね」



「ーー……は?」

「え」



 小畑の答えを聞いたオレとユリの声が重なる。

 その隣でエマは「あぁ……そうだったわね」と呟きながら苦笑いをしていた。



「えっと美波ちゃん、信念がないって……ほんと?」



 戸惑いを隠せないユリが声を若干震わせながら小畑に問いかける。



「はい。 ないですね」


「その……みんなに希望を届けたい……とか」


「ないですね」


「じゃあ、トップアイドルになって有名になりたい……とか」


「あー、ないですね」


「そう……なの?」



 ユリは大きく瞬きをしながら首を傾げる。



「だって私、別にトップアイドルとかみんなの希望とか目指してるわけじゃないもん。 私の夢を叶えるのに必要だからなりたいだけだし」


「夢のため? もしよかったらその夢……聞かせてもらってもいいかな」



 そうユリが尋ねると、小畑は待ってましたと言わんばかりにニコリと微笑みながら大きく頷いた。



「うん! 私がアイドルになりたいのはね、歌番組とかそういう場所でニューシーの小芝くんと出会って、そこから付き合って結婚するためだよ!!!」



「ーー……ハ?」



 ユリの目が点になる。

 


「だから、ユリは小芝くんと結婚するためにアイドルになるの!! 小芝くんと結婚できたらアイドルはすぐ辞めるつもりだし!」



 おいおい小畑よ、それ以上言ってやるな。

 状況についてこれてないユリがポカンと口を開けてるぞ。


 ……てかそうだったな。 そういやオレも小畑のその話、どこかで聞いたことがあるぞ。

 確かエマが入院してる時に聞いたんだったけかな。


 しかしこれをユリはどう捉えるんだろう。

 少なくともユリは今までガチで努力をしてアイドルを目指してきた……そんな人に今の小畑の「結婚するためのツール」みたいな発言、結構地雷なんじゃないか?


 オレは少しヒヤヒヤしながら2人の様子を見守ることに。



「結婚するため? ……小芝くんと?」



 俯き気味のユリが体を小刻みに震わせながら小声で尋ねる。

 


「あ、はい」


「それが……理由?」


「そうですよ」



 おいおいもしかしてこれかなりヤベェんじゃねぇのか!?

 どこからどう見てもユリのやつ、怒りで震えて……!!!


 これは修羅場しかないと悟ったのだろう。 エマは手招きをしてエルシィちゃんを呼ぶと静かに部屋の外へ。

 そしてすぐさまオレのスマートフォンが細かく振動する。



【受信・エマ】この場は任せたわ。



 !?!?!?

 エマのやつ……面倒ごとをオレに押し付けて逃げやがったあああああああああ!!!!!!


 まぁもし本当に修羅場になったとして、エルシィちゃんに怖い思いはさせたくないのは分かる。

 でもその場合だとオレがエルシィちゃんと一緒に部屋を出た方が最善では!?!?

 うわあああああ、これはもう修羅場になる前に2人を離れさせて……小畑を連れて帰った方が良さそうだな。


 そう考えたオレはすぐに視線を2人の方へ。

 小畑の方に手を伸ばしながら「もう帰ろうぜ」と発言しようとした……その時だった。



「えーー! いいじゃん!! 美波ちゃん、小芝担なんだぁーーー!!!!」



 え。


 

 一体何がどうなってるんだ?

 ユリは小畑の両肩をガシッと掴むと「だったら絶対に叶えないとね!」とテンション高くはしゃぎ始める。



「えっと……ユウリちゃん? どうしたの?」


「あのね、ユリもニューシー担なんだ!」


「そうなの!?」


「うん! それで美波ちゃんって可愛いじゃん? だからもし美波ちゃんが小芝くんと知り合えて付き合えたらさ、ユリに増岡くん紹介してもらえるかもって思っちゃった!」



 ユリが少し照れながら「えへへ」と笑う。



「ええええ!? ユウリちゃんまっすー担なんだ!!」


「そうだよ! だからその時は紹介してよね!」


「だったらユウリちゃんも先にまっすーと仲良くなれたら私に小芝くん紹介してくれる!?」


「もちろん!」



 2人は互いに見つめ合うとガシッと固い握手を交わす。



「でも美波ちゃん、そこまで行くにはやっぱり有名にならないと叶わないかもだけど……大丈夫なんだね!?」


「うん! 私、小芝くんと結婚するためならなんだって頑張れるもん!」


「そっか! じゃあ大丈夫だね! ユリ、応援してるよ!」


「ありがと! 私も絶対にアイドルになるから、ユウリちゃんも私に追い越されないように頑張ってね!」


「あ、言ったなーー!!!」


「ふふーーん!!」



 こ、これが……サニーズの力……なのか?

 オレは静かにスマートフォンを手に取ると、2人の様子を撮影。 それをメールに添付してエマに送ったのであった。



【送信・エマ】なんか2人ニューシーの話で盛り上がってんぞ。



 それからすぐにエマが颯爽と登場。

「ニューシーの話ならエマも混ぜなさいよ!」と言いながら小畑とユリの間に割って入ったのだった。



「おいエマ」


「あ、ダイキ! もう帰っていいわよお疲れ様」


「はぁ!?」



 オレは驚きを隠せない表情でエマを見る。



「ちょ、それはさすがにオレへの扱いが酷……」


「約束のやつ、ちゃんと本気で作ってあげるからそれでいいでしょ?」


「約束のやつ……」



 ーー……ハッ!!!

 そうだ、チョコだ!!!!



「おい、絶対に『義理』って書かないでくれよ? そしたらテンション下がるから」


「任せなさいよ。 ちゃんとハート書いてあげるわよ」


「よっしゃああああああああああ!!!!!」



 エマとオレの会話を聞いた小畑たちが「なんの話?」と尋ねるも、エマはそれを華麗にかわしてニューシーの話題を続行。


 なるほどな、充分すぎる報酬だ。

 だったらオレに発せられたエマの言葉は『ミッションクリア』ということなのだろう。



 その後オレはエマの部屋を後に。

 リビングでハムロックを見ていたエルシィちゃんに「ばいばい」と挨拶をすると、リズミカルにスキップなんかしちゃったりしながら家へと戻っていったのだった。



お読みいただきましてありがとうございます!

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感想やブクマ・レビュー等お待ちしておりますーー!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 俗物すぎて逆にすがすがしいわwwww
[一言] エマちゃんは、ダイキの扱いが上手いなぁ 将来は手の平コロコロですわ。
[一言] 桜子ちゃんいい子すぎて、メインヒロインっぽく見えるのに逆に影が薄くなってる印象ですね・・・。 あ、星さんルートまだですか?(
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