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259 特別編・ユリ② それが運命の分かれ道


 二百五十九話 特別編・ユリ② それが運命の分かれ道



 翌日。 

 夏休みということで学校もなく、朝方まで楓のマネージャーと電話で話していたこともありユリが目を覚ましたのはお昼過ぎ。

 部活はあるのだが楓の一件以降そんな気分になれなかったユリはずっと部活を無断欠席していたのだった。



「ーー……もうこんな時間なんだ」



 ユリは枕元に置いていたスマートフォンをつけて時間を確認。

 すると久しぶりに熟睡したから気づかなかったのだろう……一件の着信通知が届いていた。


 電話番号を確認してみると朝方まで話していた楓のマネージャーだった女性から。

 もしかして通話中に失礼なことをしてしまったのかもしれない……そう感じたユリは慌てて表示されていた電話番号をタップ。

 折り返し電話をかけることにしたのだった。



『あ、この電話番号からってことは松井さんね』


 

 自分の電話番号をすでに覚えてくれていたのだろうか。

 昨夜とは全く違う……明るい元気な声のマネージャーの声がスピーカーから聞こえてくる。



『はい、あの……お電話もらってたみたいなんですが……』


『そうそう、まだ寝てるかなって思ってすぐ切っちゃったのよ。 どう? あれからすぐ寝られた?』


『はい、楓が死んじゃってからは楓のことばかり考えてちゃんと眠れなかったんですけど、昨日は楓のマネージャーさんと長く話したおかげで久しぶりにぐっすりと寝られました』



 ユリがそう伝えると、マネージャーは『そう、それはよかったわ』と優しく答える。



『それで……ユリに電話くれたのって……?』

 

『あーそうそう! あのね松井さん、ちょっと直接話したいことがあるんだけど……うち……事務所来てもらえない?』



『ーー……え?』



 ◆◇◆◇



『ここ……だよね』



 事務所の住所を教えてもらったユリはスマートフォンとにらめっこしながらなんとかそれらしき建物の前まで到着したのだが……

 


『えっと……ここの何階だったか聞くの忘れてたよぉ……』



 実際のところ近くに案内板が立っているのものの、今のユリにはそんな周囲を見る余裕なんてない。

 ワタワタしながらスマートフォンで検索をかけていると、突然誰かが後ろからユリの背中を軽く叩いた。



『ふひゃああっ!!』



 振り返ってみると同い年なのか年上なのか……明らかに大人びた綺麗な女の子。

 


『君どうしたの? ここ所属の子じゃないよね。 何か用?』


『えっと……あの、……』


『ん? あ、もしかしてモデル志望の子? ごめんだけど多分今は募集かけてないと思うんだけど』


『いや、あのユリ……楓のことで……』


『楓!?』



 楓という名を聞くなりその女の子の表情が一気に変わる。



『ひぅっ!!』



 驚き萎縮しているユリだったが、女の子はそんなの構わずといった感じでユリの両腕をがっしりと掴み、細かく前後に振り始めた。



『もしかして君、楓の友達なの!?』


『は、はい……。 それでユリ、その楓のマネージャーさんから電話で呼ばれて……』



 ちょうどスマートフォンを手にしていたのでユリは着信履歴を表示させて電話番号を女の子に見せる。

 女の子は『えぇ? 電話? どうして?』と言いながら画面を覗き込む。

 するとどうだろう……女の子の顔は次第に青くなっていくではないか。



『え、え? どうしたんですか?』


『あの……君、それ鬼マネの電話番号じゃん』



 女の子は目を逸らしながら気まずそうに答える。



『鬼……マネ?』



 聞くところによると鬼マネ……ユリが昨夜話していた楓のマネージャーは、少しでも見限られた者は容赦なく担当から外していく鬼のように厳しい人とのこと。

 しかし腕やセンスはかなりのものであるため、担当してもらうことを懇願する子も結構いるらしい。

 昨日会った感じとか電話で話してた感じだとそんな風には感じなかったのだけど……

 


『それで……その鬼マネさんはどこですか?』


『!!!!』



 ユリがそう尋ねると女の子は焦った顔をしながらユリの口を手で塞いでくる。



『え!?』


『しーーっ!! 鬼マネなんて言葉、本人に聞かれちゃったら私が目を付けられかねないから……お願いだからこのことは誰にも言っちゃダメよ!?』


『あ……はい』



 こうしてユリは女の子から『絶対にそこは守ってね』と念を押されながら案内してもらい、マネージャーのいるであろう部屋の前へ。

 女の子が扉をノックすると、中から『誰?』と電話の時とは全く違った声が聞こえてきた。



『あ、あの! マネージャーさんに呼ばれたって子が外にいたのでお連れしました!』


『私に呼ばれた?』


『は、はい! ユリって女の子です!』


『ユリ……って、松井さん!? 分かったわ。 ありがとう、あなたは戻っていいわ』


『はい! 失礼します!』



 マネージャーに何かされたのだろうか。 

 女の子はぶるると震え上がると目の前にいないのに深くお辞儀。 耳元で『じゃあよく分からないけど、頑張ってね!』と声をかけるといそいそとその場から離れていってしまったのだった。


 ユリがそんな女の子の姿を見つめていると扉の奥から『松井さん?』と声が聞こえてくる。



『あ、はい』


『そんなところで立っててもあれだし……中に入ってきてちょうだい』


『わ、わかりました!』



 さっきまでの女の子のビビリ具合には気になるところが残るが、今はそんなことで恐れている時ではない。

 おそらくあのマネージャーが自分を呼んだのはきっと楓に関係した何かを直接話すため。

 楓は今まで親友のような存在で、最後は恋愛関係でゴタついて不本意なお別れをすることにはなってしまったけど、あの人……マネージャーは自分の知らない楓を知っている。

 もしかしたらそういうところを話してくれるのかもしれない。


 そう思ったユリは小さく深呼吸。

 先ほどの女の子と同じように扉を数回ノックし、ゆっくりと扉を開けて中に入っていったのだった。




 中に入ると決して広くはない部屋で奥に仕事机。

 そこに昨日のマネージャーの女性が椅子に腰掛けてこちらを見ている。



『あ、あの……ユリに話って……』


『松井さん、朝食……は寝てたから食べてないとして、昼食は食べた?』


『え?』



 突然の話題振りにユリは戸惑いながら首を左右に振る。



『あらもうお昼過ぎなのに?』


『はい……ユリ、楓の件からあまり食欲なくて……』



 実際にお腹は鳴るのだが胃が食べ物を受け付けないのだ。

 一度無理に食べようとしたところ、華麗に押し戻されてしまったため今のユリの主食はゼリーのみとなっていた。



『でもこんな暑い季節なのよ? 食べないとパワー出ないでしょ』


『はい……でもユリ、ゼリーみたいなものしか今胃が受け付けなくて』


『そうなの? じゃあいいものがあるわ。 仕方ないから分けたげる』



 そう言ったマネージャーはおもむろに立ち上がると、デスク後ろに設置してあった小型の冷蔵庫の中から何かを取り出す。



『えっと……それは?』


『シリアルよ』


『シリアル……?』



 ユリがキョトンと首をかしげるとマネージャーが『えぇ』と頷く。



『え、知らない? シリアル。 ミルクを注いで食べるやつ』


『いや知ってます! そういうことじゃなくて、なんでシリアル……』


『これは夏バテ時や食欲ない時には万能よ! ミルクで柔らかくなってるから食べやすいし栄養もあるし。 とりあえずこれを食べながらでいいわ。 私の話を聞いてちょうだい』


『ーー……あ、はい』



 こうしてユリは謎にマネージャーが用意してくれた、ミルクを加えたシリアルをスプーンで口に運びながら話を聞くことに。

 流石はマネージャー……彼女の言っていた通り、シリアルはミルクでふやけているおかげであまり噛まずに喉を通過。 刺激もあまり強くないためユリの胃もそれをなんとか受け入れてくれているようだった。



『それで話なんだけど……いいかしら』


『は、はい』



 マネージャーは食べているユリをまじまじと見ながらゆっくりと口を開く。



『楓みたいになる?』



『え?』



 楓みたいになる……どういう意味だろうか。

 意味が分からずマネージャーを見つめていると、マネージャーは『あ、そうね。 今のだけじゃ言葉足らずね』と小さく呟く。



『じゃあ改めて……。 楓がやってたみたいに、芸能……やってみる?』


『芸、能……?』



 ユリの問いかけにマネージャーは深く頷く。



『そう。 なんか昨日電話してて松井さん、楓のことで思い悩んでいるみたいだったからさ。 そういう時って何かに本気になって気を紛らわせた方がいいのかなって』


『何かに本気……ですか?』


『あ、これだと私が松井さんを勧誘してるみたいに見えちゃうわね。 もちろん芸能じゃなくても他に何か熱中できることがあればそれでいいのよ? 私から提供できるのはそれって話なだけだから』


『芸能って……モデルですか?』


『そうね。 うちはまだ中堅寄りの弱小だからモデル部門しかやってないんだけど、もし松井さんがやるというなら私も協力するわよ? でもさっきの子の反応見てたら分かると思うけど、私……鬼マネだけどね』



 マネージャーが意地悪そうな笑みを作りながらユリを見る。



『ーー……ユリが、モデル』



 実際のところもう自分も自ら命を絶って楓に会いに行こうとか思っていたけど……そしたら楓、『何してるの!?』ってやっぱり怒るよね。

 そんなことを考えているとマネージャーが『松井さん?』と顔を覗き込んでくる。



『は、はい』


『ーー……で、どうする?』



 楓はこの人と一緒に頑張っていた……ということはもしかしたら自分も楓と同じことをすることで、学校では知らなかった楓のことを知れるかもしれない。

 それで頑張って足掻いて……それを天国から見てくれてるであろう楓に見てもらってから会いに行った方が共通の話が出来るし、怒られずに済むのかな。

 ユリは小さく目を瞑り脳内に楓の姿を浮かび上がらせる。



 ーー……楓、ユリ頑張ってみるから、ちゃんと見ててね。



『ユリ……やります。 よろしくお願いします』 

 

 

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さぁユリ!! 頑張れ!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 何かに打ち込んで、辛さを誤魔化す。その方法もあるかもしれないけど…かえって辛くなるんじゃないかなぁ
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