258 特別編・ユリ① きっかけ
二百五十八話 特別編・ユリ① きっかけ
「うわあああああ!! これ前のやつだよね!! ユリも持ってる懐かしいいいい!!!」
エマの家。 エマの部屋に立てかけて飾られていたパンフレットを見つけたユリが嬉しそうな悲鳴を上げる。
それはもちろん覚えてるよな、あの小山楓が初めて世に出たフリーペーパーだ。
まったく……相変わらず美人さんだぜ!!
「ちなみにエマちゃん、この中で楓はどれでしょう!」
「ーー……まだ信じてなかったの? これ」
エマが呆れた表情で載っている小山楓を指差す。
「うわわわ、やっぱり即答だね。 これはもう信じるしかないのかな……」
「いや、北山くんの話で完全に確信づいてたでしょうが!! さっきからどうしてそんな意地悪するの!?」
エマが小山楓口調になりながらもユリの腹部に綺麗なツッコミを入れる。
そう、実はもうエマの家に着くまでに完全にユリはエマのことを小山楓だと信じていたのだ。
しかしさっきからことあるごとに小山楓クイズ等をエマに出題している……なんでだ?
「あはは、ごめんねぇ。 ユリ、この楓のツッコミ好きだったからつい」
ユリが「ごめんごめん」と謝りながらエマの頭を撫でる。
「もぉーー!!! なんで今度は頭ナデんのよ!!」
「あはは、ごめんねぇ。 今のその姿が楓だと思っちゃうとつい。 楓ってユリより背が高かったでしょ? だからこんなにちっこい女の子が楓なんだなって思うと可愛くて」
「うにゃあああああああ!!! 早くちゃんと話がしたかったのにいいい!!」
「あはーー!! 楓、可愛いーーー!!!」
ぎゃああああああああ!!! 尊すぎて見てられないよおおおおおおおお!!!!!
◆◇◆◇
「ーー……こほん、じゃあ早速だけど……」
あれからも少しの間じゃれあった後にエマが「もういいでしょ!」とユリを説教。
やっとのことでちゃんと話をする時間がやってきたのだ。
「とりあえずエマ、ここでは前のように『私』で話すよ?」
エマが小さく手を上げながらユリを見つめる。
「うん。 なに楓」
「まずなんでユリがアイドルやってるの? それも私がいた事務所じゃない」
エマがスマートフォンで【メイプルドリーマー】の情報を調べながら尋ねる。
「そうだよ。 ちょっと長くなるんだけどあの時……楓のお葬式の時にね、偶然マネージャーに会ってから始まったんだ」
「マネージャーに?」
「うん」
ユリはエマを優しい目で見つめながら当時のことを語り出した。
「全てはあの出会いから始まったんだ……」
〜特別編・ユリ〜
小山楓の葬儀を終え、当時普通の女の子だった松井ゆりが楓の所属していた芸能事務所のマネージャーと出会ったのはその帰り道。
葬儀の際飾られていた遺影には明るく笑っている……生きていた頃の楓の姿が映し出されており、それを自分が奪ってしまったんだという自責の念に駆られて道端で泣いているところに声をかけられたのだ。
『えっと……あなた、大丈夫?』
その日は皆の心の状態を読み取ったかのように空は暗く、かつ雨が降っており、傘を差した女性がユリの顔を覗き込む。
視線を向けると女性の手元にはいろんな表情・角度で写っている楓の写真。 一目でこの人がマネージャーなんだということをユリは悟った。
それと同時に楓の今までの頑張り悩んでいた姿が走馬灯のように溢れ出す。
『ごめん……なさい、ごめんなさい……!!』
この人に謝っても何も変わらないことは頭では分かってはいるものの、当時のユリにはそう言いつづけることしか出来なくなってしまっていたのだ。
『ちょ、ちょっとなんであなたが謝ってるの? みんな見てるわ。 ほら、これで顔拭きなさい』
『ごめん……なさい』
『楓が亡くなって悲しいのは分かるけど、喧嘩でもしてたの?』
あぁ……ここで楓は自分を助けるために流されてしまい亡くなったと言えればどれだけ楽だっただろう。
声に出すのは簡単なのだが、それは楓の両親から固く禁じられていたのだ。
『言え……ません』
『そう。 まぁ楓のことは私も担当してたからかなりショックよ。 家に帰ったらとりあえずあなたみたいに号泣するつもりだし』
そう言うと女性はユリの手を取り、1枚の名刺を握らせる。
『え?』
『だからあなたもそうしなさい。 それで落ち着いたらここに書いてある私の連絡先に電話して?』
『な……んで……?』
『私、モデルになろうと頑張ってた姿の楓しか知らないの。 あなた楓と仲良さそうだったから……良ければ普段の楓がどんな学校生活を送ってたのか聞かせてくれたら嬉しいわ』
その後女性は『じゃ、私もここにいると泣きそうになっちゃうから帰るけど……連絡、待ってるわね』と言い残してその場を去っていく。
ユリはそんな女性の姿が見えなくなるまで、後ろ姿を目で追っていたのだった。
『あの人が……楓のマネージャー……』
◆◇◆◇
その日の夜。
お風呂から上がり部屋に戻ったユリは自分の机の上に置いてあった名刺に視線を向ける。
ーー……そういや楓のこと聞かせて欲しいって言ってたけど、でも話すって言ってもどんなことを話せばいいのだろう。
そんなことを考えているうちにユリの体が勝手に反応。
誰かの声を求めているほどに心が弱っていたのだろう……ユリは名刺を手に取ると、そこに書かれていた番号をスマートフォンで入力。 通話ボタンをタップしてスピーカーをそっと耳に当てたのだった。
そしてしばらく続いた呼び出し音の後、『はい……もしもし』と女性の声。
女性の声は震えていて若干枯れている……本当にあれから泣いていたんだということが伺える。
『あの……今日、帰りに名刺をもらった……松井ゆり……です』
『帰りに名刺……あぁ! あの時の!』
『はい……その、それで楓の話、話そうと思って……』
ユリは名刺の側に置いてあった……女性に借りたハンカチをギュッと握りしめ、楓が学校でどんな生活を送ってどんな顔をしていたのかを夜が明けるまで女性に話したのだった。
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