257 エマとJC
二百五十七話 エマとJC
ーー……今なんて言った?
ユリ?
あのJC、名前ユリって言うのか。 どこかで聞いたことあるような……。
オレは脳内をフル回転させながらどこで出た名前だったのかを必死に探っていたのだが、オレの探りが完了するよりも早く、エマが小さく声を荒げた。
「ユリ……ユリなの?」
声を若干震わせながらエマがJC……ユリのもとへと1歩、また1歩と近寄っていく。
エマのやつ、一体どうしたんだ……って、
ーー……!!!
「あああああああああああ!!!! 思い出したあああああああああ!!!!!」
「えぇ!? なに!?」
オレの突然の大声にエマが体をビクッと震わせる。
「エマ、あれだ! オレ思い出したぞ!! 髪色こそ変わってるけどこの人……東北旅行の帰りに駅前で挨拶してたアイドルのリーダー、ユウリちゃんだ!!!!」
「え? ユウリ?」
エマが大きく瞬きをしながらユリに尋ねる。
「え、うん。 私……芸名はユウリなんだけど、そうだよ。 東北の事務所でアイドルやってるんだ」
「えええ!? アイドル!?」
ほら見ろーー!!!
流石はオレ記憶力!! あの時結構可愛かったから印象深かったんだよな!
オレが内心1人で盛り上がっていると、ユリが少し困惑した様子でエマを見つめていた。
「えっと……私からも聞きたいんだけど、エマちゃん……だっけ? いいかな」
「ん?」
「なんでさっきユ……私が言っちゃった『楓』って名前を普通に受け入れ……」
「待ってえええええええ!!! もしかしてユウリちゃんって、メイプルドリーマーのユウリちゃん!?」
ユリがエマに尋ねようとしていたところで顔を真っ赤にした小畑が勢いよく立ち上がりながら声を上げる。
メイプルドリーマー? それってて確かあのハムロックの主題歌を歌ってるアイドルグループの名前だよな?
いやまさかなと思いながらもユリに視線を向けると、ユリは小畑の問いかけに「うん」と頷いた。
「ほらぁあああ!! やっぱり!! なんか誰かに似てるなーとは思ってたんだ!!!」
マジかああああああ!!!!
そういやオレ、曲を聞いただけで満足しちゃって……歌ってる人たちの顔とか名前も調べてなかったぜ!!
しかしまさかこんなところで最近好きになったアイドルグループの1人に会えるとは。
オレは若干手を震わせながらユリに視線を向ける。
東北で見たときはまだデビューしてすぐくらいの感じだったのに、今や人気急上昇中のアイドル……あの時のオレの『いい!』と思った感性に狂いはなかったようだ!!
「ねぇどうしよう! ユウリちゃんだよユウリちゃん!!」
視線を向けると小畑が三好の手を握りながらテンション激しく飛び跳ねている。
どんだけ嬉しいんだよ。
まぁでも三好は「え、あ、そうなんだ」と若干引きながら答えているからそこまで知らないんだろうな。
「なんで!? ユウリちゃんだよユウリちゃん!」
「うん、でも私知らない」
「まじ!? ハムロックの主題歌だよ!? それは勿体ないって! せっかく目の前に……!」
ユリと目が合った小畑は「きゃああああああ!!!」と叫びながら悶絶。
「今日はもうムリいいいい!!」と叫びながら三好の手を引っ張りその場から走り去っていってしまったのだった。
本当に好きな人を見ると直視できなくなっちゃうんだろうな。
◆◇◆◇
そんな小畑・三好の後ろ姿を見送っていると、エマが「あの……ユリ」とユリに話しかける。
「あ、そうだったね、ごめんねエマちゃん」
ユリがニコリと微笑みながらエマに視線を戻す。
「えっとなんだったかな……あ、そうそう。 ユ……私からの質問だったね」
ユリはコホンと軽く咳払いをした後に改めてエマに尋ねた。
「エマちゃん、なんでさっき私が『楓』って言った時、普通に受け入れてたの?」
「ーー……え? ユリ、『楓』って言ってた?」
エマの目が若干いつもより大きく開く。
ていうかそんなエマの目の開き具合よりも……
ええええええええええええええ!?!?!?!?!?
なんで正体バレそうになってんのおおおおおおおお!?!?!?!?
オレはエマ以上に動揺しながら口をパクパクさせてその場で体を硬直させる。
ーー……あ、思い出した。
そう言えばエマが小山楓だった時にユリって友達がいたとか言ってたな!
もしかしてユウリちゃんがその当時のユリ!? マジか!! だからエマ、あんなに嬉しそうな顔してんのか?
だとしたらなんて偶然……いや奇跡なんだ。
「ーー……エマちゃん?」
ユリがエマの顔を覗き込む。
これはエマ……なんて説明するだろう。 そんなことを考えながらエマを見つめていると、エマの口が小さく開かれた。
「あの……ユリ」
「うん?」
「なんでエマ……私がユリの名前を知ってるんだと思う?」
エマの質問を受けたユリが「え?」と声を漏らす。
「あ、確かにそうだね。 どこかネットに本名書かれてたとか?」
「ううん、違う」
「そうなの? じゃあなんで?」
ユリが純粋な瞳でエマに尋ねる。
もしかしてエマのやつ……言うのか? 言っちゃうのか?
「だって私……小山楓だもん」
「エエエエエエエエエエエエエ!?!?!?!?」
うわああああああ言ったああああああああ!!!!
ユリの大音量ボイスが公園全体に響き渡る。
流石はアイドル! 声量と声の伸びが半端ない!!
「ーー……いや、でも待って!?」
冷静に考えて『アレ?』と思ったのだろう。 ユリは「いやいやそれはないよ」と首を左右に振りながらエマから視線をそらす。
「エマちゃんがどうして楓のことを知ってるのかは分からないけど……でも楓は……」
「あの時……流れの早い川に流されて死んだはず?」
「!!!」
ユリの体が大きく反応する。
「ーー……え、それ……なんで」
「まだ嘘だと思うなら他にも言えることいっぱいあるけど?」
「え?」
「北山くん、本当にクズだったよね」
「!!!!!!」
北山……あのクズ男のことだよな。
その言葉を聞いたユリがエマの両腕をガシッと掴む。
「そんなこと誰にも……。 か……楓? 本当に楓なの!?」
「だからそう言ってるじゃない」
「でもどうしてこんな……!」
「確かにあの激流に呑まれて私……小山楓は死んだ。 でもなんでかは分からないんだけど、気づいたらこのエマって女の子の体に魂が入ってたんだよね」
「嘘……そんなことって……」
いやー嘘だと思うよね。
オレも実際に同じ経験してないと絶対信じてないって思うぞ。
オレがどうしても信じられなさそうなユリに同情していると、突然ユリが「クシュン」と小さくクシャミをする。
「っと……あはは、ごめんね。 ユリ、結構寒がりだから」
「知ってる。 じゃあここにずっといるのもアレだし、とりあえずエマの家に行きましょ? そこでゆっくりお話ししたいかも」
こうしてオレたちは公園からエマの家へと移動を開始。
その道中もエマは自分が小山楓である証拠を小出しにしていたのだが……
「そういやユリ、まったく身長伸びてないのね」
「えええ、本当の本当に楓なの!?」
「ーー……まだ信じてないの?」
「やっぱりそんなこと急に言われても……」
「でもエマの……私のバスケ見たでしょ?」
「うん。 確かに動きもクセも楓とそっくりだったけど……」
あぁ……なんか心温まるなぁ。
エマが小山楓だった頃は今のような会話をしながら下校とかしていたのだろうか。
微笑ましい……。
オレは後ろから2人を眺めながら付いて行っていたのだが、その途中でポケットの中でスマートフォンが振動していたことに気づく。
画面をつけて確認してみると……三好からのメールの受信通知?
何か公園に忘れ物でもしたのではないかと思ったオレは軽い気持ちでメールを開くことにした。
【受信・三好】そういやさっきの会話で気になったことあったんだけどさ
「ーー……げ」
オレは目の前の2人に視線を向ける。
もしかしてバレた? 三好のやつ、妙に勘というか……考察力あるからなぁ……!!
オレは若干ヒヤヒヤしながら三好に返事を送る。
【送信・三好】気になったこと?
これはオレに関することじゃないし……もし確信突いたことを聞かれた場合どう言い訳をするべきか。
そんなことを脳内でグルグル考えていると、すぐに返信通知が届く。
【受信・三好】福田、エマと東北に旅行行ったの?
ーー……いやそこかよ!!!
エマとユリに関することじゃないんかーーーーい!!!!
オレはホッと胸をなでおろしながら普通に三好に返信したのであった。
【送信・三好】うん。 福引で当たって4人で行ったけど。
【受信・三好】え、4人?
【送信・三好】うん。 なんで?
【受信・三好】なんでもないよーだ。 聞いてみただけ。
ーー……は?
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