256 1on1【挿絵有】
二百五十六話 1on1
公園に到着すると、いつも通り地味な服装で帽子を深く被ったJCがボールを地面で弾ませながらオレたちを出迎える。
「あれ、今日は新しいお友達連れてきたんだねー」
JCが視線をエマへと向ける。
「ミナミ、あの子?」
「そだよ! あいつ……絶対今日はギャフンと言わせてやるんだから!」
小畑はランドセルを隅に置くと勝ち誇った顔でJCの待ち受けるコートの中へ。
「ほら、行くよエマ! 佳奈!」
小畑が2人の名前を呼ぶ。
ーー……うん。 あれ?って思った人もいるだろうな。 だって三好は当初行かないつもりだったのに。
でもどうしてここにいるのか……。
それはまぁオレにも分かんないんだよな。 なんか一緒に付いてきたっていうか。
「はぁ……またやるのーー」
三好は肩を落として深いため息をつきながら小畑のもとへ。
「ほらエマも。 美波が待ってるよ」
「いや、まずはあの人のプレイを見てみたいから2人でやってちょうだい」
え?
「えぇえええ!?!?」
三好が驚きながらエマを見る。
「ちょっと美波! エマ、最初見てるとか言ってるよ!?」
三好の声を聞いた小畑が「どうしてー!?」と尋ねる。
「どんな動きをするのか……とか、色々見ておきたいのよ。 じゃないと勝率落ちるかもだけど……どうする?」
「わかった! じゃあ私と佳奈でやっとくから、研究頼んだよ!!」
「えええ!? 美波マジ!?」
こうしてJCと小畑・三好ペアの試合がスタート。
もちろん2人はJCからボールを奪えることなくほとんど遊ばれているような感じだったのだが……
「ここだぁーーー!!!」
「はい、ざんねーん」
「もおおおお!!! いい加減私のためにも負けてよーー!!!!」
「ごめんね、それはできないよー」
この状況をエマはどう見ているのだろう。
気になったオレは先ほどから無言を貫いているエマに視線を移した。
「なぁエマ、どんな感……」
「ーー……うそ」
エマがポツリと呟く。
「え?」
オレの声にやっと反応したエマが焦った様子でオレに顔を向ける。
「あ、あぁごめんダイキ」
「うん、いいんだけどお前さっき『うそ』って言ってたけど……なにがだ?」
「あー、それね。 ちょっと昔似たような動きしてる子がいてさ。 あまりにも似すぎててビックリしちゃって」
「ーー……そうなのか?」
「うん。 その子も背がちっちゃくてさ、練習の時とかはあんな風に楽しそうにのびのびと動いてて……」
エマはそんなJCのプレイを見ながら「懐かしいな……」と遠くを見るような目で微笑む。
「で、勝てそうなのか?」
「そうね、もしやるとしたらエマとあの子の1on1じゃないとムリね」
1on1……1対1の勝負って意味だったよな?
「なんで?」
「もしエマがボールを取れたとしてもどっちかにパスするときに絶対取られちゃうし、ボールを取りたくても最適な場所にあの子たちがいたらちょっとやりづらいからね。 だったら最初から1人で突っ切る感じで行かないと」
ーー……そんなに難易度高いのかよ。
エマはそう説明しながら拳をギュッと握りしめている。
「じゃああの中学生、結構上手いってことなのか?」
「『結構』じゃないわ……『かなり』よ。 それに見ての通り体力もありそうだし……これは本気で行かないとダメみたい」
「な、なるほど……」
だとしたら余計に気になるよな。
なんでそんなにバスケ上手いのに公園で1人ヤンキーしてるんだ?
オレがそのことについて考えているとエマがゆっくりと立ち上がり手をパンパンと叩く。
「はい、じゃあミナミ、カナ。 エマと交代! ここで休んでて」
エマは小さく深呼吸するとコートの中へ。
小畑と三好はエマの指示通りに息を切らしながらコートの外へと出て座り込んだ。
「へぇー、君、小ちゃいのにユ……私と1on1するんだ」
「えぇ。 最初見てた時からそれしかなさそうって思ってたけど、今はあなたと早くしたくて仕方ないわ」
エマはJCの煽りに乗らずクールの微笑む。
「いいね! なんか君自信ありそうだし、今までも楽しかったけどもっと楽しめそう!!」
「ふふ、油断してたらエマがシュート決めちゃうんだから!」
◆◇◆◇
この展開を誰が予想していただろう。
「あっ! 君やるねぇ!」
「ありがとうございます!」
「でも残念!」
「あぁっ……! まだまだー!」
コートの中ではエマとJCのボールを奪い奪われの熱い戦いが繰り広げられており、そんな様子をオレを含めた小畑や三好は固唾を飲んで見守っていた。
「ーー……ねぇ福田、美波。 エマってあんな動けたんだね」
三好が試合に目を奪われながらポツリと呟く。
「うん、私も思った。 あれに私ら入ったらただの邪魔じゃん」
そう、今小畑の言った通り、エマとJCは一瞬の隙をついたり訳の分からない動作をしながらの激しい奪い合いを繰り返している。
こんな戦いに身を投じたら自分が足手まといになってしまうのは誰が見ても納得できるだろう。
「てかさっきからどっちもシュート決めてないよね」
小畑のその言葉に三好が頷く。
「うん、私らの時は何度もシュート決められてたのに凄いよね。 エマ、あの人がシュートするタイミングを完全に見切ってんのかな」
「にしてもさ佳奈、あの2人めっちゃ楽しそうじゃない?」
「だよね。 あの人、私らとやってたときも笑顔っちゃあ笑顔だったけど、あそこまで楽しそうにはしてなかったもん」
エマとJCの試合がかなり迫力があるからなのだろう。
小畑と三好は会話をたまに交わすのだが、いつの間にか今のように会話を忘れて試合に釘付けになっていたのだった。
そしてついに……
「もらった!!」
JCがくるりと回転しながらエマの妨害をくぐり抜けてボールを斜め上……ゴール目掛けてスマートに放つ。
「あっ!」
放たれたボールは綺麗にゴールの網の中へ。
ポスンと網の中を通過すると地面へと落下し、それを「あちゃー、それは読めなかったー」とエマが満面の笑みで拾いに向かった。
「はぁ……はぁ……君、強いね!」
息を切らしたJCがキャップの角度を調節しながらエマに微笑みかける。
「それはこっちのセリフ。 まんまとフェイントに騙されちゃった」
「でしょー? ほんと、なんとか騙せたって感じだったよ」
「でも今度は通用しないからね」
「へぇー、言うじゃない。 でもなんだろ、君とバスケしてるとなんか懐かしい気持ちになるんだよね」
「あ、一緒だ。 実は私もそう思ってたの」
エマがボールを抱えながらJCのもとへと歩み寄っていく。
ーー……ん? なんだ? 今なんか違和感が……
「そうなんだ、よく分かんないけど……気が合うのかな」
「かもね。 じゃあ今度は負けないよ!」
「ユリだって! そう簡単に勝たせてやらないもんね!」
「言うじゃん! じゃあそんなユリの自信、コテンパンにしてあげよっかなー」
「あー! 言ったなー! じゃあもし出来なかったら楓、ユリに何か奢ってよね!」
「いいよ! どうせ次勝つの私だし!」
「「ーー……」」
ーー……ん?
途中風が吹いてしまっていたためよく聞こえなかったのだが、何故だろう……先ほどまでの明るいテンションとは一転、JCとエマは静かにお互いを見つめあっている。
「あれ、エマたちどうしたんだろ」
「ほんとだ。 佳奈、なんか聞こえた?」
「ううん、風でほとんどなにも」
隣で見ていた小畑と三好もオレと同じで聞こえていなかったようだ。
「ねぇ、今あなた……ユリって?」
「ーー……なんで?」
「「え……?」」
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