253 謎のJC【挿絵有】
二百五十三話 謎のJC
優香のマッサージ事情を知れた『桜子をよろしくパーティー』はあれから無事に閉幕。
結果、結城の引越しは少しずつ私物を高槻さんの家へと移動していき、1週間後を目処に完全に向こうに住むことが決定したのだった。
これで結城も前を向いて進んでいける……オレの心配の種もなくなったんだとばかり思っていたのだが……
「なんてことだ……」
翌日の朝。 結城は日直らしく早めに家を出てエマたちとともに登校してしまったため、オレは1人でスマートフォンを弄りながらトボトボと歩いていると、なんともテンションの下がるネット記事を見つけてしまう。
【速報】人気急上昇中のアイドルグループ・メープルドリーマーがメンバーの体調不良を理由に活動の一時休止を発表。 なお同グループが担当しているアニメ『じゃんじゃかハムロック』の主題歌は変更のない模様。
おいおいなんてタイミングなんだ。
実は昨夜あれから気になって動画サイトで聴いてみたら妙に心に刺さってしまったんだけどな。
これを機に応援しようと思っていたのに。 まぁ体調不良なら仕方ないけどよぉ……。
「なんか好きになった瞬間に振られた気分だぜ」
◆◇◆◆
あれからテンションの下がったまま学校へと到着すると、下駄箱付近で西園寺を見かける。
「お、西園寺」
「え、あ、あ! ふ、福田くん!」
西園寺があたふたしながらオレの方へと振り返る。
「あれから大丈夫だったか?」
「えっと……うん! 心配してくれてたんだね、あ……ありがとう」
おいおいなんだ妙に壁を感じるような気もするが……オレのテンションが下がってるからそう感じているだけなのだろうか。
「まぁあれだ、元気そうならよかったよ。 でもまだ寒いんだから暖かくしろよー」
オレがそう声をかけると西園寺は「う、うん!」と大きく頷きながらポケットから何かを取り出してオレに見せつけてくる。
「お、カイロか」
「う、うん! ちゃんと持ってきてるよ……!」
「うむ、上出来だ西園寺」
「え、えへへへ……」
「んじゃなー」
「え、あ、うん。 ばいばい……!」
オレは西園寺に小さく手を振りながらも早くこの寒さから逃れるために一足先に教室へと向かう。
すると背後からまたあのうるさい声が聞こえてきた。
「あー!! 西園寺ーー!!!」
あ、この声は……綾小路か。
飽きねぇなぁあいつも。
「ん? 西園寺ー、どこ見てるのー」
「ーー……」
「ちょっと無視しないでよ!!!」
あいつオレにもウザ絡みしてくるからな。 すまんが西園寺、あいつの相手は任せたぞ!!
オレは振り返ることなくその場から立ち去ることを決めたのだった。
「あ、西園寺、カイロ持ってんの!? ちょっと寒いから貸して!」
「え! ダメこれは……!」
「ーー……あれ、これもう効果切れてる? 全然温かくないじゃん。 もしかして先週のやつポケットに入れっぱなしにしてたとか?」
「ううん、あったかい」
「ふーん、変な西園寺ー」
いやいや温かさ感じないとかどんだけ手が冷えてんだよ綾小路のやつ。
やっぱりあれか? 結構な時間引きこもってたっていうし……運動不足は冷え性を悪化させるのかな。
……まぁオレなら即決で運動するより冷え性を選ぶけどな。
そんなこんなで教室についたオレが席に座るといきなりドSの女王・小畑がオレのもとへ来て机をドンと叩いてくる。
「えぇ!?」
驚きながらも小畑の顔を見上げると……かなり虫の居所の悪そうな表情をしているなぁ。
「えっと……小畑さん?」
「ねぇ福田」
ビクゥ!!!
久々の低音ボイスでオレの体がびくんと反応する。
「な、なに!?」
「ちょっと放課後さ……ついてきて」
「え」
それだけ告げると小畑は静かに自分の席へ。
一体何の用……
ーー……ハッ!!! もしかして……!!!
オレは無意識に足をキュッと閉じ数時間後に体験するであろう懐かしの感覚を思い出していたのだった。
◆◇◆◇
「ーー……え、ここ?」
放課後。 小畑に連れてこられた場所はいつもの女子トイレではなく学校の外……少し広めの公園だった。
まだ結構な寒さからなのか遊具や砂浜で遊んでいる子供はおらず、隅に併設されていた簡易バスケットコートでシュートの練習をしている中学生くらいの身長の女の子が1人いるくらいだ。
それにしてもどうしてここに……もしかして野外でやっちゃう域まで達してしまったのですか女王様!!!
オレはそんな期待に胸を高まらせながら小畑に尋ねることに。
「ね、ねぇ小畑さん。 ここで何を……」
「ーー……ちた」
「え?」
「先週受けたオーディションがまた落ちたのーー!!! んがああああ!!! ムカつくーーー!!!!」
怒りの度合いを表すかのように小畑はその場でピョンピョンと激し可愛く飛び跳ねながら「なんでぇー!!!」と叫んでいる。
そうだったな。 小畑は理由はどうであれ、アイドルになるのを夢見てたんだ。
「えっと……それをオレに教えるためにここに?」
「そう!! だってこんなの学校で言っちゃったらすぐ話広まっちゃうじゃん!!!」
「あー……なるほど」
「ねぇ福田!! どこがダメだったのか分かる!?」
小畑がオレに顔をグイッと近づけてくる。
「えぇ!? なんで!?」
「だって福田、ラブカツん時になんだかんだでちゃんと見てくれてたじゃん!」
「あー、まぁ。 でもあれはラブカツだったからであって……小畑さん的にはどこが出来なかったとかなかったの?」
「そんなの分かんないよ! 私は皆の中で自分が1番だって思ってたのに!!!」
おおお、流石は女王様。
その確固たる自信をオレにも分けて欲しいくらいだぜ。
「審査って何があったの?」
「自己PRとダンスと歌の審査! なんで!?」
「いやさ、それぞれどんな感じだったのかなって思って」
そこから小畑は簡単にそれぞれの審査でどんな感じだったのかを説明し始めた。
「自己PRはもちろんラブカツオーディションで選ばれて映画に出たこと言ったよ!」
うん、オレも素人だからよくは分からないけど悪くはないだろう。
ラブカツオーディションなんて皆が受かっているわけでもない……いい感じの独自性が効いてて印象に残りやすいはずだ。
「で、ダンスは私ダンス教室通ってるし! 一回もミスせずに行けたもん!」
へええ、なら大丈夫そうだよな。
表現性がどうたら……とか言われたら分からないが。
「歌もそうだよ。 まぁ確かにちょっと意味の分からない歌詞だったけど、詰まらずに歌えたもん」
はい、そこー。 多分そこー。
「えっと小畑さん? その意味の分からない歌詞って?」
「うん、私見たことないんだけど、『じゃんじゃかハムロック』の主題歌の『あなたがいたから』って歌が審査曲だったのね?」
「う、うん」
うぉお……ここでも来たよハムロックの話題。
オレの脳内でファンになった主題歌と、あのハムスターの『キェエエエエエエ!』という叫び声が複雑に交差し反響する。
「それでその曲の歌詞に『あなたのおかげで私は咲いている。 花びら全て舞い散るとしてもあなたを忘れない』ってフレーズがあるんだけど、もう意味わかんないじゃん」
小畑が手を上げながら呆れたように笑う。
「ーー……え、分かんない?」
心の声が口から漏れる。
「え、なに福田、意味わかんの?」
小畑がじっとオレを見つめてくる。
いやいや分かるも何も、そのフレーズもオレの好きなところなんだよ!!!
『あなたのおかげで私は咲いている。 花びら全て舞散るとしてもあなたを忘れない』
オレからしたら、その『あなた』が優香だったんだ。
オレは優香のおかげで今こうして幸せに暮らすことが出来ている。 だからオレはこの体……福田ダイキの姿でなくなったとしても、絶対に優香を忘れないし裏切らない。
この歌はそんなオレの気持ちを改めて思い出させてくれたんだよ。
オレが1人で思いふけっていると、無視されたと勘違いしてしまったのだろう……「ねぇ福田!」と小畑がオレの袖を強く引っ張ってくる。
「え、あぁ……ごめん」
「で、意味わかんの!?」
「まぁ……間違ってるかもしれないけど、簡単に解釈したら『私は君のおかげで生きていられてるから、私は例え死んだとしても君のことを忘れない』って意味なんじゃないの?」
オレがそう説明すると、小畑が小さく頷きながら「ーー……はいはいはい」と呟く。
「あー、なるほどねーー。 うんうんうん!! そういう意味だったんだ! てことは今回必要だったのは読解力で、私には国語力が足りなかったってことか……」
小畑が指を唇に当てながらブツブツと呟き出す。
おおお、早速分析に入るとは小畑やるな。 オレがそんな小畑の姿をぼんやりと眺めていると、シュートを外したのか中学生っぽい女子の放ったバスケットのボールがリズミカルに地面を跳ねながらこちらへと転がってきた。
そしてそれは小畑のすぐ側へ。
「あ、小畑さん。 後ろ」
「え、あっ。 ほいっ!」
小畑は振り返るなりそれをタイミングよくキャッチ。
こちらに向かって小走りで駆けてくる女子中学生に「はい」とボールを差し出す。
「ありがと、助かったよ」
ボールを受け取るなり女子中学生……JCが小さくオレたちに頭を下げる。
ていうか……えぇ?
オレはそのJCの見た目に唖然。
見た感じこそ中学生なのだが、髪は赤色のポニーテールで毛先だけが水色に染まっている。
……なんていうんだっけ、グラデーション?っていうのか?
そして黒のキャップを深く被り地味な服装……外見ヤンキーなくせして服装はインキャって感じだ。
変な人だなーと思いながら見ていると、その人が小畑のことをジッと見つめていることに気づく。
「ん? お姉さんどうしたの? 私の顔になんかついてる?」
「いや……君、声聞こえてたんだけど、アイドルになりたいの?」
謎のJCが静かに小畑に問いかける。
「え、そうだけど」
「そっか。 やめといた方がいいよ」
「「!?!?」」
謎のJCはオレと小畑を見ながらそう伝えると、くるりと背中を向けて再びコートへと戻っていく。
小畑の夢を踏みにじろうとするなんてなんて失礼なガキなんだ。
オレは一言言ってやろうと謎のJCに声をかけようと試みる。
「あの、そこの……」
「はああああ!?!?!? なにいきなりーーー!!!!」
え。
オレの声をかき消して謎のJCの方へと詰め寄っていっているのはドSの女王・小畑美波。
自分の夢を軽く見られたことに腹がたったのだろう……顔を真っ赤にしながらJCの着ていたコートをグイッと掴んで立ち止まらせた。
「君、この服高いんだよ? だから離してくれないかな」
「じゃあなんであんなこと言ったか聞かせてよ! それか謝って!!」
「んー、でも教えてあげる義理ないしなー」
JCは両手でボールをくるくると回しながら小畑を見ずに答える。
「はあああああ!??!? あんたが先に言ってきたんじゃん!!!」
「あ、じゃあこうする?」
何かを思いついたのかJCが人差し指を立てながら小畑に顔を近づけてくる。
「なに!?」
「あのね、ユ……私からボールを奪って、一本でもシュートを決めることが出来たら教えてあげる。 どう?」
いやいや流石にそれは分が悪いというかなんというか……
「じょーとーだし!!!!」
えええええええぇ……。
なんと小畑はJCの提案にあっさり合意。 勝つ気満々なのだろう……ランドセルを隅に置くと肩を回しながらJCを睨みつける。
「言ったかんね!! 絶対話させてやるんだから!!!」
「あ、そっちの彼氏も一緒にかかってきていいよ?」
JCが余裕の表情でオレを指差しながらニコリと笑う。
「はああああ!?!? めっちゃ舐めてんじゃん!! ほら福田!! そっち突っ立ってないでやるよ!!!」
「あ、はい」
いや、まず突っ込むところ他にあんだろと思いながらもオレもランドセルを置いてコートの中へ。
それからJCとの試合が始まったのだが、結果いくらやってもシュートどころかボールすら奪うことが出来ず、外が暗くなってきてしまったことでお開きになってしまったのだった。
「残念だったね。 でもユ……私まだしばらくはここにいると思うから、いつでも勝負挑んでくれていいよー」
「くーーーやしいいいいいい!!!!! 明日も来るから!!! 逃げないでね!!!!」
いや、オレはもうやらんぞ?
お読みいただきましてありがとうございます!!
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