252 ずっと高槻さんのターン!?
二百五十二話 ずっと高槻さんのターン!?
えー、只今お昼過ぎ。 優香発案の『桜子をよろしくパーティー』がウチで開催されて少し経った頃なのですが……
「ここは天国でしょうか!! 真昼間からこんな……美味しいお料理とお酒を楽しめることができるなんてー!!!」
オレの目の前ではワイングラスを片手にクルクルと喜びの舞を踊っている高槻さん。
そんな高槻さんの様子を結城がすぐ側で心配そうな表情を浮かべながら見上げていた。
「せ、先生……飲み過ぎ。 また気持ち悪くなっちゃうよ?」
結城が高槻さんの袖を控えめに引っ張る。
「ーー……え、先……生? ぐすん」
「あぁ……っ! ちがう、ママ」
「はぁあああああああんっ!!!!」
結城の魔法の言葉により高槻さんは腰から崩れ落ちていく。
いやもうどんだけ破壊力あるんだよ!! 確かに可愛いけどよ!!!!
軽く心の中でツッコミを入れながらもその様子を見守っていると、そんな2人の間に金髪の愛くるしい天使がテチテチと歩み寄ってくる。
「ねーね、まいてんてー」
エルシィちゃんが高槻さんの手を握り左右に揺らす。
あー、そういや高槻さんの名前って高槻舞だったな。 舞先生……今更だけどいい響きじゃねぇか。
「あらー? どうしましたエルシィちゃん」
「まいてんてー、なんで、ユッキーちゃん、まいてんてーのこと、ママってよぶうー?」
エルシィちゃんが大きく首を傾けながら高槻さんに尋ねる。
「んー? そりゃあ先生が結城さんの、もう1人のママになったからですよー」
高槻さんはエルシィちゃんに微笑みながら答えた後に結城に視線を移し、「あ、それを言うなら結城さんじゃなくて桜子ちゃんですね」とちょこっと舌を出した。
「えー! いいなぁー! エッチーも、まいてんてー、ママ、よびたー!」
「あららそうなんですかエルシィちゃん。 さて、どうしましょうか桜子ちゃん」
高槻さんが抱きついてきたエルシィちゃんの頭を撫でながら結城に尋ねる。
あああ、どこもかしこも癒し成分に溢れてるんじゃあ……!
「えっと……私は、うん、いいと思う……よ?」
「ですって、エルシィちゃん」
「やたぁーー!! ママーー!!」
「でもエルシィちゃん、私からママをとらないでね」
「は……はははぁああああああんっ!!!」
もはやこれは高槻さんの独壇場だな。
高槻さんは完全に酔っ払いモードで左に結城、右にエルシィちゃんを付けながら気持ち良さそうにお酒をグイグイと入れていく。
しかし『ママ』か……実際のところ、オレも高槻さんのことを『ママ』呼びしてみたかったんだよな。
なんかオレが呼ぶとやらしく感じちゃいそうだけど……そう、今のオレは福田ダイキ・小学5年生! この状況を活かさないでどうするんだ!!!!
それに今なら違和感なく受け入れてもらえそうだよな!?
オレはゴクリと生唾を飲み込みながら意思を固めると、高槻さんの方へ勇気の一歩を踏み出した。
「むー! なんで高槻先生ばっかりー!!」
ビクゥ!!!
突然の優香の声にオレは背筋を伸ばして動きを止める。
見てみると優香が頬を膨らませながら高槻さんに顔を近づけているようだが……
「あらら、お姉さんどうしましたー? お料理おいしいです。 ありがとうございますぅー」
「あ、それは良かったですありがとうございます……って、そうじゃないんです!」
優香が首を左右に激しく降りながら高槻さんを見つめる。
「どうしましたー?」
「高槻先生、さっきから桜子を独占しすぎですー!」
優香が結城に抱きつきながら「ねぇ桜子ー」と話しかける。
「えっ?」
「桜子、ずっと高槻先生といるけど、お姉ちゃんのこと忘れてないよね?」
「それはもちろんだよ、お姉ちゃん」
「うん桜子ー♪ 桜子はどこにいてもお姉ちゃんの妹なんだからねーっ!」
ーー……おい優香、その分オレに甘えろよ。
オレが小さくため息をついていると、同じタイミングでため息をついていたエマがオレの隣に寄ってきた。
「ん、エマどうした」
「なんか……愛されてるわね、桜子」
「おぉ、お前もそう思うかエマ。 で、エマは参戦しないの?」
冗談交じりに尋ねると、エマは「するわけないでしょ」と視線をエルシィちゃんに向ける。
やっぱりエマにとってエルシィちゃんこそが特別な存在なんだな……。
「ーー……あ、エルシィちゃんと言えばさ」
「なに?」
「ちょっと気になることがあるんだよね」
「気になること?」
オレは少し前に抱いた……しょうもないのだが心の奥で引っかかっていた疑問をエマに尋ねてみることにした。
「ーー……え、ハムロック?」
「あぁ。 エルシィちゃんが好きって言ってたんだけど、エマはそのアニメ知ってるか?」
「まぁね。 エルシィ、家でもよくあの歌歌ってるわよ。 子供に人気なのよね?」
「あれさ、言葉悪くて申し訳ないけど……結構狂ってると思うんだが、なんであれが人気なんだ?」
まぁオレは映画しか知らないけど、終始『キェエエエエエ!!!』とか、『なのジャアアアア!!!』って叫んでただけのような気がするんだが。
オレが前日の映画の内容を思い返していると、エマが「それはほら、あれよ」と人差し指を立てる。
「ん? あれ?」
「えぇ。 ハムロック人気が上昇したのって確か、今のオープニングに変わってからのはずよ」
「そうなの?」
「そうそう、エマもチラッと聞いただけで詳しくは知らないんだけど、子供向けアニメには珍しい無名のアイドルグループが抜粋されたんだって。 で、その歌詞や込められてる気持ちが溢れてるって話題になってるらしいわよ」
へええ、無名のアイドルグループがそんな子供アニメの主題歌をねぇ。
夢があるじゃねえか、そういうのオレ大好きだぞ!!!
「ちょっと気になるな。 そのグループの名前ってなんて言うの?」
「そこまでは知らないわよ興味ないもの。 エマが興味あるグループはサニーズのニューシーだけよ」
エマはそう答えるとフンと鼻を鳴らす。
あー、確か手毬くん担だったっけか?
その後オレはエマと話しながらもさっきから気になってしまっていたハムロックの主題歌を担当しているアイドルグループをスマートフォンで検索してみることに。
どうやら【メイプルドリーマー】というアイドルグループで、その話題となっているのが『あなたがいたから』という楽曲らしい。
へぇー、どうやら夢を叶えるためのバラード調の応援歌なんだって。
調べていくとハムロックというロックな作品とは真逆のバラードっていうギャップがネタで火が付いて徐々に知れ渡っていったとのこと。
この世の中、何があるか分からないな。
今度聞いてみようと思いハムロックの主題歌名をメモしていると、周囲の騒がしさからそう言えばパーティー中だったことを思い出す。
一体今は何をしているのだろう……気になったオレはスマートフォンから周囲に視線を移した。
「てことはあれですね! 私が桜子ちゃんのママで、お姉さんは桜子ちゃんのお姉さん……実質的に私の娘ってことですね!」
ーー……なにがどうなってこうなってるんだ?
優香に視線を向けるとかなり困惑している様子。
「ええええ! なんでそうなるんですか!」
「ほら、甘えてもいいんですよ?」
「いやですよ! 皆もいるのにこんなところで!」
「あらら? 誰もいなかったら来てたんですかぁ?」
「むぅーー!! いじわるしないでくださいーー!!!」
なんかここまで自分を出してるような優香を見るのってギャルJK星以外では珍しいんじゃないか?
てことは高槻さんもギャルJK星並みのコミュニケーション能力を持っているということになる……コミュ力お化け、おそるべし。
オレがそんな高槻さんのことを尊敬していると、高槻さんは優香に「冗談ですよぉー」とヘラヘラと笑いながら優香の肩を軽く叩いていた。
「ほ、ほんとですかー?」
「ほんとです。 でもお姉さんもせっかくですし、学校のことでも進路のことでも、悩みがあればいつでも聞きますので気兼ねなく連絡してくださいねー」
高槻さんは酔っ払っているくせに頼もしい笑みを優香へと向けると、何かを思い出したかのように「あっ」と声を出しながら両手をパンと叩く。
「そうそうお姉さん、ちょっと桜子ちゃんとこれから一緒に暮らすうえで聞いておきたいことがあるのですが、少しいいですか?」
「え、はい。 なんでしょう」
「ここではちょっと……」
「あ、分かりました。 じゃあ私の部屋でいいですか?」
「すみませんお手数かけますぅー」
こうして優香と高槻さんは2人揃って優香の部屋へ。
オレは側にいたエマに話しかける。
「なぁエマ、2人はなにを話に行ったんだ?」
「分かんないわよ。 多分あれじゃない? 桜子がもう女の子の……」
「ん? なんだって?」
「いや、なんでもないわ。 ていうかダイキ、いちいちそんなことを気にしてたらモテないわよ?」
エマがオレのおでこを軽く指で弾く。
「いって! はぁ!? 気になんだろ!」
「だからそういうのがモテないって言ってんのよ。 こういう時に何事にも動じない姿勢をしてる人が、大人っぽくてかっこいいのよ?」
エマがフフンと鼻で笑いながらオレを見下す。
「お、おのれエマ……てことはエマは何事にも動じないってことでいいのか?」
「まぁそういうことね。 エマは1度死を経験してるから、並大抵のことでは驚かないわ」
それを言うならオレもそうなんですけどねぇ……。
「ぐぬぬ……じゃあエマ、もし今日何かに驚いたり心を乱したりしたら何か罰ゲームでもいいか?」
「もちろんよ。 あ、でもエルシィに何かするのはナシよ? それなら受けて立つわ」
「よし。 決まりだ」
オレはその場でエマと指切りを交わし、その後どうやってエマを驚かすかを考えていたのだが……
しばらくの間考えていると、優香の部屋の方から「きゃああああああ!!!!」と優香の叫び声が響き渡る。
「えええなんだ!?」
「なに!?」
オレとエマは互いに顔を見渡しすぐに優香の部屋へと急行。
後ろから結城とエルシィちゃんもそれに続いていた。
◆◇◆◇
「お、お姉ちゃん!?」
「優香さん!?」
急いで駆けつけ部屋の扉を勢いよく開けたオレとエマ。
そこでオレたちが見たものとは……
「せ、せんせー、それは違うんですぅー」
優香が手を震わせながら伸ばしている先で高槻さんが何かを手にしてニヤニヤと微笑んでいる。
「あらあら、こんなところに堂々と……お姉さんも大胆ですねぇー」
「だから違うんですぅー」
一体なにを持っているんだ?
オレは高槻さんの手にしている何かに視線を集中させた。
ーー……!!! な、あれは!!!!
それを見た途端にオレは全身が熱くなっていくのを感じる。
だってあれ……高槻さんが握りしめているものは……!!!
ブーーーッ、ブーーーッ
そう……なんとも健全な電動マッサージ機!!!!
大人の女性が持つとこれまたいやらしさが倍増するぜ!!!
「お姉さんー、これ中々良さげなものですねぇー、どうやってお調べになられたんですかぁー?」
「ちがっ……これは美咲……友達がくれたんですー!」
「そうですか、だからこんな大切に使われてたんですねー」
「つ、使ってなんか!!!」
「私の目は誤魔化せませんよぉー。 じゃないとおかしいじゃないですかぁー、めちゃめちゃ充電中のランプ点灯してましたよぉー?」
なん……だと……!?
オレは目に全神経を集中させてマッサージ機の先端……ゴム部分への凝視を試みる。
「ちょっ!! ダイキ!! こらやめなさい!!!」
「ぶべあっ!!!」
なにがとは言わないが痕跡を探そうとしていたところにエマの鉄拳が頬にクリティカルヒット。 そのまま間髪を容れず両目を塞ぎこまれる。
「こら! ばかエマ!! やめろ!!!」
「これ以上は男が踏み込んだらダメな領域なの! だから男のあんたはリビングに行ってなさい!」
「なんでだよ!」
「なんでも! エマは優香さんの味方なんだから!」
「どーいう理屈だよ!」
こんな感じのやり取りをオレとエマが繰り返していると、結城の控え目な声が聞こえてくる。
「ねぇ、お姉ちゃん、ママ?」
「えっ!?」
「なんですかー?」
「ママが持ってるのマッサージするやつだよね? なんでお姉ちゃんもママも、福田……くんもエマも赤くなってるの?」
「「「「え」」」」
お読みいただきましてありがとうございます!
下の方に☆マークがありますので評価していってくれると励みになります嬉しいです!!
感想やブクマ・レビュー等お待ちしております!!!




