250 新しい一面!?
二百五十話 新しい一面!?
『ヒギャアアアアア!! 我、ハムロック!! ロックちゃん、我のロックを聴くのじゃアアアアア!!!』
エエエエエエエ!?!?!?!?
なんとも言えないキュートボイスから発せられるハスキーでロックな叫びがギターの突き刺さるような音色とともに館内に響き渡る。
これ……子供向けアニメなんだよな!? 今の子供ってこんなアニメ見てんの!?!?
子供といえばラブカツみたいな正統派キラキラアニメばかりだと思っていたオレは1人衝撃を受ける。
西園寺はどういった感情でこの映画を……
気になったオレは隣に座っている西園寺に視線を移した。
「はぁああ……かわいい」
アリエナーーーーイ!!!!
一体この内容のどこに可愛いがあるのか疑問を持ったオレだったのだが……そうだ、西園寺のやつ、東北のあのご当地キャラクター・チェリーくんを可愛いって言ってたんだ。 それを踏まえて考えたらなんらおかしくはないか。
それにしても西園寺が少しとはいえ子供向けのアニメを見ていたなんてな……。 なんか新しい西園寺を発見できてちょっと嬉しいぜ。 なんだかんだで今日出かけて正解だったのかもしれないな。
オレはそんなことを思いながらスクリーンへと視線を戻した。
『ヒャハーーーッ!! ロックなのじゃアアアアアアア!!!! キェエエエエエエ!!!!』
うん!! やっぱり分からん!!!!
◆◇◆◇
ようやく映画が終わり、オレは解放感バリバリでシアタールームから出る。
終始あのハムスターが叫んでいたからなのだろう……耳が痛てぇ。
「福田くん、ハムロック可愛かったね!」
西園寺が少し興奮した様子でオレの袖を引っ張ってくる。
「まぁ……そうだな。 オレにはちょっと分からなかったけど、西園寺は終始ニコニコしながら見てたもんな」
「!!」
オレの言葉を聞いた西園寺がビクッと体を反応させて立ち止まる。
じっとオレを見つめているみたいだが……
「ん、なんだどうした?」
「いや……福田くん、なんで私が映画観てた時の表情知ってたのかなって」
「そりゃあ見るだろ。 もし具合悪そうにしてたらすぐにお前を背負ってでも出るつもりだったからな」
「ーー……ありがとう」
西園寺が少し照れ臭そうに俯きながら微笑む。
「まぁ……あれだ、何もなくてよかったよ。 それで、もしまだ体調良くないんだったらこのまま帰るって選択も……」
「ううん! このまま遊ぼっ!」
「お……おぉう」
それからオレたちは夕方までここ、大型ショッピングモール内で過ごすことを決定。
時間的にお昼時だったので、混雑を避けるために雑貨屋等で時間をずらすことにしたのだが……
「ねぇ見て福田くん、あれ可愛くない?」
「あ、うん」
「あー! ほら見てあそこ! あっちのぬいぐるみの顔凄いよ! 行こっ!」
「え、あぁ……」
あれ……? なんでだ?
出発する時にもちょっと思ったけど……今日の西園寺、可愛いぞ?
オレは目の前で不気味な顔のぬいぐるみをモフモフしている西園寺をジッと見つめる。
「ん? 福田くん、どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「いやさ、ちょっと珍しすぎて……つい」
「珍しい? なにが?」
「ほら、西園寺がそうやってぬいぐるみを抱いてる姿を見るの……初めてだからさ」
オレが指をさしながら伝えると西園寺は「そうだっけ」と首をかしげる。
「そうだろ。 だってオレの知ってる西園寺は元リーダー格で本性ドMの女の子なんだから」
「女の子……」
西園寺が小さく呟く。
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、なにも。 ていうか福田くん的にはその……どうかな」
「なにが?」
「こんな私……やっぱり変?」
西園寺が頬を指先で掻きながらオレを見上げる。
あーもう! やっぱり美人や可愛い子の上目遣いは反則だぜ!
オレがそんな西園寺の表情に見惚れていると、西園寺が「ねぇ、福田くん……どう?」と再度尋ねてくる。
まったく……どんだけ気になるんだよ。
「えー? まぁ……その、あれだ。 いつものドMのお前も良いけど、今みたいな女の子って感じの西園寺も可愛いんじゃないか?」
「か、可愛い!?」
西園寺が驚いた表情で声を少し裏返しながら聞き返す。
「そりゃそうだろ。 可愛くなかったらそもそもオレは一緒に行動したりしないし……って、あ、すまんもしかしてあれか? そこはオレ……お前を罵った方がよかったか?」
オレの問いかけに西園寺は高速で首を左右に振って否定する。
「ううん! そんなことないよありがとう! 可愛い……そっか、私、可愛いんだ」
なに当たり前のこと言ってんだこいつは。
お前が可愛くなかったらこの世のほとんどにブス判定が下るだろう……オレはそんなことを突っ込んだりりしながら西園寺とのプラーベートタイムを満喫。
お昼を食べた後も妙にテンションの高い西園寺と回りきれない量の雑貨屋等を見て回ったのだが……
オレが少し休憩しようと提案してベンチに座ってからしばらく。
西園寺の深夜ハイテンションタイムが過ぎ去ってしまったからなのか、オレの肩にもたれながらスヤスヤと寝息を立て始める。
「とうとうガス欠か。 でもまぁ……そうなるわな」
起こした方がいいのかもしれないけど、確か20〜30分仮眠をするだけでも脳は回復するってネットかテレビ特集で言ってたような気がする。 だったらそれくらいはのんびりと寝かせてやってもいいだろう。
オレはそれまで時間を潰そうと、そっとポケットからスマートフォンを取り出す。
ーー……いや、でもやはりここは、
ちら
オレは片側にもたれかかって眠っている西園寺に視線を向ける。
眠っている西園寺の顔はどの角度から見ても絵になるほどに美しく、まるで日向ぼっこをしながら寝落ちしてしまったお姫様のようだ。
結城の寝顔ももちろん可愛いけど、これはまた別のジャンルだよな。
結局オレはスマートフォンを手にしているにも関わらず触ることを忘れ、ずっと西園寺の寝顔を堪能。 【ドン】でも【ドM】でもない……ただの美少女、いや、プリンセス西園寺の姿を目に焼き付けていたのだった。
◆◇◆◇
仮眠タイムも大体20分を過ぎた頃。 西園寺が小さく口を開く。
「んっ……福田……くぅん」
ーー……ん? 寝言か?
どうやらオレの夢を見ているようだけど……一体どんな内容なんだ?
「福田くん……私、私ね……ずっと言えなかったんだけど……」
「!!!!!」
お!? ちょっと待て!
この展開って……もしかして今度こそもしかするのではないのでしょうか!?!?
そう……今度こそ告白!!!
寝言で告白されるというのも悪くはない。
そうか、とうとうオレも告白されちまうのかー!! 参ったなぁアッハッハッハ!!!!
「あのね……私……」
うんうん!!!
オレは次に確実に来るであろう『好き』と言う単語を心待ちに耳を傾けた。
「もう……漏れるぅー。 ちょっとトイレ行って……くるねぇ……」
ーー……は?
その言葉を聞いた途端オレの今までの人生経験が『これは危険信号だ』と警報を鳴らし始める。
そう……夢の中でのトイレはつまり……現実世界でも連動してしまうことが多いやつなのだ!!!
分かるよね!? 皆もそう言う経験あったりするよね!?!?
「うおおおおい西園寺!! ダメだ!! 起きろおおおおおお!!!!」
オレは躊躇なく西園寺の肩を揺らして目覚めさせる。
「んぇ!? ーー……あ、福田くん。 ……え、あれ? 私今トイレに行こうとして……」
「あぁ。 だからお前を起こしたんだ! トイレタイムは夢の中でも連動するからな! このままだと悲惨なことになってたかもしれないぞ!!」
「え……あっ、もしかして私、寝言言っちゃってた?」
オレの言葉を聞いた西園寺の顔が急に紅潮し始める。
ーー……もしかしてちょっと手遅れだったりするの?
「よし、とりあえず行くぞ」
「え!?」
オレは西園寺の手を掴みながら立ち上がるとまっすぐにトイレのある場所へと向かう。
「ふ、福田くん!?」
「まずその今履いてるパンツは袋に入れるなりなんとかしろ。 ちょうどここには下着屋もある……手頃なやつならオレが買ってやるからそれで我慢してくれ」
「え?」
「え?」
西園寺が立ち止まり首を傾げていたのでオレもつられて首を傾げる。
「えっと……福田くん? 私なんでパンツ袋に入れるの?」
「えええ、だってお前ちょっと出ちゃったんだろ!?」
「で……出てないよ!?」
「そうなの!?」
じゃあさっきの紅潮はなんだったんだよ……!
「でもお前さっきその話題振った時に恥ずかしそうにしてたじゃねーか!」
「だって……ちょっと恥ずかしかったんだもん……」
ーー……あ、これは確定だ。
「よし、西園寺。 帰る時間まではまだ1時間くらいあるけど……帰るとしよう」
「えぇ!? なんで!?」
西園寺が驚いた様子でオレを見上げる。
「今日のお前はいつもと違いすぎる。 これが風邪の前兆かもしれない」
「え……いや、別に私はそんな……」
「無茶すんな。 続きはまた今度付き合ってやるからさ、今日は早めに家に帰って寝てろ。 んで特別に今日は家の近くまで送ってってやろう」
「いいの!?」
おいおいなんでそれで嬉しそうにするんだよ。
てことはやはりそうか……1人で帰れるか分からないくらいには体調良くなかったってことなのだろうか。
「当たり前だろ。 ただしあれな、ちゃんと今度は前日ちゃんと寝れてないとお説教だからな!」
「うん……ありがとう」
「よし、素直でいい子だな! じゃあ帰ろうぜ」
オレは西園寺の頭を帽子の上からポンポン叩くと出口の方へと背を向ける。
「あ、待って」
「ん?」
「その……手」
「え」
振り返ってみると西園寺がオレに向かって手を伸ばしている。
「ん? 繋ぐの?」
「うん……ダメ……かな」
「まぁ……いいか。 その方がお前倒れそうになった時も引っ張れるからな。 ほら、これでいいか?」
「う、うん!」
こうしてオレは西園寺と早い時間に帰宅。
しかし結局西園寺の家付近まで送っていったこともあり、自宅に着いたのは予定よりも少し遅れた時間になっていたのだった。
【受信・西園寺】今日はありがとう。 楽しかったよ。
【送信・西園寺】そうかそれは良かった。 あれからずっと顔赤かったけど、熱とか大丈夫だったか?
【受信・西園寺】うん……、私も頑張ろっかな。
【送信・西園寺】んん? まぁよく分からんが早く寝ろよ。
【受信・西園寺】うん。 じゃあまた学校でね。
うむ、これは来週治ってるか要チェックだな。
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恋は病……昔の人は上手いことを言いましたね!
ダイキには全くもって届いてはいないようですが 笑




